デジタルプラクティス Vol.9 No.2 (Apr. 2018)

みなレポ:地方自治体の日常的な行政業務における参加型センシングによる情報収集・共有システム

坂村 美奈1  米澤 拓郎1  伊藤 友隆1  金子 義之2  中澤 仁3

1慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科  2藤沢市資源循環協同組合  3慶應義塾大学環境情報学部 

地方自治体には,多種多様化する住民の要望に対して,迅速な把握・対応をする効率的なまちづくりの実現が期待される.しかし,現状の地方自治体の日常的な行政業務では,情報がデータ化・共有できておらず時間的・人的コストが高い部分が存在する.本研究では,地方自治体の日常的な行政業務において,職員の持つ携帯端末を通してリアルタイムな情報を取得可能とする参加型センシングを適用し,効率的な情報収集・共有を可能とすることを目的とする.本研究で開発した情報収集・共有システム,みなレポにより,地方自治体の日常的な行政業務の効率化だけでなく,地方自治体の職員による専門的知識に基づいた情報収集が実現される.みなレポは2016年10月から藤沢市において実運用されており,道路・ゴミの集積所の管理や,動物の死骸・落書き・不法投棄の発見に関するレポートがこれまで計1,740件以上収集された.本稿では,実運用により得られた知見および課題について報告する.

1.はじめに

近年の都市部への人口集中,外国人居住者・観光客の増加やライフスタイルの多様化により,地方自治体はまちづくりに際して市民の多種多様な要望を迅速に把握し,対応する必要がある.しかし,現状の地方自治体の日常的な行政業務では,情報のデータ化・共有ができておらず時間的・人的コストが高い部分が存在する.

例として,図1に市民が資源物の回収忘れを発見した場合の藤沢市の対応の流れを示す.資源物の回収忘れを発見した市民は,まず市役所に場所や状態を報告する.市役所では,受けた報告を元に地図を開き,場所を確定する.現在,藤沢市では藤沢市,藤沢市資源循環協同組合(以下,組合),(株)藤沢市興業公社からなる3社が家庭ゴミの回収を担当するが,資源物の回収忘れの場合は組合宛に,電話あるいはFAXで対応を依頼する.組合は,市役所からの情報を元に地図を開き,場所を確定する.そして,ホワイトボード上で日付・場所ブロック・住所・名前・品目・担当会社などからなる対応リストと地図を共有し,対応状況を管理する.その後,回収場所のルートを担当する会社を特定し,担当者へ電話で対応依頼を行う.依頼を受けた担当者は車を止め,地図を開き回収場所を確定した上で対応場所へ向かい対応作業を行う.対応完了後,組合へ報告を行う.

図1 藤沢市における現状対応例:市民が資源物の回収忘れを発見した場合

このように,現状の対応では対応すべき市内の状況の発見から対応が行われるまで,情報のやりとりは常に一方通行である.また,情報はデータ化されていないため,その都度担当者が地図を開いて場所を特定したり,対応に必要な情報を記入したりする必要がある.さらに,対応を依頼する際,現状では対応場所を担当する社に依頼をするが,もし対応場所近くに別の社の車が走行していた場合はその社に依頼した方が効率良い対応が可能となる.しかし,現状はホワイトボード上でしか対応状況を共有していないため,ほかの社に依頼することは難しい.ゴミの回収作業においては,例に挙げた資源物の回収忘れだけでなく,ゴミの回収作業中に発見する落書き,道路の不具合,不法投棄や,住民クレーム・要望,事故の報告なども重要な行政業務の一つであり,これらの業務に関して職員が情報収集・共有や対応を行う際,業務に支障がない形で作業を効率化する仕組みが必要である.

また,共著者の藤沢市資源循環協同組合金子所長によると,現状,ほかの地方自治体においてもほとんどが情報のデータ化・共有が進んでいない.一部の地方自治体における先進的な取り組みの例として,スマートゴミ箱によるゴミの蓄積・回収状況の可視化[1],塵芥車用カーナビの取り入れ[2],ゴミ分別アプリ構築サービスの導入[3]やAIを利用したごみ分別案内の実証[4]などが挙げられるが,特定の業務カテゴリや業務内容に限られた情報のデータ化もしくは共有の実現や実証実験となっている上,職員が日常的にこなす業務における情報のデータ化・共有を効率化するシステムは少ない.

