デジタルプラクティス Vol.9 No.2 (Apr. 2018)

エンゲージマネジメント型カスタマージャーニの実践
<カスタマージャーニアセスメントがロイヤルティ向上を実現する>

渡部弘毅1

1ISラボ

顧客ロイヤリティ向上の価値は,継続意向や推奨意向の高い顧客の売上比率を向上させることである.このためには,サービスプロセスの顧客接点を磨き上げ,顧客の体験価値を高めることが重要である.本来,カスタマージャーニの設計はサービスプロセスを磨く手法として有効であるが,顧客体験の実態を効果的に見える化できず往々に絵に描いた餅に終わってしまうことが多い.本稿では,カスタマージャーニアセスメントを中核とした新しいアプローチを使った施策立案により,顧客・経営・現場がWin & Win & Winの関係になり,ビジネスが成功するための勘所を論じていく.

1.はじめに

大半の企業経営者は,顧客志向経営や,顧客にファンになってもらう,等のロイヤルティ向上のミッションを掲げている.ところが現実にマーケティングやセールス現場になると,企業が行っている施策は,低価格や販売促進キャンペーン,ポイント制度などの“消耗戦”に陥っているケースが大半である.プロモーションやセールスの施策の魅力だけでなく,商品やサービス,企業自体のファンになってもらわなければ,顧客は他社に簡単に切り替えてしまう[1].

本稿では,収益に貢献するためのロイヤルティ向上のロジックと施策立案のための取り組み・工夫と成果に関して,実践事例を交えながら論じる.

2.ロイヤルティ向上のロジック

2.1 良い売上をもたらす顧客を増加する

図1に既存顧客を横軸にロイヤルティ,縦軸に売上で分類し,ロイヤルティを高,中,低の3つに分類し各々の顧客の売上に名称をつけた.ロイヤルティの高い顧客の売上は,将来も約束されかつ口コミで新規顧客も増える可能性がある良い売上となる.また,ロイヤルティが中の顧客の売上は,今は購入していただいたが,将来は約束されてはいない不確実な売上といえる.おそらく企業はこの不確実な売上の割合が 最も多いのではないかと想定される.そしてやっかいなのは,ロイヤルティが低い顧客の売上である.今は購入をしていただいているが将来は離反する可能性が高く,悪い口コミでほかの顧客への悪影響も懸念される悪い売上である.

図1 既存顧客の分類

会計上では同じ規模の売上を上げている企業でも,この分類での比率の違いによって,企業の将来の収益性が違ってくる[2].

ロイヤルティ向上の本質的な目的は,売上額の向上ではなく,良い売上をもたらす顧客比率を増加させることである.良い売上の比率を拡大させていくと自然と全社の売上額が向上していくという考えに立脚することが重要である.

2.2 ロイヤルティ向上を支える基本価値と体験価値

ロイヤルティの向上は図2のように基本価値と顧客体験価値の2つの価値の向上によって実現される.

図2 ロイヤルティ向上のロジック

基本価値とは,企業が提供する商品やサービスの土台となる価値であり,ロイヤルティ向上にとっての必要条件ともいえる.分かりやすくいうと,商品を磨くことによって高められる価値である.それに対して体験価値とは,顧客が企業の商品を認知し,購入したり使用したりする各接点で体験する価値であり,ロイヤルティ向上にとって十分条件となり得る価値である.分かりやすくいうと,サービスプロセスを磨くことで得られる価値である.基本価値だけでは競合他社の機能アップや低価格競争で顧客離反という結果に至る可能性が高いが,体験価値を向上させると,機能や品揃え,価格だけの疲弊した勝負に陥らずに高いロイヤルティが獲得できる.

2.3 体験価値を高める手法がカスタマージャーニ

昨今市場ではカスタマージャーニというワードがセミナ等でよく登場する.実際,検索キーワード「カスタマージャーニセミナ」でインターネット検索した結果,約9万件のヒットがあり(2018/1現在)数多くのセミナや研修講座が表示された.カスタマージャーニとは,顧客がどのように企業や商品との顧客接点を持って認知し,その接点での顧客体験を通じてどんな感情を持って,購入や商品利用に至り,その後どんな行動するか,という一連のプロセスを旅に例えた言葉である.カスタマージャーニを見える化して分析することで,顧客対応活動の最適化をはかることが可能となる.すなわち,カスタマージャーニは顧客体験価値を向上させるための施策立案のアプローチである.

