デジタルプラクティス Vol.9 No.2 (Apr. 2018)

価値を創造するコンタクトセンタに向けて

稲田 英樹(SMBC日興証券(株)),渡部 弘毅(ISラボ),神山 晃男((株)こころみ),相楽 香織(日産自動車(株)) 
司会 宮﨑 義文(イー・パフォーマンス・ネクスト) 

本特集号に投稿された方々にお集りいただき,投稿内容の言外にあるものを含めて,「価値を創造するコンタクトセンタに向けて」をテーマとし,主に下記について大いに語っていただきました.

・コンタクトセンタにおける高い価値とは?
・ユーザの側から見て,現在AIにできることは何か?
・コンタクトセンタにおいてAIは,どこまで人に代われるのか?
  -人が得意とする領域,AIが得意とする領域
  -人とAIの協働と役割分担
  -AIチャットボットの失敗例と導入効果
  -AIは人の雇用を奪うのか?
・高い価値を提供するには,どうしたらいいか? 何に向かって努力すべきか?


稲田英樹氏(SMBC日興証券(株))
1988年日興證券(株)(現,SMBC日興証券(株))入社.錦糸町支店,渋谷支店,大阪支店,新宿支店,学園前支店(奈良県)にて,およそ20年間,証券営業に従事する.2009年コンタクトセンター部門に配属.現在に至る.座右の銘は「継続は力なり」.

渡部弘毅氏(ISラボ)
日本ユニシス,日本IBM,日本テレネットを経て,2012年にISラボ設立.一貫してCRM分野に関わり,法人営業担当,ITの商品企画,戦略および業務改革コンサルタント,アウトソース事業での経営企画,事業企画を経験.現在は顧客体験価値の向上を切り口に,経営戦略立案,業務改革支援コンサルティング活動中.

神山晃男氏((株)こころみ)
1978年生まれ.長野県伊那市出身,慶應義塾大学法学部政治学科卒業.10年間,投資ファンドのアドバンテッジパートナーズに勤務.コメダ珈琲店,ウイングアーク1st等を担当.2013年(株)こころみを設立,2014年2月には高齢者向け会話型見守りサービス「つながりプラス」を開始.「コミュニケーション」と「高齢者マーケティング」の専門家として数々のセミナーや勉強会に出演中.2014年より「日常会話形式による認知症スクリーニング法の開発と医療介護連携(代表研究者:佐藤眞一大阪大学大学院教授)」の共同研究者に就任.2014年より「介護のほんねニュース」公認パートナーとして,超高齢社会問題やコミュニケーションに関する記事の寄稿を開始.(株)テレノイド計画顧問.Twitterアカウントは,@akiokamiyama

相楽香織氏(日産自動車(株))
1994年日産自動車(株)情報システム本部入社.品質保証部門利用システム全般の運用・保守業務を経て2006年よりお客さま相談室応対システム開発プロジェクトに参画.以降ビジネスアナリストとして主にお客さま応対業務のシステム企画・開発・導入に従事.

1.今回の座談会の趣旨

宮﨑 デジタルプラクティスのコンタクトセンタ特集は,今回で3回目です.前回は,2014年「経営に貢献するコンンタクトセンタ」を特集しましたが,その間にどんなことがあったかというと,労働人口の減少でコンタクトセンタも採用困難に,人工知能(AI)が実用段階に入り,スマホが普及,電話が少なくなる等,大きな変化がありました.

このような背景の中で,AIやロボットが人に代わり,「人を楽にする」ことが期待される一方,AIに頼っていて人の暮らしというのは本当に良くなるのかというと疑問もあります.効率化だけでなくサービスの価値そのものを高くし,経営にも貢献し,従業員も豊かにするということが望ましいわけです.

そこで,今日の座談会のテーマ,「価値を創造するコンタクトセンタに向けて」をテーマとして,デジタルプラクティスへ投稿いただいた方にお集りいただきました.

2.自己紹介/今回の投稿について

宮﨑 では,皆さんに自己紹介を兼ねて,今回,どんな内容を投稿いただいたかを簡単にふれていただきたいと思います.

稲田 SMBC日興証券の稲田と申します.来年で入社30年になります.入社以来支店での営業に従事し,2009年の3月に当社のコンタクトセンタ部門に配属され,来年3月で丸9年,この仕事をやっております.今回,AIを使ったチャットボットを導入した経験を論文に投稿いたしました.その経験を交えて,皆さんと意見交換させていただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします.

宮﨑 今回,稲田さんから実際に導入・運用しておられるご経験をベースにお話を伺えればと思いますので,よろしくお願いいたします.

渡部 ISラボの渡部と申します.よろしくお願いします.経歴はコンピュータ会社ユニシスでプロダクトマーケティング,IBMで CRMのコンサルティング,コールセンタとか,アウトソーシング事業をやっている事業会社で7年ぐらいいまして,5年前に独立して,今コンサルティングをしております.ここ数年は,モノやサービスに関係したお客様の消費行動での経験(カスタマーエクスペリエンス)とそれを見える化するためのカスタマージャーニを中心に活動しております.今回の投稿論文は,ここ1~2年,小売りを中心にお客様のロイヤリティを向上させるために,どうカスタマージャーニを設計したらいいか検討してきたので,その内容をまとめました.