そこで本研究では,地方自治体の日常的な行政業務において,職員の持つ携帯端末を通してリアルタイムな情報を取得可能とする参加型センシング(Participatory Sensing)[5]を適用し,効率的な情報収集・共有を可能とすることを目的とする.参加型センシングとは,都市地域のリアルタイムな情報を一般ユーザから取得可能とするセンシング技術のことである.

ここで,一般ユーザにセンシングへの参加を促す際に課す依頼事項をセンシングタスクと呼ぶ.センシングタスクとは,たとえば「イベントの雰囲気を教えてください」,「歩行中の騒音度を収集してください」といったものである.参加型センシングは,温度や匂い,雰囲気の感知といった人の知覚を利用した情報と温度センサ・GPSといったモバイル端末搭載のセンサから得られる情報の両方を収集可能である.すなわち,主観・客観視点の両方に基づいた情報が収集可能である.よって,都市状況把握のための重要なセンシング技術として位置付けられている.

既存の参加型センシングでは,センシングタスクのカテゴリが限定的であるという課題や,住民の参加の動機付け等が十分でない場合情報の収集率に偏りが出るという課題が存在する.本研究で開発した情報収集・共有システム,みなレポは,センシングタスクのカテゴリを限定しない.また,みなレポは地方自治体の職員が行う日常的な業務内において運用されており,レポートが定期的に収集される.収集された情報は,即時に共有・対応を行うことができるため,地方自治体の日常的な行政業務の効率化が期待される.また,実運用に向けた実証実験や検討をしている自治体は見られるが,本システムのように日常業務においてすでに実運用されている自治体は少なく,本研究で得られた知見は今後同様のシステムを他の地方自治体に導入する上で有用である.さらに,参加型センシングは人の知覚を利用した主観的な情報を収集可能であり,これを市内の事情に詳しい職員が行うことで細かな気づきに基づいた情報収集が可能となる.収集された情報は正確性が高く,人工知能の学習データとして利用することで事象の予測・対応を行うことができ,将来のまちづくりの指針となることが期待される.

みなレポは,効果および課題を検証するために2016年10月から藤沢市にて実運用されており,これまで計1,740件以上のレポートが投稿された.得られた投稿と職員へのアンケート結果から,現状のシステムに改善点が見られるものの,対応速度の向上および市内の詳細かつ広範囲な状況把握が可能となり,今後のシステム改善および導入範囲の拡大に意欲的な職員が多く見られた.

第2章では効率的な地方自治体の運営に向けた地方自治体の日常的な行政業務のデザインを行い要件を整理する.第3章で関連研究を紹介し,本研究の位置付けを明確にする.第4章でみなレポのシステムについて述べ,第5章で実運用結果と考察を述べる.最後に第6章で結論と今後の展望を述べ,まとめる.

2.効率的な地方自治体の運営に向けた日常的な行政業務のデザイン

本章では効率的な地方自治体の運営に向けた日常的な行政業務のデザインを提案することでみなレポの要件をまとめる.

2.1 行政業務の主な流れ

図2は地方自治体の行政業務の主な流れを示したものである.住民の快適な生活のためには,道路の整備状況やゴミの管理など日常的な生活のサポートから,イベント時・災害時といった非日常的状況下における安全面等のサポートが必要である.そのために地方自治体の職員は日々,市で何が起こっているか,状況やイベントに関する情報をリアルタイムに取得する必要がある.収集された情報は地方自治体の業務の中で蓄積・解析・共有を行い対応が必要であれば指示を出す.何らかの対応を終えた後には報告を行う.まちづくりを推進し住民の生活レベルを向上させるためには,これらの行政業務の流れが効率良く循環することが必要である.

図2 行政業務の主な流れ

2.2 要件

これまでに述べた地方自治体の行政業務を効率良く循環させるために,本研究が提案する参加型センシングによる情報収集・共有システムが満たすべきデザインの要件を3つ述べる.

