デジタルプラクティス Vol.9 No.2 (Apr. 2018)

SV育成から見える問題解決力の育て方
〜問題解決力を習得させる4つのステップ〜

寺下 薫1

1ヤフー(株) 

問題解決力は,日々コンタクトセンタ内で起こる問題を解決するために重要なスキルである.毎日,センタ内で発生する問題と対峙しなければならないスーパーバイザ(SV)にとっては,問題解決力の習得は切実な課題である.にもかかわらず,問題解決力を有するSVは,全体の10%程度しかいない.SVが問題解決の手法について,センタ内で教えてもらえる機会は,ほとんどなく,SVはこれまでの経験のみで物事を判断してしまう傾向がある.このため,根本的な解決ができないで,日々悩んでいるSVは多い.本稿では,筆者が2013年にヤフー(株)で創設したSVの問題解決養成塾「SV研究会」により,多くのSVが問題解決力を身に付け,キャリアアップしていった点に着目する.問題解決力をどのように習得させることができたかについて,SV研究会での取り組みとともに,問題解決力の育て方の実践について述べる.

1.はじめに

問題解決力を身に付けたいと思っているビジネスパーソンは,非常に多い.とりわけ,コンタクトセンタで日々問題に直面しているスーパーバイザ(以下,SV)にとって,問題解決力の習得は,切実な課題である.SVは,顧客からの問合せに答えられなかったオペレータからの質問に答え,オペレータの勤務シフトを作成・調整し,オペレータの研修や顧客のクレーム対応,報告書の作成を行うなど,コンタクトセンタ運営の中心を担う存在である.コンタクトセンタを安定的に運営するためには,SVが問題解決力を習得することは,必須である.なぜなら,現場では,たとえば,電話の応答率が急激に低下し,目標を下回るという問題や新人オペレータが計画通りに研修できなかったという問題,さらには,期待していたベテランオペレータが急に退職を申し出てきたという問題など,さまざまな問題が毎日のように起こっているためである.問題が発生するたび,SVは,上長であるセンタ長やオペレータから速やかな解決を求められる.

筆者は,これまでに社内外で800人を超えるSVに研修を行い,コンタクトセンタの立ち上げや立て直しを数多く経験してきたが,問題解決力を身に付けられているSVの数は,全体のたった10%程度の割合にすぎない(下記の問題解決力の定義に従い,問題解決力を有するかどうか,ケーススタディでチェックすると,10%程度のSVしか持っていないことが判明した).

問題解決力とは,「ゴールを設定でき,着手すべき問題の優先順位が付けられるとともに,問題を引き起こしている原因を考え抜き,さらには,効果的な解決策を見つけ出す力」と定義する.SVは,この問題解決力を求められる場面が多くあるにもかかわらず,身に付けられていないのが現実である.

問題解決スキルは,プレゼンテーションスキル,ファシリテーションスキル,タイムマネジメントスキルなどと並んで,SVにとって身に付けるべき基礎スキルである.にもかかわらず,センタ内で,問題解決スキルを教えてくれる人もいなければ,学ぶ機会も与えられない.また,自分で勉強しようとしてもなかなか身に付かず,もどかしい思いをしながら日々発生する問題と対峙している.

問題解決については, 参考文献[1]や[2]など,年間30冊程度の本が市場で発行されているが,書いてある内容をそのまま実践しようと試みても,本に書かれている内容と実際の現場とでは,置かれている状況や条件,登場人物が異なり,うまくいかない.そのため,本を読んで自己学習しても,問題解決スキルが身に付いたという実感を持てないでいる.

そんな現状をコンタクトセンタで目の当たりにしていた筆者は,「SV研究会」というSVの問題解決力を養成するための塾を筆者の所属するヤフー(株)の中で2013年8月に立ち上げ,コンタクトセンタの要であるSVに問題解決スキルを身に付けさせる具体的方法を考案した.

