デジタルプラクティス Vol.9 No.2 (Apr. 2018)

「価値を創造するコンタクトセンタ」特集号について

宮﨑 義文1  吉野 松樹2

1イー・パフォーマンス・ネクスト  2(株)日立製作所 

1.はじめに

今回でコンタクトセンタ特集は3回目となるが,前回の特集号(DP17号「経営に貢献するコンタクトセンタ」(2014年1月15日発刊))以降に,コンタクトセンタにとって大きな環境の変化が起っている.

具体的には,「深刻な人材不足」と「人工知能(AI)を始めとする高度テクノロジーの進展」である.

コンタクトセンタは,企業の堅調な採用意欲に伴い「深刻な採用難」が発生し,AIが人に代わり,作業を楽にすることが期待されている.他方,AI活用に頼るだけで,人々のくらしを本当に豊かにしていくことが可能だろうかという疑問も議論されている.

コンタクトセンタは,AI等の高度テクノロジーを活かしながら,より価値の高いサービスをお客様に提供し,経営に貢献し,従業員を豊かにすることができるサービスの創造が欠かせない.そこで,今回は「価値を創造するコンタクトセンタ」をテーマとして取り上げた.

2.コンタクトセンタの価値について

価値という言葉の定義は難しい.さまざまな定義の仕方があろうが,誰にとっての価値かという点から,次のように考えることができる.

・お客様にとっての価値 
・経営にとっての価値(経営貢献)
・従業員にとっての価値

上記のうち「経営にとっての価値」については,解説論文「経営に貢献するコンタクトセンタを創る」に,コンタクトセンタフォーラムがこれまで検討してきた内容をまとめて掲載しているので参考とされたい.

同論文で分析した高い経営貢献を実現できた事例では,同時にお客様に高い価値を提供しており,高い現場力がこれを支えている.現場力の源泉は,「やりがい」,「自己の成長」といった「従業員にとっての価値」であり,これからは,3つの価値を相乗的に高めていくことが求められる.

3.コンタクトセンタへのAI活用と価値向上

コンタクトセンタへのAI活用による価値向上を目指した3編の招待論文を掲載した.うち2編はユーザ企業におけるAI導入,1編はサービス提供企業における導入の論考である.

稲田氏(SMBC日興証券(株))の招待論文「人とテクノロジーの協働による,サービス価値の向上」では,同社は限られた人材で増加するお客様サポートに対応するためにAIによるチャットボットを導入した.導入の結果,お客様サポートの増加に対応すると同時に,潜在的顧客層へのコンタクトの拡大という新たな価値を実現している点は注目すべきである.また,人の対応経験を活かしてAIをトレーニングし,AIでの対応の問題点を人が補いかつ改善していく「人とAIの協働」を実現している.「人とAIの在り方」を考える上でも大変参考になる論考である.

野崎氏(ネスレ日本(株))の招待論文「AIが可能にする次世代の顧客体験 ─IBM Watsonを使ったAIコミュニケーションの実現─」では,大幅な増加が予想されるお客様からのコンタクトに対応するために導入したAIによるチャットボットについて論述している.

お客様とのコミュニケーションは,ブランドを作る重要な要素と位置付けている同社にあっては,応対コストを下げると同時にコミュニケーションの質を上げることが求められている.顧客満足度を損なわずにAIを導入するための工夫や知見,「AIを前提とした新時代」に向けた提言等,示唆に富んだ論考である.

荻野氏,岩崎氏((株)エーアイスクエア)の招待論文「コンタクトセンタにおけるAI活用 ─実用フェーズに入った人工知能─」では,自然言語処理AIエンジンを用いた複数のコンタクセンタへのAI活用事例について,その背景・目標・導入効果・導入に際して苦労した点等について論述している.サービス提供企業として,数々の導入を通じて得られた知見をまとめた「導入時の留意点」は,これからAIの導入を検討する企業にとって有用な論考である.

他方「AI」に対するユーザ側の理解は,人によりまちまちであるのも実情である.そこでソリューション提供側との間でギャップが生じやすい.そこで,ユーザの立場からAIの整理・分類を試みたコラムを掲載したので参考とされたい.
≫ コラム:ユーザから見たAI機能分類図 ─AIをブームで終わらせないために─

4.お客様への提供サービスの価値向上

現場力を活かし,お客様に高い価値を提供し,経営に貢献し,その結果が従業員の「やりがい」や「自己成長」に繋がることで現場力が向上すれば,素晴らしい価値向上の循環が生まれる.