1. 収集性

情報を発見する際は,たとえば業務中におけるゴミ清掃車内の助手席にいるときに動物の死骸を発見するなどといったことが想定されるため,即時に報告できることが望ましい.また,市の職員は年齢や性別がさまざまであるため,誰もが容易に情報を収集できるべきである.そして,位置・画像・対応が必要か否かといった必要な情報はすべてその場で収集されるべきである.

2. 共有性

収集された情報は他者と共有するために可視化する必要がある.可視化の際には,投稿済みの情報を分かりやすく表示するだけでなく,対応が必要な業務や対応を行った業務に関してのやりとりを他者間および地方自治体の業務にかかわる他組織間で円滑に行えるべきである.

3. 拡張性

システム上でやりとりされるデータのフォーマットとデータの配信プロトコルは統一化されていて,拡張性を有するべきである.この拡張性により,固定カテゴリに捉われないセンシングタスクの作成や外部アプリケーションでの二次利用が実現される.

2.3 本研究の目的

本研究では,地方自治体の日常的な行政業務において効率的な情報収集・共有を可能とすることを目的とし,上記の要件を満たす参加型センシングシステム,みなレポの構築を行う.既存の参加型センシングシステムでは,必ずしも幅広い課題を対象としたまちづくりのシステムではなく,都市など幅広い地域を対象とした実験であってもセンシングタスクのカテゴリが限定されていることが多い[6],[7].また,一般ユーザが日常生活において参加型センシングを行うことを想定したシステムは数多く存在する[8],[9]が,市の職員が業務中に参加型センシングを行うことを想定し評価を行った例は少ない.本研究では,みなレポの構築を行うとともに,幅広い課題を対象として多種多様な職員が業務に参加型センシングを適用した場合にどのような知見および課題が得られるのか,実運用を通して明らかにする.

3.関連研究

既存の参加型センシングシステムには,都市の騒音量[6],[10]や路面,大気状況[7]を一般住民に取得してもらうシステムが存在するが,これらは特別なタスクをこなすことに焦点を当てている.また,ちばレポ(ちば市民協働レポート)[8]は,住民に主に道路,公園,ゴミに関する市内の課題をレポートしてもらうためのアプリケーションであるが,一般住民を対象としておりレポートが興味ベースのものになってしまうことや収集速度に偏りがあることから,効率的にデータ収集を行うことは難しい.みなレポは地方自治体の職員を対象とした参加型センシングを想定しており,レポートのカテゴリにとらわれないシステムを提供する.これにより,レポートが定期的に収集され多種多様な情報が収集可能となる.現在のみなレポでは,職員と打ち合わせの上必要と判断された9個の業務内容に準ずるカテゴリ(街灯,落書き,災害など)に加え,市内の魅力的な事項を投稿するための「キュン」やその他のあらゆる事項を投稿するための「その他」といったカテゴリを設けている.さらに投稿データはみなレポシステム上で仮想的なセンサノードとして扱われ,この仮想的なセンサノードを増減し,投稿アプリケーションやWebビューワに反映することですぐに数や種類の変更や増減の対応が可能となっている.

参加型センシングの質問の設定や配布を行う研究として,Open Data kit[11]はモバイル端末を利用したデータ収集実験を想定しており,収集したいデータをフォームに記入すると,それを元に利用しやすい形でユーザに提供する.Sensr[12]やMedusa[13]は特別なプログラミング能力がなくてもモバイル端末上でのデータ収集とマネジメントが可能なツールを提案している.しかしこれらの研究は,データが広く公開されていない,という制限がある.みなレポではデータの二次利用や動的なUI(User Interface)の作成に対応するために,データのやりとりにはXMPP(Extensible Messaging and Presence Protocol)[19]をベースとしたセンサネットワークを使用しており,今後収集されたデータの公開,共有やアプリケーション開発が可能である.

