デジタルプラクティス Vol.10 No.1(Jan. 2019)

システムおよびソフトウェア品質の国際的な基準の確立─日本主導の国際標準化への取組み─

込山 俊博1  東 基衞2

1ISO/IEC JTC 1/SC 7/WG 6 Convener  2ISO/IEC 25000 SQuaRE Project Prime Editor 

ISO/IEC JTC 1 SC 7/WG 6(Software Product and System Quality)では,筆者らがConvener(コンビーナ)を歴任し,日本が主導して,システムおよびソフトウェアの品質要求および評価の国際標準化に取り組んできた.本稿では最初に,同領域における国際標準化の意義と経緯を説明する.次に,SC 7/WG 6で策定しているISO/IEC 25000 SQuaRE(Systems and software Quality Requirements and Evaluation)シリーズの体系と同シリーズを構成する国際規格の概要を説明する.最後に.システムおよびソフトウェア品質に関する国際標準化を日本が主導するために採った体制面,運営面,技術面の戦略を述べる.

1.はじめに

ISO/IEC JTC 1 SC 7/WG 6☆1(Software Product and System Quality)では,その前身のISO/TC 97でのソフトウェア工学のSC設置の段階から一貫して,日本が主導し,ソフトウェア品質およびソフトウェアを中心とするシステム品質に関する国際標準化を進めている.

インターネットショッピング,サプライチェーン マネジメントシステムなどでは国や企業の境を越えてシステムが接続され,またIoTではものとものとが繋がり,それらの間で情報交換が日常的に行われる今日,システムおよびソフトウェアの品質に関する国際的な標準を制定し,適合を促進することは,利用者の安全・安心,開発するシステムの互換性・相互接続性の確保などの面できわめて重要である.

制定された国際規格は,認証制度などを通して,域内での流通を許容する製品・サービスの認可基準,2者間での受発注の要件となるケースもある.このような適用がなされた場合に,日本,国内業界,国内利用者が不利益を被らないよう,国際標準化活動に戦略的に取り組む必要がある.新規プロジェクトの設置,規定内容の適否等につき,国際会議での審議および投票を通して,日本の意見を表明し,より多くの国の賛同を得ることが重要である.

本稿では,システムおよびソフトウェア品質の標準化の意義,同領域の国際標準化を行うISO/IEC JTC 1 SC 7/WG 6設置の経緯,最新国際規格の概要を説明した上で,その背景にある戦略的な取組みを述べる.

戦略に関して,体制面では,国際提案を行う際に技術的な裏付けを確保するための関連機関との連携について述べる.運営面では,WG Convener☆2およびSQuaREシリーズ全体の一体感を維持するためのSQuaRE Project Prime Editor☆3の獲得と維持,ならびにスムーズな運営に向けた上位組織のキーパーソンとの人脈形成などについて述べる.技術面では,関連する標準化組織のSCやWGとの整合に関し,“WG 6内>SC 7内>SC 7外”との調整・対処の優先度を明確にした上での対応について述べる.また,国内委員会での日本の専門家および産業界の知識および経験を反映した実用性の高い原案および対案の作成について述べる.

2.システムおよびソフトウェア品質の国際標準化の意義と経緯

ISO/TC 97/SC 7 からISO/IEC JTC 1/SC 7へ

第1回ISO/TC 97/SC 7国際会議は, 1974年12月にフランスのパリで開催された.

第2回ISO/TC 97/SC 7国際会議は1976年4月に当時の西ドイツの西ベルリンで開催された.筆者(東)は,この会議に初めて日本代表委員として参加した.この当時はSC 7は情報処理図記号を担当しており,流れ図記号,システム構成図記号,決定表などを担当していた.それ以来2014年末に国際SC 7委員およびSC 7/WG 6 Convenerを退任するまで,すべてのSC 7およびSC 7/WG 6国際会議に参加し貢献した.2015年からは,筆者(込山)がSC 7/WG 6 Convenerを引き継ぎ,今日に至っている.

