デジタルプラクティス Vol.9 No.1 (Jan. 2018)

オープンデータ活用の今後の展開と課題

パネリスト 平本 健二(内閣官房/経済産業省) 
                    加藤 文彦(国立情報学研究所) 
                    越塚 登(東京大学) 
モデレータ 萩野 達也(慶應義塾大学) 

2017年9月12日に行われたFIT2017,第16回情報科学技術フォーラムの「オープンデータ活用の最前線─デジタルプラクティスライブ─」におけるパネル討論の内容を記録したものです.


平本健二氏(内閣官房 政府CIO上席補佐官/経済産業省CIO補佐官)
電子行政,オープン・ガバメント等を担当.行政の既存の枠組みでは解決できなかった課題を,調査,検証からサービス展開まで一貫プロジェクトとして実施.国・自治体を通じた調達情報,制度情報総合サイトの構築・運用をするとともに,文字,語彙,コード等の基盤整備,Webサイトの抜本的な見直し等,オープン・ガバメントを総合的に推進.東京大学等で次世代人材の育成も推進.本会シニア会員.
加藤文彦氏(国立情報学研究所 情報プリンシプル研究系 特任研究員)
2004年 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了.同大学院助手,同大学院助教,未来技術研究所, 情報・システム研究機構 特任研究員を経て,2016年より国立情報学研究所 特任研究員.オープンデータやLODの研究開発に従事.IMI検討部会委員.
越塚 登氏(東京大学大学院 情報学環教授/気象ビジネス推進コンソーシアム会長)
1994年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了,博士(理学).東京大学大学院人文社会系研究科・助教授等を経て,2006年より大学院情報学環・学際情報学府教授.2002年より,YRPユビキタス・ネットワーキング研究所・副所長を兼務.2016年より,東京大学大学院学際情報学府 総合分析情報学コース長.

オープンデータで社会はどう変わる?

萩野 慶應義塾大学の萩野です.皆さんよろしくお願いいたします.3名の方に,オープンデータに関する現状の国の施策,オープンデータの活用の基礎となる共通語彙基盤,最後にビジネスに活用が期待される気象データのご講演をいただきました.パネルディスカッションのテーマは,「オープンデータ活用の今後の展開と課題」ということですので,これについて講演者の皆さんと議論し,会場の皆さんからも質問を受けて進めていきたいと思います.

まず,最初に,ディジタルガバメントの視点で見たときにオープンデータの活用によって,市民の生活,あるいは産業・ビジネスが一体どういうふうに変わっていくのかをそれぞれのパネリストから聞きたいと思います.平本さんいかがでしょうか.

平本 市民,産業の方々向けということですね.我々がよく言うのは,ディジタルガバメントに取り組む前は,政府の仕組みは企業の足手まといだと不評だったのを,少なくともみんなに迷惑と言われないところまで追いつこうという取り組みだったということです.我々はプラットフォームとずっと言っていますが,これまでは不便な泥道だったのを普通の道にしようとする取り組みでした.これからは,皆さんの取り組みを加速する動く歩道になるようしていけないかなと取り組んでいます.

そういった中で市民とか,産業界の人たちは,従来は競争領域だったけれども共通に使えばいいというところはうまく政府のデータとか仕組みを活用して,皆さん自分の産業や,生活に特化したところに注力できる,そんな姿になっていくのかなと思います.

越塚 なるほど.これまで私も,役所に行くのは,ちょっと面倒だなと思っていたのですけど,そうじゃなくて,ぜひとも役所に行って,あれが欲しいとか,役所に行くと,こんなに楽になるよとか,そういう社会を目指したいですね.リコメンデーションサービスとかもあるといいですね.あなた,役所に行って,これも一緒に活用したらどうですか,みたいな形で推薦してくれたらいいと思います.

萩野 そうですね.いろいろな税金の還付について教えてくれたり,いろいろな補助金があるよとか,これを活用したほうがいいよとか言っていただけるといいですね.市民が自分で見つけないといけない現状から,役所が積極的にいろいろ提供する側になると,素晴らしい世の中になるのではないかと思います.

加藤さんはどうでしょうか.共通語彙基盤ということで,非常に面白いと思います.みんながいろいろなものを出して,それぞれにデータモデルを作っていこうということですけど,データモデルを作るというのはなかなか難しいのではないかなと思いますが,これはうまく回っていくという感じなのでしょうか.

