デジタルプラクティス Vol.10 No.3(July 2019)

生命保険における引受査定業務の自動化・スピードアップ

伊藤 隆郎1  川西 あゆみ1

1T&D情報システム(株) 

大同生命とそのシステム開発・運用を受託している当社では,営業活動・事務における業務革新の推進施策として,引受査定業務のさらなる高度化・効率化に取り組んでいる.中でも,生命保険申込の手続に要する日数の短縮(スピードアップ)によるお客さまへのサービス向上と事務の生産性向上が課題となっている.課題の解決策として「健康診断書送付方法の改善(ハンディスキャナとイメージ伝送技術を活用)」「健康診断書のデータ変換・入力の自動化(非定型OCR技術を活用)」「告知方式の改善と医務査定の自動化(自動引受査定エンジンを導入)」の3施策を実施した.いずれも,人による作業や判断の負担を軽減するための取り組みである.その結果,生命保険申込の手続に要する日数の短縮,手続の迅速化・手戻り防止,業務効率化および人材育成において効果があった.
今後も既存の事務・営業活動の課題分析を進め,継続的に「自動化」に取り組んでいく.
※本稿は富士通ファミリ会2018年度優秀論文受賞論文です.
※本稿の著作権は著者に帰属します.

1.はじめに

1.1 当社の概要

T&D情報システム(株)(以下,当社)は,大同生命,太陽生命,T&Dフィナンシャル生命の3社を中核とするT&D保険グループの唯一の情報システム会社として,グループ各社のシステム開発と運用を受託している(図1参照).

T&D保険グループの概要
図1 T&D保険グループの概要

 

業務内容は,IT戦略の立案・実行をはじめ,システム開発,システム基盤の構築,システム運用とITにかかわる全般にわたっている.

近年,高齢化の進展,電子商取引の普及,各種規制緩和とそれに伴う競争の激化など,企業を取り巻く環境は刻々と変化している.このような環境下で企業が競争に勝ち抜くためには,サービスの高度化・専門化が必要であり,情報システムの機動的かつ効果的な展開が不可欠となっている.

当社は,“T&D保険グループのシステムを支える会社”として,今後さらにシステム開発力を強化し,お客さまにご満足いただけるサービスの提供を目指している.

1.2 当社を取り巻く環境

生命保険会社は長期の契約を取扱うため,1つ1つの契約,1人1人のお客さまの情報を長くきめ細やかに管理する必要があり,これを担う事務量は膨大である.

こうした中,大同生命では,全国約180拠点の支社と本社があり,日々大量に発生する保険契約の新規募集および契約を維持管理する事務を多数の人が連携して対応してきた.一方,お客さまへのサービスが多様化し,取り扱う事務の種類が増え,事業費は増加傾向にあった.事業費に占める人件費の割合は高く,特に事務担当者の知識や経験に品質や生産性が左右される専門性の高い事務においては,人件費の高い熟練者に依存する態勢となっていた.

昨今,少子高齢化の進行とともにライフスタイルや保障ニーズの多様化が進む中,生命保険業界では各社が競って新商品の開発や営業活動・事務スキームの変革に取り組んでいる.

大同生命においても,営業活動・事務における業務革新の施策として,契約管理事務(引受査定・契約変更・支払査定など)の高度化・効率化を推進し,お客さまサービスの向上と事務の生産性向上を目指している.

本論文では,生命保険における引受査定業務における自動化・スピードアップをテーマとし,従来の事務・システムの課題を踏まえたうえで,自動化の仕組みを導入することで業務の高度化・効率化に取り組んだ事例を紹介する.

2.引受査定業務の概要と課題

2.1 引受査定業務の概要

生命保険における引受査定業務とは,保険契約時にお客さまよりお申し出いただいた年齢・職業や健康状態などから,保険の引受が可能かを判断することである.引受査定には「環境査定」と「医務査定」があり,前者はお客さまの年齢・職業や収入などを判断し,後者はお客さまの健康状態を判断する.

