デジタルプラクティス Vol.9 No.1 (Jan. 2018)

「オープンデータを活用した新しい社会」特集号について

萩野 達也1  藤瀬 哲朗2

1慶應義塾大学  2(株)三菱総合研究所 

はじめに

国の未来投資戦略2017☆1において触れられているように,第4次産業革命(IoT,ビッグデータ,人工知能(AI),ロボット,シェアリングエコノミー等)の進展により価値の源泉が「モノ」や「カネ」から「ヒト(人材)」,「データ」に移るといわれています.そのような状況下で官民を挙げてさまざまな情報のオープンデータ化とその利活用が推進されています.我が国では,国や地域がオープンデータ化の主導的な役割を担っていると考えられ,政府による「世界最先端IT国家創造宣言」でも「オープンデータ・ビッグデータの活用の推進」として,行政が保有する地理空間情報,防災・減災情報,調達情報,統計情報等の公共データや,企業が保有する顧客情報,個人のライフログ情報等,社会や市場に存在する多種多量の情報を相互に結びつけ,活用することで,企業活動,消費者行動や社会生活にもイノベーションが創出される社会の実現まで言及しています.

本特集の論文について

本特集では,国の施策にかかわる活動として解説論文2編,招待論文を1編掲載し,さらにこれらの著者にパネリストとして登壇いただいたパネル討論の内容をご紹介します.また本特集では投稿論文として,オープンデータ化について2編,地方公共団体のオープンデータ利活用について2編,計4編の論文を採択しました.

まず本特集号の連動企画として開催したFIT2017のイベント企画「オープンデータ活用の最前線」における2つの講演を解説論文として再構成しました.

平本氏の解説論文「デジタル・ガバメントとオープンデータの推進について」では,行政機関の情報のオープンデータ化を推進する施策,および連動する政府の情報化(デジタル・ガバメント)施策を解説しています.我が国のオープンデータ化を主導する国の施策の内容についてです.行政情報のオープンデータ化し利活用を推進するためには,行政自身のデジタル化を推進していく必要があり,その両輪について解説しています.

越塚氏の解説論文「気象データとその新しい利活用にむけて」では,公共データとして非常に利活用が進んでいる気象データについて解説しています.気象データは巨大データであり扱いが大変というために配信できないデータもあるという課題もありますが,課題解決すること自身も含めてさまざまなビジネスを生んでいるオープンデータです.ビジネス利用を推進している官民連携の活動とともに利用例を紹介しています.

加藤氏らの招待論文「IMI共通語彙基盤」では,行政の保有するデータの利活用を推進するために整備が進んでいるフレームワークについて論じています.オープンデータの利活用を推進するためには,さまざまな用語の表記や意味,構造を統一することが重要となります.ここでは共通語彙基盤についてから,実際の活用事例まで論じています.

さらに同イベント企画において解説論文・招待論文の主著者3名をパネリストとして実施した同イベント企画パネル討論「オープンデータ活用の今後の展開と課題」の内容を掲載しています.

投稿論文4件からは,まず早野氏らの論文「生体信号ビッグデータ化プロジェクトALLSTAR─オープンデータ化の意義と課題─」では,全国の臨床現場で日々記録されているホルター心電図に着目しています.Allostatic State Mapping by Ambulatory ECG Repository(ALLSTAR)プロジェクトにおいて全国から収集したホルター心電図データのデータベース化の知見から生体信号データのオープンデータ化の意義と課題について論じています.

藤井氏らの論文「オープンデータを利用した行政サービスの英語化─工学系学生が取り組む地域連携プロジェクト─」では,石川県野々市市が提供しているオープンデータを活用しながら,外国人にとって住みやすい街づくりに向け,外国人のために行政サービスの英語化を行った活動におけるプラクティスを論じています.

伊藤氏らの論文「公共交通オープンデータムーブメントを作る」では,商業ベースで進んでいる都市部の公共交通のデータ収集に対して,どうしても網羅度が低くなる地域の公共交通のデータをオープンデータ化の推進により整備する活動について論じています.これらの推進活動では,たとえば標準的なバス情報フォーマットの策定のような技術的なプラクティスのみならず,さまざまな社会活動のプラクティスが必要とされており,これらについて論じています.

古崎氏らの論文「GPS移動履歴の収集とオープンデータを用いた移動軌跡のLOD化─国際会議ISW2016における実証実験を例として─」では,観光振興の支援活動として実施した観光客の訪問場所の分析活動に向け,膨大なGPS移動履歴データとオープンデータであるスポット情報を紐付け,移動軌跡をLinked Open Data化する手法を論じています.さらに実証実験を行うことで得られたプラクティスについて論じています.

おわりに

公共のオープンデータは多く存在していますが,実際の活用においては,まださまざまな課題があると思います.本特集の論文におけるプラクティスを共有することで,今後の幅広いオープンデータの活用につながることを願っています.



萩野 達也

エジンバラ大学理学部計算機科学科博士課程修了.Ph.D. in Computer Science. 1987年〜1990年京都大学大型計算機センター助手.1990年から慶應義塾大学環境情報学部専任講師,1992年から同助教授,2001年から同教授,現在に至る.

藤瀬 哲朗

電気通信大学大学院修士課程修了.1984年(株)三菱総合研究所入社,現在に至る((財)新世代コンピュータ技術開発機構研究所主席研究員,慶應義塾大学SFC研究所訪問所員,(独)情報処理推進機構ソフトウェア・エンジニアリング・センター主査,慶應義塾大学SDM研究所研究員).高性能計算にかかわる研究,ソフトウェア工学および高信頼性の調査研究に従事.