藤瀬:今回は新しく導入されたデータサイエンティスト人材についてお話を伺います.ご出席は,総務人事部HCMセンタより有馬所長,古中担当課長,立木主査,ビジネスインキュベーション本部データサイエンス推進室より長谷川統括課長,スペシャリストの飯塚様,テレコムビジネス事業本部アクセスソリューション部よりスペシャリストの小松様です.
吉野:新たにデータサイエンティスト(以下,DSと略す)人材を定義するには,その前提としてビジネスの流れが変わったからだと思うのですが,業務やビジネスの変化をどのように捉えておられたのでしょうか.
有馬:以前はデータ活用といえば大量データのバッチ処理による定形レポートという形がメインでしたが,近年はセルフサービスBI・データディスカバリなどのビジネスユーザ自身で分析を実施する形が浸透してきていると認識しています.実際,弊社にもそれを実現するための環境構築や分析支援の引き合いがきており,ビジネスとしてニーズが高まってきていると捉えています.
長谷川:当社は元々SIがメインの会社なので,データサイエンスに関連するビジネスもDWH(Data Warehouse)のような基盤の構築が中心でした.SIに入る前段階としていろいろと分析もしていましたが,あくまでもビジネスの柱はSIでした.
ただ,今後は事業拡大を図る上で,既存のSI事業の変革と新規ビジネスの創出が必要であり,それらを実現するためにはデータサイエンス等のスキルを活用することが不可欠であるという認識が広まっています.今回はそのような動きを意識して,新たにDS人材を定義したということです.
藤瀬:どのようにDS人材を定義されたのですか.
長谷川: iCDでも定義されていますが,一般的には「ビジネス」,「データサイエンス」,「データエンジニアリング」の3要素がDSに必要だと言われていますので,基本はそれに沿っています.ただ,弊社の特色を出すために,独自の付加価値としてデータマネジメントという要素も取り入れたところがポイントです.
図2の見方ですが,データサイエンティストのスキルセットと弊社独自の付加価値である「データマネジメント」という4つの要素を1つにまとめた上で,2つの人材を定義しました.
吉野:それがこの「アナリスト」と「エンジニア」ですね(図2参照).
続けてお聞きしますが,データマネジメントとはどのようなものなのでしょうか.
小松:たとえばデータレイクの考え方でデータを貯めるだけではなく,貯まったデータをより使いやすくするための仕組みづくりや考え方を整理するものです.データをビジネスに活かすことができる状態で継続的に維持する仕組みの重要性を訴求する等の全社的なコンサルもしていくのもこのデータマネジメントの要素の1つです.
長谷川:データマネジメントはDSの領域に限った話ではありません.データをクリエイトするところから,そのライフサイクルを通してマネジメントしていかないとビジネスに使えるようなデータ品質にはならないからです.
藤瀬:非常に重要ですが,なかなか難しいところですね.
長谷川:直接的な効果が一番見えないところなのです.だから,お客様もそこに対して投資をする意識があまりなく,なかなか定着しないところかもしれません.また,これらのスキルは研修を受けてもなかなか身に付かないところです.実際に案件に入り,リアルなデータを扱うことによって身に付いていくスキルだと考えています.
小松:PoC☆2をやってみても必ず良い結果が出るとは限らず,PoCを繰り返すケースも多いです.
藤瀬:この新たな仕組みを導入すると決断して,スムーズに導入できたのでしょうか.つまり既存の制度にある人材像の継続性に課題が発生しなかったのですか.
長谷川:導入に関しては,人材定義だけを単独に実施するのではなく,社内における分析文化の醸成といった全体の流れの中で,産学連携等他の施策も含めて実施していくということには注意しました.
人材の継続性という意味だと,弊社にはいろいろな人材像がありますが,今後はアプリケーションスペシャリスト(以下,ASと略す)と認定された人が,特定の業界・業務領域のDSに業務の幅を広げるという流れが出てくると思っています.
