デジタルプラクティス Vol.9 No.2 (Apr. 2018)

コンタクトセンタにおける社員満足度と顧客満足度の関係性について

田口 浩1

1(株)東京海上日動コミュニケーションズ 

日本国内のコンタクトセンタの現状の課題は,人材の採用である.人材の採用が難しい状況は国内全域にわたり,採用が厳しくなるなかで,コンタクトセンタは,AI(人工知能)やチャットを利用し生産性を向上する取り組みや,FAQやチャットボットなどのセルフサポートシステムを利用しコールの削減の取り組みを行っている.また,人材の採用が厳しいため,既存の社員の退職を防止する取り組みも行われている.退職防止のためには,社員のモチベーションを維持・向上させるマネージメントが重要である.社員モチベーションの低下は,社員の退職だけでなく,顧客満足度にも影響を与えることになる.本稿では,社員満足度と顧客満足度の関係性について明らかにし,コンタクトセンタでは,人材に対する投資も重要であることを解説する.

1.はじめに

現在,国内の多くのコンタクトセンタが抱えている問題は,人材の採用難である.2017年8月の国内の有効求人倍率は1.52倍となり,1990年の高水準バブル期の1.43倍以来の高水準となっている.人材の採用難は,コンタクトセンタに限った問題ではないが,労働集約型の産業であり,その多くが非正規社員で運用されているコンタクトセンタは,人気のある職種でもないため,人材の採用難は深刻な問題となっている.

コンタクトセンタの業務には,顧客からの直接の問い合わせに対応するインバウンド業務と,企業から顧客に対し発信を行うアウトバウンド業務がある.インバウンド業務において人材不足は,顧客への提供サービスの低下につながるため,顧客満足度を低下させてしまう恐れがある.そのため,企業にとっては重要な問題である.たとえば,顧客からの電話に対し,対応できるオペレータが不足していると,電話に即時に対応することができないため,長い時間待たせてしまうことや,電話がつながらないため,電話を切断させてしまうことになり,顧客の不満を引き起こす原因となる.コンタクトセンタの重要な役割のひとつに,顧客との良好な関係を構築し維持・向上することがあるが,人材不足によりこの重要な役割を果たすことができなくなってしまう.コンタクトセンタはこのような環境下において,人材不足による顧客サービス低下のリスクを回避するために,さまざまな対策を講じている.

2.人材採用の現状

図1は厚生労働省が毎月発表を行っている,全国の有効求人倍率(季節調整値)の推移である[1].2015年9月以降,求人倍率は毎月上昇し続けており,人材採用は年々厳しい状況となっている.

図1 全国の有効求人倍率の推移

人材の採用環境が厳しくなり,コンタクトセンタは,拠点を地方に分散することや,採用時給の引き上げにより,人材の確保を行ってきた.

図2は,コンタクトセンタの集積地である,北海道,福岡,沖縄の有効求人倍率(季節調整値)の推移である.図2のグラフからは,地方においても有効求人倍率は年々上昇傾向にあり,採用環境が厳しい状況となっていることがわかる[2].

図2 コールセンタ集積地の有効求人倍率の推移

図3は,北海道,福岡,沖縄のコンタクトセンタでの採用時給の推移であるが,年々時給が上昇していることがわかる.

これらのデータから,コンタクトセンタの採用環境は全国的に厳しい状況となっていることが明らかである.全国的に人材の採用が厳しい環境となり,今後もこの状況が続くと予想されるため,コンタクトセンタは,次の新たな対策を講じている.

図3 コールセンタ集積地の時給推移

3.定着率向上の取り組み

図4は採用難に対する対策についてのアンケート調査結果である.調査結果では,63.6%のコンタクトセンタが社員の退職防止に取り組んでいると回答している.

