静電容量方式タッチパネルを拡張するインタフェースの「印刷」に関する研究

 
加藤 邦拓
東京大学 特任研究員

[背景]タッチインタフェース普及による操作体験の均質化
[問題]ユーザ自身によるインタフェースの拡張性
[貢献]コンテンツに合った操作体験を提供するインタフェース作成手法の提案


 本研究では静電容量方式タッチパネルを拡張するインタフェースのディジタル工作機器を用いた「印刷」による作成手法について検討する.スマートフォンやタブレット端末,など様々な個人向けの端末の普及に伴いタッチパネルを使った入力手法が活躍している.これによりディスプレイ上の GUIを指や手によって操作するといった直接的な操作手法が実現され,より分かり易く直感的な操作が可能となった.

 コンピュータ上で開発されたさまざまなアプリケーションは,画面上に配置する GUIによって自由に設計することが可能である.しかしそれはあくまでディスプレイの中に限った話であり,ユーザが直接的に操作を行うハードウェアインタフェースは,依然としてマウスやタッチパネルを触れる操作から大きく変化していない.また同様に,開発者によってデザインされたインタフェースを,ユーザはそのまま使用する必要があるという構図も今も変わらないままである.

 本研究の目的はタッチパネルディスプレイ内部での GUI操作という制約を超え,ユーザの需要やコンテンツの特性に合った操作体験を提供するためのインタフェースを作成し,使用可能にすることである.インタフェースを作成し,タッチパネル上に貼り付けるだけで,従来ディスプレイ内で行われてきた操作を,さまざまな形で実世界上に拡張する.

 1つ目に,導電性インクによってマルチタッチ入力を発生させるパターンを印刷し,タッチパネル上に載せるだけで使用可能な紙製インタフェースを提案した(図左上).カード状のインタフェースや,折り曲げて立体的なインタフェースを実現し,タッチパネルデバイス上でのアプリケーションと連携したインタラクションが可能となる.

 2つ目に,特定個所でのタッチ入力だけでなくスクロール,スワイプ,ピンチなどの,より多彩な操作を実現するインタフェースの作成を検討する(図右上).提案手法であるでは,導電性インクにより縞模様状のパターンを印刷したシート,ExtensionStickerをタッチパネル上に貼り付けて使用する.印刷した導電部の配置・形状を変えることで,ダイヤル型などさまざまなインタフェースを実現した.また,ExtensionStickerの応用例として,側面上でのタッチ操作を可能とするカードボードHMD,MilboxTouchを開発した(図左下).

 3つ目に,これまでに提案した手法をさらに拡張し,2次元のタッチ操作が可能なインタフェースを実現する(図右下).提案手法では,表面に面積の小さい導電性の点群を用いることでタッチ入力を発生させる.3Dプリンタにより,内部に導電性の柱のような構造を持つオブジェクトを出力し,タッチパネル上に載せて使用する.これにより平面だけでなく,曲面や凹凸面などの形状を持つさまざまなタッチ入力インタフェースを実現した.

 また提案したそれぞれのインタフェースについて入力精度の評価実験を行い,ユーザが安定して操作するための作成要件を示した.印刷するパターンや3Dモデルを配信し,ユーザ自らが出力すれば,個人の需要にあったインタフェースをダウンロードし自由に拡張することが可能となる.こうしたインタフェースの作成手法とその応用例により,HCI分野における後続の研究や,他分野へ貢献が期待される.

 

 
 (2018年5月31日受付)
取得年月日:2018年3月
学位種別:博士(工学)
大学:明治大学



推薦文
:(ヒューマンコンピュータインタラクション研究会)


静電容量方式タッチパネルを搭載したデバイスを拡張する様々なインタフェースを,ディジタル工作機器を用いた印刷によって作成する手法を示し,それぞれのインタフェースに対し複数のアプリケーションを実現することで有効性を示している.HCI分野における後続の研究や,他分野への応用可能性を示した優れた論文である.


研究生活


紙を使った入力インタフェースを作りたい,というモチベーションから始めた研究でした.その後3Dプリンタを用いてい立体的にしたり,より自由度の高いインタフェースを考案したりと継続的に発展させることでさまざまな応用例を実現することができました.インタフェースの開発にあたり,パラメータの調査やアプリケーションの開発など多くの苦労がありました.特に,企業との共同で開発を進めた MilboxTouchは研究としてだけでなく,製品化を目指して開発を進めており,かなり難航した時期もありました.指導者である宮下芳明先生や,共同研究者の方のサポートにより論文発表だけでなく,製品化も実現し,さらにはSXSW’16 Interactive Innovation Awards ファイナリストに選ばれるなど多くの人に評価していただけるような研究成果を残すことができました.今後も多くのユーザに役立つような研究を続けていけるよう精進します.