宮﨑 今,大変盛り上がっていっていますね.

サービスの価値もお客様の体験価値の比重が高くなりつつありますので,渡部さんのご経験からのご発言を期待しております.

神山 私は皆さんと違ってコンタクトセンタ,コールセンタの経験がほとんどなくて,5年前に起業し,1人暮らしの高齢者の方向けに,お話をするサービスを提供してます.高齢者の方が話したいことを自由に話していただいて,ただ,ひらすらそれをじっくり聞きますよというサービスです.学びとして,非常に満足していただけ,このサービスを受けることによって本人に変化が出てくるということがあります.論文では,いま申し上げたサービスと,私たちがやっているサービスからの知見だとかをロボットに取り込み,コミュニケーションを自動化するといった可能性も含めて書かせていただいています.

宮﨑 人ならではのサービスをおやりになっている一方で,AIにもかかわっておられるので,その境目のところについてもお話をいただけるのではと思っております.

相楽 日産自動車グローバル情報システム本部の相楽と申します.入社して23年間,ずっと情報システム本部に所属しております.弊社にはお客様向けの「お客さま相談室」や販売会社で車の修理をする方達向けの「テックライン」と2つのコールセンタがあります.その2つのコールセンタに対して業務を支援する各種システムの企画や開発,導入を担当しています.今回,ユーザから見たAIの機能分類について投稿させていただいております.


宮﨑義文

宮﨑 AIについては,期待が大きい一方で,ソリューション側からもさまざま情報が出ていて,人によって理解もまちまちだと思います.相楽さんは,システム部門の立場で,AIについて幅広く情報をお持ちだと思いますので,中立的なユーザの目線でどう捉えたらいいか,お話を伺いながら議論を進めていければと思います.

本日の司会をさせていただきます宮﨑です.私は,この業界がかなり長くて,今年で20年以上になります.IBMでコールセンタの立ち上げ時期からシステム開発,営業,コンサルティングとCRMやコンタクトセンタを中心にいろいろなことをやってきました.IBMを出てから,コンタクトセンタの価値向上と経営貢献をテーマに本会の研究会等で活動しております.よろしくお願いいたします.

3.「価値を創造するコンタクトセンタに向けて」高い価値とは?

宮﨑 価値という言葉は大変難しい言葉ですが,「高いサービス価値」という言葉からどういうことをイメージされているか簡単にお願いします.深くなるとこれだけで1時間,2時間になってしまうと思うので(笑).
高いサービス価値とは,お客様のロイヤリティに繋がる高い体験価値

渡部 価値には2つあり,基本価値と体験価値です.基本価値は商品.体験価値はカスタマーエクスペリエンスとも言っていますが,モノを買うときとか,買った後とか,その接点でお客様が感じる価値です.この2つの価値を上げることでお客様のロイヤリティが向上する.サービスの価値というと体験価値の方かなと思います.お客様のロイヤリティとは具体的には,お客様が次回も買い続けていただける,利用し続けていただけること.このような気持ちを持っていただけるのを体験価値と呼んでいます.

宮﨑 価値を高めるには,お客様の体験価値を高めることで,そうするとリピートが増えて経営貢献にも繋がるということですね.

価値を決めるのはお客様,お客様が「いいね」と思うものが価値

稲田 価値があるかどうかは,お客様が決めるものだと思っています.お客様が,「これ,いいね」,「価値があるね」,「使いやすいね」というものが価値があると考えています.お客様が表面的におっしゃったことだけではなくて,想像して真意をくみ取ることが大切で,自分でコンタクトセンタに電話したときにどうかという目線が必要だと考えています.

高いサービス価値とは,お客のお気持ちを満足させること

神山 今の世の中は,要求されたモノそのものを提供するとか,知識そのものが正確であるみたいなことは前提になっているので,高い水準のサービスとは,いかにお気持ちを満足させるかということにほかならないのかなと感じてます.

心に響くサービスが,価値の高いサービスになる

相楽 製品はもういいところまでいっているので,あとはお客様が気になるポイントをついてあげられるかだと思っています.心に響くサービスというのが価値の高いサービスであると思っています.

宮﨑 ありがとうございます.皆さん,大体,お客様がいいと感じるところに価値があるということですね.中でも,お気持ちや心の部分にウェイトがあるようですね.

価値というのは誰にとっての価値かですが,お客様にとっての価値,経営から見てのサービス価値,従業員や社会からみての価値もありますが,ここではお客様から見ての価値を中心に皆さん見ておられるということですね.

4.ユーザの側から見て,現在AIにできることは何か?

宮﨑 これは,学術的な視点ではなく,あくまでユーザ側の視点ですが,今,使えるAIというのは何なのか,どこまでできるのかということを相楽さんの方からお話していただけないでしょうか.

4.1 ユーザの視点からの2つの分類軸
・AIへのインプット:情報入力を人が常に行うか,AIが自動で情報を取るか.
・AIのアウトプット:単調な行動か,多様な行動か,でAIを分類すると分かりやすい.

相楽 2軸で考えると分かりやすいので,その説明からさせていただきます.AIへのインプットを一つの軸とすると,人が情報を与えるか,それともAIが自動で取るか.AIからのアウトプットを縦軸にすると単調な行動か,多様な行動かということになります.詳しい説明はコラムを見ていただければと思うので,ここでは簡単に説明します.