さらに,セミナ等で語られるカスタマージャーニには図3に示すようにファネルマネジメント型とエンゲージマネジメント型の2つのアプローチがある.

図3 カスタマージャーニ設計時の2つの視点

ファネルマネジメント型は主に広告代理店等のセミナで語られ,購買意欲の高い顧客を効率良く見つけ,最適な情報発信や販売促進施策を講じて購買に結び付けることに力点が置かれ,マーケティングオートメーション施策が有効になる.すなわち,第2.1節で論じた不確実な売上を短期的に上げるための施策としては有効なアプローチとなる.

一方,エンゲージマネジメント型では顧客との各接点でのネガティブ体験を改善しポジティブ体験を増やすことに力点が置かれ,カスタマーサービス部門を強化する施策が有効であり,良い売上を中長期的に上げるための施策立案のアプローチであり,本稿の主題であるロイヤルティ向上のための体験価値向上には,欠かせないアプローチである.

3. カスタマージャーニアセスメントを中核とした実践可能な施策立案ステップ

3.1 現状のカスタマージャーニアプローチの課題

カスタマージャーニを見える化して施策につなげていくアプローチとして,カスタマージャーニマップ(以下CJM)を作成する手法がある.一般的にはサービス全体の機能や顧客接点を示し,顧客の行動や感情の見える化を行い,図4のような分かりやすい絵として仕上げていく.当然,その中には素晴らしい取り組みとして効果を発揮しているものも多々あるが,筆者が多く聞くCJMに対する現場の問題や課題を図5にまとめた.

図4 カスタマージャーニマップ例
<出典> カスタマージャーニーマップを正しく活用するには「おもてなし」と「カスタマーエクスペリエンス」の理解から(WEB担当者Forum)https://webtan.impress.co.jp/e/2013/11/14/16305
図5 カスタマージャーニマップ(CJM)への声

図5から, CJMを書くことが目的になってしまい,絵に描いた餅状態で具体的施策に使われないままになってしまう事例が多いと想定される.実際,筆者も過去数多くの同様のプロジェクトで外部コンサルタントとして,クライアントのあるべき姿を作成し納品するが,実行に至らない経験を重ねてきた.

3.2 カスタマージャーニアセスメントを中核とする新アプローチ

現場の問題点や課題および筆者の今までの経験を踏まえて,プロジェクトのアウトプットが絵に描いた餅状態にならないために,カスタマージャーニを中心とした施策立案を成功させるための留意点を以下にまとめた.

3.2.1 アセスメント主体のワーク

綺麗なあるべき姿を描く(マップ化)ことに注力するあまり,現状の顧客体験の実態を把握することがおろそかになり,実態と離れた施策案になりがちである.

アウトプットの主体を現状の顧客体験の把握とロイヤルティに影響を及ぼすドライバを特定することに主眼をおくこととし,プロジェクトには必ず顧客接点の現場で働くスタッフを参画させることとする.また,アウトプット名称もカスタマージャーニマップ(CJM)ではなく,カスタマージャーニアセスメント(以下CJA)とする.

3.2.2 顧客の声で検証する

現場スタッフを交えてまとめたCJAは,いわば社内で立案した仮説であり本当に顧客のニーズに合致しているかの判断が困難な場合がある.

作成したCJAから顧客アンケートを実施し,顧客の声からの検証を加えることとする.

アンケート分析にあたっては,ロイヤルティと顧客体験の相関性を分析し,ロイヤルティに影響を及ぼしている施策優先度の高いドライバを明らかにする.

3.2.5 現場系と本社系の2タイプの施策立案

アンケート分析を加えたCJAから施策立案する際には,現場での顧客体験改善施策に加えて投資や組織編制といった経営レベルで意思決定しなくては進まない施策やプロジェクトも立案し,経営サイドへ提案する.

経営レベルへの提案では,顧客の声と現場の声に裏付けされた施策であるため承認も受けやすくなる.

