2010年度にARC研究会としての「理念と目的」を明文化し,ここで掲げる「育成」,「コミュニケーション」,「国際化」の具体化とさらなる加速を実現すべく各種活動を実施してきた.以下,「組織運営」,「人材育成」,「学術的活動」,「登録数・発表数」の観点から最近10年間での主な動向を報告する.
【組織運営】2014年度に名称を「計算機アーキテクチャ研究会」から「システム・アーキテクチャ研究会」へと変更した.これは,情報処理での要となる計算機(コンピュータ)に主眼を置きつつ,その応用までも含めた「システム俯瞰型アーキテクチャ研究」へと大きく飛躍することを狙ったものである.また,2015年度から電子情報通信学会コンピュータシステム研究専門委員会(CPSY)との連携強化を本格化し,基本的にはすべての研究会を共催・連催とすることで,アーキテクチャコミュニティの拡大と運営コストの削減に努めてきた.本連携を始めて約5年になるが,ARC/CPSY双方にとってきわめて大きなシナジー効果をもたらしている.
【人材育成】コミュニティの発展には若手研究者の台頭が不可欠である.そこで,2007~2010年にマルチコアプログラミングコンテスト「Cellスピードチャレンジ」(組込みシステム研究会,ハイパフォーマンスコンピューティング研究会との共催)を開催した.大学だけでなく高等専門学校からの参加チームが上位入賞するなど,本分野の裾野を広げることができた.また,2013~2014年にはプロセッサ設計コンテストを主催し,多くの若手研究者や学生がプロセッサ設計技術にしのぎを削った.また,定常的に開催する各研究会においても,若手研究者をエンカレッジすべく「若手奨励賞」を2010年に新設し,2019年5月現在までに述べ59名が受賞した.
【学術的活動】システム・アーキテクチャ研究会ならびにプログラミング研究会が主体となり,JSPP,SACSIS,ACSIの系譜を受け継ぐ形で新しい国内会議として2017年よりxSIG(クロスシグ)をスタートした(xSIGについては本特集記事「xSIG」を参照).また,国際化を加速すべく,CANDAR(International Symposium on Computing and Networking)やThe 51st IEEE/ACM International Symposium on Microarchitecture(MICRO-51)などに協賛した.MICROは半世紀というコンピュータ・アーキテクチャ分野でも古い歴史を持つトップクラスの国際会議であり,第51回目は日本初開催(かつ,本分野における世界トップクラス国際会議の日本開催は1986年ISCA以来の32年ぶり)であった.MICRO-51にはARC関係者の多くが組織委員としても貢献しており,また,日本からも基調講演1件,一般般講2件の発表があった.参加者数は過去最高を記録しており,国内外でのアーキテクチャ分野に対する注目度の高さが示された.
【登録数・発表数】ARCにおける登録数ならびに発表数は表1のとおりである.この10年を振り返ると,登録数は約100名程度の減であるが,その一方で発表件数は増加傾向にある.これは,2015年度から開始したCPSYとの連携強化の効果が表れていると考えられる.
表2に,IEEE Microにて掲載されるTop Picks(ISCA,MICRO,HPCA,ASPLOS等のアーキテクチャ関連トップレベル国際会議で発表された論文から毎年10件程度が選ばれる)に選ばれた論文のトピックを示す.基本的には雑誌にて示されたトピックを抜き出しているが,一部は著者による判断で記載した.ここから,以下のような特徴が読み取れる.
アーキテクチャ分野におけるこの10年で最も象徴的なことをあげるとすれば,クロック周波数向上による「高速化」とさまざまなレベル(命令/スレッド/データ)における「並列化」の次なる手段として,「専用化」へと進みはじめたことであろう.ただし,ここでの「専用化」とは,実行対象アプリケーション唯一に特化するものではない.対象となるドメインを定め,そのなかで汎用性を維持しつつ,専用化による効果を最大限引き出す.この「専用化」で最も成功した例はニューラルネットワーク処理であろう.
ついに半導体の微細化が終焉を迎えようとしている.そのため,半導体の微細化に依存しない革新的なコンピュータ・アーキテクチャの創出が求められる.今後は,デバイス,回路,アーキテクチャ,システムソフトウェア,アルゴリズム,アプリケーションといったシステム階層を跨いだ分野連携アプローチ,脱デジタルCMOSを念頭においた新コンピューティング技術,物理現象を用いた新計算原理の創出,などが期待される.
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