吉野:従来の技術認定,人材認定の仕掛けの中に埋もれていたDS的な人たちを,新たに種類をつくってスポットライトを当てるといったことですか.
長谷川:はい.基本的にはそうです.ただ弊社の場合は,先に述べたDSの3要素のうち,「ビジネス」スキルを持っている人は少ないです.「ビジネス」スキルの重要性が高まっていますので,そこは強化が必要だと思っています.今回,人材像が定義されたことによって,これからは,明示的にそれを目指す人が出てくると想定してます.
吉野:今回作られた定義をどのように活用されているのでしょうか.
小松:ComCP全体ではレベル1からレベル7(以下,レベルをLと略す)までのグレードの設定があり,各人材に応じたレベル設定をしています.DSは現状では,L2からL5まで設定していますが,今後,L6,L7についても定義する予定です.また,弊社の新入社員の育成体系では,最初にASかテクニカルスペシャリスト(以下,TSと略す)でキャリアをスタートし,まずSIerとしての基本スキルを身に付けてから,いろんな人材に羽ばたいていこうというのが基本的な考え方です.DSを目指すにしても,まずは,ASやTSになってからDSにステップアップしてもらう考え方です.従来からあるほかの人材も同様の考え方ですので,現場へのギャップも少ないと考えています.
吉野:新たな人材を定義して,社員の評価はどうなのでしょうか.
古中: 2018年度にDS人材を定義し,新たな人材として社内へアピールしたところ,今年度かなりの申請を受けています.
長谷川:最近はDSを目指すというか,データサイエンスに興味を持って入社した新人社員もいます.
有馬:採用パンフレットでDSをアピールしていることもあり,DSになりたいという学生が最近増えてきています.入社時点でDSになりたいという明確な希望を持った人が,経験を積み,レベルの高いDSに成長していくというケースがだんだん出てくると思います.
小松:最近入社した若手の社員も,大学でデータ分析やAIをやってきたという方が徐々に増えてきましたね.インターンシップで来た学生にデータサイエンス業務を経験してもらい,来年待っていますよ,来年一緒に仕事をしよう,と伝えていたりもします.
吉野:それは素晴らしいですね.
立木:DSの潜在的なニーズはありましたが,既存制度のComCPのベースになったITSSにはデータサイエンスの定義がなかったので,新たにできたiCDというフレームを上手く活用することで,2018年度にDS人材を定義しました.
吉野:ITSSだと最初からレベルの定義がありますが,iCDだとタスクベースでレベルの設定がなかなか難しいと思うのですけれども,どのように工夫されたのでしょうか.
小松: DSもComCP準拠で考えていましたので,各レベルで求められる内容はComCPと変わりません.DSのタスクをこなせることを前提としてL4-5のリーダー層と,リーダーの指導に基づいて具体的な作業を行う下位(L3以下)と整理しています.リーダー層には,顧客との折衝,プロジェクト計画や遂行,部下指導も必要です.
吉野:ベーシックなスキルは明快に定義されていることが分かりましたが,ドメイン知識についてはいかがでしょうか.
長谷川:ドメイン知識が必要ということは認識していますが,今回のDS人材のスキルとしては定義していません.ビジネス力として,たとえば,プロジェクトの立ち上げや,ゴールに関してお客様と合意を図るといった要素を定義しています.
吉野:そのスキルはどのように評価するのですか.
飯塚:最終的に面接審査で評価・認定されますが,申請段階で知識担保として外部の資格を持っている,もしくはDSの知識レベルを判定できる外部試験で一定の点数を取る必要があります.その上で,申請・面接に進んでいくプロセスにすることで知識面も担保しています.
小松:また,実際のプロジェクトでは,「ビジネス」に関してはリーダ層が自分で作業を行い,「データサイエンス」,「データエンジニアリング」は部下を指導しながら実施していくことが多いと思います.実情に即した制度運用ができるように,点数・評価付けを工夫して「ビジネス」に関しては必ずしも部下指導を必要とせず,リーダ自らが実施できることを評価対象としています.