図4 採用難に対する対策(n=132)

コンタクトセンタは退職率が高い職場であるが,人材採用が厳しい環境となり,採用者数を減らす必要があるため,既存社員の退職防止の取り組みを強化していることがわかる.退職者が増加することは,採用の観点だけでなく,運用コストや生産性にも影響を与える.前章で解説したように,退職者の増加は,採用コストも増加することになる.また新人社員は,既存社員と比較して一定期間生産性が低いため,組織全体としての生産性は低下することになる.図5は,新人社員と既存社員の生産性を比較したグラフである.新人社員が研修後に電話対応を開始した9月は,既存社員と対応時間が668秒の差が出ている.1時間の処理件数で考えると、既存社員が1時間で4件の対応ができるのに対し,新人社員は2件しか対応できないため,新人社員は既存社員の半分の生産性しかないことになる.半年後では126秒の差となっているが.1時間で約1件の生産性の違いがある.生産性は徐々に向上しているが,新人社員と既存社員との生産性の違いは明らかである.このように,新人社員の生産性は既存社員に比較して一定期間は低くなるため,多くの退職者が発生した場合には,退職者数と同じ要員数を補充しても,一定期間は生産性が低下してしまうことになる.

図5 新人社員と既存社員の生産性の差

既存社員の退職を防止するためには,社員のモチベーションを低下させないことが重要である.そのため,コンタクトセンタでは,表彰制度,季節のイベント(クリスマスパーティやハロウィーンのイベントなど)の開催や,派遣社員や契約社員から正社員の登用制度を導入することで,モチベーションの低下を防ぎ,退職防止をはかっている.また,2018年より改正労働契約法が改訂され,非正規社員の雇用制度が,有期労働契約が5年を超える場合には,有期契約労働者による申し込みがあれば無期契約に転換しなければならなくなる.そのため,転換先として,職種(コンタクトセンタ業務)や,働く地域を限定した限定社員制度を新たに導入するコンタクトセンタも出てきている.非正規社員から,コンタクトセンタ業務に限定した正規社員に登用することで,モチベーションを向上させ,退職を防止する対策でもある.

コンタクトセンタのマネージメントでは,モチベーション低下が退職のきっかけともなるため,モチベーションを維持・向上させるためのマネージメントが最も重要である.顧客からの問い合わせを受け付けているインバウンドのコンタクトセンタは,顧客セールスを行うプロフィットセンタとは違い,トップラインへの貢献度合いを数値化することが難しいため,コスト削減の要求を受けることが多い.コンタクトセンタの運用コストの内訳では,人件費の割合が最も高いが,人件費を削減することは,顧客対応を行うオペレータ数を削減することになり,顧客サービスやサービス品質を低下させてしまうことになる.そのため,コスト削減の取組では,最初に人件費以外の費用を削減することが多い.コンタクトセンタでは,モチベーション向上のために表彰制度や,さまざまなイベントを開催しているが,これらの施策を取りやめることで,コスト削減を図ることができる.ただし,すべての施策を取りやめるなど,行き過ぎたコスト削減を行うことは,社員のモチベーションに大きな影響を与えてしまうことになる.イベントなどの中止は,コンタクトセンタで働く社員が,自分たちが会社から大切にされていないと感じさせてしまう可能性があるためだ.そのため,モチベーション向上のための施策を取りやめる場合には,慎重な判断が求められる.

3.1 行き過ぎたコスト削減が社員に与える影響

過去に当社は,行き過ぎたコスト削減を実施した経験がある.当社は2014年度にコンタクトセンタ部門の目標として,コスト削減を設定し取り組みを行った.表彰制度や,社内イベントの廃止,採用コストの削減など,行き過ぎたコスト削減となり,結果的に社員の退職率を急激に引き上げてしまう結果となった.図6は当社の退職率年次推移のグラフである.2013年度までは退職率は10%以下で推移していたが,2014年度には14.1%となり,4.3ポイント増加してしまっている.急に退職率が増加してしまったのは,行き過ぎたコスト削減の取り組みに原因があったと考えられる.

図6 退職率の年次推移

当社は,コンタクトセンタで働いている全社員を対象とし,年1回,アンケート方式による社員満足度調査を実施している.図7は,2012年度から2016年度に実施した社員満足度調査の項目で,会社に対する総合的な満足度評価の集計結果である.評価は,5段階評価(5:大変満足,4:満足,3:どちらでもない,2:不満,1:大変不満)で調査を実施している.図7で示した総合満足のTop2Boxとは,5段階の評価のうち,5:大変満足,4:満足と回答した合計の割合である.2013年度に比べ,2014年度は,満足度の合計が,53.0%から45.0%になり,8ポイントも急激に低下している.