2.SVに問題解決力が身に付かない理由

問題解決スキルが身に付きにくい1つの大きな原因は,「長年に渡る思考の癖」であると考える.筆者は,参加者に演習問題をやってもらい,どのような思考過程を辿るのかをヒアリングするとともに,演習問題の成果物を40回以上検証した結果,それが長年に渡る思考の癖によるものであることに気付いたのである.人は,過去の体験や経験に基づいて判断してしまいがちである.そして,その思考プロセスから,なかなか抜け出すことができない.自分自身の思考の癖を作り出してしまう原因は,「思考プロセスの問題」と「研修の問題」の2つがある.以下で,それぞれについて,説明する.

2.1 問題解決力の習得を阻む長年の思考プロセスの癖

2.1.1 過去の経験に依存した思考

SV研究会では,SVに問題解決思考が身に付きにくい理由を説明する際に,筆者は思考プロセスの癖を腕組みに例えて説明することにしている.SVにまず腕組みを実際にやってもらう.すると,よく分かるのだが,日頃からやっているごく自然な腕組みとなる.これは,自然な思考,つまり,「従来の考え方」と捉えると分かりやすい.では,次に,SVに自然にやっている腕組みの手の上下を反対に組み替えてもらう.すると,いつもの腕組みではないので違和感があるが,上下が逆の腕組みになる.このように意識すれば,上下を組み替えた腕組みができる.これが「問題解決思考」だと考えて欲しい.するとどうだろうか.意識しているうちは,上下を反対に組み替えた腕組みができるが,意識しなくなった途端,また,いつもやっている自分の好きな自然な腕組み,すなわち「従来の考え方」にすぐ戻ってしまう.

しかも,9割程度のビジネスパーソンは,過去の経験に依存した思考で,物事を判断しようとする.ある会社で,残念にも顧客情報の漏洩が発生してしまったとする.そうすると,センタ長やSVは,経営層からクレーム対応センタを急遽立ち上げよとの指示を受けることになるが,起こったことが初めて経験するもの,つまり過去経験したことがない内容であれば,どうすれば良いか判断できず,右往左往してしまう.

過去の経験も確かに大事だが,過去の経験や考え方のみに囚われていると,過去の経験に類似した内容でしか解決できず,また,問題が複雑に絡み合うコンタクトセンタでは,問題はいつまでも解決しない.

2.1.2 ゴールがイメージできない

SVは,問題に直面すると,なぜか目の前の事象に目が奪われてしまい,ゴールが見えなくなってしまう.目の前でオペレータの退職の問題が起これば,即,退職するオペレータのシフト勤務の穴をどう穴埋めしようかという考えに陥ってしまう.

しかし,問題とは,そもそもなんだろうか.問題とは,ゴールと現状のギャップである(図1).

図1 問題の定義

現状は見えても,あるべき姿であるゴールが見えなければ,延々と目の前の事象に目を奪われてしまうことになる.筆者は,SV研究会の中で,ケーススタディを中心としたワークショップを実施している.その中で,オペレータが相次いで退職するという問題が発生した際,どうすべきかという問題をSVに与えることがある.SVが問題に直面したときに,どう対応するかを観察していると,ほぼ参加者全員が,相次いで退職するという現状だけに目が奪われてしまい,今後の空いたシフトをどうするか,また,オペレータの新規採用でなんとかカバーできないかという考えになってしまい,肝心なゴール(いつまでに誰がどういう状態にすべきか)を設定できない.

2.1.3 原因を考えずに,すぐ解決策に飛びつく思考

筆者が主宰しているSV研究会にこれまで参加したことのあるSV180名がSV研究会の初回に問題解決思考があるかどうかについて,ある演習問題を通してチェックしている.ほぼ全員が原因も考えずに解決策に飛びつこうとする.どんな演習問題を通して問題解決力思考の有無のチェックをしているか,具体例を用いて説明する.

たとえば,センタ長から「オペレータの残業時間が長くなっている,1週間以内に何とかして残業時間を削減せよ」とSVが言われた場合に,SVはどうすべきか?という問題があったとする.ほとんどのSVは,前述したゴール,つまり,いつまでに誰がどのような状態にするのが理想なのかをまったく議論しない.朝の朝礼でオペレータに周知し,注意喚起する,オペレータの早上がりしてもらう,SVがオペレータの仕事を巻き取ることなどを提案し,真っ先に解決策を考えてしまう.さらにSVが似たような問題で,過去に成功体験をしていると,成功した解決策が思考を邪魔し,過去に成功した解決策に思わず飛びついてしまうことになる(図2).

