デジタルプラクティス Vol.9 No.4 (Oct. 2018)

10年間のクラウドソーシング事業運営から見る働き方の変化

上野 諒一1  横井 聡1

1ランサーズ(株) 

本稿は,クラウドソーシング事業者として10年に渡りサービスを運営して来た中での過去,現在の課題について述べる.筆者らが運営に携わるクラウドソーシングサービス“Lancers”は,国産のクラウドソーシングプラットフォームとして2008年から運用されており,2018年7月段階で依頼件数200万件超,依頼総額2000億円超の利用実績がある.本稿では,汎用のクラウドソーシングプラットフォームの開発・運用にまつわるさまざまな試み,特に広くワーカを募集する「公募型」から,特定のワーカに対して依頼する「スカウト型」へと注力分野が変わってきた流れ,また「スカウト型」についての課題を「ストア方式」という新方式で解決しにいった事例などを元に,クラウドソーシングの今後の課題と取り組みについて述べる.

1.はじめに

クラウドソーシングプラットフォーム“Lancers”は,2008年より開始し,現在では140以上の仕事カテゴリを扱う汎用のクラウドソーシングサービスである.“Lancers”では,サービスリリース当初から10年間で,事業ニーズに応えるためにさまざまな方式が生まれていった.主にロゴの作成などで広く提案を集めるコンペ方式や,比較的短時間で終わるタスク方式,より業務委託契約を意識したプロジェクト方式,個人のスキルを売買できるストア方式などがその例である.これらのさまざまな方式は,大別すると広くワーカを募集する「公募型」と呼ばれるものと,特定のワーカに対して仕事を依頼する「スカウト型」と呼ばれるものに分けることができる.たとえば前述のコンペ方式などは特定のワーカではなく広く提案を募集することから「公募型」に分類され,個人のスキル売買はその個人に特定して依頼を発注するため「スカウト型」に分類される.

これらのサービス内での細分化の一方で,市場全体の動きを見ると,初期の4,5年においてはなかなか浸透していなかったクラウドソーシングであったが,インターネット上の諸サービスが一般化しユーザの親和性が高まったことで次第に市場に浸透していった.加えて,働き方改革の文脈で「時間と場所にとらわれない新しい働き方」を求める声も大きく,複数の汎用クラウドソーシングサービスが立ち上がったり,カテゴリ特化のクラウドソーシングサービスが登場したりと,10年間で大きく成長を遂げることになった市場でもある.

当初クラウドソーシングは「群衆」という意味で始まり,インターネット上で不特定多数の人に依頼できる仕組みとして,集合知などの文脈で捉えられることが多かった.しかし,上記のように社会に受け入れられていく流れの中で,より本質的な「働き方」として捉えられるようになると,サービスとして求められる社会的責任も大きくなり,同時にさまざまな課題が浮かび上がることにもなった.

その中で,クラウドソーシングサービスでは,“Amazon Mechanical Turk”[1]のように従来のクラウドソーシングの捉え方の通り「顔の見えない」不特定のワーカに対して仕事を提供することに特化したものと,“Upwork”[2]のように「顔の見える」特定のワーカに発注する方へと軸足を移していくものの大きく2つの方向性に別れていった.

本稿では特に後者について,それらの「サービスとしての進化」と「社会からのニーズの変化」を踏まえた上で,10年間を経てクラウドソーシングサービスが直面してきたさまざまな課題と,その解決方法について記す.まず第1章では,初期のクラウドソーシングにおいて主流であった公募型クラウドソーシングでのアウトプットの不明瞭さ,単価の下落という課題と,それについて対応してきた施策について述べる.第2章では近年数を増したスカウト型クラウドソーシングについてと,社会全体でのクラウドソーシングの捉えられ方の変化,課題について述べる.特にスカウト型については単価や成約率という面では公募型に対して優位であったが,クライアントからワーカが探しにくいという課題を抱えており,それらの解決策の一端として,ストア方式という新方式を導入したことにより初回成約率を向上させた事例について述べる.

2.初期クラウドソーシングの課題

初期のクラウドソーシングでは第1章で述べた通り,仕事の契約までの流れとしては以下となっていた.

  • クライアントが依頼をプラットフォーム上で作成し,公開する
  • 公開された依頼を見た不特定多数のワーカが提案を行う
  • クライアントが提案を承諾する

前述したプロジェクト形式,コンペ形式という呼称に依らず,上記フローは一定である.事実上の意味づけとして,これら初期のクラウドソーシングの主流であった方式を「公募型クラウドソーシング」と呼ぶこととする.公募型クラウドソーシングは以下の特徴を備える.