吉野:申請するタスクは,必須項目やオプションとして選択するのでしょうか.
長谷川:そうです.iCDのタスクリストの中から選択していますが,基本的な分析作業で出るものを中心に重点審査項目として必須にしています.ちょっと特殊なもの,たとえば,非構造化データといった,いつも扱わないものについては別の扱いをしています.評価の中では加点要素の扱いとして別項目で置いています.
藤瀬:iCDのタスクリスト以外で,独自で追加しているものはあるのでしょうか.
小松:弊社の状況に照らし合わせ,減らしたものもあれば追加したものもあります.
藤瀬:それをできる会社とできない会社があるようで,それが結局,スキル標準導入が上手くいく会社とそうではない会社の違いというのが当方の印象です.
古中:今回は皆さんに協力してもらいましたが,経営層が非常に前向きだったというのも強かったと思います.
吉野:今後の発展として,CRMやマーケティング,設備系といったドメインごとに認定資格を分けることは考えていませんか.
飯塚:複数ドメインの要素が含まれる案件も多くあり,ドメイン単体に特化するというのは世の中的にもう通じないと思っています.別人材で認定資格をドメインごとに分けていたのを2018年度に廃止したくらいです.
吉野:大きなビジネスにするためには,DSが引っ張ってくる先端的な案件と従来のSIを上手くつないでいく必要があると思うのですが,どちら側がつなぐのかについて感覚的にはどうでしょうか.
長谷川:それはお互いがやる形と思っています.データサイエンス系で言うと,私たちの所属するデータサイエンス推進室はビジネスインキュベーション本部にありますが,エンタープライズビジネス事業本部にもビッグデータソリューション部という部署がありますので,いろいろ連携しながらやっていく役割も担っています.
もちろんその他の組織でもお客様のSIにつながるようなものであれば,そこを上手く連携していくつもりです.
小松:たとえば,データサイエンス推進室のコアメンバが最初に分析し,何もないところから,いわゆる粘りで何かを見つけることが多いです.得られた分析結果や分析手法が定常的に使え,業務に組み込めるようになってくると,お客様に近い社内事業本部側の人間に分析の手法や考え方を引き継いで,継続した分析を行ってもらうようにしています.
藤瀬:この分野というのはどんどん変わっていってしまうので,スキルの要件とか,スキルの入れ替えを定期的に見直すような仕掛けはあるのですか.
小松・飯塚:データサイエンティスト協会のスキルチェックリストをそのまま使うと簡単にスキルの評価ができるという話もありましたが,時間が経つと必ず特定の技術が陳腐化したり,流行的にこれは使わないよねというのが必ず出てきます.
年に一度,定義の見直しをする機会はありますが,今回iCDを活用してDSとして必要なタスクを評価項目にしたことで評価する基準は大幅には変わらないと考えています.
長谷川:社員がDSという人材を意識し,より多くの人に目指してもらいたいという思いからDS人材を定義しました.最近はDX等,データサイエンスやAIの技術を活用して,ビジネスを変革していこうという動きがありますので,そのような流れの中で人材を育成し,上手くビジネスの創出・拡大につなげていければと思っています.
藤瀬:本日は,ありがとうございました.
藤瀬:今回は大きく定義を変更されたサービスクリエータ人材についてお話を伺います.ご出席は,総務人事部HCMセンタの古中担当課長,上田様,ビジネスインキュベーション本部ビジネスインキュベーション部仲山担当部長,スペシャリストの伊藤様.また,サービスクリエータのスキル定義にご協力されたスキルスタンダード研究所の植松主任研究員にも同席いただきました.
吉野:まずサービスクリエータ(以下,SCと略す)は何をされている人材かお聞きします.