図記号中心から,ソフトウェア工学へ

筆者(東)は,当時のSC 7の担当テーマである情報処理図記号が,ソフトウェア工学の活発化してきた時期にあまりに時代遅れであることを痛感し,当時の幹事国カナダのChairmanのR. Turnerに提案して信頼を得,その後SC 7のタイトルをSoftware Engineering に変更することが実現した.

ソフトウェア品質モデルのプロジェクト開始

それは,1985年2月に行われたSC 7/WG 3ベルリン会議から始まった.同会議において,日本は,日本電気株式会社(NEC)のソフトウェア生産技術研究所が,当時話題となっていたB. Boehm の品質モデル,およびRome Air Development CenterのMaCall等による品質モデル,および日本科学技術連盟の品質展開などを使用して実験を行った経験をもとに,ソフトウェア品質モデルの国際標準を作成する重要性を強調して,提案を行った.会期中,日本ですでに広く用いられていたKJ法を参考に用いて,品質モデルをゼロから作成する作業を提案し,実施した.その結果は,期待以上に早く参加者の合意を得てまとまり,ISO/IEC 9126 として国際標準に進めることとなった.

SC 7/WG 6の創設

1989年11月にハンガリーのブダペストで行われたSC 7/WG 3の国際会議では,作業を効率よく進めるためにSC 7/WG 3のConvener のP. Vauldener がWG 3を3Sub-Group に分割することを提案し,即時に実施された.筆者(東)は,品質モデル関係を担当するSG 2の主査として任命された.ちなみに,SG 3には村上憲稔(就任時:富士通(株))がアサインされた.

さらに1991年6月にスウェーデンのストックホルムで開催されたSC 7会議でSC 7/WG 3の各SGをWGとすることが決定され,SC 7/WG 3/SG 1はそのままSC 7/WG 3としConvenerにはP. Vauldneがアサインされた.また,SC 7/WG 3/SG 2をSC 7/WG 6として筆者(東)がConvenerに,またSC 7/WG 3/SG 3をSC 7/WG 7とすることが決定された.この年にはISO/IEC 9126:1991 品質モデルが出版された.

第1回SC 7/WG 6国際会議

第1回SC 7/WG 6 国際会議は,1991年11月に,イタリアテレコム社と同社のG. Alartの好意で,イタリアのトリノで開催された.これはイタリアが主催するAQuiS(Aquireing Quaility in Software)国際会議の基調講演やプログラム委員会に筆者(東)が招待され,関係者に良い印象を残すことができたことも影響していると考えられる.それ以来イタリアとの良好な関係が続いている.

ISO/IEC 9126ソフトウェア品質モデル

ISO/IEC 9126ソフトウェア品質モデルは,1991年に出版された.ISO/IEC 9126ソフトウェア品質モデルの成功により,それを利用しやすくするために,SC 7/WG 6 Convenerのリーダーシップのもとで,ソフトウェア製品の品質に関するISO/IEC 9126シリーズおよび,品質を評価するためのISO/IEC 14598シリーズの2シリーズ化を検討することとなった.

ISO/IEC 9126シリーズは,次の4点から構成される.

  • ISO/IEC 9126-1:2001 Quality model
  • ISO/IEC 9126-2:2003 External metrics
  • ISO/IEC 9126-3:2003 Internal metrics
  • ISO/IEC 9126-4:2004 Quality in use metrics

ISO/IEC 14598シリーズは,次の6点から構成される.

  • ISO/IEC 14598-1:1999 General overview
  • ISO/IEC 14598-2:2000 Planning and management
  • ISO/IEC 14598-3:2000 Process for developers
  • ISO/IEC 14598-4:1999 Process for acquirers
  • ISO/IEC 14598-5:1998 Process for evaluators
  • ISO/IEC 14598-6:2001 Documentation of evaluation modules
ISO/IEC 25000 SQuaREシリーズ

ISO/IEC 9126およびISO/IEC 14598の両シリーズに収束の目途が付いた1999年の11月に金沢で開催されたISO/IEC JTC 1/SC 7/WG 6国際会議で,日本は,両シリーズを統合して,覚えやすいSQuaRE(Software Quality Requirements and Evaluation)シリーズという名称を付与することを提案するとともに,新しいソフトウェアおよびシステム品質の国際標準SQuaREシリーズの体系を提示して,参加者全員の賛成を得た.