2.1 アウトプットの期待値の不透明さ

公募型の場合,クライアントは提案してきたワーカの中から自身の要件を叶えてくれるワーカから選択する.その際,そのワーカが期待値通りのアウトプットをしてくれるいわゆる「当たり」であるかどうかというのがクライアントにとってはサービスを使う上での重要な事項となる.これは実際的な事業課題としては,成約率の低下という形で現れ,中長期的にはクライアントのサービスからの離脱を招く.その上で公募型は2点の問題を抱える.

  • 自身の案件に提案をしたワーカ群の中に「当たり」のワーカが存在するのか
  • 仮に提案をしたワーカ群の中に「当たり」のワーカがいたとして,それをどう判別するか

これらに関しての課題解決として,“Lancers”のサービス上では,大きく2つの方針で対応してきた.

1.上位ワーカを明示化することで,業務知識を持たないクライアントであっても判別できるようにした

“Lancers”上では上位ワーカを「認定ランサー」として区別し,さらにランキング形式でワーカを表示することができ,クライアントはそれらを参考にワーカを選定することができる.多くのクライアントは対象のアウトソーシングしたい業務において知識を有していないことも数多く,その際に事前の段階では,ワーカの質を判別することができないが,事後のタイミングでは評価をすることができる.これらの事後の評価をサービス上で蓄積し,案件/クライアントをまたいでワーカ本人の評価値として明確化,またそれらをランキング形式で相対化することでクライアントは事前に判別がしやすくなった.

2.品質の保証を自動化することで,最低限の質を担保する

たとえば,ライティングの領域において,インターネット上のほかの記事から文章を剽窃するという行為は非常に問題となるが,クライアントからはそれを事前に判別することは難しく,また事後であっても検証にはコストが必要となる.そこで“Lancers”上では「コピペチェック」という機能を用いて,ワーカから提出された文章についてインターネット上からの剽窃でないかを検出する機能が備わっている.同等の機能単体で提供している類似サービスは存在するが,仕事フローの一環として組み込むことで,クライアントの不安要素を軽減するものとして意図されている.

また,これら以外にも別のアプローチとしては,提案数オプションという形で制限を設けて,設定した人数以上の提案が集まるよう仕組み化された方法もとられている.これは前述の質的アプローチを高めていくものというよりは,「当たり」のワーカが提案をする確率を上げるという意味で量的なアプローチである.

この項での本質的課題は,クライアントにとってワーカが「当たり」かどうか分からない,というところに帰結する.この課題においては数多くの施策が行われてきており,一定の効果を出したものもあるが,公募型において絶対的な課題解決には至っていない,というのが実際のところである.

2.2 単価の下落

公募型におけるもう1つの大きな問題は,1つのクライアントの案件に対して複数のワーカが提案するという数の非対称性,およびに情報の非対称性からくる,案件単価の下落である.公募型の場合,まずクライアントが案件を作成し,その際に予算観も提示する.それに対してワーカ側が提案という形で価格交渉を行うことができる.ワーカが提示した提案内容およびに金額はほかのワーカに対して公開されることはなく,クライアントはすべての提案された金額を把握している.この非対称性により,ワーカ側としては単価を下げる戦略を取ることで,案件獲得確率を上げる可能性が生まれる.その結果1つの案件に対してワーカ側の獲得競争が始まり,結果として案件単価の低下を招くだけではなく,さらにその先の納品物の質の低下にもつながるケースが散見された.

“Lancers”ではこの問題に対して,たとえばクライアントの依頼作成時に目安となる案件単価を表示することで,特に対象業務領域への相場観のないクライアントに対して初期依頼作成時の単価を向上させるよう促した.ただ一方でワーカ側からくる単価下落圧力に対しては,少なくとも公募型においては,いまだに解決しきれていないのが現状である.

たとえば海外の事例で“Amazon Mechanical Turk”の案件を見ていくと,時給に直すと1セントに近くなる案件も多く散見される.これは日本においては到底許容できない値段設定であるが,平均給与が相対的に低い国であれば,仕事として成り立つ可能性がある.国内クラウドソーシングはまだそこまでの地域格差の影響を受けてはいないものの,国際化していく社会の中では,我々事業者として向き合わなければならない課題といえる.