図7 社員の会社に対する総合満足度のTop2Boxの推移

このアンケートの調査に記載されたコメント等も含めて,満足度が低下した原因についての分析を行った結果,社員が不満と感じた上位項目が図8である.この結果から,コスト削減の取り組みについて,会社からの方針説明が明確に伝えられていないことに対する不満(なぜコスト削減の取り組みを今しなければならないのか,会社から明確な説明がないため,取り組む理由がわからないという不満)や,会社や自身の将来に対する不安などから,モチベーションが低下し,さらに仕事に対する閉塞感につながり,結果的には,会社に対する不信感となり,退職者が急増した要因となったと考えられる.また,この状況のままで何も対策をしなければ,退職者はさらに増加すると予想されたため,会社として退職防止の対策を行うことが急務な状況でもあった.

図8 不満要因の分析

3.2 社員の不満を取り除く

社員の退職を防止するためには,図8の不満要因をできる限り取り除き,不満を解消することと,仕事に対するモチベーションを高め,仕事での満足感を得ることができるようにする施策を講じる必要があった.この対策の策定には,フレデリック・ハーツバーグ(Frederick Herzberg)の二要因理論を参考とした[3].ハーズバーグは,米国の臨床心理学者である.ハーズバーグは,ピッツバーグのエンジニアと経理担当者を対象としたアンケート調査を実施し,その結果の分析から, 人間には「動機づけ要因(motivator)」と「衛生要因(hygiene factors)」の2種類の異なる欲求があることを発見した.動機づけ要因は,職務に内在し,達成,達成の承認,仕事そのもの,責任,昇進,成長などがある.衛生要因は,仕事以外のところに存在し,会社の方針と管理,監督,監督者との関係,労働条件,給与,同僚との関係,個人生活,部下との関係,身分,保障などがある.ハーズバーグは,この2種類の欲求は職場における人間的条件の一部であり,片方の欲求が満たされない場合には,別の欲求が完全に満たされていても満足感は得られないとした.

この二要因理論を参考に,社員の不満を取り除くことと,仕事に対するモチベーションを高め,仕事に対する満足感を高めるという2つの取り組みが必要であると考えた.最初に,社員の不満足を取り除くための施策として,以下を実施した.

(1) 社長または役員から全社員に向けた会社方針の説明会を開催

(2) 管理職と担当する従業員(正社員,契約社員)との面談を毎月実施

(3) 会社が実施するリラクゼーション施策

(4) 経営層との直接対話(ダイアローグ)できる機会の提供

(5) 家族が参加できるファミリーデーの開催

(6) 他社コンタクトセンタとの交流会の実施

(7) 評価制度の改善

これらの取り組みは,直接仕事に係るものではなく,ハーツバーグの衛生要因の不満を解消するための施策である.上記の取組は,会社の方針と管理:(1)(4),労働条件:(3),管理者との関係:(2),同僚との関係:(5)(6),給与:(7)にあたる.

上記施策を実施した結果,2015年度の退職率は,前年より4.4ポイント改善し,9.7%となった(図6).

社員の総合満足度も,45%から50.8%と5.8ポイント改善した結果となった(図7).

3.3 動機づけの取り組み

1年目の施策は,社員の不満を取り除くための施策を中心に実施し,2年目は社員満足とモチベーションの向上を目指した施策を実施した.社員の満足度を向上させるためには,不満を解消するだけではなく,仕事に対する動機づけの施策も必要となる.

仕事に対する動機づけの施策には,エドワード・L・デシ(Edward L Deci)の「外発的動機づけ理論」「内発的動機づけ理論」を参考とし実施した.エドワード・L・デシは,米国の心理学者である[4].デシは,動機づけには,表彰,給与・賞与,昇進などの外的な報酬により動機づけを行う「外発的動機づけ」と,自身の「有能さ(=コンピテンシー)」と,自信が能動的に行動する「自己決定」を感じることにより動機づけされる「内発的動機づけ」があることを発見した.外発的動機づけの特徴は,外部からの要因でモチベーションを向上させるため,短期間しか維持しないことである.一方,内発的動機づけは,自発的な活動のため,長期間にわたりモチベーションが継続するという特徴がある.外発的動機づけと内発的動機づけは,同時に併用することが可能である.両者の特徴から,社員の動機づけを高めるためには,最初に外発的動機づけにより,モチベーションを高め,次に,内発的動機づけにより自発的な行動によりモチベーションを高める施策を実施することとした.以下が,外発的動機づけを高めるために行った施策である.