解説論文「経営に貢献するコンタクトセンタを創る」の中では「経験価値提供型I」および「経験価値提供型Ⅱ」のモデルがこれに相当する.

渡辺氏(ISラボ)の招待論文「エンゲージマネジメント型カスタマージャーニの実践<カスタマージャーニアセスメントがロイヤルティ向上を実現する>」では,お客様の体験の中でロイヤリティ向上に繋がるドライバが何かを解き明かし,お客様の体験価値を高め,再購買率の向上により経営貢献につなげる効果的な手法について実践例を含めて論じている.

この手法の特徴は,現場を巻き込み,お客様の声による検証を通じて顧客体験の現状を把握し,再び現場を巻き込んで具体施策を策定する点にある.結果,現場実態から遊離することなく,現場が納得して実践できる施策が策定される.現場の発案とお客様の声が合わさった提案が経営側に認められると,現場のモチベーションが一層向上することが,実践事例に示されている.

5.従業員満足度向上によるサービスの価値向上

田口氏((株)東京海上日動コミュニケーションズ)の招待論文「コンタクトセンタにおける社員満足度と顧客満足度の関係性について」では,これまで従業員満足度の向上が顧客満足度の向上に繋がるといわれてきたが,定量的に検証した事例は見当たらない.筆者は,同社の従業員のモチベーション向上活動を通じ,従業員満足度と顧客満足度の関係性,さらに再購入に繋がる指標との関係について数値的に計測し,その相関を検証している.従業員満足の源泉である「従業員から見たコンタクトセンタの価値の向上」と「サービス価値の向上」の相関性を示した注目すべき論考である.

6.人ならではのサービスによる価値の向上

宮脇氏(情報工房(株))の招待論文「コールセンタのパラダイムシフト ─品質重視への転換─」では,インターネットやAIによりセルフサービス化が進展し,マニュアルを見て答える定型業務は自動化されていくならば,「人ならではの対応は何か」「コンタクトセンタの在り方はどうあるべきか」について論述している.コンタクトセンタのKPIも「対応件数の向上」から「応対品質の向上」へと変化する.これまでの対応時間を短くするという効率重視のKPIの常識を覆し,組織的な人材育成により対応力を磨き上げ,お客様との通話回数・通話時間を増加させることが,お客様の購入単価増に繋がることを実証実験により検証した注目すべき論考である.  

神山氏((株)こころみ)の招待論文「心によりそう会話サービスの提供 ─「聞き上手」を世の中に─」では,「聞き上手」というコミュニケーション手法を軸として実現している一人暮らしの高齢者に対する会話サービスの実践について論述している.「聞き上手」とは,新しいコミュニケーション手法で,相手に話しやすい環境を提供し,熱心に聞いていることを態度で示すことで,信頼関係の構築と情緒的満足の充足を目的としている.従来のコンタクトセンタにはない「人ならではの心によりそうサービス」を作り出している点は注目に値する.事業内容そのものに社会貢献の要素が含まれることから,社会貢献型の民間ビジネスとしても大変参考となる論考である.

7.現場力の向上

コンタクトセンタの価値を創り出す上で,現場力の発揮はきわめて重要であるが,具体的にどうしたら現場力を向上させることができるのかは,「言うは易く行うは難し」の領域ではないだろうか.

現場力の中でも,SVやマネジメントのレベルアップは,コンタクトセンタの価値を向上する上で特に重要である.

寺下氏(ヤフー(株))の招待論文「SV育成から見える問題解決力の育て方 〜問題解決力を習得させる4つのステップ〜」では,日々さまざまな問題が発生し解決を迫られるSVにとって,コンタクトセンタを安定して運用するには,問題解決力を習得することが必須である. だが筆者によると,現状,実際に問題解決力が身についているSVは10%に満たない.当論考では,その原因を究明し,研修の場を創設し,問題解決力を習得するための各種演習を実施し,得られた知見および効果・実績について論述している.「言うは易く行うは難し」の領域で実践に裏付けられた具体的な方法を示した論考である.