3.中期以降クラウドソーシングの課題

第2章では主にクラウドソーシングの初期からある課題について述べたが,本章では主には2016年以降,現在に至るまでのクラウドソーシングの課題について述べる.

3.1 公募型クラウドソーシングからの転換

第2章であった通り,公募型クラウドソーシングにはその形式からくる課題が存在していた.一方で2014年頃から,徐々に比重を増してきた方式がある.直接依頼方式である.この方式は,公募型と異なり,広く依頼内容がプラットフォーム上に公開されることはなく,クライアントが指定したワーカに対して直接仕事内容を相談できる.

“Lancers”上で直接依頼方式と呼ばれるこの方式は,実質的にはクライアントがワーカを探し出して依頼をする方式であるため,以下では「スカウト型クラウドソーシング」と称する.スカウト型クラウドソーシングは以下と定義する.

  • クライアントは自分が依頼したいワーカをプラットフォーム上から探す
  • クライアントは自身の仕事の要件を,上記のワーカに対して連絡する
  • ワーカは条件があった場合,承諾する

この依頼方式自体は,当初は公募型で一度仕事をしたワーカに対して,クライアントが再度発注したい場合,つまりリピート利用の文脈において利用されることが多かった.もちろんこれは現在でも変わらず,最初は公募型から入り,一定数の優秀なワーカと仕事をしたクライアントが,それらのワーカ群に対して再度スカウト形式で発注する,という事例は数多く存在する.

一方で近年増加しているのは,新規のワーカであってもクライアントが“Lancers”内のワーカ検索機能を用いて見つけ出したワーカに対して,発注をするケースである.これが示唆するところは,当初「納品物」,たとえば企業のロゴや,キャッチコピーを求めて訪れていたクライアント像から,「働いてくれるワーカ」を求めているクライアント像へとシフトしている流れであった.

これは振り返ってみてもクラウドソーシングにおける大きな転換点であるようにも思える.第1章で述べたとおり,クラウドソーシングは当初,「誰でもよい誰か」の集合知によって納品物を得られる装置として世間に認識されていたが,サービスを運営していった結果として,クライアントは最終成果物ではなく,それを生み出すワーカを求める傾向が現れたのである.

第3.1.1節では,特にこのスカウト型がもたらした公募型と比較したときの利点について述べる.

3.1.1 公募型と比較した際のスカウト型の利点

以下にスカウト型の利点を4点示す.

3.1.1.1 「当たり」のワーカを引き当てやすくなる

公募型の場合は,自分が仕事し得るワーカの母集団は,自分の依頼に提案してきたワーカのみに絞られる.一方で,スカウト型の場合,サービス上の全ワーカが母集団となるので,出会える可能性は上がることになる.一方で,母集団が多くなることで,クライアントにとっての選択コストは上昇するが,その課題については後述する.

3.1.1.2 単価の上昇

第2章で述べたとおり,公募型においてはクライアント側に価格決定権が強くある.もちろんクライアント側にはコストを抑えたいという欲求はあるが,それとは別にその依頼内容についての単価観を知らないことにより業界の通例と比べて少ない単価で依頼を立てるケースがある.しかし,スカウト型においては,クライアントより先に,ワーカ側から単価観を提示できるため,単価が上昇する傾向がある.もちろんクライアントと同様にワーカ側には単価を上昇させたいという欲求があるが,それ以上に往往にしてクライアントよりもワーカの方がその対象業務において経験値があるケースが多く,結果として業界相場に近くなる傾向があるものと考えられる.業界相場に近くなる傾向は業務のカテゴリによって多少の前後はあるが,ライティング業務などでは顕著である.

3.1.1.3 成約率の向上

公募型の場合は選ばれた1人以外のワーカとは契約は非成立となる.このため当然ながら落選したワーカは提案のための労力を成果に反映することができない.一方でスカウト型では,そもそも1対1の対応のため,公募型に比べて効率的な契約活動となる.とはいえ,公募型の場合はワーカ自ら提案してきているわけなので,選ばれたワーカとは,その後の条件交渉が見合えば成約する確率が高い.一方でスカウト型の場合は,そもそもワーカがその仕事に興味がない,スケジュールの都合が合わない,などの理由で成約率が下がるケースもある.それらの差し引きを入れても,詳細な数値は出せないものの,スカウト型の方が総じて2倍近く成約率が高い結果が出ている.