加藤 データモデルを作るというのは大変ですよね,それでやはりいろんなレベルがあると思っていて,基本的に,共通語彙基盤を使うときにレベル感があって,多くの人は自分たちが使っているものを共通語彙基盤にマップするというレベルが普通にやっていくレベルなのかなと思っています.

一方で,うまく誰かがそれを見て整理していくとか,全部を作る人が1人で作るという話じゃないと思います.誰かが作ったものを公開ドラフトという形で公開してもらって,それを見てほかの人がそれ使ってみたいとか,誰かが整理したものをほかの人がさらに使うとかいう形になると思います.それを見ていて,私は専門家に近い立場だと思うので,こういうのが必要だなというときに整理していくとか,その辺は参加者のいろんなモチベーションによって役割分担して作っていく部分だなと思います.

萩野 講演でお聞きした中では,たとえば,埼玉県では,県で作ったものを市に渡して,データを集める.ああいう考えは,良いように感じますね.

加藤 埼玉県の場合は,担当者の方が,そこそこ技術に明るい方で,少なくともこれはやっていかなきゃいけないと思っていただいて推進しているのがやはり大きいと思います.埼玉県の担当者の方と我々の仲間で一緒に話し合って,実際に一緒にモデルを作ったりとか,そういうことを進めているので,担当者の方が1人で全部作る形ではやっていないですよね.そこら辺はうまくやっていけばいいかなと思います.

萩野 平本さんの話ではないですが,データ活用人材の育成がやはり重要になってくると思われますか.

加藤 そうですね.だから,一方で,IMIでやっていることが分かる人が増えていくべきだとは思っていて,そういった技術者向けのイベントも実際に開催をして,どうやってデータモデルをつくっていけばいいかという話もしています.ただ,そういうのはどちらかというと,ITのベンダの方に主に学んでいっていただいて,たとえばシステムをつくるときに導入してもらうといった方向はあるかなと思います.

萩野 この分野への市民の参加というのはどんな感じですか.自治体とかが中心のように思っていますが.

加藤 例で1つ挙げましたけど,AEDのプラットフォームをつくっている方は,完全に市民の方で,その人は単純にそのAEDのデータに興味があって,自治体が公開しているいろんな情報をまとめてWebで公開するということを単純にしています.その中でこれをどうやってその共通語彙にマップしたらいいかというのを考えていただいた.それは勝手にその方が考えたのですけど,こういう形で市民の方も,自分たちが集めて持っている情報をどうやってうまく連携していくかを考えていたりします.やはり,市民の方が一番関心あるのは,その情報を活用したアプリをどうやって作るかというほうだと思うのですけど,実際に共通語彙を使ってアプリを作っているのは企業の方が多いので,市民が実際にどうやってアプリをつくっているかという話はちょっと今申し上げられないです.市民の立場としてはどちらかというと情報を使っていく側なのかなと思います.

萩野 ありがとうございます.

最後,越塚先生の講演についてですが,気象データは面白い気がするのですが,どれぐらいの産業になりそうな感じなのでしょうか.

越塚 産業ですか.講演で申し上げたとおり,気象に影響がある産業は,全産業の3分の1ほどもあります.

萩野 大きいですよね.

越塚 ええ.気象データの場合,もうすでに産業化も進んで,気象会社として,たとえばすでにウェザーニューズさんとか,ハレックスさんとか何社かあります.日本気象協会も気象庁とは別の組織です.それぞれ役割分担があります.オープンデータに熱心な分野の中でも,ある意味,気象分野はビジネスする先進的な体制が確立しています.気象ビジネス推進コンソーシアムは,それをもっとビジネス側に推進していこうという趣旨です.そういう意味では,もうすでに大きなビジネスになっていて,ちょっと額は分からないですけど,ますますこれから大きくなっていくと思います.

 

萩野達也

萩野 気象データを使って予報を勝手にやっては駄目というのが法律で決まっているということでしたが,気象庁さんが出している予報を活用するのは構わないのですね.

越塚 気象庁の予報をそのまま再配布したり,解説するのは構いません.

萩野 自分で予報を考えるのは構わないということですか.

越塚 予報を考えて自分で使うのは構わないのですけど,予報を公にする,つまり発表するには予報業務許可が必要になります.

萩野 ちょっとやりたくなるのが,気象の予報の精度を上げるためにコンペティションやって,どっちが正しいとか,こう考えたほうがいいよみたいなことをやったらどうかと思うのですが.