この新しいSQuaRE シリーズは翌2000年5月にスペインのマドリッドで開催された,JTC 1/SC 7国際会議に提案し,反対はなく,即時に承認された.

この提案はISO の事務局にも好感を持って受け入れられ,ISO/IEC 25000 から25099までの番号をSQuaRE シリーズに割り当てるので自由に使用してよいという,当時としては異例の決断が示された.

その後制定されたISO/IEC 25000 SQuaREシリーズについては,次章で説明する.

3.ISO/IEC 25000 SQuaREシリーズの概要

図1に示す通り,ISO/IEC 25000 SQuaREシリーズ(JIS X 25000 SQuaRE シリーズ)は,6つの部門(Division)から構成される.

各部門の概要は次の通りである.後述するように,日本は各部門のすべてにEditorとして参加し,リーダーシップをとって推進している.

図1 SQuaREの体系
品質管理部門

システム・ソフトウェアのライフサイクルの中で,SQuaREで規定する品質モデル,品質測定量,プロセスをどの局面でどのように活用して品質を管理するかをガイドする.また,シリーズ全体を通して用いる用語や基本概念を規定する.

現在SQuaREでは,SQuaRE適用の手引きと組織的な品質定量管理推進の手引きを提供している.

品質モデル部門

評価対象や評価局面に応じて使い分けられる複数の品質モデルを規定する.品質モデルは,品質の概念を品質(副)特性と呼ばれる下位概念に展開し,各特性を定義する.

現在SQuaREでは,システムおよびソフトウェア製品,データ,ITサービスの3つの評価対象について,品質要求定義と評価の視点を与える品質モデルを規定している.また,システムおよびソフトウェア製品とITサービスについては,提供側の視点からのモデルと利用者側の視点からのモデルを提供している.

品質測定部門

品質特性を測定するために用いる品質測定量(quality measure)と測定方法(measurement method)を規定する.また,品質測定量を算出するのに用いる品質測定量要素(QME:Quality Measure Element)と測定方法を規定する.

現在SQuaREでは,システムおよびソフトウェア製品,データおよび利用者視点の品質モデルに対応した品質測定量と測定方法,ならびにシステムおよびソフトウェア製品の品質測定量を構成するQMEと測定方法を規定している.ITサービスの品質測定量と測定方法はTS策定中であり,発行後適用評価を経てIS化を図る予定である.

品質要求部門

品質モデルと品質測定量を用いて品質要求事項を仕様化するプロセスを規定する.品質評価は,このプロセスで仕様化した品質要求事項に基づいて実施される.

現在SQuaREでは,ソフトウェアの品質要求定義を規定している.さらにシステム品質要求,データ品質要求,ITサービス品質要求へのスコープの拡張を考慮した改訂が進められている.

品質評価部門

品質モデルと品質測定量を用いた品質評価プロセスを規定する.どの品質特性にどの品質測定量を適用し,どのような基準で評価するかは,仕様化された品質要求事項に基づいて検討する.

現在SQuaREでは,品質評価の基本要求事項,開発者,取得者,評価者の役割に応じた実践ガイドおよび評価ノウハウを蓄積するための枠組みを規定している.

拡張部門

上記5つの部門で規定したシステムおよびソフトウェア製品の品質要求および評価に関する共通的,汎用的な事項を,特定のコンテキストで実践するための補完的な要求事項を規定するものである.

現在SQuaREでは,拡張部門で,既製ソフトウェア製品(RUSP:Ready to Use Software Product)の品質認証に関する規定,およびCIF(Common Industry Format for usability)と呼ばれる使用性評価のための各種様式の規定を提供している.CIFの国際規格制定は,ISO TC 159/SC 4 主導でISO/IEC JTC 1 SC 7との合同WG(JWG 28)で進めており,日本はJWG 28の幹事を務めている.