(タイプA)人が情報をインプットして,単調な行動を実現する

たとえばお掃除ロボットみたいなものはボタンを押せば掃除をする.時間がきたら自動的に掃除をしてもらいたければ,その機能が搭載されたモデルを買うといった風に,やれることが単調なものです.ニーズの明確化がきちんとされて,ニーズとマッチすれば一番使いやすいものだと思います.

(タイプB)人が情報をインプットして,多様な行動を実現する
実はAIに学習させる情報のインプット作業を人がしなければならないため,ユーザの負担が大きい

人が情報をインプットし,ロジックを組めば,いろいろなことができるようになります.ユーザ企業にとっては,メンテに時間がかかるというタイプです.今現在では,このタイプの「AI」ツールが多いと思います.どうするとうまく使いこなせるかとユーザ企業は知恵を使わなければいけないため疲弊してしまい,AIはあまり使えないんじゃないのと言われているのがこのゾーンのものです.

(タイプC)AIが自動で情報をとりこみ,特化した行動を実現する

ここから後に説明するタイプがユーザの負担が少ないAIツールです.一般の方のイメージに近いものです.このAIツールはルールを教えれば,自動的に成長してくれます.たとえば将棋AIは,棋譜を学習したりAI同士で対局させたりすることによりデータを蓄積し将棋名人になることができます.でも当然のことですが,囲碁ができるようにはなりません.

(タイプD)AIが自動で情報をとりこみ,多様な行動を実現する ユーザ企業が一番欲しいと思っているAIツールですが,実際にはまだできていない

我々ユーザ企業が一番欲しいと思っているAIツールで,あると本当に便利になると思います.現時点では特化型が精一杯で,まだ厳しいのかなと思っています.

(タイプE)価値基準を自動で作成,自我・個性を持つタイプ
越えなければならない高い山があるので,実現されるのは相当先のことでは?

人間のように感情・意思・判断力を持った,イメージは『ドラえもん』に近いものです.感情や個性の研究が進み自我・個性を持つという高い山を越えることができれば,ここに到達できる日がくるかもしれませんが,まだ相当先になると思います.

学習の仕方がどうかというのが非常に大きな軸

宮﨑 AIというのは,相楽さんの分類軸にありますが,学習の仕方がどうかというのは非常に大切な軸ですね.

ディープラーニングを使った画像認識や音声認識AIはどこになりますか?

相楽 画像認識や音声認識の「認識」をどう捉えているかで変わります.

今回は「ディープラーニングを使った」とのことなので,自動に成長していくところまで含まれて「認識」と捉えているのでC,Dタイプになります.

現時点のAIは特定領域に限られる

宮﨑 AIが自分で学習していけたとして,何でもできるわけではないということでしょうか?

相楽 そうですね.今は特定の行動に限られます.

宮﨑 だから,特定領域なのか,そうではないのかという軸でみると,特定領域以外の事例はないというのが現状ということですね.

相楽 はい.たとえば,医学の用語とか,手術の執刀事例のようなものを人間がAIに教えれば,お医者さまと同じぐらいのレベルで,こういう症状のときはこういう手術をするとかできるようになりますが,両手が荷物でふさがってドアを開けられない人を見たら代わりに開けてあげるという,5歳児でもできる簡単なことでも,執刀の技術だけを教わったAIはできません.それが今のAIです.

(まとめ)現時点,AIの活用は特定領域に限られる.AIが人の支援なしに自ら学習するレベルには達していない.AIに学習させるためのデータ整備等のユーザ負荷は大きい.

4.2 コンタクトセンタのお客様対応での活用について
AIがオペレータの応対を支援するのか,直でお客様対応(チャットボット)するのかで利用できるテクノロジーに差がでる.AIが直でのお客様対応(チャットボット)では,ディープラーニングは使えない,ディープラーニングは人が答える前提でのオペレータ応対支援の使い方になる.

稲田 当社(SMBC日興証券)はチャットボットにディープラーニングを入れていないですね.お客様対応に使うということはやはり正確性を求められて,特に証券の場合,誤案内になると法令違反になってしまうこともあるので,プログラムしたことだけを答えさせる.ディープラーニングを使ったAIはいろいろなコンタクトセンタが使っていますけど,オペレータのサポートですよね.つまりオペレータのサポートで,直にお客様と接するわけではないから,オペレータが,「あっこれは間違っている」と思えば,自分で修正ができる.でも直にお客様の前にAIを立たせるのは今のところ実用的ではないのですね.つまり成長するかどうかというよりも,間違ったことを言われてしまうと困る.AIの開発とか,導入された方のお話を聞いたときになるほどなと思ったのは,業務で実際に活用されているAIは簡単に言うと分類と検索だということです.

相楽 そうですね.

稲田 お客様が言ったことをAIが分類する.一番可能性が高い検索結果に持っていくということで,いわゆるFAQ機能だと思う,一方,通常のFAQは自分で探さなくてはいけない,自分でどれが正しいかを選ばなくてはいけない.

宮﨑 ディープラーニングは,どうしてその答えになったのか説明できないと言われてますね.そうだとすると人がそれでいいか判断しないと難しいということですね.