図2 解決策に飛びつく思考

しかし,問題には,その問題を発生させてしまっている原因が必ずある.そして,原因によって講じるべき対策は異なるはずであるのに,原因も考えずに解決策に飛びついてしまう.先ほどの問題であれば,たとえば長時間残業を引き起こしている原因が,残業時間の目標がないということが本当の原因だとすると,周知したり,早上がりを提案したり,SVが業務を巻き取ったとしても問題が一向に解決することはない.また,長時間残業を引き起こしている原因が時間外に行われるミーティングに参加していることだとすると,これまた早上がりの提案などは的外れな解決策となる.原因が何かを考えずに,手当たり次第,思いついた解決策で対応しようとするため,根本的に問題を解決することができない.

2.2 研修に関する問題

問題解決スキルが身につきにく難い原因の1つは,前述した思考プロセスの癖だが,もう1つの原因がある.それが,「研修」に関する問題である.

2.2.1 教育機関の不足

まず1つ目が教育機関の不足である.コンタクトセンタは, 全国で約60万人以上が就業する業界である.しかし,日本コールセンタ協会[3]や日本コンタクトセンタ教育検定協会[4],HDI-JAPAN[5],ICMI[6],プロシード[7]など各種団体が業界の中に存在しているが,問題解決の考え方について,体系的かつ継続的に研修を実施している団体は,見当たらない.

2.2.2 単発研修の限界

2つ目は,研修の開催方式である.筆者は,常々,単発つまり,1回で行う研修の効果については,疑問を持っている.テクニックを身に付けるには1回だけの研修で十分習得可能かもしれないが,問題解決のように長年培った思考の癖を矯正するには,1回の研修では足りず,何回か繰り返して教えなければ習得することは難しい.単発研修を実施すれば,SVは一時的にモチベーションも上がるし,考え方も変わることはある.しかし,1カ月もすれば,元通りの自分に戻ってしまう.問題解決のように教えるべき内容によっては,繰り返し教えなければならないものもある.

3.SV研究会の実践

3.1 SV研究会設立の経緯

筆者は,コンタクトセンタの要であるSVの問題解決力を上げることは,SVにとって,またセンタにとって非常に重要であると考えていたが,なかなか解決力を上げるためのきっかけを掴めないでいた.そんなとき,2012年2月に外部で講演をした際,名刺交換した当時,ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)の和泉祐子マネージャ(現在,カルディアクロス代表)から,「SVの育成について,同じ課題意識を持っているので,一緒に何かできないか」と声をかけてもらった.その後,2013年2月から半年間の準備を経て,2013年8月7日にSV研究会を創設することとなった.

当初,問題解決をメインテーマとして,コンタクトセンタ内で起こる問題点について,実戦形式のケーススタディを計4回,無料で開催することにした.無料にしたのは,有料だとセンタ長の承認がおりないが,無料であれば,SV研究会への参加について承認のハードルが一気に下がるのではないかという思いからだった.SVを集めるにあたっては,過去の講演などで名刺交換をした企業のコンタクトセンタ担当者に各社2名ずつ出していただくよう声掛けし,第1期は,ヤフー(株)以外の外部企業から14名のSVが集まった.しかし,筆者の所属するヤフー(株)からは旅費問題のため,受講者はなかった.

そして,クチコミで参加者が徐々に増え,実績を積み重ねていった結果,2017年12月現在,第10期までが終わり,総計180名のSVが卒業するまでに成長した.

3.2 問題解決力を習得させるための研修の仕掛け(新3K)

参加したSVに問題解決を習得させるためにSV研究会では,問題解決の基本的な思考プロセスも丁寧に教えるが,筆者は,習得度をより高めるために,同時に3つの要素をワークショップに取り入れて演習を行うようにしている.その3つの要素の頭文字をとって,「新3K」と呼んでいるが,3つの要素とは何かをそれぞれ説明する.

3.2.1 繰り返す

どんな研修でもそうだが,大切なことを習得させたり,これまでの思考プロセスとは大きく異なるプロセスで考えることをSVに求めるには,繰り返して習得させることが一番である.問題解決力も同様で,これまでの思考プロセスを大きく変える必要があり,思考のプロセスを変えるためには,できた点を褒め,できなかった点については,繰り返しフィードバックして,問題解決の思考のプロセスを実践できるようになるまで身に付けさせる必要がある.