 

表1に,上記の各部門に分類される国際規格およびJIS規格の一覧を示す.

表1 SQuaRE関連の国際規格および対応するJIS規格の一覧

上記SQuaREシリーズの制定における技術面での日本の貢献は大きく,表2の通り,WG発足以来,継続的に主要プロジェクトのProejct EditorおよびCo-Editorを獲得し,主導している.

表2 日本のProject EditorおよびCo-Editor引き受け状況

4.標準化推進の戦略と取組み

ISO/IEC JTC 1 SC 7(Software and Systems Engineering)では,社会や顧客のニーズを充足する,質の高いシステムおよびソフトウェアを効率的に開発し,運用・保守するための,プロセス,ツール,技術の国際標準化を進めている.筆者らが担当するWG 6を含め,SC 7で制定している規格で扱うのは,特定製品の実現・実装にかかわるものではなく,多種多様なシステムおよびソフトウェアに幅広く適用されるものであり,その影響は大きい.

国際規格制定の意義としては,一般に,互換性・相互接続性の確保,市場の拡大,低コスト化・調達の容易化,技術の普及,品質・安全の確保などがあげられる.インターネットショッピング,サプライチェーン マネジメントシステムなどでは国や企業の境を越えてシステムが接続され,またIoTではものとものとが繋がり,それらの間で情報交換が日常的に行われる今日,システムおよびソフトウェアの品質に関する国際的な標準が存在し,それに適合していることは,上記意義のいずれの側面からも,きわめて重要である.今後特に重視しなければならないのは,ITシステムの品質不良が,一般市民の生活,安全,財産等への影響を最小限にすることであり,このために現在「利用時の品質」の大幅な改定を検討している.

制定された国際規格は,認証制度などを通して,域内での流通を許容する製品・サービスの認可基準,2者間での受発注の要件となるケースもある.このような適用がなされた場合にも,自らの不利益を被らないよう,国際標準化活動に戦略的に取り組むことが重要である.自らが不利となる規格は制定させず,有利となる規格を制定に導くことが肝要である.

筆者らは,担当領域における国際標準化の影響,意義,必要性,利害を上記のように理解し,システムおよびソフトウェアの品質にかかわる国際規格の制定に携わってきた.Convenerとして,国際標準化のルール(Directives)に則った公平性やコンセンサスを主眼に置き,各国の専門家の継続的かつ積極的な参画を促し,日本で培った優れた技術やコンセプトを最大限活用して,質の高い国際規格の制定を推進してきた.以下,その過程で,筆者らが重視してきた事項を,体制面,運営面,技術面の3つの側面から整理し,国際標準化の戦略として述べる.

4.1 体制面の戦略

体制面では,以下に示すように,日本規格協会のINSTAC,経済産業省のメトリクス高度化プロジェクト,IPAのRISE委託研究など政府およびその関連機関のイニシャティブおよびご支援によることが大きい.

INSTACの創設と成果

1986年から通商産業省工業技術院の委託により,日本規格協会に情報技術標準化研究センター(INSTAC)が設置された.INSTACは当時のISO/TC 97/SC 7 の活動に対応する4つの作業委員会(WG)から構成された.

委員長およびWG 1主査は菅忠義(就任時:学習院大学),WG 2主査は金子英一(就任時:(株)東芝),WG 3主査は山本喜一(就任時:慶應義塾大学),WG 4主査は東基衞(就任時:NEC,翌1987年より早稲田大学)が任命された.WG 4は,ソフトウェアの生産性および品質評価を担当することになった.

この成果は毎年「ソフトウェア開発・システムの文書化標準化調査研究報告書」として発行され,ISO/SC 7の委員を兼ねる委員を通じてSC 7の作業にインプットとして参考に供された.

特にWG 4の成果をもとに,1995年に日本規格協会から出版された「ソフトウェア品質評価ガイドブック」(東基衞編)は,ISO/IEC 9126シリーズ,ISO/IEC 14598 シリーズ,およびSQuaRE シリーズの検討のベースとなった.