また,投稿に対する動機付けとなり得るインセンティブについての研究に関して,金銭的なインセンティブを与える研究[14],[15]やゲーミフィケーションの適用[16],貢献度の可視化[9],[17],依頼の際の文言を変化させるなどした心理的なアプローチ[18]に関する研究が存在する.本研究では職員の業務中に参加型センシングを行うことを想定しているため,現在は特定のインセンティブは付与していないが,今後,投稿の持続性および収集性を維持するために投稿数によるランキング制度やゲーミフィケーションの導入を考えている.

4.みなレポ

本章では,地方自治体の日常的な行政業務における参加型センシングによる情報収集・共有システム,みなレポの詳細について述べる.

4.1 概要

図3にみなレポのシステム概要を示す.今回は例として,図1ですでに述べた,藤沢市において市民が資源物の回収忘れを発見した場合の対応にみなレポを導入した際の流れを示した.市民が資源物の回収忘れを発見し,市役所に場所や状況を報告するところまでは従来と変わらないが,今回,報告を受けた市役所では,みなレポ上で対応レベル・コメント等の記入を行い,対応事項を報告する.なお,発見者が市民ではなく市の職員の場合は市の職員がその場で手持ちのスマートフォンやタブレット端末を通してみなレポを使用し,自動的に取得された位置情報や写真等とともに対応事項を報告する.みなレポでは,投稿データは参加型センシングの仮想的なセンサノードにPublishされる.そして,仮想的なセンサノードを通してそのノードをSubscribe(購読)しているアプリケーション(この場合はみなレポビューワ)の元へ配信される.このリアルタイムのデータ配信に加えて,履歴データとしてデータベースにも蓄積され,みなレポビューワに利用される.みなレポWebビューワは特定のURLにアクセスすることで誰でもが同時に閲覧可能である.そのため,従来行っていた市役所から組合へ,組合から担当社の車へ,といった複数機関にまたがる情報のやり取りは行うことなく,それぞれの機関が同期された状態で対応を行うことが可能である.たとえば回収場所の担当がA社であっても,その場所の近くを走るB社の車があった場合には,B社の車が対応すればよいこととなる.対応には地図を開いたり,対応事項を紙にまとめたりすることなくすべてみなレポを通して確認,対応報告をすることができる.

図3 みなレポのシステム概要

4.2 実装

本節ではみなレポの詳細な実装方法について述べる.みなレポは第2.2節で述べた参加型センシングによる情報収集・共有システムの要件を満たすように実装された.

4.2.1 位置や画像情報等が容易に収集可能なインタフェース

まず,要件の1つ目である「収集性」を満たすために,職員が投稿時に行う操作の過程をなるべく減らし,誰でもが容易かつ必要な情報がその場で収集可能なインタフェースを持つシステムを開発した.みなレポの投稿はiPhoneのほか,AndroidアプリケーションおよびWebページ上で行うことができる.図4に今回作成したみなレポのiPhoneアプリケーションの使用イメージを示す.まず始めに名前を登録した後,所属の課を選択する.課ごとに対応するレポートタイプが表示されるため,投稿するレポートタイプを選択する.レポートタイプを選択すると,カメラが起動される.ここで撮影を行うか,アルバムから既存の写真を選択する.写真を撮影もしくは選択すると,写真確認の画面となる.OKを選択すると,投稿画面へ移る.投稿画面では,対応レベルを対応なし・通常対応・緊急対応から選択する.対応レベルが緊急対応みなレポWebビューワの様子と選択された投稿に関しては,メールで全職員宛に該当レポートの内容が通知される.コメントを任意で入力し,レポートタイプ,写真と位置情報を確認した後,報告をする.報告が完了した後は写真の撮影・選択画面に戻る.

図4 iPhone版みなレポの使用イメージ
4.2.2 センサデータの可視化による共有と蓄積

要件の2つ目である「共有性」を満たすために,XMPPサーバ上でSubscribeした職員からのセンサデータを用いて図5のようにWebビューワを作成した.なお,図中において住所や投稿者など,プライバシー漏洩の恐れがある情報はモザイク加工を行った.また,データベースはMySQLを利用した.Webビューワにはまず,投稿済みの情報をユーザの必要に応じて選択したレポートのみを表示するフィルタ機能があり,レポート種類・対応の必要なレポートに対する完了報告の有無・投稿者をそれぞれ選択し表示することができる.また,投稿一覧では,フィルタに対応する全レポートの内容と対応の完了状況が表示される.閲覧中の任意のレポートを選択すると位置・画像・レポート対応レベルなどの内容の詳細が表示される.以上で述べた投稿データの可視化だけでなく,対応が必要な業務や対応を行った業務に関してのやりとりを他者間で行うために,ディスカッションエリアを設けた.ディスカッションエリアでは,選択したレポートに対するコメントが入力できるだけでなく,対応レベルが通常対応もしくは緊急対応であるレポートの場合,対応完了・未完了のチェックをすることで対応状況を更新・共有できる.