具体的には,1回目にできなかった点について,指摘したポイントを2回目にも再度指摘し,3回目にも1回目,2回目と同様,同じポイントを繰り返し伝えるようにしている.しつこいように思えるが,習得するまでには,愚直に繰り返して伝えるのが一番である.また,2回目には,1回目と同じポイントも指摘するが,3回目に向けて新しい指摘ポイントも伝えるようにして新たな気付きを与えるようにしている.たとえば,1回目の演習で,ゴールを設定できていなければ,ゴールを設定すべきという指摘をする.2回目は,1回目の指摘を受けて,ゴールを設定できる参加者も出てくる.しかし,ゴールを設定できても,具体的でなかったりするため,具体的にイメージできるようなゴール設定をするようにと新しい気付きを与える.3回目の演習時には,ゴールが設定され,内容もより具体的なものになるが,数値のないゴールのため,不明瞭で取り組みにくい.そのため,3回目では,数値に基づいてゴール設定せよと再度新しい気付きを与える.このように,何度も繰り返し伝えることは,一見遠回りしているように思えるが,習得するための早道である.そうすると,1回目にできなかったことが,2回目にはできるようになり,2回目にできなかったことが3回目にはできるようになり,徐々に成功体験を積むことができる(図3).

図3 学んだことを消化させるための工夫

成功体験を重ねることで,自信がつき,新たな指摘を受けても,次回それを学び,生かそうとする姿勢が生まれる.大切なことは,面倒でも繰り返し,何度も説明することである.

3.2.2 気付かせる

問題解決力がないSVに限って,不幸にも自分の問題解決力のなさに気付いていない.SVの多くは,オペレータから昇格しており,SVはセンタ内では,業務知識も豊富なため,問題解決力があると錯覚している.その結果,なかなか自分に問題解決力がないことに気付くことがない.研修で一番大切なことは,受講生が研修の中でどれだけの回数気付くことができるかどうかである.筆者は,SVに気付きを与えるために,演習内容のポイントをあらかじめ準備している.SVが「なるほど」と手を叩いて思えるほどの,ある意味,SVの心に刺さるフィードバックができるよう,教える側にも研鑽と事前の準備が求められると考える.

3.2.3 競争させる

1回に行うSV研究会のワークショップは複数あり,毎回,参加している20人のSVを5チームに分け,チームごとや個人で常に競争させている.SV研究会は,問題解決をメインテーマにしているが,プレゼンテーションや資料作成などで問題を出し,成果で競うといった競争の場を作るようにしている.なぜなら,競争させることで,互いの良い点,悪い点が見えてくるからである.適度な競争は,「次は負けないように頑張ろう」という意識が芽生え,物事の習熟度を高める効果がある.

4. ステップからなる問題解決力習得への実践

センター長の多くは,SVに問題解決力を一気に身に付けさせたいと思うかもしれない.しかし,実は,4つのステップを踏んで身に付けさせていくことが習得の近道であることが分かった.ここでは,どのようなステップを踏むと,問題解決力が身に付くのか説明する.

4.1 ステップ1:関心を持つ

問題は,関心を持たないと実は,問題自体が見えてこない.例を出して説明しよう.SV研究会の中で,SVに次のような質問をしている.「100円硬貨の表に書いてある絵は何か?」この問題を出すと,SVのほとんどは答えられない.菊や牡丹,紫陽花と辛うじて花の種類を答えられるSVもいるが,正解の「桜」に辿り着けるのは,1割にも満たない.毎日ほとんど見ていたり,触っているものでも,実は見えていないことがたくさんある.なぜ見えないかといえば,それは「関心」がないからである.関心がなければ問題は,いつまで経っても見えてこない.したがって,普段見ていたり,触れているからといって,必ずしも正しく認識できているわけではないことを認識したうえで,問題を見つめる必要がある.関心を持って物事を見ると,物事ははっきりと見えてくる.そして,100円硬貨の例でいえば,500円硬貨や50円硬貨など関連するほかのものにも関心を持つようにもなり,物事はさらにはっきり見えてくるようになる.

