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最終更新日:2004.09.24

連続セミナー2004 第4回「地球シミュレーター」

 

開催日時: 平成16年10月29日(金) 9:30-17:05
開催会場: 東京電機大学 神田キャンパス7号館1F 丹羽ホール(東京都千代田区神田錦町2-2)

コーディネータ:金田 康正(東大)

【セミナー概要】
日本が誇る地球シミュレーターは、2002年3月に本格稼働を開始してからすでに2年以上経過しましたが、当初の予想を遙かに凌駕する多くの研究成果を生み出してきています。本セミナーではこの地球シミュレーターのハードウェアーならびにそのハードウェアの性能を引き出すソフトウェアーを概観した後、地球シミュレーター無くしては得ることが出来なかった事が明らかな最新の冠たる研究成果の代表例として、今話題のテラヘルツ素子に関するシミュレーション、米国における研究の重点化に大きな刺激を与えたカーボンナノチューブ特性に関するシミュレーション、そして地球シミュレーター開発の本来の目的でもあった環境研究の一つとしての雲解析モデル等のシミュレーションのそれぞれにおける最新の研究成果を、実際にハードウェアやソフトウェア、また応用プログラムを実際に書くことで直面した問題点やそれらの解決方法の探求経験を背景に、本セミナーを通じて地球シミュレーターやさらなる高性能計算機について概観することにします。

【プログラム】
セッション1  9:30-10:45 「地球シミュレーターのハードウェアー」
                  幅田 伸一(日本電気)

【講演概要】現時点でも世界一の実行性能を有する地球シミュレーターのハードウェアーに関 し、(1)開発当初の目標ターゲット、理論最大性能だけでは無く高い実行性能を実現するための(2) プロセッサーアーキテクチャー、(3) ノード構成、(4) 結合ネットワーク、(5) メモリーアーキテクチャー、(6) 二次記憶装置、(7) 冷却方式、設置環境、安定運用等に関する各種技術の概観を行います。

セッション2 10:45-12:00 「地球シミュレーターのソフトウェア」
                  津田 義典(海洋研究開発機構地球シミュレータセンター)

【講演概要】「仏作って魂入れず」という諺があるように、ハードウェアーの卓越した性能を実際に示すためには、OSを代表とするソフトウェアー、その中でも特に直接の利用者インターフェースとなる各言語コンパイラーの最適化能力やノード間通信ライブラリー、またマシンハードウェアーに合わせたプログラミング技法がハードウェアー構成技術と同等以上に重要な技術となります。本講演では地球シミュレーターが提供する各種ソフトウェアーの代表的な機能や性能等に関する概観を行います。

−昼食−

セッション3 13:00-14:15 「テラヘルツ素子に関するシミュレーション」
                  飯塚 幹夫(高度情報研究機構)

【講演概要】テラヘルツ波は光と電波の間にあり、物質を透過しやすく、また生体分子等と同じ振動数帯域にあることから、先端科学の計測分析に応用でき、さらに、医療、テロ対策、環境観測、大容量通信等への応用が期待されます。しかし、分析、検出、解像に優れる連続波光源として、量子カスケードレーザー等がありますが、1〜4THzで低出力のため、実用の計測・分析には、広帯域で単色、周波数可変、またmW級の高出力を得られる新光源が期待されています。磁場中のナノ高温超伝導体に直流電流を加えるとジョセフソンプラズマが励起し、連続波テラヘルツ波を発振するという新しい原理とその理論が、1994年に日本で提案されました。しかし、ジョセフソンプラズマの複雑な挙動を把握する理論計算は、時間ステップでは108回、また空間スケールで、数百万セルを扱うほどの膨大な計算となり、大規模な高速並列計算機の開発を待つ必要があったのです。 2002年から地球シミュレータが利用開始となり、ようやく大規模な理論シミュレーションが可能となりました。それにより、1テスラの磁場中のビスマス系の高温超伝導体において、2〜3THzの連続波テラヘルツ波が発振する予測を得ました。本講演では、テラヘルツ波技術の概要、地球シミュレーターを用いたシミュレーション予測から分かった高温超伝導体からのテラヘルツ波の放射メカニズム、放射条件と放射されたテラへルツ波の特性を説明します。また、地球シミュレーターのようなハイエンド大規模高速計算機による超大規模計算科学の必要性・有効性に関し説明を行います。

セッション4 14:25-15:40 「カーボンナノチューブ特性に関するシミュレーション」
                  手島 正吾(高度情報研究機構)

【講演概要】ナノテクノロジーの進歩により、原子1個1個を取り扱うことで原子の性質を調べたり、原子を積み上げて物を作り上げることが可能となりつつあります。特にナノスケールのカーボンナノチューブやフラーレンを使い、電気・熱・機械特性がこれまでの物質より優れた性質を持つ新機能材料が出現しています。これら特性を詳細に把握するためには、量子化学的計算法が必要ですが、量子化学的計算法で取り扱える原子数として、計算機の性能や利用可能な主記憶容量の観点からこれまでの計算機では数百個が限界でした。しかし、地球シミュレーターの出現により、本講演で述べる研究により、原子数として4万個まで扱うことが可能となり、より現実的なサイズの物質の性質を調べることができるようになっています。本講演では、量子化学的大規模シミュレーションにおける計算手法の特徴と、地球シミュレーターを用いた大規模計算で得られたナノスケールの材料の性質や新機能物質の性質を概説します。

セッション5 15:50-17:05 「雲解像モデル等のシミュレーション研究」
                  荒川 隆(高度情報研究機構)

【講演概要】コンピューターの黎明期から現在に至るまで、天気予報という現実的要請もあいまって気象シミュレーションはスーパーコンピューティングの中心課題のひとつであり、各国の研究・予報機関は常に時代時代で得られる最高の計算資源を用いてきました。一方で、気象は多様なプロセスが相互に関連しあう極めて複雑な現象であるため、最先端の計算機をもってしても全ての現象をモデル内で陽に表現することは不可能であり、現在用いられているモデルは着目する時空間スケールに応じて様々な近似・簡略化が施されています。地球シミュレーターの登場は、これら従来の制約を超えた新しいスケールの気象シミュレーションを可能にするものです。本講演では、気象モデルの歴史や分類、対象とする時空間スケール等について俯瞰した後、地球シミュレーターによって開かれた気象シミュレーションの新たな地平の具体例として、雲解像モデルによる準全球シミュレーションについて詳述します。