図5 みなレポWebビューワの様子
4.2.3 XMPPをベースとしたセンサネットワーク

要件の3つ目である「拡張性」を満たすために,みなレポではXMPP[19]の技術を使用し職員の投稿をセンサデータとして扱った.これにより統一化されたデータのフォーマットおよびデータの配信プロトコルと拡張性が実現され,固定カテゴリに捉われないセンシングタスクの作成やセンシングデータの共有といった外部アプリケーションにおける二次利用を容易なものとし,汎用性の高い参加型センシングシステムを実現した.

XMPPはインスタントメッセージソフトなどに使われるXMLベースのオープンソースプロトコルであり,高いセキュリティ性,汎用性および拡張性を持つ.本アーキテクチャはCarnegie Mellon Universityで開発されたSensor Andrew[20]に基づいている.Sensor AndrewはXMPPのフレームワークで実装された,異なるセンサノードのセンサデータを包括的に扱うミドルウェアで,物理的なセンサやアクチュエータを統一化されたフォーマットで扱えるようにSensor-Over-XMPP(SOX)[21]を提供している.なお,元々のSOXのフォーマットスキーマには自由記述や単一項目選択など参加型センシングに関する単位が定義されていなかったため,みなレポでは参加型センシングのデータを扱うためにSOXを拡張した[22],[23].

SOXでは,参加型センシングタスクとして定義した仮想イベントノードをメタノードとデータノードのペアで扱う.メタノードはデータのフォーマットに関する情報を持つ.メタノードで参加型センシングに関する定義をすることで,ユーザがセンシングに参加する際,動的にUIに関する情報を取得し各々の質問に合わせたUIを自動的に生成することができる. 一方,データノードは職員が投稿時に入力した具体的な値を含む.本システムではpublish-subscribe extension[24]を使用し,メタノードやデータノードへPublish,Subscribeすることで統一されたデータフォーマットおよびプロトコルによるセンサデータのやり取りを実現した.

5.実運用結果と考察

みなレポは,藤沢市のゴミ回収業務を担当する藤沢市,藤沢市資源循環協同組合,(株)藤沢市興業公社の職員の業務中に実運用されている.現在の運用で用いられているレポートタイプは表1に示す全11種類である.

表1 レポートタイプのリスト

5.1 投稿数と考察

2016年10月4日6:00AMから2017年6月12日10:00AMまでの約8カ月間のデータを用いて投稿数を集計した.総投稿数は1,746件で,そのうちレベル別では対応なしが442件,通常対応が1,271件,緊急対応が33件だった.図6にレポートタイプおよび対応レベル別の投稿数を示す.最も投稿が多かったレポートタイプは残渣で,そのうち92.5%が通常対応を必要とする対応レベルだった.ゴミに関連するレポートでは集積所,回収忘れ,不法投棄に関するレポートも多く見られ,そのうち通常対応が必要だった割合はそれぞれ83.3%,92.8%,61.0%だった.以上のことからこれまで複数機関をまたがって連絡を取り合い対応していたゴミに関する業務がみなレポを通して行われたことが分かる.

図6 レポートタイプおよび対応レベル別の投稿数

図7に週ごとの投稿数を示す.稿数が100件を超えた10月2週目,5月1週目,5月2週目はすべて落書きのレポートが最も多く,それぞれ74.8%,65.9%,65.0%だった.この期間に集中的に市内の落書き状況の把握を行ったためこのような結果となった.そのほかの期間では毎週平均38件の投稿があった.