5.コンタクトセンタにおいてAIは,どこまで人に代われるのか?

宮﨑 皆さんでユーザからみたAIの現状を共通理解できたと思いますので,ここから次の話題に入りたいと思います. 

AIは,どこまで人に代われるのか,どこまで人を楽にできるか,よく言われているように雇用を奪ってしまうのではないか,という辺り皆さんどうお考えでしょうか? 

5.1 人が得意とする領域,AIが得意とする領域
AIの活用により,サービスの正確性・迅速性は増すが,共感性・柔軟性を必要とする部分では,AIは,人には代わることはできないのでは?

渡部 僕がよくいろいろなところで話すのですが,サービスサイエンスの6つの品質で正確性,迅速性,共感性,柔軟性,安心感,好印象,それを,たとえば,チャットボットで考えると,6つうち正確性と迅速性,ボットというよりもデジタル処理するから正確性も増すし,迅速性も増す.それで,もうひとつ好印象なんていうのはアバターみたいなものを加えて人間ライクにすることはできますが,6つのサービス品質のうち,共感性だとか,柔軟性だとかは,AIでの対応ではまだ難しいのではという話をよくしています.

心で満足していただくことは,AIだけでは無理で人がかかわる必要がある.

渡部 先程,「価値」の議論で,「お客様の気持ちを満足させる」ということが大切という話がありましたが,満足というのは2つあって,頭で満足するのと,心で満足する,心で満足すればロイヤリティが高くなる.頭で満足だと,そのときは満足度は高いんだけど,次に買っていただけるかといえば,そうとは言い切れない.だから心で満足していただくためにサービス品質をどうやって上げていけばいいか.AIが果たして,それができるか? AIなんて使えるのかとときどき言っちゃうんですけど(笑).

心で満足,ハートに訴えかけるというのは,正確性がすごいから感動したというのもあるかもしれないですが,どちらかと言えば,共感性だとかの方が心に響くので,AIだけで,そこまでは中々難しいので人が介在する余地は当然出てくると思う.他方,ヘルプデスクでも,別に正確性と迅速性がしっかりしていれば,それで満足というセンタは,それでいいのかなと.

宮﨑 正確性や迅速性では,テクノロジーが優位で人に代わり人を楽にするかもしれないが,心の満足,ハートに訴えかけるというのは,人かと.

渡部 そうですね.

我々は「人」といったときに「レベルの高い人」を考え過ぎる傾向がある.人のレベルの設定如何で,今でもAIは人以上のことができている.

神山 私が思うのは,AIに対する人という言葉が出てきたときに,我々は,すごくレベルの高い人を想定している.たとえば,AIは将棋で人に勝てたというのを,今年ついにみたいな話をしていますけど,そもそも日本人の99%は30年ぐらい前のファミコンに勝てていないじゃないですか.人のレベルをどこに設定するかで,AIが人に代われることは,変わってくる.

「毎度ありがとうございます」と言えない日本人はいるが,AIならば100%可能

神山 上位1%の会話術の人,あるいはサービスレベルが高いコンタクトセンタの方にAIが勝つのは相当先か,あるいは,来ないか,どちらかだと思うのですけど,全日本人の下位10%の会話力にAIが勝つというのはそんなに遠くない,あるいはもう来ているのではないかと思うのですが(笑).たとえば,毎度ありがとうございますと言えない日本人というのはたくさんいるじゃないですか(笑).でもAIは必ず,毎度ありがとうございますと言えます.

「あなたを理解する」「人と気持ちを通わす」ことはAIにできない,人にしかできない,ほかは,今後AIで置き換えができていく.

神山 「あなたのことを理解してます」と共感することができるのは人ならではと思います.今のAIでも人を特定し個別に対応することはできますが,人が「俺のことを分かってくれるのは人だけだ,AIは俺のことを理解はできない」と思っている以上,ここが人にしかできないところだと思っています.人と気持ちを通わすのは人にしかできない,というのが現代人の共通認識だとすれば,その共通認識があるが故に人はAIと気持ちを通わせることはできないので,ここは人にしかできない領域であり続けると思います.逆に,ほかの部分,正しい情報,正しい分類,早い情報処理とかは,どんどんAIに代わり得る領域だと思います.

感情の部分もAIである程度のことはできる
AIは「聴く」「理解する」ことは難しいけれども,「言う」「伝える」はできる

神山 その人(特定の人)でない限りは,感情みたいな部分もAIでも結構できるのではないかなと思っていて,人だから人の気持ちに関することは人にしか理解できないとあまり大括りにしてしまうと結構間違えるんだろうなと.

宮﨑 神山さんのビジネスで,この辺はAIができるかなというのはありますか?

神山 そうですね,人の話を聴くというのはすごく難しいなというのを思いますが,情報を伝えるとか,言うのは相当できるんじゃないですか.やはり聴くというのは結構難しいのかなという,要は理解する,今のAIは理解はできないので,そこが一番難しいかなと思いますね.

宮﨑 どの辺だったらAIでお客様も,共感とまでいかないにしても,いいなと思ってもらえるでしょうか?

クマのぬいぐるみが24時間いつでも話しかけたいときに,やさしい声で話しかけてくれると人は情緒的満足を得られる.