越塚 コンペティションのときのみであれば構いません.予報業務許可が必要になるのは反復・継続して行う場合,つまり業務として行う場合です.

萩野 人がやったら駄目だけど,機械学習でコンピュータが予測する分にはどうなのですかね.

越塚 そういうことをこれから議論していかないといけない.ただ,今の法律であれば,予報業務許可がないと,基本的に予報は出せないという規制になっています.

萩野 使えるのはやはり予報,過去のデータも重要ではあるのですが,やはり明日どうなるかというのが知りたいですね.今日も豪雨が来ると聞いて,用意しているのですけれど.

越塚 今出ている予報に関して,僕も気象ビジネス推進コンソーシアムにかかわって知ったんですけども,たとえば気象庁さんから出したものでも,今,2キロメッシュの予報があるんですね.東京全域とかではなくて2キロメッシュで.そんなデータがあることを僕も知らなかったんです.たとえばそういうメッシュ状のデータがあって,各地点にどんな施設があるかといったデータとつきあわせた上で,消費エネルギー量との相関をとって,ラーニングさせれば,現在の状況からこれから消費するエネルギー量を推定できるとか,使いかたはいろいろ考えられます.こういったデータがかなり公開されていますので,ぜひご活用いただきたい.

萩野 気象はやはり気象庁に理系の専門家がいるので,データモデルとかもしっかりして,しかも語彙とかにも問題ないわけですね.

越塚 はい.語彙は国際的に気象分野で標準化されていますので,基本的にはそれに則ってやっております.XMLのタグとかも決まっていて,それに基づいて配信する.

萩野 ありがとうございます.

私だけが質問を考えているとつまらないので,皆さん何かフロアから質問等ありますでしょうか.あるいは,皆さんのご意見,オープンデータはこうあるべきだみたいな質問はありますか.

オープンデータのビジネスへの活用

質問者1 気象データは,もともとオープンなデータであって,ビジネスの広がりも結構ありそうだということが見えて,気象ビジネス推進コンソーシアムとかできて盛り上がりつつあることが分かりました.気象の次のビジネスに使えそうなオープンデータというのは何か候補があったらお聞きしたいと思います.それは内緒にしといてビジネスを自分で立ち上げようという方もいらっしゃるかもしれませんけど.

平本 いろいろなところであると思います.たとえば今,経済指標について経済産業省で試行的にAIを使って経済予測をすごい短期で出すというのをやっている.雑誌にもその結果が書かれていて,外れると「外れた」とか,当たると「まあまあ頑張っているじゃないか」みたいな書き方をされてしまうんですけれども.経済指標が先に分かれば,それに対して判断して手を打つことができる.先ほどの気象と同じですよね.気象がこうなりそうだから,あそこに投資しようというのも出てくる.経済指標がこう動きそうだからというのは,今も投資会社の人たちやっていると思います.気象とか経済というのは,データが従来からすごくたまっているところなので,分かりやすいんですね.それとルーティンで回っていますよね.気象データも秒単位でぐるぐる回っているし,経済指標も日々の売り上げデータとかで経済指標は回っています.そういうようなものではいろんな可能性があるような気がしますが,我々もすべてを把握しているわけではないです.これからに期待したいなと思っています.

加藤 僕はこの手の話は,苦手なんですけど.そうですね.オープンデータを考えるときにこういうデータができたら,こういうビジネスにつながるというのがある反面,よく言われるのはオープンデータだけで儲かるという話は,あんまり実はない.どちらかというと,自分たちの現状のビジネスにオープンデータを結び付けることによって,自分たちのビジネスが拡張するという活用パターンのほうが,海外で実際にビジネス活用している例では多いですよね.なので,オープンデータそのもので儲かるという話ではないんじゃないかなと僕は思います.一方で価値のある今使えないデータベースがあるはずです.たとえば,市がつくっている建設とかのデータとかですね.あとビジネスでよくオープンデータとして使いたいけど使えないとよく言われているのが,予算とか発注とかのデータです.どういう発注が行われていたかを元に,入札をするときのデータを作りたいとか,そういう話は聞いたりします.

越塚 オープンデータと言われているものには,結構暗黙の了解が少しあります.何かというと,要はオープンデータの例として取り上げられないけど,社会基盤になっていて,自由に使えるデータが実はたくさんある.すでに普及していると,あまりとりたててオープンデータの例として言われない.たとえば地図.十分,オープンデータですよね.