INSTACの活動は,2010年にINSTACが廃止されるまで続いた.INSTACの成果が直接ISO/IEC25000 SQuaRE シリーズにまで反映され大きく貢献しただけに,その廃止は惜しまれる.

METIメトリクス高度化のプロジェクト

2009年から2011年,経済産業省(METI)の委託により,メトリクス高度化プロジェクトが三菱総合研究所に設置された.

このプロジェクトは,プロセスメトリクスとプロダクトメトリクスの2グループで構成された.

このプロジェクトの成果は,英訳して,2011年3月にWWW上で公開され,おりしもSC 7/WG 6で検討中のSQuaREシリーズのISO/IEC 2502nシステムおよびソフトウェア製品の品質測定の検討に使用された,有益な情報を提供することができた.

IPA RISE委託研究

2015年から2017年,情報処理推進機構(IPA)から早稲田大学(代表:鷲崎弘宣)がソフトウェア工学分野の先導的研究支援事業(RISE)の委託を受け,筆者らも参画して「測定評価と分析によるソフトウェア製品品質の実態定量化および総合的品質評価枠組みの確立」と題するSQuaREの実証研究を実施した.同研究では,パッケージソフトウェアやクラウドアプリケーションなどのソフトウェア製品を対象に,SQuaREに基づいて21の実ソフトウェア製品の品質を測定することで,品質特性別の傾向,品質特性間の関係などを分析した.この成果は,品質ベンチマークWSQB17: Waseda Software Quality Benchmark [8]として公開されている.

4.2 運営面の戦略

人脈の形成

WGの運営と円滑な国際標準作成で最も重要なのは,良い人間関係の構築である.これには,多くの国際会議での講演,プログラム委員ほか各種委員の経験など国際的な知名度が非常に有効である.これらの実績がアメリカ,英国,イタリア,チェコなど各国の委員の信頼を得る結果となり,円滑な議事,プロジェクトの推進に役立ってきた.

また,上部委員会であるSC 7のChairperson☆4およびSecretary☆5との人間関係も円滑なWGの運営に不可欠である.国際会議に継続的に参加して交流を深め,WG Convener, WG Secretary, Editorなど引き受けた役割を誠実に遂行し信頼を獲得することが重要である.SC 7発足以来,Chairperson はR. Turner からP. Vauldner, さらにF. Coallier に引き継がれていったが,筆者らとのパートナーとしての最良の関係は続いてきた.2003年には筆者(東)はSC 7のChairpersonのF. Coallier,SecretaryのW. Surynが在籍していたカナダ・モントリオールの工科大学に客員教授として在籍し,さらに信頼関係を深めている.

ポジションの獲得

WG内での審議を主導する上では,参加各国のNB☆6の支持(SCに上申した決議事項に対する承認)を得て,然るべきポジションを獲得することが有効である.

1991年にSC 7/WG 6が設立されて以来Convenerを東,Secretaryを込山が務めてきて,2014末に東が退任し,Convenerを込山が引き継ぎ,新たにSecretaryに坂本健一((株)NTTデータ)が就任し,現在に至っている.

技術面でも,Convener退任後も東はSQuaRE Project Prime Editorとして貢献を続けている.また,SQuaREシリーズのすべての文書に日本のWG 6のメンバがProject EditorまたはCo-Editorとして参加し貢献している.

担務遂行の支援

上記,ポジション獲得に触れたが,任命された日本のメンバは,国際規格の制定を主務としているわけではなく,作業を支援するための仕組みが求められる.

体制面では,一般社団法人情報処理学会・情報規格調査会に,SC 7のWGの編成に合わせたミラーコミッティが設置されている.国内WG 6には,会員組織から20人の専門家が参画し,原案作成や内容精査に当たっている.また,国内委員会開催,国際会議招致など,SCやWGの運営に関しては,同調査会のスタッフが支援している.

WG 6の運営においては,プロジェクトごとに小グループを形成する,各プロジェクトの国際対応と国内作業とりまとめを別メンバが分担するなどの工夫をすることで,メンバ間での負荷分散を図っている.