図7 週ごとの投稿数

5.2 職員へのアンケート結果と考察

みなレポの効果およびフィードバックを得るために職員にアンケートを行い,30代〜50代の男女12人から回答を得た.みなレポの使用頻度は「5:常に使用する」が3人,「4:よく使用する」が3人,「3:どちらとも言えない」が4人,「2:あまり使用しない」が2人,「まったく使用しない」が0人だった.回答を5段階評価(1:まったくそう思わない 2:あまりそう思わない 3:どちらとも言えない 4:そう思う 5:とてもそう思う)で行ったアンケート結果を表2に示す.

表2 職員へのアンケート結果

投稿の際およびビューワ使用時の操作性や使いやすさに関しては,タブレット端末自体の操作の慣れが不十分である職員が存在し,職員がまずタブレット操作に慣れる時間が必要であることが分かった.一方でみなレポのUIの感じ方に人によるばらつきもあり,より多くの人々にとって分かりやすいUIの改善が必要であることが分かった.

みなレポによる業務効率化については,どちらとも言えないと回答した人が10名とほとんどであった.また,現状のみなレポにはまだ満足している人は少なかった.これはみなレポが導入段階にあり,開発者が職員の要望を聴きながら従来方法も併用しつつ段階的に開発改善および業務への適用をしているためであると考えられる.また,みなレポの導入に関しては良かったと感じる人が多く,不安や抵抗,導入以前のシステムに戻りたいと思う人は少なかったことからも,今後のシステム改善への期待が伺える.具体的な利点としては,みなレポによる対応速度の向上および市内の詳細かつ広範囲な状況把握が挙げられた.特に写真による万人への情報伝達のしやすさや,以前のように報告漏れなくすべての報告を完了できるようになったこと,それにより報告事象に対する自意識や責任感が増加したとの意見が得られた.

一方改善点として,地方自治体の業務へのタブレット端末導入という点で,市民からの理解や導入コストに見合ったシステムの提供が求められることが分かった.これはみなレポに限らず,今後職員が業務効率化のために何らかのスマート端末を使用する上でも重要な考慮すべき事項である.そして,対応レベルやレポートタイプのラベル付けが人により異なるという点から,類似システムを大規模に導入する上で職員の認識を統一する必要があることが分かる.また,従来の紙の方が見やすさおよび整理のしやすさが勝るとの意見が多く,これはみなレポでまだ対応しきれていない機能や表示項目があるためだと考えられる.今後のシステムでは号車・担当・地区ごとの振り分け・検索機能,ナビ機能,レポート消去機能,報告場所と担当エリアを正確かつ迅速に把握するためのgoogle my maps機能との統合が求められる.

また,みなレポの導入前後における業務時間の変化について尋ねると,現段階ではみなレポの部分的な運用であるため従来のアナログ作業と並行した作業が必要になり,特に現場に指示を出す側は業務が増加している部分があることが分かった.しかし,従来のアナログ作業がなくなったとしたら1件につき15分〜20分業務時間が短縮すると予想された.また,緊急時は従来方法の無線を使用した方が安全かつ効率的という意見もあった.一方指示を受ける側は作業中のタブレット操作に時間がかかるとの意見があったものの,写真付きのレポートによる状況把握,地図上での場所確認が早くなったとの意見が得られた.

1日に報告するレポートの数の変化については,現場に指示を出す立場にいる職員は変化なしとの回答が多かったが,全体を通して減ったと回答する人はいなかった.現場からの報告数に関しては増加したとの回答があり,特に落書きなど,従来の方法ではレポートしにくかった案件を報告できるために増加したと思うとの意見があった.みなレポにより,従来方法では時間のかかる報告が手軽にできるようになったことがレポート数の増加につながったと考えられる.