それと,たとえば医薬品の添付文書.日本で売られている薬の添付文書,全部,公開されている公文書です.それをデータベース化して,付加価値をつけると有料になって,そういう業者さんもたくさんいらっしゃる.ビジネス化もされている.薬の成分は全部紙に書いてあります.あれは公開しないといけないんです.その紙をちゃんとデータベースにして,あと掛け合わせができるようにすることが付加価値になっていて,ちゃんとビジネスになっている.僕も研究で日本の全部の薬の添付文書データを使って,飲み合わせのチェックツールを開発したことがあります.こんなデータが全部公開されているのはすごい.何万点もある薬,全部公開されています.あとスポーツのデータの記録もあれば,観光地の観光データもあります.自分自身で気象ともう一個取り組んでいるのは公共交通です.公共交通の時刻表とか,今の時代だとロケーション情報.バスであればバスのロケーション,鉄道も位置情報の提供は世界的な動向ですので,こういったものもかなり経済価値はあると思っています.

加藤 越塚先生の話を聞いて思い出したんですけど,過去一番最高に成功したオープンデータの技術は何かといったら,GIS関係だと言われていて,GPSのデータがオープンデータの一番成功例だとよく言われていますね.みんなもうGPSを使うのは当たり前になってしまっているので,別に意識してないと思うんですけど,もともとあれは軍事衛星でやり始めて,それが民間で使えるということになり,今ではビジネスとして当たり前のように使っているという話です.おそらくそういった例はこれからどんどん出てくると思います.

萩野 ありがとうございます.

私も大学に勤めていて,受験生がどうやって大学を選ぶのか,単に偏差値で選ぶのではなくて,中身を知って選んでほしいと思います.教育関係とか,学校のオープンデータがあればと思います.大学で何を教えているのかの比較サイトとかあると良いと思うのですが,そういうデータがなかなか出てないですね.カリキュラムのデータベースも何回もつくろうとしながら,中身がすぐ変わってしまってうまくできなくて困っていたりとかします.うまくいけば受験業界に売れるのではないかなと思っています.

ほかにご質問はありますでしょうか.

日本のオープンデータの状況は

質問者2 オープンデータに関してとか,オープンイノベーションについて,「笛吹けど踊らずオープンデータ」とか,「大企業がオープンイノベーションにごっこをするのは,いいかげんにしましょう」みたいな記事が雑誌に出たりしていて,進んではきていると思うんですけれども,もっとドラスティックにがんがん行くにはどうしたらいいでしょうか.ここに来て何となく階段の踊り場に来ているような感じがして,それをどうしたらいいのかというのが1つです.あともう1つうかがいたいのが,人工知能のディープラーニングが,盛り上がっている時代で,昨日も松尾豊先生とか,清水亮さんとか,山川宏先生のお話を伺ってきたんですけれども,中国がもうアメリカと同じぐらいのデータを取り込んで,人工知能で追い付こうとしている.日本もデータという点では,結構あるかと思うんですけれども,オープンデータをディープラーニングで活用するという観点で後進国になるんじゃないかという危機感をみんな持っているのではないでしょうか.その辺りで知見がございましたら,ぜひ伺えればと思います.よろしくお願いいたします.

萩野 ご質問ありがとうございます.今のオープンデータ,オープンイノベーションがちょっと停滞気味じゃないかということで,次のジャンプのために,何があればいいかということと,ディープラーニング関係で活用したらよいのじゃないかというようなご意見ですけれど,越塚先生いかがですか.

越塚 たぶんこの話って,IT関係,どの業界もみんな,いわゆる死の谷問題だと思います.日本っていつもそうで,最初は鳴り物入りで始めるけど,死の谷が越えられなくてすぐに止めてしまう.海外では結構死の谷を越えていって,何年かすると日本に逆輸入されてくるパターンが多いですよね.その典型がIoTで,日本でユビキタスがブームになって,それでしばらく,これってほんとに儲かるのとかいう話で,10年ぐらい前に死の谷を越えられなくていたら,IoTという名前になって海外から逆輸入されてきた.インターネット関係でも結構似たことがあって,これ,日本の典型的なパターンなんですね.

 スマートフォンなんかもそうで,あの手のものは,日本の中でずいぶん研究開発していたけど,みんな日本ではマーケットにならないねと言っていたら,スマホが外から入ってきた.もしかしたらオープンデータも,IoTも,AIも結構同じことがあって,日本の課題なんですよ.どうしたらいいですかね.