国際規格の普及

日本主導で策定した国際規格もそれらが認知され利用されなければ意味はない.WG 6では,実務の場での活用を促進すべく,規格策定にかかわる国内外のメンバが連携して,次にあげるような活動を実施している.

  • -書籍の発行
  • -Journalへの寄稿
  • -学会,セミナー,シンポジウム等での講演
  • -対応国内規格(翻訳JIS)の発行
  • -認証制度の設置,運営の支援

これらの活動によって,ISO/IEC 25000 SQuaREシリーズはSC 7で策定した国際規格の中でも参照率が高い国際規格の1つとなっている.

4.3 技術面の戦略

一貫性と整合性の維持

国際規格の制定では,担当WGで策定した規格間の一貫性を担保することに加え,関連する他のWGで策定した規格との整合性に配慮することが求められる.

WG 6では,システムおよびソフトウェアの品質の要求定義と評価の標準化に取り組んでいるが,SC 7内には,ドキュメンテーション,プロセス管理,アーキテクチャなどシステムおよびソフトウェア技術に関連して,異なる側面から標準化に取り組んでいるWGがある.その上位のJTC 1,ISO,IECに視点を移すとさらに多様なトピックで標準化に取り組んでいるSC,WGが存在する.

規格を制定する際,WGごとにスコープが排他的でそこで規定した方式,概念,用語などが他に影響しなければWGで規定した規格群の一貫性のみに注力できるが,実際には領域が重複するなどの理由で,他のSCやWGで規定された事項との整合性が求められるケースがある.他方,それらとの整合性に過度に固執するとWGで策定した規格群の一貫性を損なう恐れもある.

WG 6では,WGで策定した規格群の一貫性を最も重視する方針を立て,SQuaRE関連のプロジェクトにおいては,WG 6内の他規格との整合性,SC 7内の他規格との整合性,SC 7外の規格との整合性,という順序で,優先順位を明確にして国際標準化を進めている.

実用性の重視

国際規格は,実務での有効性が必要不可欠である.

WG 6には,産学官から,さまざまな職種の人々が参画し,入れ替わりもある.したがって,実証が十分でない研究ベースの提案,過去の審議の経緯を度外視した直観的な提案がなされるケースがままある.

これらの提案に対しては,国際規格と研究論文との違い,審議の経緯を繰り返し説明して,提案者の理解を求め,WGメンバ間でのコンセンサスを維持することが欠かせない.

日本から新規作業項目を提案したり,作業原案を策定し提示する際には,実務での適用結果や産業界や利用者からの意見を取り込んで行っている.

具体的には,情報処理学会・情報規格調査会に設置されたSC 7/WG 6小委員会を月次で開催し,実務経験の豊富な委員の意見を取り込んで,作業原案の作成や投票に付された国際規格原案への意見表明を行っている.調査研究の側面では,4.1節に述べた体制を活用して,将来的な技術動向を見越して産学官連携で実証研究を進め,その成果を英訳して国際標準化会議で紹介して,国際規格への取り込みを行っている.

実証ベースの成果ということで,日本からの提案に対する期待や評価は高く,国際的に高く評価されている.

5.おわりに

本稿では,SC 7/WG 6が取り組んでいるシステムおよびソフトウェアの品質要求および評価の国際標準化について,その経緯,ならびに同WGで制定した国際規格の概要を説明した.また,日本,国内業界,国内利用者が不利益を被らないよう,不利となる規格は制定させず,有利となる規格を制定に導くべく,日本主導で国際標準化を進めるために採った体制面,運営面,技術面の戦略を述べた.

現在WG 6では,ITを活用したサービスにスコープを広げ,ITサービスの品質モデルをTSとして発行し,その品質特性を定量的に測定し,評価するための品質測定量を規定したTSの策定を進めている.これらのTSに関しては,戦略の1つとして掲げた“実用性の重視”に照らし,実務での適用結果に基づいて,IS化を進める予定である.