(1) 表彰制度の実施
四半期単位で業務に関係する表彰内容を設定(出勤率,ありがとうと言われた件数など)

(2) ハッピー&スマイルポイント表彰
(社内で働く仲間に対し「ありがとう」「素晴らしい」などの感謝や称賛に対し投票し,投票された社員はポイントが付与され,半年間のポイント累計が高い社員を表彰するという取り組み)

(3) 職場環境改善コンテスト
職場環境の改善に関する提案を社員から募集し,採用可否を決定する会議には,社長を含めた役員が参加.社員からの提案は45件あり,34件が採用された.

(4) 仕事のやり方改善コンテスト
仕事のやり方について,個人またはチームで改善を実施し,コンテストに応募してもらう.改善の成果や良いアイディアに対し表彰を行う

これらの施策は,表彰など,外的な報酬による動機づけとなるため,外発的動機づけの施策にあたる.

3.4 動機づけの取り組みによる成果

2年間にわたり,社員の不満を取り除き,モチベーションの向上施策を実施した結果,2016年度の退職率は2015年度の退職率に対し0.3ポイントの改善であったが(図6),社員の総合満足度については,2015年度と比較し,12.1ポイント向上し,62.9%となった(図7).2年間のさまざまな施策により,退職率を低下させ,社員満足度を向上させる成果を得ることができた.

3.5 社員満足度と顧客満足度の関係性

コンタクトセンタは,顧客と直接対応する業務を行うが,社員の満足度の向上が顧客に影響があったかを検討する.図9は2014年度から2016年度までの顧客満足度調査の結果である.

図9 顧客満足度調査結果Top2Boxの推移

顧客満足度調査は,コンタクトセンタを利用した顧客に対し,アンケート調査による5段階評価で実施している.図9は,アンケート項目の総合満足度の調査結果で,「大変満足」と「満足」と評価した,Top2Boxの合計の割合である.総合満足度のTop2Boxの合計値は,2014年度の88.3%から2016年度は91.5%と3.2ポイントの上昇であった.内訳を見てみると,大変満足と評価した顧客については,2016年度は2014年度と比較して,9.8ポイント上昇している結果となった.顧客とオペレータが直接会話をする接点をサービス・エンカウンタという.サービス・エンカウンタでは,顧客はコンタクトセンタのサービスを実際に体験する瞬間でもあるため,MOT(Moment of Truth = 真実の瞬間)とも呼ばれている.このサービス・エンカウンタで顧客が経験したコンタクトセンタのサービスに対する評価について,大変満足と評価した顧客が増加したと考えられる.サービスエンカウンタの評価は,顧客対応を行うオペレータの評価でもあるため,オペレータのモチベーションが向上したことで顧客対応品質が向上し,大変満足と評価した顧客が増加したと考えられる.

図10は,同アンケート調査の総合満足度の項目で,大変不満足と評価した顧客の割合の年次推移である.

図10 顧客満足度調査 大変不満足の推移

2014年度は大変不満足と回答した顧客は0.5%であったが,2015年度は0.1%,2016年度は0%と低減している結果となっている.以上のデータから言えることは,社員のモチベーションが高くなったことにより,顧客への対応品質が向上し,結果として大変満足と感じた顧客が増加したと考えられる.

当社では,2015年度より顧客ロイヤリティ指標のひとつであるNPS®(ネット・プロモーター・スコア)を実施している.NPS®は,2003年にBAIN&COMPANYで開発された,顧客ロイヤリティを測定する指標である[5].質問は「当社のコンタクトセンタを友人や知人に勧める可能性はどのくらいありますか」という質問に対し,0:全くない,から10:非常にあるという11段階で回答してもらう.9または10と回答した顧客を推奨者としてセグメント分けを行う.推奨者は,親しい人に勧めるという企業にとってプラスとなる行動を取る可能性が高く,ロイヤリティの高い顧客セグメントである.