4.2 ステップ2:問題を洗い出し,整理する

問題に関心を持つようになれば,次のステップは,問題の洗い出しである.問題が1つであれば,その問題について,原因を掘り下げていけばよいが,複数の問題がある場合は,要注意である.

問題は,現場において同時期に複数発生するものである.たとえば,電話の積滞,応答率の急激な低下,オペレータの遅刻欠勤によるブースの充足不足,オペレータの質問対応に関するSVの不足,クレームの多発などが同時発生する.その場合,SVは,目の前に現れた順番で対処しようとしたり,声の大きいセンター長の言われるがままの順序で対処しようとする.

こういった場合,現在起きている問題をすべて洗い出すことが重要である.すべて洗い出しする際,問題の抜け漏れやダブりがあってはならない.問題を洗い出す段階で漏れていれば,そこからまた別の問題が発生するなどして,問題が一向に解決しないからである(図4).

図4 漏れとダブりがある場合の事例

なお, 筆者は,SVは問題に直面すると,どうしても目の前の事象に囚われがちなため,それを補完する問題全容図(図5)を作成した.コンタクトセンタで発生する問題のほとんどを網羅しているので,問題に直面した際,ほかにも問題が発生していないか,この図を見て,チェックするようにSVにアドバイスしている.たとえば,KPIが未達成という問題にSVが直面していたとする.すると,SVは,KPIばかりに目がいってしまい,仮に人材育成がKPI未達成の問題を引き起こしていても,人材育成については,意識が向かず,見えなくなってしまう.そのため,人材育成や人材管理,インフラなど他にも問題が潜んでないか,この図を活用してチェックすることが有益である.

図5 コンタクトセンタにおける問題全容図

今起きている問題をすべて洗い出し,洗い出しが終了したら,カテゴリーごとに整理するとよい.問題が複数発生している場合は,どの問題から着手すればよいか,その優先順位を考えねばならない.定量的な問題は数値で比較すればよいが,多くの問題は数値で測ることができない.このような定性的な問題については,後述する重要度と効果度の2軸の高低で比較すればよい.重要度(センター長の立場で,重要かどうかを考える)と効果度(問題を解決すると,センター運営にとってどの程度効果があるかを考える)の高いものを最優先で考えるべき問題と捉え,その問題から原因分析の着手をすればよい.

4.3 ステップ3:原因を洗い出す

前述で,問題解決力を身に付けられない原因の1つとして,解決策に飛びついてしまい,原因を考えられないということについて触れた.SVは,まず問題を引き起こしている原因を考えることなく,即解決策を考えようとする.原因を考えるようになるには,問題に直面したときに,必ず連想しなければいけない質問が2つある.それが,「問題の原因を1つ挙げるとすると,それは何ですか?」と,「その原因が解決すれば,この問題はすべて解決しますか?」という質問である[8].この2つの質問を駆使すれば,通常,半日で40〜50くらいしか原因をリストアップできないが,200個近くの原因を洗い出すことができる.

たとえば,オペレータの退職が相次いでいるという問題があったとする.オペレータの退職が続く原因をSVに単に挙げてもらうと,業務量が多いなど,思いついた原因しか出てこない.しかし,上記の2つの質問を駆使すれば,従来では出なかった原因が質問により発見できる.まず1つ目の質問で,オペレータの退職が相次ぐ原因を1つ挙げるとすると何かを聞く.SVから,「業務量が多い」という原因が挙がってきたとする.

そこで,2つ目の質問である.「業務量が多い原因が解決すればオペレータの退職が相次ぐという問題がすべて解決するか」とさらに質問する.こう問われれば,それだけでオペレータの退職が相次ぐという問題がすべて解決できないことに気付く.クレーム対応で心理的負担が増大していることや給与が安いなどの他の原因もあることに気付くことができる.なお,前述した「業務量が多い」という原因については,まだ解決策が見えないので,業務量が多い原因を1つ挙げるとすると何かと原因をさらに深掘りする必要がある.

