会誌「情報処理」Vol.62 No.2 (Feb. 2021)「デジタルプラクティスコーナー」

Glossary─グロッサリ─

KCS(Knowledge Center Service)

KCSは米国のNPO法人「Consortium for Service Innovation」により,15年の歳月をかけ作成された実績のある方法論である.また,KCSはビジネスの傾向と学術的な理論に基づいて各企業がテストし,結果を共有し,実践で証明されたベストプラクティスでもある.

コンタクトセンタでは,顧客やユーザからの質問に対し,応対するオペレータが保有している知識で回答を行っている.KCSではオペレータの知識で回答するのではなく,社内で共有されているナレッジベースを活用する.オペレータは顧客やユーザからの質問に対し,その質問がナレッジに登録されているか検索をする.質問がナレッジに登録されている場合には,その回答を使用し回答する.質問が登録されていない場合には,その場でナレッジに質問を登録し,回答を作成する.コンタクトセンタでは,組織で初めて発生した問題をナレッジに登録する場合には,専任のナレッジ担当者が質問と回答を作成し,ナレッジへの登録を行っていたため,ナレッジに登録されるまでに時間がかかってしまっていた.KCSでは,ナレッジに質問が登録されていない場合には,オペレータがその場ですぐに質問を登録し,ナレッジを作成する「ジャスト・イン・タイム方式」のため,組織で初めての問題が発生した場合でも,ナレッジに迅速に登録されることにより,組織内の情報共有も迅速に行われることになる.コンタクトセンタでは,同様な質問が重複して発生するため,迅速な情報の共有により,同様な質問が次に発生した場合には,顧客やユーザからの質問に対し,迅速に回答することができる.また,知識による回答ではないため,回答精度の向上やFCR(一次解決率)の向上など,回答品質は向上する.(田口 浩)

VOC(Voice of Customer)

経営貢献につながるVOCは,経営層が知りたいメッセージや気づきがVOC分析から導出可能である.このためVOCは深い洞察に耐えうる濃密な応対記録で構成される.すなわちVOCが経営貢献につながるか否かは,コンタクトセンタの聞き取り姿勢に左右される.その意味で経営貢献につながるVOCとは,意思をもって集めた顧客との貴重な応対記録の集合体である.(松丸 剛)

エフォートレス体験

CXの文脈で語られる「エフォートレス」とは,消費者が製品やサービスを継続利用する上で,消費者側が手間や努力をかけることなく,楽に対応ができる状態を指す.サービスを使い始めるまでに殆ど手間がかからない,モバイルアプリだけで消費者側のアクションが完結する,入店するまでに並ぶ必要がない,家の中で完結する,など,消費者がストレスを感じる事なくサービスを利用できる体験が高い満足度を生み,顧客ロイヤルティの獲得に差を生んでいる.(大貫竜平)

関係の質

商売においては買い手と売り手の「関係の質」が結果を左右する大きな要因になるが,その「関係の質」とは,「接触回数」に比例し「心理的距離」に反比例する.心理的距離とは,メッセージを伝達するメディアとコンテンツの最適な組合せにより決定する.

顧客の状況を想像し,顧客が心地よいと感じるメディアとコンテンツを組み合せる.さらに接触回数を重ねることで,関係の質は上がる.関係の質が上がると,顧客と企業担当者との間に,友人や家族のような近い関係を作り出すことができる.すると,顧客と企業および企業担当者との関与度が増しグッドウィルが生まれる.結果,顧客にとっては,有益情報が入手でき,企業にとっては顧客離れが減り,顧客単価が増える.これは,「売り手よし,買い手よし」の商売の原点であり,筆者が長年研究しているテレマーケティング:離れた距離を近づけるマーケティング概念の源泉である.組織の「成功の循環」モデルでは,「結果の質」を上げるには,「関係の質」を上げることが最も重要であると提唱されており,異論のないところである.(宮脇 一)

サービス・トライアングル

サービス・トライアングルとは,サービスのステークホルダーである企業と顧客と従業員の3つを頂点とする三角形により「サスティナブルなビジネスを実現するには,企業と顧客と従業員の三者がバランスのとれた価値を受け取れるようにする必要がある」という考え方を表している.コンタクトセンタも1つのサービスであり,企業と顧客と従業員の三者の価値の大きさを三角形の辺の長さとすれば,各辺をバランスよく最大化し面積を最大化することがコンタクトセンタの価値の最大化であると考えられる.本稿では,当学会コンタクトセンタ・フォーラムにて重ねてきた議論を基にこの考え方を発展させ,コンタクトセンタにおける企業と顧客と従業員の三者にとっての価値とは何かを具体的に定義した価値モデルを提唱している.モデル化の意義は「こうすればうまくいく」という再現可能な仕組みを一般化・形式化することで,第三者から活用できるようにすることであり,これまで当学会での研究会や論文誌に発表された先進事例から基本的な価値モデルを抽出し,新たな価値創造に向け活用できるようにすることを目指している.(宮﨑義文)

経験学習モデル

人は実際の経験を通して,それを振り返ることで,より深く学ぶという考え方が「経験学習」である.単に知識を覚える学習とは区別して,「経験→振り返り→概念化→能動的実験」という4段階の学習サイクルを「経験学習モデル」と呼ぶ.

研修においても,この経験学習モデルがとても重要である.いかに研修の中で経験する場を設け,振り返らせ,気付きを与えることができれば,現場に戻った時,学んだことを実践し,成果を出すことができる.人材育成を行う際もこの経験学習モデルを活用することが効果的である.(寺下 薫)

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