デジタルプラクティス Vol.10 No.1(Jan. 2019)

W3CのWeb技術国際標準化と今後の展望
─日本発信のWeb標準策定のために─

芦村和幸1

1慶應義塾大学大学院 

Web技術の国際標準化を推進するW3C(World Wide Web Consortium)では,HTML5をはじめとする各種Web標準の策定に取り組んでいるが,Webで扱うコンテンツは時代とともに多様化し,マルチメディア対応かつインタラクティブなコンテンツの需要が飛躍的に増加した.その結果,Webコンテンツは単なる「Webページ」から「Webアプリケーション」へと変遷を遂げた.また,近年では,Web技術は,PCやスマートフォンでの利用にとどまらず,TV,電子書籍,コネクテッドカー,IoT(Internet of Things)等,さまざまな環境や産業領域へと応用されている.本稿では,まず,Web技術と,W3Cによるその国際的標準化について概観した上で,Web技術標準化の基本的な流れについて説明する.さらに,近年ますます広がりを見せるWeb技術のさまざまな産業応用について,いくつかの代表的な事例を挙げつつ,その標準化作業が具体的にどのように実践されてきたのかについて説明する.その際,W3Cの日本事務局スタッフとして,2005年よりWeb国際標準化に携わってきた著者の経験を通して得た知見として,「Web標準策定のための成功と改善のポイント」について述べる.その上で,今後,「日本発信のWeb標準策定」をより一層強力に推進するために必要と考えられる人材とその育成について考察する.

1.はじめに

インターネットの開発から50年,そしてインターネット上で構築されたアプリケーション体系であるWebの開発から30年が経とうとしている.Webは,1989年に欧州原子核研究機構(CERN)[1], [2]において,Tim Berners-Lee[3], [4]らによって開発が開始されたが,時代とともにWebで扱うコンテンツは多様化し,マルチメディア対応かつインタラクティブなコンテンツの需要が飛躍的に増加した結果,Webコンテンツは単なる「Webページ」から「Webアプリケーション」へと変遷を遂げ,その利用環境も携帯機器や家電機器へと範囲を広げている(図1).

図1 Webによるメディア配信の進化

本稿では,近年,Webがディジタル情報通信社会の基盤となり,さまざまな産業領域やサービスに応用されている状況を踏まえ,まず,第2章でW3C(World Wide Web Consortium)[5], [6]によるWeb技術の国際的標準化について概観するとともに,第3章でWeb標準化の基本的な流れについて説明する.続いて,第4章では,W3Cの日本事務局スタッフとして,2005年よりWeb国際標準化に携わってきた著者の経験にもとづいて,近年ますます広がりを見せるWeb技術のさまざまな産業応用について,著者が実際に担当してきた技術トピックを事例として挙げつつ,その標準化作業が具体的にどのように実践されてきたのか説明するとともに,著者の経験を通して得た知見として,「Web標準策定のための成功と改善のポイント」について述べる.その上で,最後に,第5章で,今後,「日本発信のWeb標準策定」をより一層強力に推進するために必要と考えられる人材とその育成について考察する.

2.W3CによるWeb標準化の概要

Webは世界中で共通的に利用されるが故に,その相互運用性,国際化,入出力方法の多様性および利用者への親和性を保証する必要があり,そのためW3C等による国際的な技術標準化が継続して行なわれている.たとえば,第1章で触れた通り,時代とともにWebで扱うコンテンツが多様化し,マルチメディア対応かつインタラクティブなコンテンツの需要が増大した結果,Webコンテンツを従来の方法で表現することが難しくなってきたため,2008年,W3Cにおいて新しいWebアプリケーション記述言語としてHTML5 [7], [8]の策定が開始された.近年,HTML5は,PCのみならず,スマートフォンをはじめとして,デジタルTV等の各種デバイスにおけるWebアプリケーション活用のプラットフォームとして利用が広がるとともに,その応用分野はメディア配信(TV),電子書籍,コネクテッドカー,IoT(Internet of Things)等多岐に渡っている.W3CにおけるWeb国際標準化作業の詳細は「W3Cプロセスドキュメント」[9]に定義されているが,以下では,W3Cの組織構成および標準化議論の概要について説明する.

2.1 W3Cの組織概要

W3Cは,Webの可能性を最大限に導き出すことを目的として,Web技術発明者であるTim Berners-Leeにより1994年に設立された産業コンソーシアムであり,アメリカのマサチューセッツ工科大学・計算機科学人工知能研究所(MIT/CSAIL)[10],フランスに本部を置く欧州情報処理数学研究コンソーシアム(ERCIM)[11],日本の慶應義塾大学(Keio)[12],および中国の北京航空航天大学(Beihang)[13]という4つのホスト機関(事務局)により共同運営されている.2018年9月現在,Google,Apple,Mozilla,Microsoft,Siemens,Intel,Oracle,パナソニック,富士通,日立,三菱電機,東芝,ソニー等,世界中のさまざまな業種からなる約500の企業・団体等が会員としてその活動に参加している.