神山 私がやっていて思ったのは,クマのぬいぐるみが24時間いつでも話しかけたいときに話しかけてくれるというのはできます.内容はすごくシンプルで,その内容を繰り返すのは,どんな日本人でもできますが,24時間やるというのはできないじゃないですか.その意味において成立しているんだなというのは感じるのですよね.

実は,人というのは単純にやさしい声で話しかけられるということだけで情緒的な満足が得られるので,人がそれをやろうとすると何万円もかかってしまうことがせいぜい100円でできますみたいな世界だなと思っているんです.

5.2 AIが直でお客様対応(チャットボット)する運用で見えてきた人とAIの関係

宮﨑 稲田さん,現実にAIをお使いになってどうでしょうか?

すでに始まっている「人とテクノロジー(AI)との協働・役割分担」

稲田 我々(SMBC日興証券)は,AIを使ったチャットボットを最初からお客様向けに使うことを意識して,電話と同じぐらいの品質で同じぐらいのことができるというところを目指してました.電話と同じ品質を目指していますので,オペレータが開発から入って,チューンアップに電話で培った技能,スキル,有人チャットで培ったものをボットに入れて,人が常に先頭に立って,人がお手本でボットがそれにならって人の何分の一かのことをやるということですね.

当初,我々は人とテクノロジーの融合と言っていたのですけど,最近は協働と言っていまして,役割分担をしている.ボットを導入すると宣言したときには,オペレータの人たちは,「私たちはそのうちいらなくなるのですか」と言っていましたが,実際には役割分担をして協働しています.

宮﨑 稲田さんのところで,AIを使ったチャットボットをやって,人との違い等をどう感じられていますか? 

AIチャットボットの「良いところ」と「人」との違い
人は「このくらいのことはご存じであろう」と考え,お客様のリテラシを勘違いすることがある.AIチャットボットの良いところは,質問の形式を取れるので,お客様のリテラシによらずに対応可能である.

稲田 やはり我々は,コンタクトセンタの人間もそうですけど,プロですから,どうしてもこのくらいのことは言わなくても知っているはずだと,お客様のリテラシを勘違いしてしまうところがある.「株を買いたい」というお客様に,「銘柄は?」「数量は?」とすぐに聞いてしまうのは勘違いの例で,株を買ったことのないお客様であれば,まず株を買うときに口座開設がいるじゃないですか.いきなり株を,八百屋さんじゃないんだから(笑).

人だと勘違いに気づくのですが,セルフやFAQだとお客様が自分のやりたいことが何かを言葉で入力できないので,正しいガイドが出てこない.チャットのいいところは,お客様のその言葉の揺れを補正できること.夜中であっても,それをプログラミングしていけば,質問形式でやりとりができるので,チャットは答えてくれる.

相楽 元々口座を持っていない人が株を始めたいとなったとき,最初に「口座を持っていますか」と聞いてくださるのですか.

稲田 つまり「株を買いたいんだけど」と言ったときに,「銘柄は」とは聞かないので,「口座開設の件でしょうか」と聞くわけです.

稲田 持っている人の場合は,「そうじゃありません」とお客様からくるんで,次の質問にまわる.それは1年間,有人チャットをやってきた知見からプログラムしています.

渡部 今の話だと,ボットの方が下手すれば,有人オペレータよりも的確に誘導できる.

宮﨑 オペレータの方の経験からきた知見をチャットボットに持っていったというのは素晴らしいですね.

[人の重要な役割:人が先行してAIの教師になる]
AIのチューンアップに役立つのは,ガイドラインではなく,コンタクトセンタでの実際の電話やチャットでのお客様体験である.

稲田 そうですね.それはやはり電話での経験とか,有人チャットでの経験ですよね.ですからガイドラインとかから持ってくるのではなくて,実際のお客様対応体験から持ってくる.チャットボットの場合はどんどんチューンアップできますから,日々チューンアップしています.これって聞かれたことがない聞かれ方だというと,それも入れるとか,そういうこともやって,それで,ディープラーニングはしないけど,その日あったことを入れていけば,進化させられる.入れる時間は確かにいるのですけど.

[人とAIは敵対するものではない]
AIが答えられないで,オペレータに回ってくるのをオペレータは喜んでいる.

稲田 AIが答えられないことをエスカレーションしてオペレータが答えるじゃないですか.結構,喜んでいますよね,まだかなと(笑).

相楽 まだかなと(笑).

神山 出番はまだかなみたいな(笑),腕をならして待っているみたいな(笑).

[お客様は人とAIのどちらを選ぶか? お客様の6割はAIを選ぶ]
AIチャットボットでは,お客様からすると生身の人間と相対する緊張がない.

稲田 うちのチャットボットというのはAIと人,どちらでも選べるようになっていて.お客様の6割はAIを選ぶのですね.

神山 それはなぜAIを選ぶのですか.

稲田 やってみて分かったことなのですけど,つまり,よく証券会社は敷居が高いと言われますけど,電話でも相手のオペレータと話が合うかどうか不安で,チャットの方がまだしゃべるより良いし,相手がロボットだともっと聞きやすい.どうせ相手はロボットだし(笑).

神山 生身の人間と相対する緊張がない.