3.1.1.4 ワーカ側の努力のストック化

公募型の場合,クライアントにとっての判断材料はいくつかあるものの,大きなものはその提案内容である.つまりワーカ側の依頼獲得のための手段,営業努力としては,都度の提案内容となる.一方でスカウト型においての最大の営業努力は,自身のプロフィールの充実となる.これは求職者が履歴書を充実させる行為に近い.多くのクラウドソーシングでは,ワーカの入力するプロフィール情報は多岐に渡り,必ずしも記入させる必要がないものもある.必須の記入項目が増えすぎると,新規ワーカの離脱を招くからである.しかしスカウト型においては,ワーカ側が,たとえば自身の持つスキルを細かく書いたり,ポートフォリオをアップロードしたりと丹念に行うことで,クライアントがそのプロフィールを閲覧した際にスカウトさせる確率を上げることができる.また多くのサービスのワーカ検索はこれらの充実度合いや,サービス上での仕事実績と連動することも多く,そもそもクライアントに発見されるための営業努力としても機能することになる.これらの営業努力は提案内容のように都度のものではなく,積み上げ式に効果が発揮されるものであり,ワーカ側の努力がフロー型からストック型へと転換されていっているともいえる.

3.1.2 スカウト型クラウドソーシングの課題感

第3.1.1節で述べたとおりスカウト型には多くのメリットがあるが,依頼内容ではなくワーカのプロフィールを起点としてマッチングすることが難しいという課題も抱えている.

公募型においては,依頼したい内容によって,クライアントとワーカは接点を持った.一方でスカウト型では,クライアントとワーカの最初の接点は依頼ではなく,ワーカのプロフィールとなる.前者は範囲が狭いが,後者は範囲が広い.そのことによるメリットは第3.1.1節で述べたとおり,より優秀なワーカとの出会いも広げるが,一方では範囲が広くなることで難しさも表出する.まずクライアントにおいては,メリットの裏返しではあるが,より母数の大きい集団から依頼するワーカを選べるものの,その分選択コストが増えることとなる.特にクライアント側はワーカ側と比べて対象業務知識が少ない場合も多く,“Lancers”上から依頼するワーカを探し出すことのハードルが上がることになる.これらはたとえばワーカ検索のユーザインタフェースの使い勝手の向上や,ワーカのレコメンドの精度の向上によっても改善し得るが,根源的にはスカウト型が抱えている課題である.一方でワーカ側としては,これまでのように依頼内容に特化した形での提案文章という営業ではなく,広くクライアントに理解され得るような文章をプロフィールに記載する必要があり,すなわち営業努力の質が変わることとなり,ここについてのノウハウが必要となる(もっとも,これにおいては個別依頼への提案もノウハウが必要なため,スカウト型でも公募型でも同様ともいえる).

3.1.3 ストア方式の実践と評価

第3.1.2節で述べたような課題感から“Lancers”では2016年よりストア方式という新方式をリリースした.これはワーカ側が自分のスキルを,たとえばデザイン領域であれば「名刺デザイン1点いくら」といった「商品」という形でプラットフォーム上に出品し,クライアントがそれらの商品を購入するという方式である.プラットフォーム上では,商品一覧があり,さもECサイトのような見せ方をしているが,機能的にも実際のところはスカウト型と同様のものとなる.これは第3.1.2節で述べた課題感,すなわちワーカがプロフィールを自由に更新することの難しさから,「商品」という自分のスキルを具体的にイメージしやすい形を用意し,自分のスキルをアピールしやすくするために考案された方式となる.図1に実際のサービス内でのストア形式の商品一覧ページを示す.

図1 ストア形式(ランサーズストア)

たとえばクライアントが名刺を作成したいというシチュエーションがあった際,従来のスカウト型では,クライアントからは以下のようなメッセージが最初にワーカに対して送られていた.

はじめまして
xxxxxと申します

名刺の作成などは今までされたことはありますか?
問合せのみになるかもしれませんがご返答ください

よろしくお願いします

上記には複数の問題がある.まずクライアントが頼みたい業務,ここでは名刺作成を,対象のワーカが過去にやったかどうかが分かっていないことが読み取れる.また,クライアントからの依頼内容も曖昧であるために,ワーカ側が判断できず,事実,上記のような文面はワーカ側に拒否されることが多いことがユーザ調査からも判明している.これらはワーカが名刺作成というスキルがあることをプロフィール上で表現できていないこと,クライアント側もどう頼んでいいかが不明確なことが問題であった.