2.2 W3C議論グループ

W3Cの標準化活動は,(1)Working Group (WG)[14],(2)Interest Group (IG)[14],(3)Business Group (BG)[15],(4)Community Group (CG)[15]等のグループ単位で取り組まれている.WGがW3C勧告(技術仕様やガイドライン)の策定を行う一方で,IGは仕様策定の基礎となる要求仕様項目の検討を行う.また,BGはWeb技術のビジネス応用に関する議論を行い,CGはW3C以外の標準化団体や各種Webコミュニティ等との連携を含めた基本検討を行う.なお,上記の議論グループは,HTML5[7], [8]やCSS[16], [17]等の標準化対象技術トピックごとに設立されるが,その際,必ずしもすべてのグループ(WG/IG/BG/CG)が設立されるとは限らず,議論の目的に応じて必要なグループのみが設立される.たとえば,HTML5のようにW3C勧告を策定することが目的の場合,WGだけを設立する.また,基本検討だけを行い,W3C勧告の策定は行わない場合,CGだけを設立することもあり得る.

2.3 オンライン議論とFace-to-Face議論

各議論グループには,世界中のさまざまなタイムゾーンの技術者が参加しており,参加者全員が直接集まっての打合せ(=Face-to-Face会議)を頻繁に開催することは時間的・金銭的に困難であるため,標準仕様策定の作業は,主に,メーリングリスト[18],IRC[19]およびGitHub[20]等のオンラインサービスと,定期的(毎週・隔週・毎月等)に開催される電話会議により行われる.ただし,年に数回程度は,参加者全員が一堂に会したFace-to-Face会議(たとえば,Web of Things Working Group/Interest Group合同Face-to-Face会議[21])を行い,仕様検討の詳細について綿密な意識合わせが行われる.

2.4 グループ議長およびチームコンタクト

各議論グループではそれぞれ,1人もしくは複数の議長[22]が選出され,標準化議論および仕様策定スケジュールの管理等にあたる.また,WGおよびIGに対しては,「W3Cチームコンタクト」[23]と呼ばれるW3Cホスト機関のスタッフが担当としてあてがわれ,各種標準化活動の支援を行う.仕様策定作業は,基本的に議長をはじめとする各議論グループの参加者により遂行され,W3Cチームコンタクトは,W3C側事務局として,メーリングリストやGitHubリポジトリの作成,電話会議やFace-to-Face会議の手配等,議長および議論グループ参加者が標準化作業を円滑に進めるための支援を行うが,標準化にあたって,特定の言語や技術エリアに依存する知見が必要とされる場合(日本語音声合成等)は,積極的に技術議論に参加する場合もある.

3.Web国際標準化の基本的な流れ

W3CにおけるWeb国際標準化作業の詳細は「W3Cプロセスドキュメント」[9]に定義されているが,以下では,標準化の基本的な流れについて概説する.

3.1 W3Cワークショップ企画運営

W3C標準化においては,具体的な標準化活動の開始に先立って,各議論グループにおける議論に加えて,グループ参加者以外の世界中の技術者から,広く応用事例や要求項目に関する意見を集める必要が生じた場合,「W3Cワークショップ」[24]と呼ばれる公開会議を開催し,ユースケースや要件の洗い出し,および今後の標準化の方向性に関する意見の集約を行う.

3.2 議論グループ(WG/IG)設立

第2.2節で説明した通り,W3Cの標準化活動は,WG,IG,BG,CGといった議論グループ単位で取り組まれるが,このうち,「Web標準策定」に直接関連しているのは,WGおよびIGである.なお,WGまたはIGの設立にあたっては,グループ議長とW3Cチームコンタクトが協力して「Charter」[25]と呼ばれる設立趣意書を作成し,「各グループで標準化する対象となる文書」や「その標準化範囲および標準化スケジュール」について明確化した上でグループを設立する.

3.3 仕様策定作業

W3Cにおける標準仕様策定作業は,各議論グループごとに規定された「Charter」[25](設立趣意書)にもとづいて進められる.図2に示す通り,W3CのWeb標準(W3C勧告)は,Working Draft(WD;草案)[26]から始まり,仕様内容が確定した時点でCandidate Recommendation(CR;勧告候補)[27]となり,この時点で,広く一般に対して仕様にもとづく実装を呼びかける.各仕様ごとに実装が2件以上得られた場合に限り,Proposed Recommendation(PR;勧告案)[28]となり,あらためて全W3C会員による査読を経た上で,最終的にW3C Recommendation(W3C REC;W3C勧告)[29]となる.

図2 W3C標準化手続き

W3Cにおける標準化では,標準化手続きのうち「CRからPRへの移行」に際して「実装とテスト」が必須であるため,草案(WD)がCRとして公開されるのに先立って,「仕様書に基づいて実装の動作確認を行うためのテスト」を作成した上で,CR公開後,PR公開までの期間で仕様にもとづく実装が存在することを確認する.ここで「テスト」とは,たとえば,HTML5仕様書の場合,仕様書に含まれる機能を具体的にWebブラウザで確認するために,HTML5[7],CSS[16]およびJavaScript[30]の組合せとして生成されたWebアプリケーションのことを意味する.テスト作成にあたっては,仕様書の記述にもとづいて,各機能ごとに,「どういう条件(入力)のとき,どういう結果(出力)を得るか」という言明文(「アサーション」と呼称)を作成した上で,機能確認に漏れがないようにする.