相楽 でも私,生身の人としゃべりたいけどな(笑).

神山 だからそれはたぶん緊張よりも喜びが勝っている.

相楽 喜びというか.

神山 喜びというか,人の方がいいという期待値なのか.

5.3 AIチャットボットの失敗例と導入効果としてのお客様へのリーチ拡大 

効率化だけを狙ったチャットボット導入は,かえって満足度を低下させる.

渡部 コンサルをしていて,こういうチャネルを増やして,よく失敗することがあります.たとえば,電話の問合せが多い,ネットで言うとログイン,パスワードが分からない,これを効率化するのために,チャットボットを入れようとすると結構失敗するのですよ.なぜかと言うと,すごく困っている人をチャットに誘導するわけですね.今までは,「困った」と言って電話をしていた人が「いきなりボットです」とかとなって,解決率が上がればいいのですけど,結局ボットの画面に,「分からないから電話をしてください」と表示されて,また電話したら,何ですかとかと聞かれて,たらい回しになり,もう最悪の満足度になるのですね.せっかく導入したのに満足度は下がるわけです.実は,チャットを導入するとコンタクトの数が増えるので,そしたら経営者から,「なんだ,効率化で入れたのに問合せが増えてしまうのか」と言われてしまいます(笑).

チャットボット導入で,むしろコンタクトは増加しコストは増加するが,これまでコンタクトのなかったお客様層にコンタクトを広げる効果がある.

渡部 よくお客様に言うのは,ボットを入れるのは,今まで問い合わせてこなかった人,サイレントカスタマーの声を拾うために入れましょうと言うんです.

有名な消費財メーカーさんが有人のチャットを入れたのは,コンシューマの方とコミュニケーション数を増やすことがブランドを築くことだというしっかりした理念があったからと聞いてます.でもそうは言っても,有人チャットがどんどん増えたら,それはコストがかかる.だからボットにしようということだったと聞いてます.

宮﨑 同じボットを入れるにしても,考え方如何によってお客様が不満足になってしまう場合もあるし,コミュニケーションを増やすことでブランドを築こうというケースもあるのですね.

5.4 コンタクトセンタにおいてAIは人の雇用を奪うか?

新しい形の産業革命:仕事の置換えはある程度進むが,新たな仕事の出現も? 世の中はAI前提の考え方,動き方に変わる?

宮﨑 ちょっと戻りますけど,AIが雇用を奪うという話は,稲田さんの話の中ではあまり今のところ心配しなくてもいいようでしたが,いかがでしょうか?

渡部 今まで機械化だとか,産業革命が起こったとき必ず技術的失業が生まれているじゃないですか.だからコンタクトセンタでも,全然安泰ということはなくて,ある程度は,技術的失業(AIによる仕事の置き換え)はあると思います,それで雇用が全部なくなるとは思いませんが.機械化のときには,製造業の人が,サービス業に移ったりと流動化したわけですので.

宮﨑 鉄道の場合,馬を走らすことはなくなったけれども,別の仕事もできた.もう一つは,世の中,鉄道を前提とした考え方や動き方に変わっていった.ならばAIというの出てきて,別の仕事ができ,AIを前提とした考え方や動き方に変わっていくということでしょうか.

渡部 そうですね,だから新しい形の産業革命ですよね.

AIを導入しても電話は増えていて,それがお客様の拡大につながっている.
現状,まだまだ人の仕事はなくならない,今後ある程度,置き換わっていくとしても人もAIの進化に合わせてスキルを伸ばしていけば,仕事がなくなることはない.

稲田 先ほどのお話のように,電話の数が全然減っていないので,現実的に言うとまだまだ人の仕事はなくならない(笑).じゃあAIを入れて意味がなかったかというと違って,これまで問い合わせのなかった投資初心者のお客様からの問い合わせが増えてきたので,「貯蓄から投資へ」と投資家・お客様を増やす方向にいっています.

宮﨑 いい方向.

稲田 会社としては,まさにそれ以上のことはないと思います.結果としては,人の仕事の置き換えがある程度は進んでいると思います.それ以上に新しい価値を創造しているとか,新しいニーズをキャッチできていると思います.

宮﨑 ハードルを下げてしまったということでお客様は増える.すごい効果ですね.

稲田 人もテクノロジーの進化に合わせて,徐々にスキルを増やしていけば,奪われることはないですし,あとは,産業にもよるのですけど,パイが拡大していく業界であれば,人の仕事が奪われることはない.

AIに任せた方がよい仕事と人ならではの仕事が明確になっていき,整理されている単純作業はAIに置き換わり,一方で,人ならではの部分はそれでも残っていく.

相楽 仕事が整理されているところからシステム化されるのと同じように,整理されている単純作業はAIに置き換わりますが,まだ整理されていないものは当面人での対応が残ると思います .

稲田 リアルタイムの対応は,たとえば証券だと,今日なんで株がこんな急騰しているのとAIに聞いても答えは返ってこない.

宮﨑 テレビチャンネルなんかで通販,やっているじゃないですか,私もネットでの取引には別になんの抵抗もないですけど,いいなと思って,やはり電話の方に先にいきますね,人の直感性というかね,即時性というか.