本論文では,引受査定業務のうち「医務査定」を対象とする.医務査定では,医師の診断結果やお客さまから提出される健康診断書,お客さま自身による病歴のお申し出(以下,告知)などをもとにマニュアル(以下,査定標準)に沿って医学的に分析し,保険引受の可否や契約条件を決定する.

お客さまによる生命保険申込から引受査定に至る事務フローを以下の図2に示す.

従来の引受査定業務の事務フローと課題
図2 従来の引受査定業務の事務フローと課題

2.2 保険申込から引受査定までの事務における課題

大同生命と当社では,上記の生命保険申込の一連の手続のスピードアップによるお客さまサービスの向上と事務の生産性向上を目指すことを目的とし,従来の事務フローをもとに,以下のとおり現状の事務における課題を抽出した(課題の項番は図2と対応している).

【課題①】お客さまの健康診断書が本社に到着するまでに時間と労力を要している.

従来の事務では,お客さまに健康診断書を提出いただく際,営業担当者がお客さまから原本を預かり,支社へ持ち帰ってコピーを取得のうえ,本社へ郵送していた.支社における書類送付作業の負担が大きく,本社で書類を受け付けるまでに平均3日程度を要していた.

【課題②】健康診断書のテキストデータ化に時間と労力を要している.

従来の事務では,本社に到着した健康診断書は,人が現物を見ながらテキストデータを入力していた.健康診断書は医療機関により形式が異なる非定型書類であり,項目数が多く目視で1項目ずつ探して入力する必要があり,一般的な定型書類よりも入力作業の負荷が大きい.具体的には,1件平均20分程度,年間3万件以上の健康診断書の入力作業を行っており,多大な時間を要していた.

【課題③-1】査定に必要な告知内容を正確に・十分に・効率的に取得できていない.

健康状態の告知では,営業担当者が携行する営業支援用タブレット端末(以下,タブレット端末)の画面にお客さまの健康状態や病歴(疾病名・治療内容など)を入力いただく.従来,この告知画面は疾病の種類によらず汎用的な記入形式となっており,疾病ごとにお客さまが何を記入すべきか分かりにくく,記入漏れや記入誤りの懸念があった.また,本社での査定の判断に必要な情報が不足し,再度お客さまに追加で告知をいただく手戻りが発生していた.

【課題③-2】査定が人の作業と判断に依存している.

医務査定では,疾病名・投薬名・手術名などの告知内容や健康診断書の内容などをもとに,判断基準が記載された査定標準に沿って,事務担当者が疾病ごとに点数化を行う.査定標準に記載がない病歴の告知があるケースや複数の疾病の告知があるケースなど複雑な判断が要求される場合には,熟練の担当者や査定専門医の判断を必要とする.

このように,医務査定は保険医学の知識と査定経験による知識を必要とする専門性の高い事務であり,個々の事務担当者の作業と判断への依存度が高く,多大な時間と労力を要していた.

2.3 課題の解決策

大同生命と当社では,上記の課題の解決策を検討し,以下3点の施策を実施する方針とした.
【施策①】健康診断書送付方法の改善(ハンディスキャナとイメージ伝送技術を活用)
【施策②】健康診断書のデータ変換・入力の自動化(非定型OCR技術を活用)
【施策③】告知方式の改善と医務査定の自動化(自動引受査定エンジンを導入)

上記の3施策は,2014年4月より検討に着手し,約2年間のシステム開発を経て2016年5月に一部の地域での先行稼動を開始した.その後,同年8月に全国での稼動を実施し,現在まで大きなトラブルなく稼動を続けている.

3施策の対応イメージは図3のとおりであり,次章からはその具体的な開発内容を紹介する.