トヨタ自動車では,「なぜ」「なぜ」を5回繰り返して原因を追求するというのは,有名な話だが,5回「なぜ」を問うことが大切なのではなく,解決策が見えるまで,「なぜ」「なぜ」を問えばよい.「5回」とは回数ではなく,「真因が見つかるまで」という意味である[9].

3回で解決策が見えるときもあるし,5回問うても見えないこともある.また,「問題の原因を1つ挙げるとすると,それは何ですか?」という,トヨタで言えば「なぜ」にあたる縦の質問は,原因の深堀りをするには有効だが,これだけでは問題の全容を明らかにすることはできない.問題を網羅するには,「その原因が解決すれば,この問題はすべて解決しますか?」という横の質問も駆使する必要があり,この質問も使うことで,問題の全体を明らかにすることができるようになる(図6).

図6 縦と横の質問

4.4 ステップ4:解決策を洗い出し,優先順位を付ける

SV研究会の参加者に,演習問題で解決策の洗い出しをさせると,既存の枠組みで考えた解決策しか出てこない.出てくる解決策は,「人」「もの」「お金」「リスク」に制約のあることばかりだ.そのため,筆者は,SVに解決策の洗い出しをさせる際,「人」「もの」「お金」「リスク」は度外視して,解決策をゼロベースで洗い出すように指導している.すると,どうだろうか,解決策も最初に出している数より倍以上に増える.筆者もヤフー(株)内で,Yahoo!ショッピングなどの実際のビジネス上の問題解決にも当たっているが,ゼロベースで考えると解決策が1回目の演習で出してくる解決策に比べ,3回目の演習時には,3倍以上出てくる.

5.SV研究会による変化

5.1 SV研究会から得られた知見

SV研究会でSVの問題解決力を向上させる取り組みを開始してから4年が経過した.この4年間で得られた知見がある.それは,問題解決を習得させるには,大きな思考の変化が求められるため,ステップごとに繰り返し教育することが大切であるということである.

さらに得られた知見としては,問題解決力のあるSVとそうでないSVとの間にはいくつかの特徴があることである.具体的には,問題解決力のあるSVと問題解決力のないSVとの間には,思考方法について大きな違いがあることがSV研究会をやってみて分かったため紹介する(図7).

図7 問題解決力の有無が判断できる特徴

具体的にどのような差として現れるか説明すると,

  • i)アンテナを常に張って関心を持って物事を見ているかどうか.
  • ⅱ)ゴール(あるべき姿)を描けるかどうか.
  • ⅲ)問題に直面したとき,すぐ解決策に飛びつくかどうか(立ち止まって,原因をきちんと考えられるか)
  • ⅳ)解決策が人,もの,金,リスクに囚われたものになっているかどうか
  • v)複数の解決策が出てきた際の優先順位の付け方を知っているかどうか

以上の5つの差となって現れることが分かった.

5.2 参加者の意識改革の実現 (アウトプットのbeforeとafter)

SV研究会に参加したSVの意識は,繰り返し重要なことを伝えることにより劇的に変化するようになった.まず,SV研究会は,計4回アウトプットの機会があるが,4回目に参加しているSVが出す成果物は,眼を見張るほど変化している.具体的には,1回目の演習時の成果物には,ゴールや原因が書かれることはないが,4回目には,ゴールや原因なども成果物には書かれており,解決策の優先順位も単なる思いつきではなく,効果の大小や実現可能性の大小などの2軸でプロットされて優先順位を決めていることが成果物から分かる.SVの上長がオブザーバとして参加しているが,1回目の成果物と4回目の成果物の違いを見て,驚く人がほぼ全員だ.また,成果物ができる過程のチーム内のディスカッションでも,原因に言及するメンバが演習の1回目はいないが,4回目ともなると,全員が「なぜ」を繰り返し問うている.

通常の研修であれば,受講直後のモチベーションは高いが,1カ月もすれば元の自分へと戻ってしまう. SV研究会は,ほぼ隔週で計4回実施することで,モチベーションを持続させる.卒業後もメールマガジンの配信等でSVのモチベーションの持続を後押ししているため,単なる単発研修を受けたSVとは成長曲線が大きく異なることになる(図8).

