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最終更新日:2007年5月7日

普通教科「情報」必履修維持ならびに教科内容充実の要請書

 

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2007情処総第65号
2007年4月24日

中央教育審議会
会長 山崎正和 殿:

社団法人 情報処理学会
会長 安西祐一郎

普通教科「情報」必履修維持ならびに教科内容充実の要請書

要請内容

 「情報」の知識・技能が到来する知識基盤社会における 基礎的素養であることを認識した上で, 以下のことを求めます。

    1. わが国の将来における国民全体の「情報水準」 の底上げをはかる最低限の処置として, 高等学校普通教科「情報」 の必履修を今後とも維持するとともに, 内容を操作中心のものから情報・情報社会・情報技術に関する 基盤的な理解を指向するものに改めること。
    2. 小学校・中学校・高校教育の全ての領域におけるICT (情報・コミュニケーション技術)[注記1]活用を推進することで, 初等中等教育の一層の充実を計るとともに, 経済的・社会的境遇に関わらず, その意思を持つすべての国民が高等教育まで含めて望む教育を受けられる 社会体制の土台を築くこと。
    3. わが国が将来に亘って他国に伍し発展してゆくために, (情報・情報社会・情報技術を含めた) 科学・技術・芸術・文化の各分野において, その分野に興味・関心を持ちわが国を牽引する人材となり得る全生徒に, その興味・関心を伸長させるための学習機会を提供する体制を構築すること。

要請趣旨

 情報処理学会では, わが国の情報教育・情報処理教育に関して継続的に検討を行い[参考資料1], これまでに複数の提言・コメントを公開してきました。

 現在, 中央教育審議会において次期指導要領の方針策定が 進められているものと理解していますが, そのうち高等学校普通教科「情報」に関わる部分は, 私共の検討内容と強い関連があります。

 わが国の多くの国民は情報・情報社会・情報技術に関する基盤的な理解度 (以下「情報水準」と記します)が低いままに留まっており, その結果が2006年初頭の「構造計算書偽造事件」 をはじめとする多くの事件の要因となっています[参考資料2]。

 小学校(総合的な学習の時間), 中学校(技術・家庭), 高校(情報) の各段階で情報教育が開始されましたが, その実態はパソコンやソフトの操作中心であり, 上記の問題を解消するのに必要な原理・原則からの理解を 指向するものとなっていません。この点を早急に改める必要があります。

 また, ICTの発達は変化が常態である社会をもたらしましたが, これは能力や学力に関係なく失業と転業が常態化する社会でもあり, このことが世界的な問題となっています。 わが国においても, 近年, 国民間の格差拡大による社会の不安定化が懸念されています。

 このような社会では低所得階層に再チャレンジの機会を提供することが重要であり, そのために全国民にICTを活用した主体的な学習力を修得させ, 新しい能力を自ら開発可能とさせることが緊急の課題です。 ここで言う主体的な学習力とは, パソコンやソフトの操作能力ではなく, 情報・情報社会・情報技術に関する原理・原則からの理解に基づき, 自己の立場や行動を判断できるようなものであるべきです。

 欧州では高等教育圏(European Higher Education Area)を構成し, 授業料を無料ないし低額に保ち, 学生・教職員の大学間移動と単位互換を容易にするために, ICTに大きな期待が掛けられています。 この点はわが国においても参考にすべきと考えます。

 さらに, 国土が狭く資源の少ないわが国では, 今後とも工業製品の輸出によって外貨収入を得て 食料や原材料を輸入する必要がありますが, 21世紀の産業の柱である情報技術で立ち後れれば, この枠組みの維持も困難となる恐れがあります。

 これらの状況を放置すれば, 世界的な情報社会化の波の中において, わが国は「情報格差(ディジタルディバイド)」の負け組のみならず, 経済的にも負け組となる可能性が高く, 国の将来が危機に瀕するものと考えます。

 この来るべき危機を回避するには, 初等中等教育段階における国民全員に対する適切な情報教育の実施を通じて, 国民全体の「情報水準」 を向上させて早急に知識基盤社会に移行する以外に方法はないと考えます。

 2003年度に実施された, 高等学校普通教科「情報」の必履修化は, このための重要な第一歩であり, 私共は関係各位の英断を高く評価するものです。 しかし, その実施状況においては残念ながら不十分な点がある状況です[参考資料3]。

 この現状を克服し, 次代の国民を育てる教育を充実させるために, 私共は上記の事柄を強く要請する次第です。

[注記1] ICTはInformation and Communication Technologyの略ですが, ここでいうCommunication Technologyはインターネットに代表される 新しい通信技術を意味しています。[参考資料4]などで記されているように, ICTはInformation Technologyと(新しい) Communication Technologyが統合されて生まれたものであり, 人対人, 人対社会のコミュニケーションに大きな影響を与えつつあります。 このため本文では, 一般的な「情報通信技術」ではなく, 「情報・コミュニケーション技術」という新しい訳語を当てています。

参考資料

[参考資料1] 情報処理学会, 日本の情報教育・情報処理教育に関する提言 2005(2006.11改訂/追補版), http://www.ipsj.or.jp/12kyoiku/teigen/v81teigen-rev1a.html

[参考資料2] 情報処理学会, 2005年後半から2006年初頭にかけての事件と 情報教育の関連に関するコメント, http://www.ipsj.or.jp/12kyoiku/statement2006.html

[参考資料3] 情報処理学会, 高校教科「情報」未履修問題と わが国の将来に対する影響および対策, http://www.ipsj.or.jp/12kyoiku/Highschool/credit.html

[参考資料4] UNESCO/IFIP, Information and Communication Technology in Education --- A Curriculum for Schools and Programme of Teacher Development, 2002. http://unesdoc.unesco.org/images/0012/001295/129538e.pdf