相楽 それはどんどん売れて商品がなくなってしまうから電話の方が早く注文できるという判断をされているのでしょう(笑).

宮﨑 なんか乗せられているのでしょうね(笑).これは,AIには難しいでしょう.今,電話しないと間に合わないみたいな気持ちにさせるというか(笑).

6.お客様により高い価値を提供するにはどうしたらいいか?

宮﨑 では,だんだんと本質の方に入っていこうと思います,お客様にとってより高い価値,これを提供するにはどうしたらいいか,皆さんにお話をいただきたいと思います.

目先に縛られず,1年後も買っていただけるようなサービスを提供すること.

渡部 僕のテーマはロイヤリティの向上というのがすごく重要で,目先,何か買ってもらおうという場合には,値下げとか,キャンペーンとか,やれば買ってくれるけど,1年後にこのお客様に,買ってもらうための接客をすることが,価値を上げることになる.

良いサービスをすると,そのお客様は必ず戻ってくるという,なんだか宗教じみたお話をしているようですが,そういうことで価値を上げていく.そういう気持ちのお客様の売上げのシェアを増やすことが経営的な目標であって,今の売上げを伸ばすのは重要なのだけれど,そこに縛られると,それは悪い売上げと言っています.良い売上げは,そういう気持ちのあるお客様の売上げで,その比率を伸ばすことができるようなサービスをしましょうということだと思います.

ロイヤリティを高める上で,お客様の行動分析や感情分析にAI活用を期待したい.

宮﨑 渡部さんの論文では,お客様のロイヤリティが上がっていくポイントをいかに掴んでいくかということが非常に重要だとおっしゃってましたね.

渡部 そうですね.AIで,どこの接点がすごくロイヤリティに響きそうか分析してくれると嬉しいなと思ったりしているのですけど(笑),その感情とか.

宮﨑 ビッグデータとか,AIを使って,すごくいいお客様,ロイヤリティの高いお客様を分析するという方法で,その人はどの接点をよく使っているのか,どういう行動をしたあとに買うのかを分析したケースがあります.

渡部 そういう分析で,今,僕は一生懸命アンケートを取ってどの接点が一番ロイヤリティに響くかという相関分析とかをしているのですけど,結局,なんか結構,エクセルとの格闘みたいに最後なってしまうので(笑),そういうのもAIがやってくれると,僕の職がなくなるかもしれないけど(笑).

人は人にサービスされたいので,AIによるリコメンドで体験価値が下がる可能性がある.

神山 AIによるリコメンデーションは,相当普及していますが,AIにリコメンドされるということ自体が体験価値を損ねているのではと思うのです.やはり人って人にサービスされたい生き物だなと思っていて,それが正確性とか,迅速性みたいな観点だったら別にAIでもいいやとなりますが,同じリコメンドだったとしても,人に「この本いいんじゃないですか」と勧められたときと,AIでは違うかなと.購買履歴から導かれるときの気持ちとやはり違うじゃないですか.それって満足度に直結しているんじゃないかと思うのですよね.

相楽 心があるかないかの差なのではないでしょうか.

神山 本当そうだと思うのですよね.

サービスに「人の手(心)の要素」が入ると価値が高くなる.

神山 高い価値と言ったときに,どういうときにドーンと高くなるかというと,「あなたのことを考えてこうしたんです」のような人の手が入っている痕跡があると高く感じられるところもありますよね.

相楽 まさにその通りで,たまに毛色の違うジャンルの本を薦めてもらった時などは,「あなたのことを考えて(あなたの見識がさらに広がるように読んでみるといいよ)」と感じますよね.

神山 たぶん人が人でいる限りなくならなくて,AIがどれだけ発展していっても,そこに人の手が入ることによって価値が高まるということがあるのだとすると,そこに人の働き口もあるのかなというのは感じている.特に証券会社の営業なんてその側面がありますよね.あるいはその側面が非常に大きいかもしれないですけど(笑).

人間関係(信頼関係)というのは,AIに真似ができない差別化要素になる

稲田 人間関係とか,ありますね.投資というのは正解がないものですからね,株なんかどこで買っても値段は一緒じゃないですか.手数料だって今変わりがないですよね.情報量だって,このネットの社会だったら別に証券マンに聞かなくたっていくらでも情報は手に入りますので,我々の仕事に関してというとまったく差別化できないのですよね.そうするとやはり営業マンとの信頼関係です,これは絶対AIでは無理ですよね.

相楽 そうですね.

コンタクトセンタでは,今後は「オペレータとのやり取り」が差別化要素になる.

稲田 カスタマーサポートセンタでも,オペレータとのやりとり,その辺でしか差別化できない.チャットボットで差別化しようと思ったら,やはりまずオペレータで差別化,人で差別化しないと,結局チャットボットの差別化はできない.成功しようと思ったら,人で先行し続けないと,人がどこかで立ち止ってしまったらチャットボットの進化も止まってしまう.

宮﨑 やはり人が先行してやっていかないといけませんよね.先行してやっていくところに人の意義があるし,価値を生む.