萩野 研究者たちというより,やはり,産業ですかね,産業が押してくれないと進まないということ.

越塚 それでね,最近すごく面白くて,ああ,こうなのかと思ったのが,ちょっと話ずれちゃってすみません,IoTの話.IoTも儲かるのかというのが,非常にあちこちで言われて,IoTなんか儲からないだろみたいな話もずいぶんあって,アメリカではどう思っているのと思って,アメリカのIoTのビジネス書のベストセラーを読んでみた.専門書ではなくて,ビジネス書です.そうすると,IoTの成功の鍵は何だとアメリカ人のビジネスマンは思っているか.これが面白くて,チェンジマネジメントだっていうんですね.組織改革ができるかできないか,IoTの成否はそこにあるというのね.チェンジをマネジメントする.新しい情報通信技術を入れると,絶対仕事のやり方とかビジネスモデルとか,すべてが変わってくるので,それを変えないと成功しないってアメリカ人は思っている.で,それを変えるのは,ITと別な話で,組織をどう変えるかというのは,その専門分野でチェンジマネジメントというハーバードビジネススクールとかが大好きそうなテーマがあって,そこがポイントだとかっていう発想.これは,日本とは少し違うなと思ったんですね.

最近ディジタルトランスフォーメーション,まず変革することから入りましょうという話がある.日本ではトランスフォーメーションしない,チェンジをしないところに共通の課題があると思ってます.それで,半分嫌味に言うんですけれども,日本は変えるためにITを使ってなくて,変えないためにITを使っているような気がするのね.

たとえば,ある時代に環境があって,それにマッチした組織があります.時代が変わってくると環境は当然変わりますから,組織にしても何にしてもすべて合わなくなる.そうするとそれに合わせて,組織変えなきゃいけないですよね,すべてを.でも,変えたくないから,その間をITで調整する.組織は何も変えません,ビジネスは変える.これ典型的な日本のITの使い方ですよね.これでは,これからは何やってもうまくいかないんじゃないかな.オープンデータもそうで,オープンデータを出すなら,オープンデータがあることを前提として,すべて変えなきゃいけないと思うんですよ.平本さんも変えなきゃいけないって,さっきおっしゃっていましたけど,変えないでやろうとするから,すべてうまくいかない.それで,日本はチェンジするっていうと,すぐレボリューションになっちゃうんです.革命ね.革命というのは管理されない.だから,どうなるか分からない.そうじゃなくて,管理しながら着実に一歩一歩変えていく.このマインドがない限りは,ITは何をやっても失敗するんじゃないですかね.そこに日本は踏み出せるかどうかじゃないかなと思うんですね.

萩野 日本ではパッケージソフトウェアを自分のやり方に合わせてカスタマイズして使うのが得意で,アメリカは,そうじゃなくて,製品に合わせてやり方を変えるということを聞いていますので,そこらへんの体質ですかね.それが大きいかもしれません.市町村なんかでもほんのひとまたぎすれば別の市なのに,まったくやり方が違うというのがありますね.あれはどうなっているのかな.ディジタルガバメントで何か変わりますか.平本さん,いかがでしょうか.

平本 変えていかなきゃいけないと思っているんですけど,ドラスティックに変えるにはどうしたらいいかという最初の質問に戻ると,それがあったら教えていただきたい.そんなことがあるなら,みんなやっていますよという話ですね.

あとは,まさにチェンジマネジメントの話だと思っています.やはりみんな新しいものにチャレンジするとリスクがあるし,変わらなきゃいけないから怖いんですよね.今,この時間帯に世界の行政CIOが日本に集まっていて,新宿で会議やっているんですけども,そこのテーマが,ディスラプティブテクノロジなんです.今までは新しい技術をイマージングテクノロジといって,みんな新しく出てきたものに飛び付くかどうかっていうことで考えていました.世界各国の人たちもリスクを恐れて,飛びつかない人っているわけですよね.それが,今度はディスラプティブテクノロジだと言われています.たとえばAmazonなんかもそうだと思います.いろんな産業が,この技術が入ったら,ごろっと根本的に変わるかもしれない.そういう危機感を持って,チャレンジするっていうところまできているわけです.