図11はNPS®を算出する計算式である.NPS®では,推奨者が増加することで,NPS®の値がプラス側に向上することになる.

図11 ネット・プロモーター・スコアの算出方法

図12は当社が実施したNPS®における推奨者(図11の9か10に評価を付けた顧客)の割合の年次推移結果である.2016年度は2015年度と比較し49.9%であったが,2016年度は11.3ポイント向上し61.2%となっている.当該結果についても,オペレータの対応品質が向上したことによる成果だと考えられる.

図12 NPSにおける推奨者割合

2年間の従業員満足度向上の取り組みにより,従業員の満足度を向上させる結果となったが,同時に顧客満足度も向上させる結果となった.

図7図12の結果から,社員満足度の向上とともに,NPS®の数値も向上していることがわかる.この結果から,社員の満足度と顧客満足度は関係性があると言える.

4.内発的動機づけとGood Cycleの構築

これまでの説明により,社員の不満足を取り除き,外発的動機づけによりモチベーションを高めるまでの解説をおこなった.モチベーションを長く維持させるためには,仕事を頑張ろうという自発的な意識(=内発的動機づけ)を社員が持つことが重要である.コンタクトセンタの社員は,顧客からの心のこもった「ありがとう」の言葉により,次の対応も頑張ろうという思いにつながる.つまり,顧客からのお礼の言葉や感謝の言葉が,顧客と直接対応を行う社員のモチベーションの源泉ともなっている.

筆者も過去にオペレータ業務を8年間経験したが,本当に困った問題を抱えた顧客はコンタクトセンタに電話をかけるという行動を取り,問題が解決した時には心からの「ありがとう」という感謝の言葉になる.この言葉が,社員のモチベーションの源泉となるのだ.月刊コールセンタージャパン誌が行ったコールセンタで働いている人への調査結果において,「今の職場で働いてよかったと思える体験をしたことがあるか」という質問に対する回答に76.5%があると回答し,その回答者のうち32.1%が「顧客に感謝された」ことが働いていてよかったと思う要因だと回答している[6].

図13は,Good Cycleプロセス図である.外発的動機づけによりモチベーションが向上したオペレータは,高品質で親身な顧客対応を行う.この対応により顧客満足は向上し,この経験を通し顧客はそのコンタクトセンタの推奨者となる.推奨者の顧客は,対応したオペレータに対し,心からの感謝やお礼の言葉を伝える.この言葉を聞いたオペレータは,モチベーションが向上し,自発的に次の顧客対応も頑張ろうという意識を持つ.この意識は,自発的であり,内発的な動機づけであるため,長期間にわたり継続させることが可能となる.以上のようなサイクルを作り出すことで,内発的動機づけを持たせることが可能となる.このプロセスを作り出すためには,オペレータが顧客の問題に対応できる知識とスキルを持つ必要があるため,知識・スキルを高めるための研修など,人材への投資が必要である.

図13 Good Cycleプロセス

5.コンタクトセンタの変革

コンタクトセンタは,顧客にサービスを提供する組織である.図14はコンタクトセンタが顧客対応で利用しているチャネルの状況である.

図14 コールセンタで対応しているチャネル(2016年n=213・2017年n=204・複数回答あり)

国内のコンタクトセンタでは,まだ電話による問い合わせが主流である.電話で顧客にサービスを提供するためには,顧客からの電話に迅速に対応しなければならない.顧客からの電話に迅速に対応するためには,顧客からかかってくる電話の件数と,電話に対応するオペレータの配置数が重要となる.顧客からの電話に対し,対応することができるオペレータがいない場合には,顧客にサービスを適切に提供することができなくなってしまう.

