キャラクター分析に基づく形式知化とデザイン原案制作支援に関する研究

 
茂木 龍太
首都大学東京システムデザイン学部インダストリアルアート学科 助教

[背景]制作者の感性や経験による映像コンテンツの制作
[問題]制作者の暗黙的知識で制作されるためコミュニケーションギャップが発生
[貢献]暗黙的知識を形式知化する手法をデザイン原案制作に活用

 メディアコンテンツにおける登場人物の作品に与える影響力は大きく,たとえば映画内の登場人物を演じた俳優の人気に伴う経済効果や,アニメに登場して人気を博したキャラクターに関連して発生する版権ビジネスなどが,特に注目を集めている.さらに,自治体マスコットキャラクターに代表されるように,キャラクターは映画・アニメ・漫画・小説・ゲームとあらゆるところで活用され,年々その数を増やしている.映像制作工程は技術の発展とともにディジタル化が各工程で進んでいる.しかし,映像制作工程の企画やデザイン,シナリオを生み出す初期段階であるプレプロダクションはいまだディジタル化が遅れているため,キャラクターデザインにおけるアイディアをヴィジュアル化する工程も従来からほとんど変わっていない.したがって,プロデューサーとデザイナーの間のコミュニケーションギャップによるリテイクの増加などが問題となっている.

 そこで本研究では,キャラクターデザインの支援のために,既存キャラクターを分析することでデザイナーの「暗黙知」を「形式知化」し,誰もがデザインに活用できる制作手法の開発を目的とした.この目的を達成するためにキャラクターデザイン工程の初期段階に着目し,キャラクターの設定情報の分析と分類,制作者がキャラクターメイキングに必要な情報を蓄積するためのライブラリ「キャラクタースクラップブック」を用いたデザイン原案制作支援,そして,3次元モデルを用いたキャラクターデザイン原案制作支援の3つの研究を行った.

 キャラクターの設定情報の分析と分類では,キャラクターメイキングにおけるキャラクター設定情報に着目した.また,企画段階からデザイン決定までのプロセスにおいて必要になる設定情報を調査し,情報の整理と制作支援のためのテンプレートを開発した.そして,テンプレートを用いた制作手法を提案した.キャラクタースクラップブックを用いたデザイン原案制作支援では,キャラクターメイキングにおける重要な要素であるキャラクターの体型と表情,配色の3つの項目に焦点を当てた.そして,従来制作者の暗黙的知識だったこれらのノウハウや技術を調査・分析に基づいて活用できる形式にした.これをもとにキャラクターデザイン原案制作手法を開発した.3次元モデルを用いたキャラクターデザイン原案制作支援は,ロボットキャラクターやデフォルキャラクターのデザインを分析し,その結果から各デザインの造形を活用できる形式にした.そして,これらのキャラクターの外形を設計するための3DCGモデルを作成し,デザイン原案制作のためのツールを開発した.これによって,誰もが容易にキャラクターデザイン原案の作成が可能になった.

 

 
 (2018年6月9日受付)
取得年月日:2018年3月
学位種別:博士(メディアサイエンス)
大学:東京工科大学



推薦文
:(デジタルコンテンツクリエーション研究会)


本論文はコンテンツ制作の初期段階におけるキャラクターデザイン原案制作支援を目的とする.このために専門家の暗黙知を形式知化して,キャラクター要素をまとめたデジタルスクラップブックを構築した.コンテンツ設定資料に基づく配色法やコラージュ法を提案し,デザイン原案の高品質化と制作の効率化を実現した.以上のように,DCC研究会に関連が深く,内容的にもとても興味深いため,DCC研究会からは本論文を推薦する.


研究生活


このテーマで研究を始めて10年経ちました.10年前学会でキャラクターデザイン支援の研究発表を行ったころは,「オタクがきた!」とか,「作品制作は神聖なものなので論理的に作るわけないだろう」などさまざまな意見や批判にさらされたことを思い出します.そんな中,研究を進めることで理解者や同じ領域の研究者が少しづつ増えて,現在ではデザイン系学会だけではなく情報系の学会でもセッションができるまでになりました.これは,指導教員である近藤邦雄先生と副査を務めていただいた三上浩司先生をはじめとするさまざまな研究者,制作者の方々の協力のおかげです,心より感謝いたします.今後も精力的に研究活動を続けていこうと思います.