我々も危機感をあおってどうにかしようというわけではないんですが,さっき越塚先生がおっしゃったように,みんな「変えない」ということにすごく執着しているんですけど,今の時代はもうそういうディスラクティブなテクノロジがどんどん入っているという時代です.それをみんなが意識する形にしていかなければいけないのかなという気がしました.

萩野 ありがとうございます.

加藤さん,何かございますでしょうか.

加藤 変わらなければいけないという話だと思うんですけど,そもそも20年前とかに行政,自治体とかがWebサイトを持っていたかというと,持ってないですよね.けど,それがもう今や持ってない自治体はないという状況になっていて,やはりなんか変わる,なんだかんだいって変わろうとはしているので,必要な部分は変わっていくと思うんですね.結局,だから,オープンデータとかも,同じ話だと思っていて,10年後とかにたぶんかなりの自治体が,オープンデータをやっているという状況になっているでしょうし,少なくとも自治体とか官公庁とかは,変わっていかなくてはいけない.インターネットが,すべての前提になっていて,いろいろなものが,インターネットで全部変わっているっていうことになっていますね.最近,僕がかかわっているオープンサイエンスもまさに同じです.インターネットによってサイエンスのやり方が,全部変わるという話なんですよね.そのためにいろんなことが起きていて,論文の元になったデータ自体アクセスできるようにするとか,インターネット上でオープンピアレビューしようとか.インターネットがすべて変えている,そこにどうやって追い付いていくか.サイエンスの研究分野が遅れていて,今,変わっていこうとしている最中ですかね.そこをどうやっていくかというのが課題だと思うのですけど.

萩野 はい.

越塚 そういう意味でね,大学全体へのメッセージとして,僕がいつも心苦しいのは,外でオープンデータやれとか,政府でもやれとか言いつつ,東京大学は,まったくやっていない.data.u-tokyo.ac.jpないもんね.絶対大学のオープンデータってやらなきゃいけない.大学こそ大量のデータを持っていて,まずは,オープンサイエンスですね.論文の公開とか,文献のオープンデータ化はずいぶんやっていますけど,文献以外のデータも大量に持っているので,大学こそもっと先進的に,どんどんやっていく,自分の足元をやらなきゃいけない.特にそれを情報処理学会で言うことが大事だと思います.

萩野 そう思います.学生がシラバス,大学のカリキュラムを比べようと思っても,シラバス自身も公開されてなかったりして,比較がなかなかできないですからね.自分たちで整備しようと思いますけどね.図書のデータだけは集まっているんですよね.どの図書館のどこにあるか,NIIさんがいろいろやっているから,集まっているんだと思います.それ以外の何人ずつ学生がいるのかを調べようったって,それも分からないわけです.何かご質問がほかにございますでしょうか.はい,どうぞ.

産業界と学会の関係

質問者3 すみません.お答えにくい質問かもしれませんが,学術界と産業界でコラボレーションというんですか,IT業界と学会が融合するにはどうしたらいいか.情報処理学会には世界に通用する研究者の方々がたくさんいらっしゃるので,日本のIT業界が弱くなってきているというのを学会からサポートするといったことについて,何かお知恵があったらお願いしたいです.

加藤 学会がサポートするというより,むしろIT業界の人たちが,もっと学会に入って議論をしてくださいという面があるかなと思っています.たとえば私はメインの学会は,人工知能学会なんですけど,ここ数年でものすごい人数が増えているんですよね.やはり理由は先ほどおっしゃったディープラーニングがメインだと思います.実際,関係するような業界の人たちが,入ってきてコミュニケーションを取ったり,スポンサも増えたりしていて,ものすごい盛り上がっている学会だと思います.うまく企業の人も入っていただいて,そこから共同研究を始めるとか,そういった発展はいろいろあると思うんですけどね.

越塚 ほかの業界を見ていて,産業界と学会が非常に近い領域もあります.私からみて,たとえば,土木とか原子力とか密接ですね.情報関係はそれほどではない.これは日本だけじゃないですよ.世界的に見てもそう思います.この違いは何なのかなと考えていたら,これは規制の存在じゃないですかね.規制が非常に厳しい領域では,ニュートラルに多くの規制をやっていかなきゃいけない.原子力もそうだし,土木もかなり広がっているはずで,そういうところでニュートラルで公正な知的組織という点で,学会に求められる部分が大きい気がします.情報関係は,自由な分野で,通信関係でFCCとか個人情報保護とかありますけど,ほかの業界と比べると規制は強くない.だから,その辺,情報関係は産学のつながりは緩やかなのかなという印象があります.規制が強いところはね,産学のつながりがすごく強い気がします.