以上の留意点を考慮してプロジェクトワークをステップ化したものを図6に示す.

図6 CJAを中核にした施策立案ステップ

次章では,各ステップの具体的な工夫やアウトプット事例を解説する.

4.各ステップでの工夫と事例

4.1 ステップ1:顧客体験の洗い出し

4.1.1 CJA全体像

図7にCJAで洗い出す情報項目と概要を示す.

図7 CJAで洗い出す情報

第4.1.2項以降で,主要な項目の決定方法や情報の洗い出し方の要領に関して述べる.

4.1.2 カスタマージャーニプロセスの決定

まず最初に決定するのがCJPである.ロイヤルティ向上につながるサービスプロセスを磨く施策を立案するためには,顧客がどんなプロセスと接点を経て自社とかかわりを持っているかを見える化する必要がある.そのためのプロセス単位を決定する.

このプロセス単位は,ワークショップで顧客の体験を洗い出す,あるいは施策を立案する単位でもあり,アンケートで満足度を測る単位でもある.

定義にあたって注意したことは,いわゆるCRM(Customer Relationship Manegement)のMarketing Sales Supportの各プロセスを顧客目線で表現することである.それから自社の商品にかかわる顧客のライフスタイルを考慮してプロセス定義することである.たとえばアパレルショップにとっては,購買後の顧客接点は少なくなるが顧客のライフスタイルを考慮すると,ファッショライフはむしろ購入後の方が長く続くのである.こうした未接点プロセスも定義しておくと,新しい接点をつくり顧客のライフスタイルを支援する新サービスを立案することが可能となり,ロイヤルティ向上につながる.

4.1.3 顧客セグメントの決定

第1章で解説したとおり,施策立案の目的はロイヤルティの向上による良い売上の比率の拡大である.したがって顧客セグメントも,ロイヤルティを比較する単位で分類しなくてはいけない.全顧客のロイヤルティ向上があるべき姿ではあるが,自社の顧客を細分化して,どのセグメントのロイヤルティが高いか低いか,このセグメントのロイヤルティ向上にどういう施策が必要かといった分析と議論が必要となってくる.場合によってはロイヤルティによって自社が重点とするターゲット戦略の見直しにも利用できるような分類でなくてはいけない.

一般的に顧客セグメントは,年齢や住居,家族構成といったデモグラフィック情報によるセグメントを実施する.また小売業であれば,直近の来店日(Recency),来店頻度(Frequency),一定期間での購買金額(Monetary)といったいわゆるRFM情報で分類する.これらに加えて,ロイヤルティ向上プロジェクトではサービスプロセスを磨くための施策を立案するため,顧客との接点の違いによるセグメント,およびCJPで定義したライフスタイルベースでのプロセスを意識したセグメント分けをしておくと施策立案につながりやすくなる.

図8に整体サービスにおけるCJPと顧客セグメントの決定事例を示す.ボディメンテナンスライフの中で自社がどうかかわっているか,また顧客ロイヤルティや各プロセスでの満足度の違いを測る顧客セグメントとして定義した結果,新たなセグメントでの事業機会を発見できた.

図8 整体サービスでのCJPとセグメント例
4.1.4 ワークショップによる顧客体験の洗い出し

CJPが決定すれば,CJPに従って顧客体験の洗い出しを実施する.その際には,顧客の実体験に近い内容を網羅性高く洗い出すための工夫が必要となる.

まず重要なことは,顧客接点に近い現場スタッフを交えたワークショップを実施することである.このステップでは綺麗な絵を書くことが目的ではない.したがって現場実態をあまり理解していない企画部門や外部のコンサルタントだけで進めるべきではない.コンサルタントを使う場合でもファシリテータの位置づけでワークショップをリードし,実際の意見は現場スタッフから出してもらい,出てきた意見をまとめる役割に徹するべきである.

次に重要なことは,網羅性を持った洗い出し手法を使うことである.ワークショップでは一人ひとりがプロセスごとにポストイットで顧客のネガティブ体験,ポジティブ体験を書いてファシリテータがまとめていく,というスタイルが望ましい.その際に洗い出しの網羅性を増すために,図9で示すサービスサイエンスの6つのサービス品質をベースに洗い出すと効果的だ[3].