実装とテスト作成は,PRへの移行までに完成していればよいが,当該仕様に含まれる機能が複雑な場合,(1)仕様にもとづくソフトウェアやハードウェアの実装,および(2)仕様に含まれる機能のすべてを確認するためのテストの作成には多大な労力と時間を要する.そのため,FPWD公開時点等,仕様開発のできるだけ早期に,「実装とテスト作成」を含めた仕様開発スケジュールを立案するとともに,標準化作業の進行に合わせて,CR公開に合わせてテストを公開することが推奨されている.

3.4 他の標準化団体とのリエゾン

関連する各種標準化団体の取り組みと矛盾なく整合するよう,W3CにおけるWeb標準化議論は,関連標準化団体と連携しつつ進められる.連携対象の標準化団体について,国内および海外に分けた上で以下に例示する.

国内の標準化団体:
  • ARIB (Association of Radio Industries and Businesses;一般社団法人電波産業会)[31]
  • DTA (Data Trading Alliance;一般社団法人データ流通推進協議会)[32]
  • エコーネット(一般社団法人エコーネットコンソーシアム)[33]
  • IPTVフォーラム(一般社団法人IPTVフォーラム)[34]
  • TTC (The Telecommunication Technology Committee;一般社団法人情報通信技術委員会)[35]
海外の標準化団体:
  • CTA WAVE (The WAVE (Web Application Video Ecosystem) Project, hosted by the Consumer Technology Association (CTA))[36]
  • ETSI (European Telecommunications Standards Institute)[37]
  • ISO/IEC JTC1[38]
  • ITU-T[39]
  • OCF (Open Connectivity Foundation)[40]
  • oneM2M[41]

4.Web標準化推進の実際

第1章で触れた通り,近年,Web技術はディジタル情報通信社会の基盤となり,PCやスマートフォンによるWebページ閲覧にとどまらず,ハードウェアやOSに依存しないアプリケーション開発のプラットフォームとして,さまざまな産業領域やサービスに応用されている.著者はW3Cの4つのホスト機関(MIT,ERCIM,KeioおよびBeihang)の一つである慶應義塾大学所属の「W3Cチームコンタクト」(「チームコンタクト」については第2.4節参照)として,2005年より現在までの13年間にわたって,「Web標準の産業応用」を軸とした,さまざまな技術トピックの標準化に取り組んできた.その際,(1) W3CのWGおよびIGで取り組む「W3C国際標準化議論」と,(2)その国際標準化議論に対して,日本側からユースケース,要件,仕様化提案,実装およびテスト等を入力していくために必要な「日本側議論」のバランスおよびタイミングについて考慮しながら進めてきた(図3).

図3 W3C国際標準化議論と日本側議論のバランス

以下では,Web標準の産業応用に関して,著者がW3Cチームコンタクトとして実際に携わってきた4つの標準化対象技術トピック(Voice/Multimodal,Web&TV,Automotive/Geolocation,Web of Things)を例に解説する.その際,まず,各標準化対象技術トピックおよび標準化の取組内容について概説した上で,著者の経験を通して得た知見にもとづいて,「技術シーズ(Technical Seeds)」,「ビジネスニーズ(Business Needs)」および「国際標準化への日本からの入力(Standardization Input)」という観点で標準化の取組を振り返った上で,「成功および改善のポイント」について考察する.

4.1 Voice/Multimodal (2005年‐2017年)

技術トピック概要:

Voice/Multimodal技術は,Webアプリケーションにおいて,音声やマルチモーダル(複数のインタフェースモダリティの組み合わせ)を利用した高度なユーザインタフェースを提供するものであり,アクセシビリティおよびユーザビリティの観点から重要である.近年,スマートフォンやスマートスピーカ等を用いた音声入出力として一般的に利用されているWeb Speech API[42]の基盤となる技術であり,その基本的仕様として以下が挙げられる:

  • SSML (Speech Synthesis Markup Language;音声合成)[43]
  • SRGS (Speech Recognition Grammar Specification;音声認識)[44]
  • SCXML (State Chart XML;状態遷移管理)[45]
  • MMI Architecture (マルチモーダルアプリケーション構築のための基本アーキテクチャとアプリケーションライフサイクル制御のためのイベント定義)[46]
  • EMMA (Voice/Multimodalアプリケーションのためのデータモデル)[47]
標準化の取組:

Voice/Multimodal技術の標準化活動はVoice Browser WG (VBWG)[48]およびMultimodal Interaction WG(MMI-WG)[49]によって取り組まれていた(2015年までは,VBWGとMMI-WGで共同活動,2016‐2017年はMMI-WGのみの活動).また,その議論は,主に,メーリングリスト(毎日),電話会議(毎週),およびFace-to-Face会議(年に数回)という3種類の方法により行われていた.

成功と改善のポイント:

「技術シーズ」,「ビジネスニーズ」および「国際標準化への日本からの入力」という観点から振り返ると,Voice/Multimodal技術の標準化が積極的に取り組まれていた2000年代から2010年代初期は,すでに研究開発にもとづく一定の技術シーズがあったものの,通信インフラや携帯端末の普及が間に合っていなかったこともあり,具体的なビジネスニーズとしての訴求が弱かったと考えられる.結果として,国際標準化への入力も期待されたほど活発にはならなかったと言える(図4).