自動化・スピードアップの対応イメージ
図3 自動化・スピードアップの対応イメージ

3.自動化・スピードアップへの取り組み

3.1 【施策①】健康診断書送付方法の改善(ハンディスキャナとイメージ伝送技術を活用)

前章の課題①(健康診断書が本社に到着するまでに時間と労力を要している)に対する施策である.健康診断書を一度支社へ持ち帰り,コピーを本社へ郵送するという負担を軽減するため,書類を持ち帰ることなくお客さまの面前で電子データ化し,データを直接本社へ送信する方式を検討した.電子データ化にはカメラ撮影方式とハンディスキャナ方式を比較し,歪みの少なさや文字の読み取り精度でハンディスキャナ方式が優位と判定した.その結果,ハンディスキャナとイメージ伝送技術を活用することとなった.システム開発内容は次のとおりである.(処理イメージは図4を参照)

ハンディスキャナの処理イメージ
図4 ハンディスキャナの処理イメージ

[システム開発内容]

  • 全国の支社に計1,000台ハンディスキャナを配布する.
  • ハンディスキャナとタブレット端末を接続し,健康診断書を読み取り可能とする.
  • 読み取った画像データはタブレット端末へ一時保存後,本社へデータ伝送する.
  • タブレット端末に,スキャナ読み取り・読み取った画像の確認・一時保存・データ送信の一連の操作を行う専用画面を搭載する.
  • 画像データは本社のイメージサーバに保存し,後続の本社業務に自動的にデータ連携する.

 

ハンディスキャナの選定にあたっては主に以下の点を重視し,ポータブル性・歪みの少なさ・画質で優れる富士通社製の機器を採用した.

  • 営業担当者がお客さま訪問時に携行しやすいよう,重量,サイズなどの点でポータブル性が高いこと.
  • 健康診断書は医療機関によりフォーマットが異なることから,A3用紙の読み取りに対応可能であること.(採用した機器はA4サイズ対応機種であるが,A3用紙を半分ずつ読み込んだあと合成することで,A3用紙の読み取りが可能)
  • イメージデータは,本社業務での利用を踏まえ,高品質なカラー画質,高精度のOCR認識率であること.

また,健康診断書スキャン専用のタブレット端末画面を作成するにあたって,お客さまや営業担当者の利便性を向上するために,あわせて以下の点を工夫した.

  • スキャナ読み取り・読み取った画像の確認・データ送信の一連の操作を1画面で完結することで,簡単な操作で利用可能とした.
  • 電波の届かない場所でも健康診断書をスキャンできるように,スキャンと端末内への画像データ保存はオフライン機能とし,画像データを本社へ送信するオンライン機能とは切り離すことで,電波の強弱にかかわらず利用可能とした.
  • お客さまのセンシティブ情報をタブレット端末内に一時保存することから,セキュリティ対策として,端末のID・パスワード・ICカード認証により本人なりすましを防止し,画像データの暗号化・リモート消去機能搭載により端末紛失時の安全性を確保した.
  • 生命保険の申込手続の流れで健康診断書を提出いただくケースが多いことを考慮し,スキャンを単独で利用できるだけでなく,手続中の画面から続けてスキャンすることも可能とすることで,営業担当者がスムーズに利用できるようにした.

営業担当者は,お客さま訪問時にハンディスキャナを持参することで,お客さまの面前で画面を操作して健康診断書をスキャンし,直接本社へ送信することが可能となった.本社への送付がスピードアップするとともに,健康診断書をその場でお客さまに返却でき,お客さまから大切な書類をお預かりする必要がなくなった.

3.2 【施策②】健康診断書のデータ変換・入力の自動化(非定型OCR技術を活用)

前章の課題②(健康診断書のテキストデータ化に時間と労力を要している)に対する施策である.医療機関により形式が異なる(非定型である)健康診断書のテキストデータ化の負荷軽減のため,非定型書類の文字列を自動認識し,テキストデータに自動変換する非定型OCR☆1技術を導入した.システム開発内容は次のとおりである(処理イメージは図5を参照).