一方でストア方式の場合,「名刺作成できます」というような形で商品が出品されており,以下のような文言が添えられているケースが多い.

【制作時にご用意いただくもの】
・会社名/部署名/名前,その他名刺に載せたい情報 ・ご希望のデザイン・レイアウト(他社様のものも可)がございましたらと合わせて「○○の雰囲気/方向性」等分かるようにお伝えください

【納品時】
・印刷会社にすぐに入稿できるアドビイラストレーターのデータをすべてお送りいたします
その他の形式にて納品も可能なのでご相談ください

こうなっているとクライアントは何をワーカに相談すればいいかが明確となり,最初に送るメッセージの文面もワーカが求める情報を埋める形でスムーズになる.結果としてストア方式は,従来のスカウト型に比べて初期成約率が1.5倍近くに上昇した.

この形式はスカウト型の上記の課題感を克服するだけではなく,商品という分かりやすいメタファーができたことにより,1人のワーカが複数のスキルを出品するようになり,前項で述べたワーカの営業努力のストック化を加速させた.また副次的効果として,他人の商品も分かりやすい形で閲覧することができたため,ほかのワーカの商品の出し方を見ながら自身も商品の出し方,つまりは実質的には営業資料となるようなプロフィールの書き方を会得していった.

一方で,これらの営業努力がストック型になった結果,人気のあるワーカが有利になり,新規のワーカが相対的に不利になりやすいという構造も起こり始めている.人気のあるワーカには依頼が集まりやすくなり,集まった結果としてプラットフォーム上での仕事実績が積み上がり,さらにそれがスカウトを招くという構造である.今後はより一層,新規のワーカが早期に活躍できる仕組みも求められる.

3.2 クラウドソーシングのこれからの課題

第3.1節で述べた通り,クラウドソーシングが「群」から「個」へとその軸足を移していく中で,いちサービス内における課題の例としてスカウト型における課題感を示した.一方で,この流れは「クラウド(群衆)」という意味でインターネット的に取り扱われてきたクラウドソーシングが,既存の人材業界に近いような領域に近づいてきたことも示す.実際に“Lancers”が開始された2008年と比べて,働き方改革が唱えられるようになってきた昨今では,クラウドソーシングというのは純然たる「働き方」の一種として見なされるようになってきた.我々のように「新しい働き方」を創るという想いで事業を営んできた立場からすると万感の想いがある一方で,これまで以上にクラウドソーシングが社会から求められる「働き方」としての在り方というのはより社会インフラに近いようになってきたように感ぜられる.

3.3 社会基盤としてのクラウドソーシング課題

働き方,という見方をしたときのクラウドソーシングについての論点はいくつか存在する.以下に主な論点を列挙する.

3.3.1 ワーカ/クライアントがオンライン上のみで仕事をすることの課題

クラウドソーシングはその出自を考えてもインターネット的世界観を出発点とし,基本的には「制限しない」オープンな世界観を中心としている.クライアント/ワーカともに一定のルール下で自由にサービスを使用することができた.一方でクラウドソーシングの認知が高まり,案件が増えるようになるとさまざまな問題が生まれるようになった.たとえば,ステルスマーケティングといった,消費者にマーケティングと気付かれないように装うモラル的に一定の問題がある依頼が立てられたり,公序良俗に反する依頼などが立てられたりといったものである.これらはクライアントが意図してやるケースもあれば,意図しないまま(知識がないまま)行うケースもある.もちろんこれらはオンライン上の仕事だけではなく,広く世の中に存在し得る話ではあるが,ユーザの顔が見えないことによって特にオンライン上ではそれを助長している可能性がある.これらの行為は,クライアント/ワーカともに知らぬ間にそういった行為に巻き込まれてしまうリスクをはらみ,またそういった案件が横行することでサービス全体の質を落とし,またこれらを起点としてそれを包含する社会に対しても影響を及ぼす可能性がある.クラウドソーシングのみならず,昨今のインターネット業界では全般的に求められるようになってきたが,プラットフォームの健全化というのは広くプラットフォーム事業者が考えなければならない課題となってきている.

“Lancers”ではこれらを受けて,プラットフォーム健全化に向けて「安心安全の取り組み」という名前でページを設け,いくつかのことを行っている.以下に実際に行っている事例の例を示す.