図4 Voice/Multimodal標準化議論

Voice/Multimodalの仕様策定作業の初期,2000年代においては,欧米のWG参加者が議論を主導しており,電話会議やメーリングリスト議論への日本からの積極的参加はなかった.そこで,日本からのより積極的な参加を促すべく,W3C日本会員からなるMMI-WGの日本サブグループ(「MMI-JP」と呼称)を設立し,日本語による情報共有と意見交換を行った上で,MMI-WGへの提案を行った.これにより,W3C日本会員の研究開発成果にもとづく提案をユースケースおよび要件定義としてMMI-WGで取り組む仕様書(MMI Architecture[46],EMMA[47],EmotionML[50]等)へ入力することができた.また,通常のWG議論に加えて,関連するW3Cワークショップを開催することにより,国際化対応やアクセシビリティ対応等について,W3C非会員も含む世界中の技術者,研究者から広く意見を集約し,SSML[43],SCXML[45],MMI Architecture[46],EMMA[47]等に対する貴重なユースケースおよび要件を得ることができた.

しかしながら,ユースケースおよび要件定義にもとづく具体的なWeb標準策定に対する日本側からの貢献はあまりなされず,SSML,SCXML,MMI Architecture等の基本的仕様は,欧米主導で議論が行われた後,日本からの提案を基本仕様に追加する形で進められ,日本発信の積極的な国際標準化議論を実現するには至らなかった.

これは,Voice/Multimodal技術標準化が積極的に取り組まれていた2000年代から2010年代初期においては,通信会社やメーカ等による基礎技術の研究開発は進んでいたものの,携帯端末における音声処理はまだ一般的に利用されていなかったことが背景として挙げられる.近年では,数年前のPCよりも強力な処理能力を持つスマートフォンが利用可能となるとともに,携帯ネットワーク網やWifiネットワーク網の整備が進み,音声認識技術を利用した音声入力や,音声合成を利用した音声出力がスマートフォン上のアプリケーションとして一般的に利用されており,そういった技術的環境を前提するならば,あらためて,「次世代のVoice/Multimodal技術」に関する標準化について一考する価値があるのではないかと考えられる.

4.2 Web&TV (2011年‐現在)

技術トピック概要:

Web&TV技術は,Web上での動画配信のためのプラットフォームを提供するものであり,近年では,YouTube[51]等のWeb上での動画配信に加えて,Hybridcast等の「放送・通信連携サービス」の基盤としても利用されており,その基本的仕様としてHTML5[7]およびTTML (Timed Text Markup Language)[52]が挙げられる.また,世界中のメディア配信関連事業者(放送・通信・データ配信・コンテンツ提供等)と連携しつつ,動画のストリーミング再生(MPEG-DASH)[53], [54]やコンテンツ管理(Common Encryption)[55], [56],TVとスマートフォンの同期(Presentation API[57])等の機能拡張の要件について議論がなされており,具体的な動画配信および放送連携サービスに必要とされる機能追加の基礎となるMedia Source Extensions(MSE)[58]やEncrypted Media Extensions(EME)[59]等もHTML5の拡張として利用されている☆1

標準化の取り組み:

Web&TV技術の標準化活動には,以下のようなさまざまなメディア関連のW3Cグループが協力しつつ取り組んでいる:

  • Web&TV IG[61] ☆2(Webを応用したメディア配信全般)
  • Timed Text WG[62](字幕関連)
  • HTML WG[63] ☆3(HTML5関連)
  • HTML Media Extensions WG[65](HTML5拡張)
  • Second Screen WG[66] (Second Screen同期)
  • Web Media API CG[67](メディア配信のためのWebプロファイル)

上記のうち,Web&TV IGは,関連グループ間の連携をスムーズに行うための情報共有と交通整理に取り組むとともに,関連グループに対してユースケースや要件に関する入力を行ってきている.Web&TV IGの議論は,主に,メーリングリスト(毎日),GitHub (毎日),電話会議(毎月1回),Face-to-Face会議(年に1回,TPAC (W3C技術総会)中に開催)という4種類の方法で行われている.

成功と改善のポイント:

「技術シーズ」,「ビジネスニーズ」および「国際標準化への日本からの入力」という観点から振り返ると,Web&TVに関する取り組みについては,放送,通信,家電等の関連業界各社で研究開発および実装された具体的な技術がすでに存在し,また,Hybridcast[68]という実際の放送・通信連携サービスに対するビジネスニーズも存在したため,国際標準化への入力も大変積極的に行われた(図5).

図5 Web&TV標準化議論

放送サービスは世界中のさまざまな地域で提供されていること,そのサービスの実装と展開にはさまざまな業界が関係していることから,放送業界,通信(ケーブル)業界および家電業界に属する専門家が,英国および米国に加えて日本からも選出され,合計3人の共同議長としてWeb&TV IGの運営を強力に推進してきている.また,近年,次世代のデジタルTVに向け,既存の放送モデルとは異なる新しいインタラクティブなメディア配信モデルに対して,放送,通信,家電等,さまざまな業界からのニーズが高まっていることを受けて,W3C標準化活動とは独立して日本側でも,2010年11月に,関連業界各社が参加し総務省がその活動を支援する検討会(Web and TV検討会)が設立され,Web&TV議論に関する国内での日本語による情報共有を行ってきている.さらに,Web&TV IGへの意見入力を想定した具体的な仕様検討を行うため,検討会の作業部会も設立され,ユースケースおよび要件の洗い出しが行われてきている.著者も委員として検討会および作業部会の活動に参加している.