図15はコールセンタを利用したことがる消費者に対するアンケート調査結果である.消費者がコールセンタに対し不満を持つ要因として,オペレータにつながるまでの待ち時間が長いことや,電話しても話中によりすぐにつながらないことに対し,不満を持っていることが見て取れる.電話を長く待たされた顧客は,電話がなかなかつながらなかったことに対し不満を持つ.顧客の中には,電話がすぐにつながらなかったことに対し,怒りだす顧客もいる.コンタクトセンタのサービスは,顧客との協働によりサービスの提供がなされるため,顧客が怒ってしまい協力を得ることができなければ,サービスを提供することができなくなってしまう.また,待ち時間が長くなると,電話を切断してしまう顧客もいる.顧客と会話ができなければ,サービスの提供を行うことができない.上記の例のように,顧客との電話対応がスムーズに行えないときには,顧客に対し適正なサービスの提供ができないことになる.

図15 これまで,コールセンタに不満をかんじたことがあれば,その理由(n=1200,複数回答あり)

このように,人材の不足は,コンタクトセンタが提供するサービスやサービス品質(たとえば電話のつながりやすさなど)に大きな影響を与えることになる.人材の採用環境が厳しくなり,今後もこの状況が改善されることは難しいと予想されるため,コンタクトセンタでは,人材確保の取り組みだけでなく,オペレータ一人当たりの生産性を向上させる取り組みや,電話による照会件数を減らす取り組み,現在働いている従業員の退職を減らす取り組みに力を入れ始めている.

5.1 オペレータの生産性向上の取り組み

オペレータ一人当たりの生産性を向上させるための取り組みとして,AI(人工知能)や新たなチャネルとしてチャット対応システムなどの,ITソリューションを導入するセンタが増加している.

図16はコンタクトセンタですでに導入されている顧客対応チャネルと,今後導入を予定しているチャネルについてのアンケート結果である.アンケート結果からは,チャット対応システムとAI関連ソリューションについて導入または導入予定と回答しているコンタクトセンタが多いことが見て取れる.

図16 主な導入/導入予定ソリューション(n=204,複数回答あり)

図17は,コンタクトセンタAIを利用した顧客対応プロセスの一例である.顧客からの問い合わせに対し,オペレータが質問内容を復唱するなどし音声認識のAIにより,質問内容がテキストデータに変換される.変換されたテキストデータから,AIによるナレッジ検索を行う.検索結果(=質問の回答候補)がオペレータの画面に表示され,オペレータは回答候補の中より,質問に対する適切な回答を選択し,顧客に回答を行う.

図17 コンタクトセンタでのAIの利用例

それまでは,顧客の質問に対して,紙のマニュアルや社内に分散している複数のナレッジベースから回答を探していたため,回答を探し出すまでに時間がかかることもあり,結果的には顧客に回答するまでの時間が長くなってしまうことがあった.AIを利用することで,顧客の質問に対する回答を即時にナレッジから探し出し,オペレータの画面に回答候補が表示すされるため,オペレータが回答を探す時間が短縮され,顧客に回答するまでの時間を短縮することができる.このように,AIを利用することで,1件当たりの平均処理時間(AHT)を効率化することができるため,オペレータの生産性を向上させることができる.SoftBank社では,IBM社の人工知能Watsonを2016年度よりコールセンタに導入しているが,オペレータ1件あたりの平均処理時間は2015年度対比で15%削減される結果となっている[7].みずほ銀行においても,IBM社のWatsonをコールセンタに導入し,1件あたりの平均処理時間(AHT)が1分間短縮されている[8].

また,新たな顧客対応チャネルとして,テキストによるチャット対応システムを導入するセンターも増加している.チャット対応システムとは,インターネット上で,主にテキストにより,顧客とオペレータが双方向で情報のやり取りを行うことができるシステムのことである.図16の調査結果では,37.8%のコンタクトセンタがチャット対応システムをすでに導入または導入予定と回答している.電話での対応では,オペレータ一人が一人の顧客しか対応することができないが,チャットでは,一人のオペレータが同時に複数人の顧客対応を行うことができる.そのため,オペレータ一人当たりの生産性を向上させることができる.米国FCR社が2016年に行ったチャットサポートのベストプラクティス調査では,一人のオペレータが同時に対応する顧客数については,2名から3名が多く,最大では同時に6名の対応を行っているコンタクトセンタもある[9].

チャットでの対応は,Web上のホームページから受け付けていたが,顧客の利便性向上のため,FacebookやLINEなどのソーシャルメディアを利用するコンタクトセンタも増加している.ソーシャルメディアを利用しチャット対応を行うことで,スマートフォンからでも簡単にチャットを利用することができるようになり,30代以下の若い世代の利用が拡大している.今後は電話と同様に,コンタクトセンタの顧客対応チャネルの一つとして定着していくと予想される.