今後は,お客様のさまざまな価値観にお応えすることが,価値を高めることに繋がる

稲田 お客様にとっての価値があるかどうかは,お客様が判断するわけで,人によって違うじゃないですか.やはり10人いれば10人の価値観があり,そのお客様なりの価値観に合わせられるようなチャネル,別に,店舗もなくならないし,電話もなくならない,Webもなくならない,でもチャットが加わって,もしかしたらまた1つか,2つ,この2~3年で加える必要があると思いますが,あとはそれをどうやって採算が合うように運営ができるかどうかというところ,それも考えるのは人ですよね.

神山 そうですよね.

人ならではの「おもてなし」には大きなコストがかかるが,大きな感動を呼ぶ

稲田 この間,石川県のおもてなしで有名な旅館に行ったのですけど,最近は,チェックインとチェックアウト,自動でできるというところが多いじゃないですか.ところが,従業員で手が空いている人,みんな玄関に出ろと,総務でも,人事でも,支配人でも,とにかく出れる人はみんな,できるだけたくさんでお迎えをする.だから着物を着ている人がいるだけではなくて,スーツを着ている人とか,作業着を着ている人とか,いろいろな人が立っていて.

相楽 感動.

稲田 ウェルカム感がものすごいですね.人手ですからね,人手は高いですよね.高い.でもそれでこそ,リピータがいるのですよね.やはりそれを求めている人はいるわけです.

7.高い価値を提供するのには,何に向かって努力すべきか?

宮﨑 価値を創造するコンタクトセンタにするには,コンタクトセンタではなくても,コンタクトチャンネルでもいいですけど,何に向けて努力すべきでしょうか?

お客様の体験価値が上がるよう,サービス品質向上の努力が必要.
それには時間がかかるので,目標と実現時期を設定し忍耐強く努力することが重要.

渡部 体験価値を上げていくには,サービス品質を上げていく必要があり,結構長い期間がかかる.どれだけ我慢できるかは,経営者には特に重要なので,ゴール地点をどこに置くか,しっかりプランすることが,すごく大事だと思います.よく満足度を上げるというと,「それでなんぼ売上げが上がるねん」という話で(笑),愚痴でもあるんですけど(笑).「今やっていることは今年の売上げじゃないですよ,先の収益を上げるために今やっているのですよ」ということを腹に落としていく,でも,忘れるんですね,しばらくすると「なんぼ上がるねん」という話になるから(笑),経営者に分かってもらうことはやらなければならないです.

宮﨑 目標と実現時期を定めて,繰り返し経営者の腹に落としておかないと,ぶれてしまうわけですね.ありがとうございます.

機械に得意な部分は機械に任せ,人はお客様の心に響くサービスの提供に向け努力したい

相楽 各々のコンタクトセンタが何を狙うかが大切だと思っています.コンタクトセンタに集まっている声を活用して次期型製品やサービス向上に活かすことでコンタクトセンタが企業で高い価値をだせると思っています.そのために,いかにして素早くお客様の声を正しくテキストに残すか,声を分析するか,分析結果を社内の他部門にフィードバックするかが重要だと思っています.AIを含むコンピュータは決められたロジックにのっとった高速な処理が得意なため,整理ができて単純作業になっているものやビッグデータの解析で傾向を見るみたいなAIの得意なところはどんどんAIに任せ,人は人にしかできないところ,お客様の心に響く寄り添ったサービスを提供できるように努力していったらいいと思っています.

宮﨑 ありがとうございます.では,神山さんお願いします.

AIを使った情感の満足について探求していきたい.結果,人によるサービスも,機械によるサービスもより良いものになっていく.

神山 弊社は情感,情動,お気持ちを満足させるためだけのサービスを提供している会社なので,今後もそれを求めていきたい.一方で,今一番やっているのは, AIの世界でどう情感を満足させられるのかをサービスとしてご提供すること.そこをやっていくことによって,逆に,人にしかできないところが明確になってくる.それが機械に教えることができることであれば人にも絶対に教えられるはずなので,個人の経験則に頼らないやり方で,人ができるより高いサービスが創れると思っています. 

宮﨑 ありがとうございました.稲田さん,お願いします.

テクノロジーを活用して,今後も多様化するお客様の価値観に対応できるようにしたい

稲田 コンタクトセンタとして価値を創造していくには,お客様が何を求めているかに,お応えすることだと思います.価値が多様化し,選択肢も多くなっていきますから,企業としては,いろいろな価値観のお客様に対応できるようにしなければならない.それをただ人海戦術でやるとコストもかかるし,土台無理で,生産性を上げるのはテクノロジーであるのは間違いない.サポートツールとしてAIをどんどん活用していくべきだと思う.

商品やサービスも変化していくし,お客様がどうしてほしいかも,だんだん変わっていく.それをしっかりと追いかけ,かつ世間の常識とかけ離れないようにしたい.やはり日本の常識で考えることは重要で,アメリカから来た人が,「チャットをなぜオペレータとAIを分けているのか,アメリカでこういう例はない」と言われるが,これは日本的なところかもしれない.

宮﨑 本日は,「価値を創造するコンタクトセンタに向けて」と大変難しいテーマの座談会でしたが,長時間ありがとうございました.皆様の実践により得られた貴重な知見を惜しみなくお話いただき,また大変分かりやすくお話いただき大変ありがとうございました.

左から:渡部弘毅氏,稲田英樹氏,神山晃男氏,相楽香織氏,宮﨑義文

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