図9 顧客体験洗い出しワーク内容[3]

まずは,プロセスが終わったときの成果価値を決める.成果価値とはそのプロセスが終了したときに顧客はどんな状態であってほしいかである.店舗における入店回遊プロセスで例にとると,成果価値は,「これからのショッピングにワクワクしている」や「ずっとこの店に長くいたい」と思っていただくのが成果価値である.

成果価値をスタッフ間で共有できれば,その成果価値を目指す過程で顧客がどんなネガティブ,あるいはポジティブ体験をしているかを洗い出す.その際に6つのサービス品質を念頭に置きながら,各品質が発揮されずネガティブな体験をしている具体的事例,あるいは各品質が大いに発揮されてポジティブ体験をしている事例をポストイットに書き出していく.これにより,網羅性を増した多くの事例が洗い出される.たとえば,入店回遊プロセスにおいて,好印象が損なわれるケースとして,「入店時にスタッフがいない」,あるいは「挨拶の仕方が雑だ」,といったネガティブ体験を洗い出す一方で,共感性が発揮できて,「前回購入した商品を覚えてくれていてそれに関する挨拶を受けた」といったポジティブ体験も洗い出す.同じ挨拶といった体験でも,サービス品質を念頭にさまざまな体験を具体性かつ網羅性を持って洗い出すことが重要である.この網羅性を増すための工夫は意見を出す現場スタッフより,ファシリテータに求められるスキルである.

4.2 ステップ2:アンケートの取得

4.2.1 アンケート内容と分析鳥瞰

図10がアンケート内容と分析の概要である.まず顧客のロイヤルティを測るためのアンケートとして,推奨意向と継続利用意向の設問を設ける.さらに,ロイヤルティを測るセグメントとしてステップ1で定義した顧客セグメントを調査する設問を設ける.

図10 アンケート内容と分析鳥瞰

顧客セグメントの特定とロイヤルティの測定ができ,さらに自社内にある顧客情報(CRM情報)からアンケート回答者の顧客属性や購買額が紐づけされれば,現在顧客が自社にどれぐらいのロイヤルティを持っているかを顧客数や金額で把握できる.

そして,その現状のロイヤルティの理由になっている項目を探すための設問が,体験価値評価および基本価値評価の設問である.この設問項目は,ステップ1で定義したプロセスや,ワークショップで洗い出したネガティブ,ポジティブ体験を活用する.

こうしたアンケートを用意することで,ロイヤルティの現状把握とロイヤルティに影響を与えているドライバが特定できる.

4.2.2 顧客体験を把握するための工夫

本アンケートは1年に1回程度のタイミングでとるアンケートであり,設問数も30問を超えるボリュームとなるため,設問に正しく答えていただき,実態を把握できるための対策を講じる工夫を凝らす必要がある.

最も工夫が必要な設問カテゴリは,ロイヤルティを左右する最小単位のドライバであるプロセス別体験を確認する設問である.ステップ1で洗い出されれたネガティブ,ポジティブ体験を顧客に検証するための設問である.

顧客アンケートでよく見られる事例で,顧客の体験を5段階で評価をしていただく何十もの設問を設けるケースがある.「挨拶の仕方を5段階で評価ください」「スタッフの距離感に関して5段階で評価ください」といった内容である.顧客は評価目的で入店しているわけではないため,詳細の体験を5段階で評価してほしいと言われて,正確な回答ができるだろうか.その設問が何十も続いたら正確な回答ができるとは思えない.普通の3を選んでさっと終わらせるといった回答が多くなると想定される.

こうしたアンケート回答の正確性低下を防ぎ顧客の実態をつかむためには,ネガティブ,ポジティブ体験をチェックリスト形式で提示し,自分が体験したことがある項目にチェックしていただく形式が有効となる.「挨拶が雑で嫌な思いをしたことがある」や「スタッフが良い距離感で気持ちよくショッピングができたことがある」といったチェック項目によるアンケートである.

顧客に評価のために考えさせるのではなく,自分が体験したことのある項目へのチェックという回答形式により,より実態が把握できることになる.