図8 SV研究会に参加したSVの成長曲線

5.3 SVのキャリアアップ(昇進した人数の割合)

SV研究会を卒業して,SVからマネージャやセンタ長に昇進したSVも徐々にではあるが,増えてきている.弊社の場合は,10名中5割は,管理職に昇進している.外部の企業からの参加者についても,マネージャやセンタ長への昇進などキャリアアップしたSVは,約4割に及ぶ.

5.4 ヤフーのブランド価値向上(経営層の理解)

最初は,SV研究会はコンタクトセンタ業界内でも,知名度はまったくなかったが,4年間継続した結果,65社180名のSVが参加するまで成長した.現在は,SVの上長も効果が高いと感じ,オブザーバとして参加するようになり,それを含めると300名近くがSV研究会に参加したこととなる.ヤフー(株)が主宰するSV研究会として,業界内でも少しずつ認知されつつあり,SVや上長からのSV研究会の満足度は,98.6点(点数は,受講生に計4回受講後に満足度を100点満点でつけてもらったアンケート結果による)と非常に高い.また,募集の際は,一般公開で募集している訳ではないが,クチコミでの申し込みも増えてきており,業界内におけるヤフー株式会社のブランド価値を向上させることができていると言える.

5.5 サポータ企業の出現(1社→10社へ)

SV研究会当初,ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)のみがサポート企業として名乗りを上げてもらったが,その後,SV研究会に参加したメンバのクチコミやその後のキャリアアップにより,複数の企業がサポータ企業として名乗りをあげるようになり,サポータも現れることとなった.(株)リクルートライフスタイル,ジャパンアシストインターナショナル(株),東京ガスカスタマーサポート(株),大和証券(株),プラス(株),(株)ファンケル,ベルトラ(株),(株)旅工房,オルビス(株)と計10社のサポートを得ることができるようになった.東京ガスカスタマーサポート(株)の飯田常務取締役からは,SV研究会開催のたび,「研修会場を含めて,今後とも弊社にできることがあれば,どうぞお申し付けください」といつも協力の申し出をしてもらえるようになった.また,ベルトラ(株)の萬年副社長からは,「コンタクトセンタについて,私自身も同じ課題意識を抱えており,大変な思いで,日々もがいているコンタクトセンタで従事するSVや管理職の方々に,会社,業界を問わず,一緒に光をあてていきましょう」とこちらも,バックアップしていただけるようになった.

さらに,諏訪良武氏(多摩大学院客員教授)によるサポートを得られることができるようになった.

上記のような社外からのサポートを得られるようになったことは,4年間地道にSVの問題解決力を向上させてきた活動に起因するものと考える.

6.課題と改善の道筋

6.1 SV研究会の課題

これまでSV研究会を4年間やってきたが,課題も依然として存在している.SVを180名育成はしてきたが,180名全員が行動を起こして,結果を残しているわけではなく,行動を起こし,結果を出せていたり,キャリアアップできたSVは,6割程度にすぎない(数値は,卒業生のヒアリング結果による).また,コンタクトセンタ業界には,推定4〜5万人のSVが存在している.SV研究会によってアプローチできているSVは,まだごくわずかな人数にすぎない.

6.2 改善への道筋

SV研究会卒業後の参加者のモチベーション維持の仕組みが必要である.後押しする仕組みとして,メールマガジンでの振り返りや卒業生主体による勉強会「SV寺子屋」の開催など,試行錯誤しながらSV支援をしているが,参加者を継続して支援していくことがとても大切であると考えている.SV研究会のオブザーバとして参加したSVの上長の支援もSV成長のためには,欠かせない.SV研究会後に参加者を一番近くで,見守り,指導する立場にあるためである.

また,すべてのSVにアプローチできていない点については,現在もSV研究会を開催できる後継者を育成中だが,後継者をもっと多く育成できれば,より多くのSVにアプローチすることができると考える.推定4〜5万人いると言われるすべてのSVにアプローチできなくとも,全体の10%前後のSVにアプローチできれば,SV,そしてコンタクトセンタ業界全体を変えられるきっかけになるのではないかと考えている.