仲山:マーケットへの提供価値を生み出し,計画,実証のサイクルをまわし,事業の柱を構築することを目的に新規製品・サービスのビジネス化を実現するミッションを担っています.
元々弊社はSIを生業にしており,お客様の要件を形にしてシステムに仕上げていくのが主な業務でしたが,1997年の分社を契機に,自社のビジネスとしてサービスやパッケージといった,受託ではない形での商材をつくっていく営みが必要になりました.その後,商品開発を担う人が徐々に増え,ComCPの一人材としてSCが開設されました.
吉野:代表的な商品,サービスにはどのようなものがありますか.
仲山:現在,皆さんの目に触れていただけるものとしては深層学習 (Deep Learning) を活用した画像認識AI である「Deeptector®」や,クラウドサービス「SmartCloud®」など弊社のWebページに商品・サービスを掲載していますが,幅広く提供しています.
藤瀬:DXを意識し始めてから,商品に変化はありましたか.
仲山:市場環境では3年前はそれほど言われていなかったDXという言葉が,今は盛んに言われてきており,SI案件においてもDX要素が必要になっています.十数年前はソフトウェアパッケージ商材とIaaSサービス等が主でした.現在は,DXを実現する商材が拡大しています.また,高度な技術を強みとした商材,あるいは,お客様やビジネスパートナと一緒にサービスをつくるアライアンス型/協業型の商品・サービスにも力を入れていますし,増えてもきています.
藤瀬:日本企業はアライアンスが非常に苦手だと言われていますが,特に問題はなくスムーズに進んでいるのですか.
仲山:難しさはあります.今は,弊社の業務知識が豊富にある分野を強みとして,顧客基盤を持つお客様やパートナーとアライアンスを組んでWin-Win関係をつくるところから始めることが多いです.
吉野:SCの仕事の責任範囲はどこになるのですか.
仲山:企画から運用まで全部が対象です.開発を外部に任せる場合はプロジェクトマネージャ(以下,PMと略す)がいて商品主管側とPMで緊密に話を詰めていきますが,任せ度合いは商品により異なります.アジャイルチームを組んでアプリケーションをすべて内製する場合もあります.
藤瀬:今,アジャイルの話が出ましたけれども,お客様に対してアピールする必要があるとき,まずプロトタイプを見せてしまうと思うのですが,そうするとエンジニアが前面に出てお客様と接する方が有効というケースもあるのでしょうか.
仲山:実際にエンジニアが前に出るケースが増えています.昔は一度仕様を決めたものを,その通りに作って売るという進め方だったのですが,今はプロトタイプをユーザないしはパートナに見ていただいて,納得できるかどうかを確認しながら進めています
AIを例に取ると,ユーザビリティだけでなくデータ精度やフィールドで実用できるのかという点を含め,お客様やパートナーの反応を見ながら何回も修正や改良を繰り返し,市場にフィットした商品・サービスを作っていくことがあります.
藤瀬:エンジニアは,SC人材ではないのですか.
仲山:まさにそこが,今回の定義変更の主眼の1つになっています.以前の定義では,エンジニアは自身の業務範疇から少し背伸びしてビジネス化を経験していないとSCに認定しづらかったのです.定義変更後もビジネス化を意識した業務遂行,たとえば,技術をいかに上手くビジネスやサービスに落として提供できる状態に持ち込むかといったことをしないともちろん認定はできないのですが,中低位の認定は部分的な業務遂行でも,サービス化に向かって活動しているものは認定できるように定義を変更しました.上位の認定については,従来通り網羅的な業務の遂行が求められます.
SCは幅広いミッションがあり,今はビジネスを引っ張る人,エンジニアリングをやる人,ユーザビリティを検討する人,営業に強い人といったチーム構成やフェーズでいろいろ人が入れ替わる状況ですので,定義もそれに合わせて見直しています.