5.2 コール削減の取り組み

オペレータの配置人数は,顧客からの電話件数に応じて増減する.配置するオペレータの人数を減らすためには,顧客からの電話(=コール)による問い合わせ件数を減らす必要がある.顧客からの電話件数を減らすための取り組みとしては,企業内のWebページに,コンタクトセンタによくある問い合わせ内容とその解決方法を公開し,顧客自身で問題を解決してもらい,コンタクトセンタへの電話件数を減らす方法がある.ホームペーシに公開する「よくあるお問い合わせ」は,FAQシステムを利用し公開することが多い. FAQは英語のFrequently Asked Questionの略語であり,日本では「よくある質問」と訳される.FAQシステムとは,コンタクトセンタによくあるお問い合わせを,Webページに公開し,顧客がキーワードや自然文を入力することで,知りたい情報を検索することができるシステムである.FAQシステムのように顧客が自身で問題を解決することができるシステムのことを,「セルフサポートシステム」という.スマートフォンやタブレット端末の普及により,インターネットを利用する利便性が向上し,顧客もコンタクトセンタに電話をかける前に,企業のWebページなどで問題の解決方法がないか検索をすることが多くなっている.FAQシステムのようなセルフサポートシステムを活用することで,顧客の問題を顧客自身が解決することができれば,コンタクトセンタに電話をする必要がなくなるため,コンタクトセンタへの電話件数を減らすことができる.

無線LAN(Wi-Fi)機器や各種メモリーなどのパソコン周辺機器のメーカのBuffalo社では,アンケートの結果から,コールセンタへのお問い合わせをする8割の顧客が最初にWebサイトを閲覧していることがわかり,FAQを顧客に使いやすいように改善し,電話量を4割削減することに成功している[10].

また,Webページに掲載されているFAQで問題が解決できなかった場合には,Webページから直接オペレータへのチャット対応に誘導することができるため,FAQシステムとチャット対応でシームレスな連携により顧客対応を行うことができるため,電話による問い合わせ件数を削減することができる.また,最近では簡単な質問については,無人で顧客対応を行うことができる,チャットボットシステムの導入も増加している.チャットボットとは,チャットとロボットの略称であるボットを組み合わせた造語である.チャットボットは,顧客との簡単な会話により,質問の回答をすることや,顧客が必要としている情報を提供することができるシステムである.チャットボットシステムも無人で顧客対応を行う,セルフ・サポートシステムのひとつである.以上の説明のように,顧客からの電話を削減する取り組みとしては,セルフ・サポートシステムを導入し,無人対応による顧客対応を行うことで,問い合わせ電話を削減する取り組みを行っているコンタクトセンタが増えている.アスクルの個人向け通販サイトLOHACOでは,2014年9月からチャットボットとFAQにより無人での顧客対応を実施している.顧客からの問い合わせの3分の1を無人で対応することで,6.5人分の省人化を実現している[11].

6.最後に

コンタクトセンタは,採用環境が厳しくなり,要員不足を補うために,AIやチャットボットなど,無人対応が可能となるITへの投資を積極的に行っている.一方で,今回の実績結果より,顧客対応の最前線であるコンタクトセンタで働いている社員に対し,会社が社員を大切にするという方針声明や,社員への投資も重要である.