コンタクトセンタの改革や改善運動を成功させるには,オペレータとセンタ長が一体となって進めていくことが重要であり,センタ長の役割は極めて重要である.そこで,目指すべきセンタ長をイメージする上でヒントとなるコラムを掲載したので,参考とされたい
≫ コラム:コンタクトセンタ長を分類する─経営に貢献するコンタクトセンタを目指して─

8.おわりに

コンタクトセンタは,「深刻な人材不足」と「人工知能(AI)を始めとする高度テクノロジーの進展」といった大きな環境変化の影響をいち早く受けており,採用難への対応やAIの活用についての危機感・問題意識は非常に高まっている.AIにどこまでのことができるのか,また,人の役割をどう考えていけばよいのか,センタはどうあるべきか,まだまだ議論の余地が多い領域である(今回,投稿された方による座談会「価値を創造するコンタクトセンタに向けて」を巻末に掲載したので,合わせて参考とされたい).

一律の正解を得ることは難しいが,今回投稿いただいたプラクティスで得られた知見には,示唆に富むものが多いと感じている. 

本特集のプラクティスを共有することで,より高い価値のサービスをお客様に提供し,経営に貢献し,従業員を豊かにする「価値を創造するコンタクトセンタ」が1つでも多く現れ,コンタクトセンタの社会的な位置付けが高くなることを願っている.

最後に価値あるプラクティスを惜しみなくデジタルプラクティスに発表いただいた著者の方々に敬意を表します.また,慣れない論文を完成させるまで粘り強くお付き合いいただいた編集者の方々,本特集号を出すにあたりご支援をいただきました諏訪良武氏ならびに当会コンタクセンタフォーラムのメンバの方々にも感謝したします.

この特集号を契機として,情報処理学会のコンタクトセンタフォーラムを通じて,さらに皆様と議論を深めコンタクトセンタの発展に寄与していきたいと思います.ぜひとも積極的なご参加をお願いいたします.

 

 

ユーザから見たAI機能分類図
─AIをブームで終わらせないために─

相楽 香織1

1日産自動車(株) 

思っていたものと違う

筆者はグローバル情報システム本部に所属しており,弊社業務部署に対して業務を支援する各種システムの企画や開発,導入に従事しています.ソリューションの検討,社内ユーザに対する説明や教育をする立場です.

昨今「AI」を冠したITツールが急速に増えています.AIができることを正しく理解し,ビジネスの現場で有意義に活かす検討をしたいと考え,まずは自身の頭の整理も兼ね,全体像を可視化してみようと考えました.

改めてAIという言葉にアンテナを張ってみると日常生活のさまざまな場面で出会うことができました.メディアは日々技術の進化を伝え,世間を賑わせています.導入により,今よりもさらに便利な世の中になると期待に胸が膨らみます.しかし,実際「AI」を冠したものを検討・比較した人から,「思っていたものと違う」という声も耳にします.筆者もその中の一人です.

AIと聞くと期待してしまう

AIというテーマは昔からアニメ,漫画,映画などで幅広く扱われ,鉄腕アトムやドラえもんなど,子供のころから触れている言葉です.こういったアニメや漫画の影響でAIという言葉に自分なりのイメージや期待を膨らませている人は多いのではないでしょうか.

「AI導入によりコンタクトセンタ(以下CC)のオペレータが不要になる」という話題をよく耳にするようになったこともあり,当CCフォーラムでも, 第一人者の先生やソリューションベンダ,導入企業を交えて,AIについて議論しました.

まずは第一人者である先生に「AIとは何か」と歴史を教わりました.AIという言葉の明確な定義はなく,研究者でも人によって捉え方がまちまちであること.

機械学習(深層学習・教師あり学習・教師なし学習・強化学習)の特に深層学習(ディープラーニング)によるブレークスルーで現在は第三次ブームであること.たとえば,将棋AIなどでは棋譜を学習させたり,AI同士で対局させたりすることで,人間がいまだかつて見たことのない対局をも学習し,人間に勝つことができるようになったこと.

次にソリューションベンダにAIツールについて教えていただきました.うまく活用することで,業務の工数を削減できて人手不足を解消したり,人間では扱いきれないビッグデータを解析して新たな気づきを見つけることができるとのことです.

最後にそのツール導入企業数社に生の声を聞くと,意外な言葉が挙がりました.「思っていたものと違う.結局ユーザ企業側の負担が増えた」.「なんだそんなこともできないのかとがっかりしてしまった」と.このギャップはなぜ生じてしまうのでしょうか.