平本 では,強引にオープンデータの話題に戻します.僕は,確かに学術界と産業界の距離というのはあると思うんですけれども,オープンガバメントだ,オープンデータという動きというのはすごくいいと思っています.今までこういう動きが出る前までは,産業界は産業界,JEITAとか,JISAとか,その業界ごとの団体のなかで勉強会をやったり,学会は学会でやっているという形だった.それで,学術界と産業界を行き来する人が少しいるという形だった.いま,ITもユーザ側にも寄ってきているというのもあります.ハッカソンのようなオープンな場に,大手企業の人も,ベンチャ企業の人も,学会の人,一般の市民の課題解決したい人,ユーザ企業の人も来るというのは,非常に強力なコミュニティだと思うんですね.こういうコミュニティを活かして,そこからビジネスをつくる人もいれば,アカデミックな研究に持って帰る人もいるという形の新しいコミュニティがつくれる可能性があると思うんですね.ただ,まだまだ,「あぁ,いつものメンバがいるな」みたいなところもあって,コミュニティをどうやって広げていくかというのは課題があるんですけれども,地域によってはアカデミックと産業界では近づいてきているのもあるし,こういうものをもっと盛り上げていくというのが重要なのかなと思っております.

萩野 ありがとうございます.そうですね.オープンデータの活用というような観点では,データを理解するにはそれなりの知識がないと駄目なので,アカデミアのほうがいろいろ知識がありますから,そこはアカデミアが助け,それを活用してビジネス側が利用する,そういううまいモデルができると,良いのではないかなと思います.

かなり時間も迫ってまいりましたが,ほかにご質問があれば.どうぞ.

データを流通させる仕組みについて

質問者4 オープンデータを企業の中で使うのは,いわゆるただ乗りに近い形で使うということだと思うんですけれども,逆にうまく企業からデータを吐き出させるような仕組みとか,流通させる仕組み,あるいは利用したらフィードバックを上手に返す仕組みについて何かお考えはあるでしょうか.Googleであれば,ぽちっと押したら,それはある意味フィードバックで,どんどん知識が集まってくる.そういう,データを成長させる仕組みというのはいかがでょうか.

萩野 あると素晴らしいと思いますけれど.

平本 そういう点で,僕はこれが成功すればといいなと思っているのが,デンマークでやっているデータマーケットです.そこの中では,僕はこのデータをいくらで売りたいって,個人でも家の近所のデータを,集めてきて,それをいくらで売りますということができる.あとサブスクリプションもあって,毎月そのデータを出しますよという人から,購読でそのデータを買うこともできる.こういうような仕組みがあると,個人でデータを集めるのが趣味な人も,企業もデータを売ることができる.プライシングもそういうところがあると,相場観で決まってきますので,健全な仕組みというのができるのかなと思います.

フィードバックは,データを出しているところがあれば,自然とフィードバックが来るでしょうし,こういうデータもないんですかという形で,問合せがあってまたビジネスチャンスが生まれるようなこともある.フィードバックが,ビジネスと密接なところだと思うんですけども,先ほど言ったようなマーケットみたいな仕組みというのがあるといいのかもしれないです.

萩野 政府のガバメントデータについても,そういった感じですかね.活用していろいろやられると思いますが,活用できてうれしいよということをガバメント側に伝えると,ガバメントもより出そうかなとなる.昔,聞いたところでは,出しているのだけど,使っているかよく分からないから,何のためにやっているんだと担当の方が言っているということを聞いたことがあります.

平本 もちろん出して使っていただけると非常にうれしいです.我々にとっても当然のことながら投資対効果,予算に対してどれだけフィードバックがあったかというのは重要なことです.デンマークで,住所のマスターデータを国が公開したら,5年間で800億円近い利益が上がった.そういうのはこれだけ利用したからというのがあって計算できるわけです.だから,そういう意味で,フィードバックは大歓迎です.企業のオープンデータ活用は利用方法がノウハウになって,なかなか情報を出してくれない人たちもいるので,使っていますよぐらい言っていただけるとありがたいです.

萩野 そうですね.無料だけど,使っていますよくらいは言ってほしい.お金は要らないけれど,違う形のフィードバックであっても,サイクルが回っていく感じがします.

加藤さん,どうですか.