なお,TVにおける放送と通信の融合(いわゆるコネクテッドTV)については,世界中でいくつかの異なる方式が取り組まれているが,日本ではHybridcast[68]という方式がIPTVフォーラムにて検討・標準化されている(ヨーロッパではHbbTV方式[69],米国ではATSC方式[70]が取り組まれている).そのため,Web&TV議論を進めるにあたっては,IPTVフォーラムとも連携しつつ,放送コンテンツとWeb技術の融合を実現させるために必要とされる「次世代ブラウザ」に関するユースケースと要件についての入力を得てきている.技術的な観点からいうと,Hybridcastの実行環境としてWebブラウザを利用するメリットとして,TVのハードウェアやOSの違いに縛られないアプリケーションを開発することが可能となることが挙げられる.また,アプリケーションの動作確認テストにあたって,ハードウェアやOSに依存しないWebブラウザ上のテストとして一元化することができる.さらに,既存の放送事業者以外の新しいコンテンツ提供事業者(Webコンテンツ事業者等)が参入することにより,SNS等と連携した,より有益でユーザ訴求度の高いサービスを提供することが可能になる.

上記した通り,Web&TVの活動については,おおむね成功したといってよいと考えられる. 現在,放送各社は,W3Cで策定したHybridcast関連の標準仕様を具体的な放送サービスへ反映するべく,ハードウェアおよび放送システムを実装するとともに,日本中でそのサービスが利用できるように展開するための取り組みを行っているが,その取り組みには多くの時間とコストを要する.このように,実サービスと密接にリンクした標準化については,通常のWeb技術のように継続して機能拡張議論を行っていくことは困難であり,今後,「Web技術拡張フェーズ」および「実装とサービス展開フェーズ」という二つのフェーズのタイムリーな組合せについて検討する必要がある.

4.3 Automotive/Geolocation (2013年-現在)

技術トピック概要:

Automotive技術は,Webアプリケーションにより,ハードウェアやOSに依存しない形で,いわゆる「コネクテッドカー(ネットワークに接続された自動車)」[71]を実現するためのものであり,車速やハンドル切れ角等のさまざまな自動車情報を取得することにより,車載IVI(In-Vehicle Infotainment)やカーナビ等への応用が期待されている.また,Geolocation技術は,GPSセンサや加速度センサ等の出力をもとに,位置や向きに関する情報を所得するものであり,すでにスマートフォン等で,地図サービスや経路案内サービスに広く用いられている.

標準化の取り組み:

Automotive技術の標準化活動はAutomotive WG[72]で取り組まれており,その議論は,主に,メーリングリスト(毎日),GitHub (毎日),電話会議(毎週),Face-to-Face会議(年に1回,TPAC (W3C技術総会)中に開催)という4種類の方法で行われる.なお,Geolocation技術の標準化活動はGeolocation WG[73]で取り組まれていたが,その活動は2017年5月に終了し,それ以降は,Devices and Sensors WG[74]に引き継がれている.

成功と改善のポイント:

「技術シーズ」,「ビジネスニーズ」および「国際標準化への日本からの入力」という観点から振り返ると,Automotive/Geolocationに関する取り組みについては,自動車メーカ,および関連のハードウェア,ソフトウェア各社でコネクテッドカー[71][75]の開発が進み,「Webと連携したIVI (In-vehicle Infotainment;車載インフォテインメント)」[76],[77]に関する技術が,2012年当時,すでに存在していたため,W3Cワークショップを開催することにより,業界のビジネスニーズを掘り起こすとともに,日本側でも情報交換と基礎検討のための検討会を設立した上で関連業界のニーズの明確化に取り組んだ.また,W3Cにおける標準化活動に加えて,セミナ,アイデアソン,ハッカソン等の公開イベント開催を通して,ビジネスニーズのさらなる発掘が進んだ(図6).

図6 Automotive標準化議論

W3Cにおける標準化活動としては,まず,2012年11月に,イタリアのローマにおいてW3C Web and Automotive Workshop [78]が開催され,自動車メーカ,部品メーカ,ソフトウェアデベロッパ等を含む63名の参加者により,次世代コネクテッドカーサービス,車両データ取得用API,HMI拡張,自動車データの利活用等,「Web技術のコネクテッドカーへの応用」に関する議論が行われた.その結果を踏まえて,2013年2月にW3C Automotive and Web Platform BG (Auto BG)[79]が設立され,標準化のための基礎検討が開始された.また,2015年2月にW3C Automotive WG[72]が設立され,Auto BGでの基礎検討を引き継ぐ形で,「自動車情報をWebアプリケーションで利用するためのAPI仕様案」[80],[81]および「Webアプリケーションから利用する対象となる車内情報」[82]に関する検討が開始された.