筆者は業務上さまざまなツールの説明をソリューションベンダにしていただくことが多いのですが,現時点では,ただツールを導入すればすぐにAIが一人前の働きをしてくれるわけではなく,ユーザ側で機能を発揮できるようにデータを加工・準備をしたり,必要であればAIを教育するための教師データの準備をしなければ,技術を活かすことができないものがほとんどでした.

しかし,実際のベンダの説明は,理想的な状況下における最大効果の説明が多く,ユーザ側にも相当な工数が必要である点は,入念に説明されていないことが多いようです.一方ユーザ側は,AIという言葉にプレミアムをつけており,極端な場合AI =自動などと事前期待が膨らみすぎている場合があります.

このように,認識の差が生まれてしまい,がっかりするユーザが増えかねず,そのうち「AIは時期尚早」という評価が広まり,ビジネスでの活用が進まなくなってしまう恐れがあります.

そこで,「AI」ツールを正しく理解できるように,ユーザの視点でAIタイプを分類してみました.

AIは音声認識・画像認識・自然言語処理などで分類されることが多いですが,ユーザ側としては,いかに業務を効率化できるのかがツール導入の大事な目的であることから,1つ目の分類軸は“Input”の仕方としました.AIの活用のためにユーザが多大な工数をかける必要がある「人間がAIに情報を与える」か,ユーザの手間がほとんどかからない「AIが自動的に情報を取得する」かに分けました.

続いてそのツールはどんな範囲で適用できるものなのかという“Output”の分類軸としました.一部の専門的なことしかできない「単調な行動」か,人間のようにさまざまなことができる「多様な行動」かです.

これら2つの分類軸により,大きく4つに分け,さらに1象限だけ2つに分類し,5つのタイプに整理しています(図1).

図1 ユーザから見たAI機能分類図

Aタイプは単純明快.特定作業を自動的に行うロボットです.これはすでに確立されている技術なので,AIと呼ぶことに違和感を持つ方も多いでしょう.しかし,利用者のニーズと機能が単純明確な場合,ニーズに合致するものであれば最も使い勝手が良い「AI」といえます.

Bタイプは情報をInputすればするほど多様な行動が可能になります.膨大なデータと膨大なロジックを組み合わせることで,既存の技術で実現可能な「AI」です.ただし,ツールが狙った機能を発揮できるように,どんなデータを入れたらよいか?,どう入れればうまく動くか?など,ユーザが行錯誤しながらデータとロジックを準備しなければなりません.しかも,一度データを入れたら終わりではなく,状況の変化に合わせて常にユーザがデータの蓄積・メンテナンスをしなければなりません.そのためには,そのデータをメンテナンスするユーザ自身も変化に追随し,成長する必要があるのです.このように,このタイプの「AI」は,活用のための準備・運用工数が最もかかり,AIに関する知識や知恵がなければうまく使えません.「AIは自動で何でもやってくれる」と思っていたユーザは,この時点でツール導入を諦めてしまうことが多いように思います.

これより後に説明するC・D・Eタイプは前述の通りAIが自動で情報を取得・蓄積し成長するタイプです.まさにAIという言葉のイメージに近いものではないでしょうか.

Cタイプはある目的に特化した部分において自動で情報を入手し学習をしていきます.たとえば将棋AIは前述の通りAIを相互対戦させ強化学習することにより成長し,人間よりも優れた能力を発揮することが可能になります.ただし,できることの範囲が広がることはないため,将棋AIは翌日になったら将棋名人になることができますが,自動運転ができるようにはなりません.特化型のAIです.

Dタイプは汎用型AIです.Cタイプが備える機能を複数備え動作するものです.人間の五官(目・耳・鼻・舌・皮膚)にあたる機能を複数持ち,それぞれから取得した情報をリンクさせることで,とても人間に近い多様なOutputを期待することができます.特化型より自動で取得できる情報量が増えるため,さらに的確な行動をとることが可能になります.またユーザ負担もとても少なくなるため,最終的にユーザが期待するAIツールはこのタイプではないでしょうか.

ただし,状況に応じた高度な判断や価値基準を創造することはできません.

最後のEタイプは,自我・個性を持ったAIです.情報のInputをAI自ら取りに行くのは勿論ですが,プラスで時間が経つにつれ自然と入ってきた情報により,誰にいわれるわけでもなく,明示されていないルール・慣習・空気を読むことができ,AI自らが価値基準を持ち,総合的に高度な判断することが可能なAIです.高度な判断とは,拮抗する意見・常識的な回答が複数あるもの.つまり人間社会のように多様な考え方があるなかで,どう回答するかはこれまでに吸収した情報,おかれた環境によって変わります.人間のように感情・意思・判断力を持ったアニメの世界に登場するAIやロボットに近いものです.今後もますます感情や個性の研究が進み自我・個性を持つという高い山をこえることができれば,ここに到達できる日が来るかもしれません.