加藤 企業側がオープンデータを出すのは,これからまさにやっていっていただきたいことの1つですけど,企業の方は何で出すんだという話になると思います.1つあるのは広告みたいなものだと思っていただくといいという面があって,実際海外の半導体の会社とかがオープンデータを出したりするんですよね.何を出しているかというと,製品のデータを出しているんですね.これって別に企業にとっては出しても全然損じゃなくて,むしろカタログとして出しているものなんですよね.ちゃんと整理された形でデータで出すと,ユーザ側がそれをより使いやすくなるんですね.実際,カタログを使う側としては,PDFで出されているものを頑張ってデータ化してそれを使ったりしていますね.ユーザがそのデータを活用するというのは,どちらも得なはずですよね.そういった形で企業側が出せるデータというのは,本当はあるはずです.でも,それを一緒くたにして,全部,企業だから出せませんというのがたぶん現状の日本の企業の方たちの多くのケースだと思います.そこは,ちょっと考え方を変えていただいて,出したら得なんだと思えるものはどんどん出していける環境を作るべきなのかな思います.

萩野 越塚先生,どうぞ.

越塚 データといっても,ひとくくりにはできなくて,オープンにしていいものもあれば,個人データとかまずいものもあるので,それぞれ方策は違うと思います.データが流通したり,出てくるのを促進するやり方はいろいろあると思います.たとえば,何でデータを囲い込んで外に出さないか? それは,そのデータを使って,自分でちゃんと情報サービスをして,お金を取りたいというのは,1つの考え方.だから,出しませんよという話.結構データのバリューがある.

ただ,IT会社ではない会社が,自ら情報サービスを提供しようと思うと,セキュリティとか大変ですよね.攻撃されるとか,いろいろ問題がたくさんある.情報サービスを自分でやるぐらいだったら,データで出して,ほかがやったほうが楽かもしれない.特にセキュリティを考えると,逆にデータを出したほうがコストは安いこともあると思うんですね.

また,データを集めるプロセスにもいろんな工夫があって,これは賢いなと思ったのは,個人の健康データを集めるときにゲームにして,ゲームをしたい人が自ら進んでいろんな個人情報を出してくれる.

ただそういう工夫だけでは何ともならない分野もあって,そこはある程度,国の規制とか,そういうものが必要だと思います.調べると,公的なデータは元国営である企業が持っているケースが多い.もともと国の一部だったものが,法律によって民営化されて,会社になって,そこが抱えているデータの公益性が高いといった場合を考えると,これからも民営化はどんどん起こると思うんですけど,その制度設計のときに,公益性の高いデータは開放することを必ず含めることが重要と思います.

萩野 ありがとうございました.

時間が来てしまいましたので,最後にまとめてこれからの明るい未来はどうなるかということを一言ずつ言っていただいて,終わりたいと思います.平本さんからどうぞ.

平本 明るいかどうかは分からないですけど,講演で話させていただきましたように,相当基盤はできてきていますので,これからは我々がいかにそれを利用したモデルをつくれるかだと思っております.国のほうも頑張っていきますので,ぜひ皆さん活用していただいて,お金を儲けるなり,いい事例をつくっていただけると,それを見て頑張ろうという気になる人もいらっしゃるでしょう.そういう事例づくりをみんなでやって,みんなで盛り上げるという形でやっていければと思っています.ありがとうございました.

加藤 私の話は共通語彙基盤の話でしたけど,いろいろ進んでいて,たぶん今年は最後のほうになったら,結構いろいろと共通語彙基盤で書いたデータが出てくるはずです.それをどう活用していただくかというところが大きいと思うので,ぜひ皆さんお知恵を貸していただいて,いろいろ活用していただければなと思います.ありがとうございました.

越塚 今日,私は気象ビジネス推進コンソーシアムの会長で来ておりましたので,皆さん,気象データを使ってください.気象データでちょっとでもお金を儲けようというやましいことを考えてください.ぜひ悪巧みしていただいて,気象データをどんどんビジネスにして,お金にすることをやっていただければと思います.それで我々のコンソーシアムでできることがあれば,いくらでもご協力いたします.よろしくお願いします.

萩野 ありがとうございました. すみません.何もプランもなくモデレータをやらせていただいて,このようなパネルになってしまいましたけど,皆さんの頭の中に何か残っていただければ良いかなと思います.それではこれで終わりたいと思います.ありがとうございました.

左から:萩野達也,平本健二氏,加藤文彦氏,越塚 登氏