非定型OCRの処理イメージ
図5 非定型OCRの処理イメージ

[システム開発内容]

  • 健康診断書の項目のうち読み取り対象とする項目(たとえば「血圧」など)をパラメータとしてあらかじめ非定型OCRシステムに設定する.
  • 前節で説明した,本社のイメージサーバに保存された健康診断書の画像データを非定型OCRシステムへ自動的に連携する.
  • 非定型OCRシステムにより,健康診断書の画像データから読み取り対象項目単位にイメージ切り出し,文字列の自動認識,項目ごとのテキストデータ変換を自動的に処理する.
  • データ変換した内容は確認・修正用画面に表示し,本社の事務担当者が確認・修正可能とする.

 

非定型OCRシステムの導入にあたっては,以下の点を重視して比較検討を行った.

  • 自動認識の読み取り精度をプログラムのチューニングにより向上可能であること.
  • 健康診断書は複数年度の受診結果を保持していることも多いため,最新年度,過去年度を自動的に識別できること.
  • 複数枚書類がある場合の紐付け機能があること.

非定型OCRは開発途上の技術であり,読み取り精度は100%保証されるものではなかった.このため,読み取り内容の確認・修正を行う作業担当者の負荷を軽減できるよう,変換データの確認・修正用画面の作成にあたって以下の点を工夫した.

  • 画面には,読み取り項目の部分のみ切り出された画像と,非定型OCRシステムから連携した該当部分のテキストデータの内容を並べて表示し,確認しやすい画面レイアウトとした.
  • 非定型OCRが読み取り範囲を誤読した場合は,画像の正しい読み取り範囲を手動で設定することにより再度文字の自動認識・変換を行うことで,スムーズな修正作業を可能とした.

非定型OCRの導入により,事務担当者の業務内容は,自動入力内容の確認・一部修正作業が中心となり,作業の負担軽減・時間短縮が可能となった.健康診断書の画像データからテキストデータに自動変換する機能の導入は,生命保険業界で初の取り組みである.

3.3 【施策③】告知方式の改善と医務査定の自動化(自動引受査定エンジンを導入)

前節の課題③(査定に必要な告知内容を正確に・十分に・効率的に取得できていない,査定が人の作業と判断に依存している)に対する施策である.

医務査定での人による判断の負担を軽減し,査定のスピードアップを実現するため,自動引受査定エンジンを導入した.当施策のポイントは「告知方式の改善」,「医務査定の自動化」の2点があり,以下で説明する.

3.3.1 告知方式の改善

従来の告知方式では,お客さまが告知する疾病の種類によらず記入形式が汎用的であったため,必要な情報の記入漏れなどが発生していた.そこで,新たな告知方式として対話型告知機能(以下,ドリルダウン告知)を採用した.ドリルダウン告知方式では,お客さまの健康状態や病歴に応じて部位・症状などを一問一答の対話方式で選択肢を画面に可変表示することで,医務査定の判断に必要な告知を正確に・漏れなく・一度に取得することを可能とした.(図6のイメージ参照)

告知画面の新旧イメージ
図6 告知画面の新旧イメージ

[システム開発内容]

  • あらかじめ,疾病ごとに「自動引受査定ルール」を自動引受査定エンジンのデータベースに登録する.「自動引受査定ルール(以下,査定ルール)」とは「ドリルダウン告知の質問・回答」とそれに応じた「引受可否・契約条件」のパターンである.
  • タブレット端末内に全ルールを集約した「ルールブック」を配置し,お客さまの回答内容に応じた質問をルールブックに基づいて可変的に展開する画面を表示する.
  • お客さまの告知手続完了後,本社へ告知内容をデータ送信し,自動引受査定エンジンに告知内容を登録する.
  • 自動引受査定エンジンは,告知内容を査定ルールデータベースと照合し,引受可否・契約条件を自動的に判断する.

 

システム開発内容は以下のとおりである.(処理イメージは図7を参照)

自動引受査定エンジンの入出力イメージ
図7 自動引受査定エンジンの入出力イメージ

こうした対話型告知方式を採用する例は近年増えているが,大同生命と当社独自の取り組みとして「オフライン機能」でも提供可能とした.「ルールブック」をあらかじめタブレット端末内にダウンロードしておくことで,電波の届かない場所でもスムーズに手続いただけるようお客さまサービスに配慮したものである.