上記W3C国際標準化議論を受けて,日本側でも,2012年8月に自動車メーカ,部品メーカ,ソフトウェアデベロッパーが参加し,総務省がその活動を支援する検討会(Webとクルマに関する検討会;当初は「勉強会」として設立)が設立され,Automotive議論に関する国内での日本語による情報共有と検討を行うとともに,仕様案に関する具体的な議論を行う作業部会が設立され,ユースケースおよび要件の洗い出しが行われてきている.著者も検討会の委員および作業部会の座長として,この活動に参加している.また,2014年12月には,W3C慶應ホスト主催の「Webと車のセミナ」[83]が開催され,(1) Auto BGの活動状況とWG設立の紹介,および(2)なぜW3Cに参加しているか(なぜW3CでWebと車の標準化に取り組んでいるか)に関する議論が行われた.さらに,2015年3月には,自動車情報に関するAPI仕様案が議論されている状況を受けて,「Webとクルマに関する検討会」参加者からなるアイデアソン実行委員会により,アイデアソン[84]が開催され,「車載カメラで取得される映像の活用」,「人とクルマに優しいデータ教則アプリ」,「ひたすら赤信号を避け続ける経路案内サービス」等,API仕様案を実際に車に応用する際のアイディアについて議論がなされた.さらに,単にアイディアを議論するのみならず,Webアプリケーション開発を実際に体験するハッカソン[85],[86],[87]が,やはり「Webとクルマに関する検討会」参加者からなるハッカソン実行委員会により,2016‐2018年に渡って開催され,2日間の開催日程の間に,実際にWebアプリケーションを開発するとともに,その有用性について評価が行われた.この際,開発環境として,API仕様案にもとづくAPIのプロトタイプ実装に加えて,以下のような情報を同期させて提供するシステムが提供された:

  • 実際に自動車を走行させて取得した各種車内データ
  • および,フロントガラス前方のビデオ映像

上記した通り,Automotive/Geolocationの活動については,欧米におけるコネクテッドカー関連ビジネスの出現とタイミングを同じくしつつ,日本側でも2012年から,ビジネスニーズ,ユースケースおよび要件に関する検討を開始することができた.

しかしながら,Automotive WGに欧米の自動車メーカが新規参入するタイミングで仕様策定の方向転換が発生し,標準化対象トピックが,当初予定の「自動車情報をWebアプリケーションで利用するためのAPI仕様案」[80], [81]および「Webアプリケーションから利用する対象となる車内情報」[82]から,「車内情報を自動車サーバからWebSocket経由で取得する低レベルAPI」[88]および「RESTインタフェースとWebSocketを併用したAPI」[89]に変更となるとともに,「Webアプリケーションから利用する対象となる車内情報」については,自動車情報の標準化団体であるGENIVI[90]のデータ定義[91]を参照することとなった.そのため,「日本側で検討してきた,API仕様案や車内情報定義」を最終的なWeb標準としてW3C勧告化することはできなかった.現在,Automotiveに関するW3C国際標準化議論は,Jaguar Land Rover,Volkswagen,Volvo等,欧州自動車メーカが主導しており,自動車メーカを含め,我が国からのより積極的な標準化のための体制づくりが望まれる.

4.4 Web of Things(2015年-現在)

技術トピック概要:

Web of Things技術は,既存のさまざまなIoT(Internet of Things)フレームワークを相互接続することを目的としており,(1)WebのID(URI)とメタデータ(Thing Description)[92],(2)それらを制御するためのAPI (ScriptingAPI)[93],(3)さまざまなIoTフレームワークで利用されるプロトコルやデータフォーマットのWoTメタデータへの変換方式を定義するBinding Templates[94]により構成される.

標準化の取り組み:

Web of Things技術の標準化活動はWeb of Things WG(WoT-WG)[95]およびWeb of Things IG (WoT IG)[96]により取り組まれている.その議論は,主に,メーリングリスト(毎日),GitHub (毎日),電話会議(毎週),およびFace-to-Face会議(年に数回)という4種類の方法により行われている.

成功と課題のポイント:

「技術シーズ」,「ビジネスニーズ」および「国際標準化への日本からの入力」という観点から振り返ると,Web of Thingsに関する取り組みについては,「スマートホーム(IoT技術のネットワーク家電への応用)」等,すでにさまざまな技術開発と,その事業化が進んでおり,それらにもとづいて,「国際標準化への日本からの入力」も円滑に行われてきている(図7).また,Web of Thingsの標準化にあたっては,通常の仕様書策定作業に加えて,Face-to-Face会議開催ごとに,いわゆるPoC(Proof-of-Concept)として相互接続デモ実験(「PlugFest」[97]と呼称)が行われており,仕様書ドラフトにもとづく動作の検証が進んでいる.このため,今後のCR化/PR化において必要となる,「仕様にもとづく実装」や「テスト作成」の作業がスムーズにいくものと期待されている.なお,仕様検討にあたっては,oneM2M[41],OCF[40],ETSI[37]等,関連する他の標準化団体とも連携しつつ議論を進めており,今後も継続して,他団体の規格との相互接続性について確認を進めていく予定である.