このようにセグメント分けすることで,認識のギャップがどこに生じているのかが明確になりました.ソリューションベンダは誇大なアピールをしすぎないこと.ユーザは正しくAIのできることを理解して過度に期待しないことをお互い意識して認識を合わせるところから始めてみてはいかがでしょうか.

お互いに認識が合致することで,AI導入を期待と覚悟を持って進められ成果を出せる企業が増えるのではと思います.

AI技術の向上は日進月歩です.AIが社会で活躍するのも遠い未来ではないはずです.そうであるからこそ,それぞれの認識を合わせ,ブームで終わらせぬよう,AIをビジネスの中で育てていくことが最重要課題だと感じています.

 

 

コンタクトセンタ長を分類する
─経営に貢献するコンタクトセンタを目指して─

相楽 香織1  松井 拓己2

1日産自動車(株)  2松井サービスコンサルティング 

センタ長の重要性

コンタクトセンタの改革や改善活動を成功させるには,オペレータからセンタ長までが一体となって改革を進めていくことが重要です.一方で,コンタクトセンタは他の組織に先駆けて,アウトソーシング,オフショア化,在宅勤務の導入やオペレータの専門職化などを進めてきたことにより,物理的かつ心理的に,組織的な一体化が難しくなっている側面があります.よって,改革や改善活動のとりまとめ役を担うセンタ長への期待がますます高まっています.では実際のコンタクトセンタにはどんなセンタ長がいるのでしょうか.早速,現場の声を確認してみることにしました.

センタ長を分類する

私達はコンタクトセンタに携る複数企業の現場の方々(オペレータおよびSV(スーパーバイザ))に,「自分の上司であるセンタ長はどんな方か」「改革や改善活動を進める上で何を重要視している人か」をヒアリングし,センタ長を分類してみました.

まず多く聞かれたのは,「経営に貢献するコンタクトセンタを目指して改革に取り組もうと思っても,コンタクトセンタ長の腰が重くて活動を始められない」という悩みです.コンタクトセンタのサービスを改革することに,センタ長自身がどれくらい熱意を持っているのかが,改革の推進に大きく影響します.そこで,1つ目の分類軸は,改革に熱心な「のめりこみ型」と,自分の任期中には波風を立てたくない「腰掛型」とに分けることにしました.

コンタクトセンタは,企業と顧客との価値ある接点であり,コンタクトセンタのサービスを磨く価値はきわめて高いはずです.しかしながら,そうは考えていない企業やビジネスマンがたくさんいます.コンタクトセンタを他部門よりも低く評価していたり,「ここに配属されたら自分のキャリアは同僚から遅れをとった」と感じる傾向はいまだあります.こういった背景から,センタ長が腰掛型で「余計なことはしたくない」という意識を持つことがあるのです.

続いてよく聞かれたのは,「いつも社内ばかり気にして,お客様の方を向いていない」という,サービスマネジメントの基本スタンスについての問題意識です.そこで,2つ目の分類軸は,「お客様を大切にしたい」という思いが強いか,「自社や自分の利益を重視したい」 という思いが優先されているかとしました.

「お客様を大切にしたいか」と聞かれれば,誰でも答えはイエスですが,実際には,それを本気で思っている人と,「建前」で言っているだけの人に分けることができそうです.コンタクトセンタ長が,顧客に喜んでいただくことが新規契約やリピート,顧客紹介を生み出して事業の成長につながると信じている人か,それとも「お客様のために」を建前にして自己満足な取り組みを重視している人なのかは,一緒に仕事をしているSVやオペレータには,すぐに分かるのではないでしょうか.

これら2つの分類軸により,センタ長を4つの大分類に整理しました(図1).

図1 センタ長 4大分類

右上が,顧客志向のサービス改革に情熱を燃やすタイプ.右下は,自社都合を中心にサービス改革を推進しており,顧客不在な取り組みになりがちなタイプです.左上は,顧客を大切にしたい思いはあるけれど目の前の問題解決にしか手を付けられないタイプです.左下は,必要最低限の仕事しかしないタイプとなります.やや極端な表現ですが,センタ長の意識次第で,サービス改革の進み方に大きな差がつきそうだということが分かります.