また,網羅性の観点でも,大同生命と当社では告知の可能性のある疾病の大部分をカバーできるよう対応した.お客さまから告知のある疾病はこれまで200種類以上が確認されていたが,当開発では約250種類の疾病をカバーした.現在も継続して,登録する疾患の見直しを行っており,より多くの疾患をカバーし,効果的に告知いただけるよう範囲を広げている.

ドリルダウン告知方式の採用により,医務査定に必要な情報を一度で正確に漏れなく取得可能となり,お客さまに再度追加の告知をいただく負担を軽減した.また一問一答形式で質問が表示されることにより,お客さまにとっても病歴などを思い出していただきやすく,入力操作が分かりやすくなり手続時間の短縮につながった.

3.3.2 医務査定の自動化

ドリルダウン告知の内容と査定ルールデータベースを照合し,引受可否・契約条件を自動引受査定エンジンが判定することで,人の判断に依存せず自動的に判定することが可能となった.

この自動化の根幹を成しているのは,自動引受査定エンジンに登録した査定ルールデータベースである(図8のイメージ参照).この査定ルールのデータベース化の過程は,査定標準の体系化および見える化を推進することにつながった.従来,医務査定は人の経験的判断による部分も大きかったが,データベース化にあたって査定標準の明確化・精緻化の作業が進められ,体系的な基準として整備することができた.

査定ルールデータベースのイメージ
図8 査定ルールデータベースのイメージ

自動引受査定エンジンにより自動判定した保険契約の引受可否や契約条件の判断結果を利用する機能として,以下の2つの機能を構築した.

(1)本社での医務査定への連携機能

自動引受査定エンジンの判定結果を本社での医務査定に連携し,結果をそのまま採用する場合は,人の判断を介さずに医務査定を自動的に完了可能とした.人による判断が必要な場合にも,自動引受査定エンジンの判定結果を画面に連携表示し,人による判断の補助とできるようにした.これにより,引受査定がスピードアップした.

(2)支社への引受査定結果の即時開示機能

自動引受査定エンジンでの判定結果を確認するための画面をタブレット端末に搭載することにより,営業担当者がお客さまへスムーズにご案内することが可能となった.従来,支社へ引受査定結果を案内するのは本社での査定完了後であったが,自動引受査定エンジンはお客さまによる告知の情報があれば引受可否を判定可能であるため,手続完了後その場でお客さまに告知内容の判定結果を伝えることができる.追加書類の提出が必要な場合は特に,その場でご案内できるメリットが大きい.

ただし,お客さまの病歴や保険契約の引受可否は生命保険会社の信用にかかわる重要情報であるため,上記の2機能で自動引受査定エンジンの判定結果を実際に運用するには慎重な判断が求められた.検討の結果,自動引受査定エンジンの稼動開始後一定期間は試行運用とし,根幹である査定ルールデータベースの検証期間と位置づけ,その正当性を十分に確認したうえで本番運用する方針となった.

自動引受査定エンジンは,2016年5月に一部の地域での先行導入の後,同年8月に全国での試行運用を開始した.それから約1年半の間,保険引受のリスク評価の専門家であるアンダーライターによる査定ルールデータベースの検証と改善を重ねたうえで,2017年12月に自動引受査定エンジンは上記2機能の稼動を開始し,本番運用を迎えた.この検証期間を十分に設けたことで,利便性・効率性だけではなく,信頼性もあわせもってユーザへ機能提供できる結果となった.

医務査定を自動化することにより,お客さまに引受可否を通知するまでにかかる時間が短縮可能となり,また,人はより高度な判断を要する案件に注力できるため,業務の効率化につながった.