図7 Web of Things標準化議論

日本側での活動としては,Web of Things技術は将来的に「IoTのサイロ化」(さまざまなIoTフレームワークが乱立し,相互接続が難しい問題)を解決するための技術として期待されているため,図8に示す通り,W3C日本会員からなるWoT-WGの日本サブグループ(「WoT-JP」と呼称)を設立し,日本語による情報共有と意見交換を行った上で,WoT-WGにおけるW3C国際標準化議論に対して,積極的な入力を継続している.具体的には,W3C国際標準化議論へ取り組むにあたって,毎週開催される電話会議に先立って,日本側(JP Side)でWoT-JP会合を開催することにより,改善提案や各種検討結果報告を国際標準化(Global Standardization)のための電話会議やGitHub議論に対してタイムリーに入力していくことが可能となった.そして,日々のメール議論(Mailing List),電話会議(Telconf)やGitHub議論の結果を受けて,年に数回開催されるFace-to-Face会議(F2F Meeting)や接続デモ実験(PlugFest)への入力もスムーズに行うことができるようになっている.また,必要に応じて,メール議論,電話会議,GitHub議論,Face-to-Face会議(およびPlugFest)から,日本側議論へのフィードバックが行われ,翌週の国際標準化議論のための準備にもスムーズに取り組むことができるようになった.

図8 グローバル議論と日本サブグループ

ここまでで述べたように,Web標準化の産業応用を議論する上では,技術シーズとビジネスニーズのバランスが取れていることが重要であり,このためには,関連するW3Cワークショップの開催や,関連業界からの議論への参画などを通して広く意見を集約しビジネスニーズを発掘することが成功のポイントとなる.さらに,日本からの意見をより積極的に国際標準に盛り込んでいくためには,日本語による情報共有や議論の場を設けることに加え,セミナやアイデアソン等のイベント開催を通して標準化およびその応用に対する関係各位(標準化活動参加者,関係省庁,Webコミュニティ参加者等)の関心を高めることもポイントである.

なお,ISO[98]やITU-T[39]等のデ・ジュール標準化団体が,比較的,国単位での議論となるのと比較して,フォーラム標準化団体であるW3Cでは,標準化ワーキンググループに参加する担当者による個人ベース(もしくは企業ベース)の議論が標準化の方向性を決定することが多いといえる.したがって,今後,日本からの情報発信と入力を,より効果的に推進するために,「Web国際標準化に必要な人材とその育成」について継続的に検討していく必要がある.

5.Web国際標準化に必要な人材とその育成

Web国際標準化活動は,各議論グループの議長,議長以外のグループ参加者,およびW3Cチームコンタクトという,グループ参加者全体で協力し,作業を分担した上で取り組んでいくべきものである.今後,日本発信のWeb国際標準化をより強力に推進していくにあたっては,各議論グループにおける標準化対象技術トピックごとに,上記のようなテーマ(特に,議論グループ設立,および仕様策定作業)に対して,日本からの,より積極的参加が必要であり,そのために,「Web国際標準化に必要な人材とその育成」について検討していく必要があると考えられる.そこで本章では,第4章の内容を踏まえて,まず,「Web国際標準化に必要な人材に望まれる資質」について議論した上で,当面の課題である人材不足の問題を解消するための対策として,「チームによる国際標準化活動への組織的取り組み」および「参加者の習熟度に応じたきめ細やかな支援」について考察する.

5.1 Web国際標準化に必要な人材に望まれる資質

W3CにおけるWeb技術標準化議論を含め,国際標準化の議論は基本的に英語で行われるため,英語で議論する能力が必要である.また,標準化対象となる技術トピックに関する知識,および標準化議論の中で,議論の相手を説得し,自らの提案を標準に組み込んでいくための交渉力も必要とされる.さらに,その際には,具体的な応用事例(Use Case)や要件(Requirement)について丁寧に説明することが重要なため,辛抱強く議論を継続する忍耐力も必要だと考えられる(図9).

図9 国際標準化に必要な資質

5.2 チームによる国際標準化活動への組織的取り組み

上記した通り,国際標準化を強力かつ円滑に推進するためには,「英語力」,「技術力」,「交渉力」および「継続的に活動する忍耐力」等が必要であると考えられる.ただし,これらの「国際標準化に必要な資質」は,1人の担当者ですべてをまかなう必要はなく,W3C参加企業単位で,あるいは第4章でみた日本サブグループ単位でチームを構成した上で,チーム全体として担保できればよいと考えられる.また,さまざまな技術トピックの詳細についても,将来的に,より多様な産業領域へWeb技術が応用されるであろうことを考慮すると,1人ですべての技術を把握するのは不可能と考えられるため,やはり,「チーム全体で担保する」という戦略が有効であると考えられる.

そのためには,以下のような取り組みで必要な役割を決定・分担するとともに,チーム全体で標準化の進捗を管理していく必要があると考えられる.

  • (1)まず,「国際標準化に必要な資質」をいくつかのレベルに分けて整理する.たとえば,図10に示すように,以下の3レベルに分けて整理する:
    • OSレベル(OS level):
    • コンピュータソフトのOSのように基盤になるレベル
    • 技術力(Technology),英語力(English),交渉力(Negotiation),忍耐力(Patience),組織化(Organization)等
    • ミドルウェアレベル(Middleware level):
    • ミドルウェアのような中間レベル
    • HTML5,CSS,Web API,Security/Privacy,Accessibility/Voice/Multimodal,Internationalization,WoT等
    • アプリケーションレベル(Application level):
    • アプリケーションのように応用事例に依存するレベル
    • TV,Digital Publishing,Automotive,Game,Commerce等
    図10 国際標準化に必要な資質─レベル分けして整理
  • (2)対象となる標準化トピックに応じて,対処が必要な役割を見極める.
  • (3)各参加者の適性(得意分野)に応じて対処すべき役割の分担を決定する.
  • (4)定期的に,全体的な構成と進捗を管理していく.