6.おわりに

地方自治体には,多種多様化する住民の要望に対して,迅速な把握・対応をする効率的なまちづくりの実現が期待される.しかし,現状の地方自治体の日常的な行政業務では,情報がデータ化・共有できておらず時間的・人的コストが高い部分が存在する.本研究では,地方自治体の日常的な行政業務において,職員の持つ携帯端末を通してリアルタイムな情報を取得可能とする参加型センシングを適用し,効率的な情報収集・共有を可能とすることを目的とするシステム,みなレポを提案,実装した.みなレポは2016年10月から藤沢市の主にゴミの回収業務において実運用されており,これまで計1,740件以上のレポートが投稿された.得られた投稿と職員へのアンケート結果から,現状のシステムに改善点が見られるものの,対応速度の向上および市内の詳細かつ広範囲な状況把握が可能となり,今後のシステム改善および導入範囲の拡大に意欲的な職員が多く見られた.

今後は,まず藤沢市において異業務,多人数での運用を予定している.また,国内外の複数にわたる行政地域において実運用を行い知見を得ることで,汎用的なシステムの構築を目指す.さらに広範囲かつ多数のデータ収集を実現するために,みなレポの一般住民への配布を考えている.一般住民もみなレポを通した投稿や情報共有が可能となれば,地方自治体の抱える問題点を住民目線で問題提起,解決することが可能となるだけでなく,住民自身が地方自治体の新たな魅力を発見する機会も増加すると考えられる.しかし,一般住民へのシステム展開にあたっては投稿の動機付けや誹謗中傷を含むデータの投稿に伴う情報の品質,プライバシ問題が懸念されるため,これらを解決し得るシステムを今後開発する必要がある.一方で,みなレポWebビューワは一般住民が地方自治体の業務活動や地方自治体内で起きている問題点を把握する上で有効と考えており,地方自治体の施設内などに設置したパブリックディスプレイにおける投稿データの可視化や地方自治体の公式Webページでの情報公開は一般住民にとって有用性が高い.

また,都市の状況把握,対応をより多角的な視点から行うために,テキストや写真による投稿のみならず,温度,加速度などのモバイル端末に搭載されているセンサのデータを投稿を可能とすることで,より詳細な市内の情報を取得,解析することを目標としている.

謝辞 本研究は国立研究開発法人情報通信研究機構に支援いただいた.

参考文献
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坂村美奈(非会員)mina@ht.sfc.keio.ac.jp

1991年生.2014年慶應義塾大学環境情報学部環境情報学科卒業.2016年同大学大学院修士課程修了.現在,慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在学中.主に,スマートシティ,モバイルコンピューティングシステム,ユビキタスコンピューティング等の研究に従事.ACM会員.

米澤拓郎(正会員)takuro@ht.sfc.keio.ac.jp

2007年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士.2010年慶應義塾大学Ph.D.(政策・メディア).現在,慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師.主に,ユビキタスコンピューティングシステム,インタラクティブシステム,センサネットワークの研究に従事.ACM各会員.

伊藤友隆(非会員)tomotaka@ht.sfc.keio.ac.jp

2010年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士過程修了.現在,同大学院政策・メディア研究科研究員.ユビキタス環境におけるサービスミドルウェアやサービス記述言語等中心に,ユビキタスコンピューティングの研究に従事.

金子義之(非会員)fuji-sigen2@aw.wakwak.com

2011年藤沢市資源回収協同組合(2016年4月に藤沢市資源循環協同組合に名称変更)に入社.同年,副所長に就任.2012年第一種衛生管理者,安全管理者を取得しリサイクルプラザ藤沢運営業務の組織編制,作業管理に従事.2013年所長に就任,2014年障害者職業相談員を取得し障害者雇用を推進し,2015年「かながわ障害者雇用優良企業」第55号認定を受ける.現在,静脈産業海外進出プロジェクト開発を促進.災害対策委員会副委員長,新技術検討委員会委員,藤沢市IT推進会議委員を務める.

中澤 仁(正会員)jin@ht.sfc.keio.ac.jp

慶應義塾大学環境情報学部准教授.博士(政策・メディア).1975 年生.1998 年慶應義塾大学総合政策学部卒業.2001年同大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了.2001 年同学院同研究科博士課程修了.ミドルウェア,システムソフトウェア,ユビキタスコンピューティング,センサネットワーク等の研究に従事.電子情報通信学会,ACM,IEEE各会員.

投稿受付:2017年8月3日
採録決定:2017年12月11日
編集担当:長谷川亨(大阪大学)