4.3 ステップ3:アンケート分析

アンケートの収集が終われば,ロイヤルティの現状把握とロイヤルティに影響を与えるドライバの特定のための分析ワークに入る.以下に特に効果的ないくつかの分析手法を紹介する.

4.3.1 ロイヤルティ×セグメント クロス分析

全顧客,またステップ1で定義した顧客セグメントごとのロイヤルティを見える化する.ロイヤルティを測る指標は,継続取引意向と推奨意向を採用する.特に推奨意向を測る指標は世界的に普及しているNPS(Net Promoter Score)[4]を採用することにより,同業種や異業種でのベンチマーク比較も可能となる.(図11参照)

図11 NPSとは

図12で示すようなセグメント別でのロイヤルティを見える化することにより,自社が重要視しているセグメントのロイヤルティの現状を把握することが可能となる.またロイヤルティをベースとした新たな顧客ターゲット戦略の立案にも活用できる.

図12 セグメント別ロイヤルティ分析
4.3.2 NPS×CJP満足度 相関分析

ロイヤルティの高低に各プロセスがどう影響を与えていて,どのプロセスを優先的に改善していけばロイヤルティを向上できるかを分析するのが,NPS×CJP満足度 相関分析である[1].図13に示すように横軸に各プロセスの満足度の値,縦軸に満足度とNPSとの相関値をセットし,各プロセスをプロットしたグラフを作成する.

図13 CJP別強味/弱み分析(NPS相関分析)

満足度が高く相関値が高い右上のセグメントは,自社にとってロイヤルティを上げる強みとなっているプロセスと判断できる.一方,満足度が低く相関値が高い左上のセグメントは,自社にとってロイヤルティを下げる弱みのプロセスと判断できる.弱みのプロセスの改善活動を優先するとともに,強味のプロセスをさらに強みにするための施策を立案するといったメリハリの効いた取り組みが可能となる.

さらに筆者が独自に開発した分析手法として,満足度と相関値を各プロセスの推移に合わせて曲線化したグラフがエンゲージメントジャーニ分析である(図14).NPSとの相関値をロイヤルティ感度曲線として各プロセスでのロイヤルティ感度がどう変化して,それに対して現状の満足度がどう推移しているかが見える化でき,どのプロセスを改善するべきかをより視覚化して確認することが可能となる.

図14 エンゲージメントジャーニ分析
4.3.3 NPS×ネガ・ポジ体験ランキング クロス分析

さらに筆者が独自に開発した手法として,ロイヤルティに影響をあたえている詳細の分析を可能とするのがネガティブ,ポジティブ体験分析である.第4.2.2項で説明したネガティブ,ポジティブ体験チェックリストによるチェック数をランキング形式で一覧化する.さらにロイヤリティの高低によってそのランキングを比較するとよい.

図15では通販会社でのネガティブ体験をイメージして上位ランキングを示した.全体でのランキングとNPSでの批判者すなわちロイヤルティの低い顧客でのランキングを比較することで,自社特有の優先して改善すべき点が見えてくる.

図15 ネガティブ体験ランキング分析

4.4 ステップ4:具体的施策の立案

4.4.1 ワークショップ

アンケート分析を実施し改善施策に対しての示唆が得られ安心し,その後具体的施策への展開と実行に至らないケースを回避するための工夫が必要となってくる.

ステップ1においてワークショップに参加したスタッフ,さらにはもっと現場の担当者を入れてのワークショップによるアンケート分析結果の共有と施策立案である.ステップ1で施策として洗い出されている項目とアンケート分析結果を把握して施策のブレークダウンや新しい施策を立案していく.ステップ1でワークショップに参加したスタッフは自ら立案した仮説をどう顧客が評価したかを理解することで,施策のブレークダウンや実行へのモチベーションが上がり,実践しやすい環境となるメリットも大きい.

また,ワークショップのファシリテーションもステップ1とは違ったスキルが要求される.ステップ1では顧客の体験を網羅性をもって数多く洗い出すことが重要となるため,ポストイットでの記載による数出しワークが重要だが,ステップ4のワークショップでは,1つの施策に対して全員で深い議論が必要となってくる.ファシリテータがコントロールしながら議論内容をその場で記載し見える化しながら進めていくことが重要となる.