4.効果

4.1 引受査定業務の自動化の取り組みによる効果

これまで紹介してきた引受査定業務の自動化の取り組みによる効果について,以下の3点を挙げる.
【効果①】自動化によるスピードアップ効果
【効果②】引受査定業務における業務効率化および人材育成の効果
【効果③】対話型告知機能の優れたコミュニケーションデザインの評価

4.1.1 【効果①】自動化によるスピードアップ効果

前章で述べた自動化の施策がユーザにも受け入れられ,健康診断書を提出いただく際のハンディスキャナ利用率が高まっていること,また自動引受査定エンジンによる医務査定の自動完了率が向上していることにより,生命保険申込の手続に要する日数の短縮,手続の迅速化・手戻り防止の効果があった.

具体的には,お客さまが手続を完了してから引受査定の結果をご案内するまでの期間は,従来4.7〜5.5日程度かかっていたが,当施策実施後は平均で3〜4割短縮することができ,スピードアップ効果につながっている.

4.1.2 【効果②】引受査定業務における業務効率化および人材育成の効果

査定標準の体系化により,平易な事案と高度な判断を要する事案が明確化されたことで,効果的な業務の割り振りや人材配置,より高度な業務スキルを保持する事務担当者の育成が可能となった.

4.1.3 【効果③】対話型告知機能の優れたコミュニケーションデザインの評価

今回の自動化を行うにあたり,お客さまに操作いただく手続画面も見やすく操作しやすい画面に見直しを行った.この結果,副次的な効果として一般社団法人ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会(UCDA)が優れたコミュニケーションデザインを表彰する「UCDAアワード2016」の「生命保険分野」において,大同生命の契約申込書(電子媒体)が最優秀賞を受賞した.UCDAアワードとは,企業・団体が生活者に提供するさまざまな情報媒体を第三者が客観的に評価し,優れたコミュニケーションデザインを表彰するものであり,対話型告知(ドリルダウン告知)画面がお客さまにとってわかりやすく,負担をかけずに申込手続ができる取り組みと高く評価されたものである.

<UCDAアワードの受賞理由より>

  • 情報量の適切さ,手続きの適切さに特に優れており,わかりやすい画面になっている.
  • ミスを減らす入力支援により手続き時間の短縮を実現している.
  • 操作性と対話の工夫により,告知時にお客さまの状況に応じた質問項目を表示し,複雑な告知手続きを効率化している.

5.今後の課題・取り組み

本論文では,引受査定業務の「自動化」の取り組み内容と効果について紹介してきた.今後も既存の事務・営業活動の課題分析を進め,人の作業・判断に依存する業務を効果的に機械処理へ代替できるよう,継続的に「自動化」に取り組んでいく必要がある.

また,今回の取り組みにより,告知データや査定データなど,保険引受のリスク分析に不可欠となるデータが蓄積できる.これらのビッグデータを商品開発や営業活動に有効活用していくことも今後の課題である.

今後もさらなる業務効率化とお客さまサービスの向上を目指すため,今回の取り組みのように新技術を積極的に活用することがより一層必要となる.大同生命と当社でも,給付金支払業務におけるAI活用の実証実験を行うなど,新たな技術への挑戦を進めている.

T&D保険グループの経営ビジョンである「挑戦と発見」,「お客さま満足度」を軸に,今後も課題解決に役立つITサービスの提供に取り組んでいきたい.

6.おわりに

最後に,本システムの構築にあたり,多大なご支援・ご協力を賜った富士通株式会社殿ならびに富士通グループ各社殿をはじめとする関係各社の皆様に心から感謝の意を表するとともに,本論文がユーザ企業,システム業界に携わる方々の参考となれば幸甚である.

脚注
  • ☆1  OCRとは,スキャナなどで読み込んだ画像データの中の文字部分を解析し,コンピュータで扱える文字(テキスト)データに変換する機能.
    非定型OCRとは,OCR機能に加え,書式が統一されていない書類(非定型書類)での文字認識,文字データ変換も可能とした機能.
伊藤 隆郎

2002年 入社.2018年現在 事業三部 新契約システム担当 サブマネージャ.

川西 あゆみ

2009年 入社.2018年現在 事業三部 新契約システム担当.

投稿受付:2019年3月14日
採録決定:2019年5月26日
編集担当:粟津正輝((株)富士通研究所)

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