  1. クライアント向け発注ガイドラインおよびにワーカ向け提案ガイドラインの策定/周知
  2. 機械学習と人手による二重体制での依頼内容チェック
  3. ユーザ自身による「違反申告機能」

これらは現在“Lancers”上で行われていることではあるが,今後も常に意識,改善していく大きなテーマである.

3.3.2 フリーランス/副業の働き方についての課題

フリーランス,また副業についてもまだまだ世間には浸透しきっておらず,制度なども含めて未整備な点も多く,今後拡大していくためにはいくつも課題が存在している.どちらも自分の時間を自由に使える傾向が正社員領域よりも高い一方で,一定のリスクが保障されていない現状がある.そのためそれらの働き方を選ぶ人間は今日現在においては正社員に対して,リスクを取っていると見なされることも少なくない.以下に代表的な課題の3つを挙げる.

  1. 労働関係法令に代表される国を挙げての保護
  2. 収入面での安定性や,労働を取り巻くエコシステムの不在
  3. 社会的な認知と理解

現在,1に関しては厚労省もガイドライン[3]を定めるなど急ピッチで対応が進んでいる状況であるが,今後国内においてもフリーランス比率や副業比率が増していく傾向が見える中で,2や3のように社会全体でそういった働き方を支援できる枠組みが大きく求められている.

4.おわりに

ここまで,第1章では,公募型クラウドソーシングでのアウトプットの不明瞭さ,単価の下落という課題と,それについて対応してきた施策について述べた.第2章ではスカウト型クラウドソーシングについてと,ストア方式によって初回成約率を向上させた事例,また社会全体でのクラウドソーシングの捉えられ方の変化,課題について述べた.通して述べたとおり,当初「群衆」という意味でインターネット的世界観の中で始まったクラウドソーシングであるが,事業を運営していく中で自然と「誰でもいい誰か」の世界から,「特定の誰か」に,「個」が求められる世界へとサービスの軸が変化していった.またその流れと呼応するように社会全体でも新しい働き方のひとつとして認識されるようになり,より個人としての働き方を支えるプラットフォームへと変化していった.

“Lancers”を運営するランサーズ(株)では,創業当初「時間と場所にとらわれない新しい働き方を創る」を会社のビジョンとして掲げていたが,クラウドソーシングが国からも新しい働き方のひとつとして見なされるようになってきた2017年の4月より会社のビジョンを一新し「テクノロジーで誰もが自分らしく働ける社会をつくる」というメッセージを掲げるようになった.これはこれまでの契約単位でサービスを提供してきたところから,第3.3.2節で述べたような社会的課題を我々として解決していこうという意志でもある.

実際に,2018年6月にはフリーランスのバーチャル株式会社化を実現する「Freelance Basics」というサービスを開始している.これはまさに,フリーランスになることで,これまで会社が肩代わりしていたような分野,「成長」「安心」「生産性」の3つの観点とそれに紐づく5領域(「コミュニティ/教育」「金融」「補償/保険」「専門家支援」「業務効率化」)についてサービスを提供していくものであり,これまでの“Lancers”とは解決領域において一線を画すものである.

ランサーズ(株)では前述の2017年4月より「クラウドソーシング」という単語と並行して「タレントソーシング」という単語を多く使うようになった.これは翻ってみると10年を通じてクラウドソーシング事業を行ってきた我々としてのサービスの変化であり,同時に社会の変化でもあった.クラウドソーシング,あるいはタレントソーシングという領域は「働く」という概念に寄り添っており,今後も種々の課題やその解決,変化についても社会とともに変化を続け,実践をしていくものである.

謝辞 本稿の作成にご協力いただいた皆様に深謝いたします.

参考文献
上野 諒一(非会員)

2013年北海道大学工学部卒業,ランサーズ(株)入社.入社からクラウドソーシング事業の開発企画等の業務,ストア方式のクラウドソーシングサービスとして「ランサーズストア」を立ち上げ,クラウドソーシング事業の責任者として健全なプラットフォーム成長に従事.

横井 聡(非会員)yokoi.satoshi@lancers.co.jp

2010年早稲田大学商学部卒業.Webデザイナー,サーバサイドエンジニア,フロントエンドエンジニアとしての経験を経て,2014年シアトルコンサルティング(株)にてWebサービス事業部長に就任.2016年6月にランサーズ(株)にてCTO兼開発部長.ランサーズ社において,企画部長等も歴任し,2018年4月より開発執行役員を務める.

採録決定:2018年7月22日
編集担当:新田 清(ヤフー)