4.4.2 施策のまとめ

洗い出された施策は,表1のようにさまざまな視点でカテゴライズして整理してまとめることが重要である.また,施策の優先順位を判断するための情報も入れておく.具体的には,各施策が出そろったタイミングで参加者に各施策の,重要度,効果度,容易度をABCランクで挙手してもらい多数決で施策のランクを決定する. さらに各施策を現場が徹底すれば実現可能レベルの施策と本社レベルで投資やプロジェクト化が必要な施策に分ける.現場施策で効果度A,容易度Aなら明日からすぐに実践できる施策であり,本社系施策で重要度A,効果度Aなら投資やプロジェクト化を検討する,といった判断である.

表1 施策まとめアウトプット例

4.5 実プロジェクトでのカスタマージャーニアセスメントの効果

以上,複数のプロジェクト事例を基に各ワークステップでの工夫と事例を解説した.数回にわたる同様のプロジェクトワークを通じて筆者が確信したことは,顧客と現場の声が重なれば経営サイドを動かす施策も可能になるということである.

あるアパレル企業では,アンケート分析で,店内で商品を見る際に価格が分かりづらい,というネガティブ体験がロイヤルティ低下を招いていることが分かった.そして,現場との施策立案ワークショップにおいて,商品に添付しているタグの数の削減と添付個所を商品カテゴリ間で統一するという案が立案された.当然,その施策を実行するためには海外の工場出荷レベルからの作業変更に伴う投資が必要となり,今までの該社では実現不可能な施策案であった.しかし,顧客の声と現場の声の効果で経営サイドが意思決定を下し,タグ変更のプロジェクトが発足し動き始めた.また,同様に本社系の20のプロジェクトが同時に開始された.

そして,現場サイドも自ら発した声で本社が動いたことに対して高いモチベーションを感じ,現場でできる体験施策の実行が始まった.まさしく,顧客,経営,現場がWin & Win & Winになるロイヤルティカンパニへの変革へと歩みだした瞬間である.

該社においては,立案した施策に基づいて日々サービスプロセスを磨く活動を継続中である.カスタマージャーニアセスメントのアプローチによる年1回の大々的なアンケート取得,分析(ステップ2,3)を実施し,昨年との比較から改善点を見つけてさらなるロイヤルティ向上のための施策を立案中である.

5.おわりに

カスタマージャーニや顧客体験(カスタマーエクスペリエンス),顧客ロイヤルティといったワードは言葉が先行して上位概念だけの会話も多い.そして,非常に重要なキーワードにもかかわらず,残念なことにバズワードとして扱われることがある.

本稿では,筆者の日頃のコンサルティングワークからの問題意識を発端として,プロジェクトワークで工夫し得られた知見をもとに,重要なキーワードや考えがバズワードで終わらないように,ロイヤルティ向上のロジック化と具体的な改革・改善への取り組みにおける工夫と事例を論じた.

しかしながら,ここで紹介した取り組み・工夫もまだまだ改良,進化の余地はあると考える.今後も各コンサルプロジェクトでの経験や,先駆者の知恵や研究会活動で知見を蓄積して,深さとスコープの拡大を目指し,日々努力していきたい.

参考文献
  • 1)池田順一:お客を増やす努力をやめなさい!,1章,2章,3章,日経BP社 (2015).
  • 2)遠藤直紀, 武井由紀子:売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門,日本実業出版社 (2015)
  • 3)諏訪良武:サービスの価値を高めて豊かになる,2章,リックテレコム (2016).
  • 4)https://ja.wikipedia.org/wiki/ネット・プロモーター・スコア
渡部弘毅(非会員)watanabe@is-lab.org

日本ユニシス,日本IBM,日本テレネットを経て,2012年にISラボ設立.一貫してCRM分野にかかわり,法人営業担当,ITの商品企画,戦略および業務改革コンサルタント,アウトソース事業での経営企画,事業企画を経験.現在は顧客体験価値の向上を切り口に,経営戦略立案,業務改革支援コンサルティング活動中.

投稿受付:2017年11月14日
採録決定:2018年1月26日
編集担当:藤原陽子(日本アイ・ビー・エム(株))