コンタクトセンタの先進国である米国では,1992年に,ジョージ・ブッシュ(George H W Bush)大統領の議会宣言により制定された「CS Week(カスタマ・サービス:ウィーク)」がある.コールセンタで働く社員の日頃の頑張りに報いるため,10月の最初の1週間を「CS Week」として,さまざまなイベントが行われる.このイベントでは,経営層が社員が通勤している車を洗車することや,1週間だけ自動販売機のドリンクを無料にすること,経営層や管理職がドリンクを無料で社員に配布するなど,コンタクトセンタで働く社員のためのイベントとして実施されている.CS Weekは,米国から,ヨーロッパ,アジアにも広がりを見せているが,残念ながら日本では外資系企業の一部でしか開催されていない.米国のように,コンタクトセンタで働いている社員を大切に思い,会社として取り組むCS Weekのようなイベントは,社員のモチベーションも向上すると考えられる.一方で,米国はITによる無人化,自動化は日本よりも進んでいるが,コンタクトセンタの会員制コンサルティングを行っているCEBの最新の調査では,米国ではITによる無人化,自動化に積極的な投資を行ってきた結果,人による対応は,顧客が「セルフサポート・システム」で解決できなかった,複雑で難しい問題や苦情への対応が増加することになった.しかし,顧客からの難しい問題を対応するための研修への投資を行ってこなかったため,社員は複雑で難しい問題を対応することに疲弊し,2010年以降,退職率が上昇している状況となった.2010年以前の平均退職率が19%であったのに対し2010年以降は24%と5ポイント向上しているという調査結果が報告されている[12].また,退職者の補充のため,新人の採用を行い顧客対応を行わせるが,経験が未熟なスタッフが対応しているため,解決までに時間がかかり,1件当たりの処理コストも,2009年は,平均7ドルであったが,2014年は10ドル近くまで上昇する結果となった.離職率が高まると,採用費用や研修費用などがかかりコンタクトセンタの運用コストが増加してしまうため,社員の退職防止として,給与の引き上げを行っている企業もある.

現状日本も,ITへの積極的な投資を行っている途上であるが,米国の事例のように,社員への投資を適切に行わなければ,米国と同様な事象に陥ると考えられる.顧客対応の無人化や自動化は今後も急速に拡大されていくと予想されるが,すべての顧客対応を無人化することは現状ではできない.特に人の感情面に対する対応は,AIでも難しいことだと筆者は考えている.そのため,ITへの投資だけでなく,コンタクトセンタで働く人に対する投資も適切に行うことも重要である.ITへの投資と人への投資のバランスを適切に取ることが,これからの経営者や管理職に必要となるマネージメントスキルであると考えられる.

参考文献
  • 1)厚生労働省:一般職業紹介状況(2017年8月分)について,http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000178536.html
  • 2)月刊コールセンタージャパン編集部(編):コールセンタ-白書2017,(株)リックテレコム (2017).
  • 3)フレデリックハーツバーグ:モチベーションとは何か,DIAMONDハーバードビジネスレビュー2003年4月号 (2003).
  • 4)ゲイリー・レイサム,金井壽宏,依田卓巳:ワーク・モティべーション,NTT出版 (2009).
  • 5)BAIN & COMPANY,http://www.bain.com/offices/tokyo/ja/what-we-do/about-nps.aspx
  • 6)月刊コールセンタージャパン2017年5月号,pp.14,(株)リックテレコム (2017).
  • 7)(株)インプレス:IT Leaders,https://it.impressbm.co.jp/articles/-/14514
  • 8)月刊コールセンタージャパン2016年10月号,pp.21,(株)リックテレコム (2016).
  • 9)FCR:チャットサポートのベストプラクティスの調査(2016年10月),http://www.gofcr.com/a-survey-of-chat-support-best-practices/
  • 10)月刊コールセンタージャパン2016年9月号,pp.17,(株)リックテレコム (2016).
  • 11)月刊コールセンタージャパン2016年9月号,pp.36,(株)リックテレコム (2016).
  • 12)マシュー・ディクソン,ララ・ポノマレフ,スコット・ターナー,リック・デリシ:Kick-Ass Customer Service,DIAMOND ハーバードビジネスレビュー 2017年10月号 (2017).
田口 浩(非会員)hiroshi.taguchi@grp.tmnf.jp

1992年(株)東京海上日動コミュニケーションズに入社.現在は同社執行役員兼コンタクトセンタ業務GM.(一社)コンタクトセンタ教育検定協会理事.コンタクトセンタ業界を25年間経験し,コンタクトセンタの専門知識を体系化したCMBOK(Contactcenter Management Body of Knowledge)の開発に参加. 日本で専門的な学習をするための教材として,オペレータやスーパーバイザ,コンタクトセンタ管理者向けのテキスト執筆などを行っている.

採録決定:2018年1月15日
編集担当:澤邉知子(日本大学)