AIやデータサイエンスのような新たな領域でもエンジニアは必要ですし,マーケッターとは異なる市場観を持っていて,お互いが上手く組まないと良いもの,需要されるものはつくれないので,エンジニアの役割はとても大きくなってきています.
吉野:そうするとSCのスキル定義は非常に難しいですね.超上流からデリバリー,場合によっては運用まで含む広範なスキルを定義するのはすごく大変ではないでしょうか.
上田:そうなんです.従来の定義も意識しつつ広範なスキルを認定できるようにするために,申請する項目を選択制にしました.必須項目と選択項目について無理のない申請ができるようにバリエーションをつくるところは苦労しました.
旧のITSSベースと新たに定義したiCDベース,新旧両方をマージしたスキル定義としたため社内でも非常に難解だと言われています.審査委員も苦労していますが,運用しながら検証・改善しようと協力して審査を進めている最中です.
伊藤:中位のL5まではiCDベースのタスクを基に,ITSSベースでは不足していたタスクを追加すれば定義できました.けれども上位のL6からL7になると,ビジネスブランドやビジネス戦略といった経営判断に近い要素や,検証フェーズがひと通り走った後に「次のステップへ進むための判断」ができることが重要だと考えています.そういった要素を,実際に業務で実施されている方の話をかみ砕いて含めたのですが,やはり難解というか,人に伝わりづらく,どのように定義していくかはまだ悩みがあります.
古中:管理者層を束ねて会社のビジネスのあるべき方向性を定めて,弊社のブランド力を上げていくのがL7の人材像イメージなので,そのレベルに対し我々がどう審査していくかは今年の課題です.植松さんにいろいろ手伝っていただいてL6,L7も定義したのですが,非常に難しいです.
吉野:iCDでは足りなくて,新たなタスクを追加していったのですか.
植松:追加しています.NTTコムウェア社に合わせてという意味だと,開発の手順がウォーターフォールだけではなくアジャイルも意識したタスクのつくり方をされています.
伊藤:アジャイルの要素をどう定義するかが難しかったですが,仮説検証を繰り返してビジネスを大きくしていくといった反復・漸進的なアプローチを新たなタスクとして入れています.
仲山:タスク追加にあたり,リーンスタートアップやアントレプレナーの教科書辺りからも枠組みを引用しています.アジャイルの要素だけでなく,ビジネス創出初期のフェーズやビジネス設計,サービス設計,コンセプト形成等についても手厚く組み立てていきました.
植松:製品化されず途中のフェーズで終わることもありますよね.そのような案件に携わった方に対して,公平性を保つためにどのように工夫されて運用されているのでしょうか.
伊藤:サービスとして提供する前までのフェーズのみでもSCとして申請でき,認定を受けられるように見直しました.
植松:なるほど.ということは,サービスとして提供する前のフェーズも重要視しているのですね.タスクのカバレージがレベルとある程度リンクしていて,上位だとタスクのカバレージも広く全部やらなければいけない.ただ,中位のL4/L5や下位のL3だと,一部のタスクができれば認定しますという,カバレージで調整している面があるのですね.
後はその一つひとつのタスクにおいて,独力でできる,指導できる,さらにまとめられるとか,そういうことでレベル感を出されているという.
伊藤:そうですね.L3からL5までは,人に言われてできる,自分でできる,指導できるといった経験による成長が期待できるものでレベルを分けています.SCの場合,L6から上になってくると,ビジネス戦略や管理能力といった要素でレベルを分けています.
植松:見直しをされて,社員の評価はどうですか.
古中:定義を見直したことを社内でもアピールした結果,昨年度よりも圧倒的に申請数が増えました.若手や技術開発をメインとした従来の定義だと申請できないと諦めていた方,自分の企画が途中のフェーズで終わった方が申請してきています.
植松:SCに興味を持ち,将来はSCになりたいという方が多くいるのですね.
古中:元々,若手も含めてSCは非常に人気です.将来的にはSCになりたいです,そういった仕事に就きたいです,という若手は多いです.