筆者の経験にもとづくと,第4章で述べた通り,上記のような「チーム単位での人材育成」のための枠組みとしては,「W3C日本サブグループ」を中心に,必要に応じて「各種検討会」および「他標準団体とのリエゾン」等の取り組みを柔軟に組み合わせるのがよいと考えられる.また,その際,チーム内での役割分担や,チーム全体としての進捗管理に対して,よりシステマチックに取り組んでいくことができれば,日本からの情報発信と提案をより強力に推進できるのではないかと考えられる.

5.3 参加者の習熟度に応じたきめ細やかな支援

第3章で触れた通り,W3CにおけるWeb技術国際標準化にあたっては,各議論グループにおける標準化対象トピックごとに,以下のような活動に取り組んでいく必要がある.

  • W3Cワークショップ企画運営
  • 議論グループ設立
  • 仕様策定作業
  • 他標準団体とのリエゾン

また,第4章の「成功と改善のポイント」で振り返ったとおり,「国際標準化への日本からの入力」にとって有効と考えられる各種検討会やWeb標準コミュニティ等での啓蒙についても,業界ニーズ,標準化対象技術,標準仕様の実装状況等に応じて適宜取り入れていくべきであると考えられる.

そのためには,国際標準化の各参加者の習熟度に応じたきめ細やかな支援が重要になると考えられる.たとえば,「今まで標準化の経験がない」もしくは「国内の標準化の経験はあるが国際標準化の経験がない」という参加者に対しては,「初めての国際標準化」に取り組みやすくなるよう,以下のような比較的参加しやすい取り組みから経験を積ませることが重要である.

  • W3Cワークショップ(公開議論)
  • 他標準団体とのリエゾン(他団体からの入力)
  • 各種検討会(情報共有)
  • Web標準コミュニティ等での啓蒙(ハッカソン等)

また,W3CのWeb国際標準化議論に参加し,具体的な議論をしていく参加者に対しては,以下の3つの取り組みを通して,より積極的なグローバル議論への参加を促すことが重要である.

  • 仕様策定作業(グローバル議論と日本からの発信)
  • 他標準団体とのリエゾン(連携とフィードバック)
  • 各種検討会(業界ニーズの吸い上げ)

6.おわりに

本稿では,近年,Webがディジタル情報通信社会の基盤となり,さまざまな産業領域やサービスに応用されている状況を踏まえ,まず,Web技術と,W3C(World Wide Web Consortium)におけるその国際標準化について概説した上で,近年ますます広がりを見せるWeb技術のさまざまな産業応用について,いくつかの代表的な事例を挙げつつ,その標準化作業が具体的にどのように実践されてきたのかについて説明した.その際,W3Cの日本事務局スタッフとして,2005年よりWeb国際標準化に携わってきた著者の経験を通して得た知見として,「Web標準策定のための成功および改善のポイント」について述べた.その上で,今後,「日本発信のWeb標準策定」をより一層強力に推進するために必要と考えられる人材とその育成について考察した.

インターネットおよびWebを活用したICT技術の発展は,世界中の人々の生活向上にとって,近年,ますます重要になっている.そして,国際的技術標準化は,先進的な技術環境を世界中のあらゆる人々に適切なタイミングで提供するために大変重要な役割を担っている.本稿が国際標準化活動に取り組む皆様方の活動に対して,何らかの形で参考になれば幸いである.

参考文献
脚注
  • ☆1 厳密に言うと,HTML5[59] はMSEおよびEME等の機能拡張に対応しておらず,これらの機能拡張に対応しているのはHTML5.1[60] 以降である.
  • ☆2 2017年6月にMedia&Entertainment IG[61] として改組の上,議論継続中.
  • ☆3 2015年10月にWeb Platform WG[64] として改組の上,議論継続中.
芦村和幸(正会員)ashimura@w3.org

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任准教授.1967年生.1992年京都大学理学部数学科卒業.2005年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士後期課程単位取得退学.1992年,NTTソフトウェア(株)入社.(株)ATR音声翻訳通信研究所,(株)アルカディア,JST/CREST「表現豊かな発話音声のコンピュータ処理」研究員を経て,2005年よりW3C(World Wide Web Consortium)にてWeb技術の産業応用に関する各種国際標準化活動(音声・マルチモーダル,Web&TV,Automotive,NFC,Geolocation等)に従事.2018年現在,Web of Things(WoT;WebとIoT),Verifiable ClaimsおよびMedia & Entertainmentに関するWeb標準化を担当.W3C Project Specialist兼務.博士(工学).2018年度情報通信技術賞TTC会長表彰「Web技術における標準化及び普及にかかわる功績」受賞. 電子情報通信学会,日本音響学会各会員.

採録決定:2018年11月7日
編集担当:飯村 結香子(NTT ソフトウェアイノベーションセンタ)