センタ長を3つの観点で8つに分類する

さらに3つ目の分類軸として,センタ長の意思決定の仕方を追加しました.「論理的な意思決定基準を持っているか」,「直観やセンスで意志決定をするか」です.「改革の取り組みは進めているが,納得感が持てなくて,現場がついてきていないことがよくある」という意見が多かったためです.

サービスは目に見えないものなので,いざ経営に貢献するコンタクトセンタに向けて改革しようと思っても,具体的に何に取り組んだらよいのかよく分からないことが多いようです.そんな中,一部のメンバの直観やセンスに頼って意思決定していては,たとえその内容が正しくても,組織的に納得感を持って取り組むことはできません.そこで,サービスの本質を捉えて論理的に意思決定することで,組織的な納得感を高める必要があります.現場が納得して始まった活動が少しでも成果に繋がると,一気にモチベーションが高まって活動が加速します.サービス改革を進める上で,センタ長として組織的な納得感を高めることができるかどうかが,取り組みの成否を分ける大きな要因になっています.論理的な意思決定のためには,いまいちどサービスの本質を理解し,サービスをモデル化する取り組みが有効です[1].

3本目の分類軸を加えることで,センタ長を8種類の詳細タイプに分類することができました(図2).

図2 センタ長 詳細分類

センタ長タイプは,図1,図2ともに右上がセンタ長の理想像になるように整理しました.想定される存在割合は,図1の右上の「お客様中心の改革に熱心なセンタ長」は4%であり,図2の「経営者的センタ長」は1%と,絶滅危惧種的な存在です.さらに,1つ目の分類軸の議論から,全体の85%が保守的な「腰掛型センタ長」なのではないかとの想定され,「経営に貢献するコンタクトセンタ」を目指す上で,見過ごせない問題です.この問題を解決するためには,コンタクトセンタの社会での位置付けや社内での位置付けを高めなければなりません.

まずは,現場とセンタ長自身がセンタ長タイプを知ることで,改革や改善活動を進める上でのヒントになると幸いです.なお,この分類は,コンタクトセンタ長の分類だけでなく,一般的なマネジメントにもあてはめられるのではという意見もあります.ぜひ,幅広くご活用ください.

参考文献
  • 1)諏訪良武(著):顧客はサービスを買っている(ダイヤモンド社)
相楽香織(非会員)k-sagara@mail.nissan.co.jp

1994年日産自動車(株)情報システム本部入社.品質保証部門利用システム全般の運用・保守業務を経て2006年よりお客さま相談室応対システム開発プロジェクトに参画.以降ビジネスアナリストとして主にお客さま応対業務のシステム企画・開発・導入に従事.

松井拓己(非会員)matsui@service-kaikaku.jp

松井サービスコンサルティング代表.2006年(株)ブリヂストン入社.新規事業開発プロジェクトリーダを務めた後,ワクコンサルティング(株)の副社長としてコンサルティング事業を統括すると同時に,サービスサイエンスチームリーダとしてさまざまな企業を支援し,現職.著書:『日本の優れたサービス〜選ばれ続ける6つのポイント〜』

宮﨑 義文

1975年東北大学大学院工学研究科電気および通信工学専攻修士課程修了.大手通信メーカにて,ディジタル電子交換機のソフトウェア開発に従事.その後,日本アイ・ビー・エムにて,日本初の銀行系テレホンバンキング導入を始めとし,多数のコンタクトセンタ/CRM構築プロジェクトに従事.IBMビジネスコンサルティング,IBM ビジネスアウトソース部門にて,CRM分野のコンサルティングおよびコンタクトセンタ構築・運用に従事. 2009年より,イー・パフォーマンス・ネクスト代表.2017年6月まで本会コンタクセンタフォーラム代表.現在,多摩大学大学院経営情報学科客員教授.コンタクセンタの価値向上をテーマとして研究およびコンサルティング活動中.

吉野 松樹

1982年東京大学理学部数学科卒業.同年,(株)日立製作所入社.1988年米国コロンビア大学大学院修士課程修了(コンピュータサイエンス専攻).2011年大阪大学大学院情報科学研究科博士後期課程修了.博士(情報科学).情報処理学会フェロー.IEEE,電気学会各会員.2015年~本会デジタルプラクティス編集委員長.