SQuaREシリーズを構成するその他規格については,発行後5年ごとに行われるSR(Systematic Review)で得られた各国の意見を加味して,技術動向の変化に対応した規格内容の見直しを,運営戦略,技術戦略も調整しながら進めていく所存である.

戦略のアジャストを考えるべき要因として大きいのは,Web会議の普及である.現在SC 7内の国際会議では,年2回の国際会議の開催に合わせて,Web会議を設定することが義務付けられている.その普及に伴って,標準化活動への参画者に求められるリテラシー,コミュニケーションのとり方,Project EditorとCo-Editorの間での協調作業の進め方など,再考すべき点も多々考えられ,それに応じた戦略が求められよう.

国際標準化活動の運営に関しては,標準化従事者の世代交代という重要な課題がある.これは,日本に限った課題ではない.年齢を問わず,参画すべき人員が,参画すべき国際標準化活動に従事できる環境作りが望まれる.この課題に対しては,WGの Convenerという立場でできることは限定的である.産学官がそれぞれの立場で,国際標準化に関する人材の育成や投入に関する戦略を立て,実行に移していただくことを希求する次第である.

謝辞:本稿執筆にあたり,情報処理学会 情報規格調査会SC 7/WG 6小委員会の方々から有益な助言をいただいた.ここに謝意を表します.

参考文献
  • 1)東 基衞編:ソフトウェア品質評価ガイドブック,日本規格協会 (1994).
  • 2)東 基衞:ICT 応用システムおよびソフトウェア(S&S)の品質向上のための課題と取り組み,情報処理,Vol.55, No.1 (Jan. 2014).
  • 3) 東 基衞:システム・ソフトウェア品質標準SQuaREシリーズの歴史と概要,SEC journal, Vol.10, No.5 (2015).
  • 4)東 基衞監修,白坂成功,込山俊博他著:つながる世界のソフトウェア品質ガイド,情報処理振興機構 (2015).
  • 5)込山俊博:システムおよびソフトウェアの品質基準の体系化,情報処理,Vol.55, No.1 (Jan. 2014).
  • 6)込山俊博:システム及びソフトウェア品質の要求定義と評価のプロセス,SEC journal, Vol.10, No.5 (2015).
  • 7)鷲崎弘宜,東 基衞,込山俊博他:国際規格に基づく総合的なソフトウェア品質評価の枠組みとその実製品への適用による品質ベンチマーク,SEC journal, Vol.14, No.1 (2018).
  • 8)WSQB17:Waseda Software Quality Benchmark, http://www.washi.cs.waseda.ac.jp/?page_id=3479
  • 9)経済産業省:ソフトウェアメトリクス高度化プロジェクト,http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/softseibi/
脚注
  • ☆1 ISO: International Organization for Standardization(国際標準化機構),IEC: International Electrotechnical Commission(国際電気標準会議),JTC: Joint Technical Committee(合同専門委員会),SC: Subcommittee(分科委員会),WG: Working Group(作業部会).
  • ☆2 WG主査.
  • ☆3 SQuaREプロジェクト統括エディタ,エディタは国際規格原案作成の編集責任者.
  • ☆4 議長.
  • ☆5 国際幹事.
  • ☆6 National Body(会員団体),日本のNBはJISC: Japanese Industrial Standards Committee(日本工業標準調査会).
込山 俊博(正会員)t-komiyama@bk.jp.nec.com

NEC ソフトウェアエンジニアリング本部 エグゼクティブエキスパート.慶應義塾大学 理工学部 数理科学科卒業.CMMI Institute認定CMMIリードアプレイザ/インストラクタ.intacs認定Automotive SPICEプリンシパルアセッサ.

東 基衞(正会員)az-mo@mtd.biglobe.ne.jp

現在早稲田大学 理工学術院 名誉教授,1963年早稲田大学 第一理工学部卒業,元NEC ソフトウェア生産技術研究所 管理技術開発部長,1987年より早稲田大学 理工学部 経営システム工学科教授.

採録決定:2018年11月15
編集担当:藤瀬哲朗((株)三菱総研)