植松:SCは業務範囲が広いので,一定の経験値を積まないと対応できないところもあり,そこにギャップが生じていそうですね.
古中:そうですよね.実際は,泥臭い部分や渉外が上手くいかなくて非常に苦しみのところもあるので,その辺のギャップは実案件を通して磨いてもらえればなと思います.
仲山:弊社では現在,協創型のビジネス,つまり,従来のSIから協創への変革を非常に重視しています.これからはSCの要素や考え方を意識した仕事の進め方が必要ですし,実際にSI案件にSCの要素が入ってきています.そのため,専従的にサービスやビジネスをつくる担当者ではなくとも,素養を持った人はSCとして認定したい思いがあります.
植松:従来からやっていた仕事を,新たなスキル定義を通じて可視化するということですね.自身が取り組んでいた業務が実は「SCの仕事」だったんだと社員に気付かせ,また会社側から見てもSCはここにもいると分かる,そういう効果があるのですね.
吉野:タスク定義の見直しを検討されている3年の間に世の中はどんどん変わり,これからも,もっと加速して変化していくと思いますが,そうすると毎年,見直しが必要になるのでしょうか.
仲山:今後,大幅に見直しが必要になることはないと思っています.元々はウォーターフォールの価値観をベースにしたサービスや商品のつくり方を定義していました.そこに対し,新規ビジネスを進めるときにアジャイルの要素や,漸進的なアプローチの価値を認めていく必要が出てきたことで改訂を始めましたが,元のITSSベースのタスク定義も残していますので定義自体は大きく変えてはいないのです.
吉野:このような取り組みは非常に素晴らしいと思います.植松さんはスキル標準を適用されている企業をいろいろご覧になっていますが,今回の取り組みはどうお考えなのでしょう.
植松:スキル標準を導入している企業でも,制度を上手く活用しているところは非常に少ないのですね.今回の場合は,認定結果を人事制度の一部の要素に含むことや,会社が求める人材に対する社員の動向を把握することにも用いられており,現状に合わせた見直しをされていらっしゃるのですけれども,そこは非常に大変だったと思います.
基本的にスキル認定制度と人事制度と紐づけることは推奨していないです.紐づけるのであれば認定制度を入れ,しっかりとした運用ができた後のタイミングでということが多いです.ですので,NTTコムウェアさんの事例は,本当に数少ない事例ですね.かつ,それぞれの専門領域について,すごく深くまでされています.
吉野:それは,会社,ビジネス側が期待している人材像が非常にクリアにスキル定義という形で表出されていて,社員側もどのような人材を目指し,そのために何をすればいいのか分かる.経営側も今どの人材がどれだけいるか可視化されているので,次の事業を検討するときにどういう人材が必要なのか非常に明快になっている.
それだけ非常に責任重大で,定義する側,申請する側,評価する側も真剣にされているということですよね.スキル標準を骨までしゃぶりつくして活用している感じですね.
植松:我々もスキル標準はいろいろな使い方があることをアピールして,スキル標準を活用する検討を持ち掛けたりしていますが,スキル標準の活用方法に多様性があることをご存知ない会社も多い気がしています.
古中:ComCP事務局は,社員が成長のPDCAサイクルをまわしながら認定を取りたいと思える制度にし,取ることで社員一人ひとりのスキルがアップしていく,そして会社全体がスキルを可視化できるようにしていくということを心掛けております.
伊藤:定義を変更して今年が一巡目なので,運用しながら改善を図っていきたいと思います.まだまだこれからですね.
仲山:ビジネス環境が常に変化していく中で,サービス創出に必要なスキルも変化していくと思います.サービス創出を担える人材をきちんと認定できるよう,継続的にスキル定義を見直しながら対応していきます.
藤瀬:本日はお時間をいただき,ありがとうございました.
会員種別ごとに入会方法やサービスが異なりますので、該当する会員項目を参照してください。