7.SV研究会の開催による波及効果

7.1 卒業生同士のネットワーク拡大

2013年8月にSV研究会を立ち上げてから,卒業生も計180名と増えた.卒業生同士の交流も図られるようになり,2017年11月には,SV研究会のOB会「SV寺子屋」も設立し,SV研究会卒業生による自主的な勉強会も開催されるようになった.卒業生が能動的に行動するようになったのも,SV研究会でSVと交わした「行動を起こすこと」という約束が結実した結果だと感じている.

7.2 社内での位置付け変化

第1期は,出張費の問題で,筆者の所属するヤフー(株)の社員は参加できなかったが,第2期以降,SV研究会に対する会社の理解もあり,出張費などの予算も確保されるようになった.SV研究会のやっている意義や参加者の参加後の変化が少しずつ社内でも認知されるようになり,管理職に登用される者も多くなっていることから,社内から管理職への登竜門の1つとして認識されつつある.

7.3 後継者の出現

SV研究会は,これまでヤフーのバックアップを受け,上司や部下の協力を得ながらではあったが,筆者一人で切り開いてきたと言っても過言ではない.しかし,筆者だけでSVの問題解決力を底上げするより,より多くの後継者がいれば,もっと幅広くSVを養成できると考え,2016年から後継者の育成にも着手した.SV研究会の開催時に後継者にも問題解決の育成方法を包み隠すことなく,すべて伝授することとした.その結果,SV研究会を後継者自身が所属する会社や他に展開しようとする後継者も現れるようになった.現在は,ヤフー(株)以外を含めて後継者が4名(ぴあ(株),小林製薬(株),(株)ファンケル,弊社)おり,2018年1月から後継者主催によるSV研究会も開催されるようになった.

8.おわりに

問題解決力は,コンタクトセンタの運営の要であるSVにとって必要なスキルの1つであるが,問題解決の習得は,これまでの思考方法を大きく変えるものであり,なかなか習得させることができなかった.しかし,SV研究会を立ち上げ,ケーススタディを中心とした演習を行い,問題解決力をステップごとに習得させ,繰り返し伝えることで定着させることができた.その結果,筆者が所属するヤフー(株)のSVの多くは,管理職に登用されるようになり,ヤフー(株)以外のSVもキャリアアップをすることができた.また,SV研究会の開催を通して,問題解決の知見も蓄積でき,問題解決力のある人とそうでない人の特徴を究明することもできた.

最後に,コンタクトセンタの要であるSVが変わっていかなければ,コンタクトセンタが変わらないと感じて,SV研究会を立ち上げたのだが,教えることにより,筆者自身も学ぶことは多くあったように思う.コンタクトセンタの現場で,今日もSVは,問題に直面している.多くのSVがこの論文を参考にして,問題解決力を身に付けられることを希望して,執筆を終えたいと思う.

参考文献
  • 1)渡辺健介:世界一やさしい問題解決の授業,ダイヤモンド社 (2007).
  • 2)大嶋祥誉:マッキンゼー流入社1年目問題解決の教科書,ソフトバンククリエイティブ (2013).
  • 3)日本コールセンタ協会,http://ccaj.or.jp
  • 4)日本コンタクトセンタ教育検定協会,http://www.conken.org
  • 5)HDI-JAPAN,https://www.hdi-japan.com
  • 6)ICMI,http://icmi.jp
  • 7)プロシード,http://www.proseed.co.jp/index.html
  • 8)諏訪良武:たった2つの質問だけ! いちばんシンプルな問題解決の方法,ダイヤモンド社 (2010).
  • 9)若松義人:トヨタ式世界を制した問題解決力,経済界 (2007).
寺下 薫(非会員)kterashi@yahoo-corp.jp

ヤフー(株)SR推進統括本部CS本部本部企画部トレーニングマネージャ.ソフトバンクユニバーシティ認定講師.北九州センタの立ち上げやレスキューセンタ立ち上げをはじめ,これまでに多くのコンタクトセンタの立ち上げ,立て直しに従事.同時にSVや管理職の人材育成にも従事している.SV養成塾である「SV研究会」を2013年に立ち上げ,コンタクトセンタ業界の底上げを行っている.ソフトバンクユニバーシティでも,問題解決を専門に研究しており,現在,IT協会カスタマーサポート表彰制度審査委員を務めている.

採録決定:2017年12月25日
編集担当:新田 清(ヤフー(株))