Automatic Image Analysis for Biomedical Research: Rapid Drug Susceptibility Testing and Investigation of Cell Specialization in Early Embryo


(邦訳:生物医学のための自動画像解析:迅速な薬物感受性試験ならびに初期胚の細胞分化研究)
 
Grushnikov Andrey

大阪大学 特任助教

[背景]細菌学と発生学には細胞分析をすることが多い
[問題]細胞分析のために細胞の特徴がマニュアルで計算されていたので労働集約的で主観である
[貢献]菌特徴を抽出と分析する自動的な方法,胚細胞のセグメンテーション方法を開発した
 
 細胞分析は,細菌学および発生学における科学的調査において,頻繁に行われる中核的で,重要な手順の一つである.この分析では主に顕微鏡によって収集された視覚情報を処理する.画像処理アルゴリズムに基づいて,細胞分析の自動化が行われてきたが,実際にはタスクごと問題に加えて,顕微鏡の設定や実験環境,および撮影方法が異なるという問題があるため,新しい手法およびアプローチを絶えず開発し続けることが必要である.本研究ではコンピュータサイエンス,特に画像処理の知識を活用し,次の2つの自動化の問題を解決することを目的として設定した:薬剤感受性試験と初期胚セグメンテーション.

 薬物感受性試験は,ある細菌細胞株の増殖を防ぐ薬剤の種類と薬剤の濃度を決定する検査である.従来の方法では,検査結果が確定するまでに,24時間以上もの長い時間が必要である.近年,3時間以内に菌株の感受性を推定できる新しいデバイス(DSTMデバイス)が紹介された.感受性の推定は,テストとコントロールサンプル間で,細胞が増殖する過程で生じる,形状の変化を目視で評価することにより行われる.この効率的な感受性推定デバイスの自動化の支援し,客観的で再現性のある評価方法を提供するために,1枚のDSTMデバイスの顕微鏡画像を用いて,自動的に細胞の検出特徴の抽出,感受性の推定を行える手法を開発することを研究の目標を設定した.結果として,高い精度で感受性を推定できる手法(平均97%)を開発することに成功した.研究者コミュニティに使用していただくために,GUIを備えた,操作が容易なツールを開発した(図).

 発生の初期段階において,哺乳類胚は1種類の細胞から構成される.細胞分化というプロセスで,それらの細胞は異なる種類の細胞に変化し,位置も変化する.細胞分化には多くの要因が重要な役割を果たしているが,現時点ではどれが主要な役割を担っているかについては一致した意見がない.しかし,幾何学的な特徴が,分化後の細胞の種類と関係があることが知られている.幾何学的な特徴を容易に抽出するためには,まず,胚細胞のセグメンテーションをする必要がある.既存手法では,ホフマン変調コントラスト観察法で撮影した単焦点,または,多焦点の画像を処理しセグメンテーションを行う.これらの手法は2〜4細胞期の胚にのみ高い精度を達成する.本研究では,HMC画像を処理する新たな手法を開発するのではなく,蛍光画像の断面から4〜32細胞期の胚を自動的にセグメンテーションする手法を開発することを目的として設定した.細胞胚のセグメンテーションに適したエネルギー関数を導入し,3Dレベルセットアルゴリズムを用いる手法を開発した.先に論じた研究と同様に,テストを容易にするGUIのツールも開発した.4細胞胚で93%ものセグメンテーション精度を達成し,より多くの細胞数を有する胚では,精度は低下し,32細胞胚では75%であった.

 

 
開発した感受性推定ツールのインタフェース

(2018年6月6日受付)
取得年月日:2018年3月
学位種別:博士(情報科学)
大学:大阪大学



推薦文
:(コンピュータビジョンとイメージメディア研究会)


本論文は,医用画像の自動解析に関する研究として,処理細菌に対する迅速な薬剤耐性判定のための自動画像解析や,初期胚の細胞分裂過程における3次元細胞領域分割に関する手法を提案している.本研究成果が,今後,生物医学研究における解析の効率化や新たな知見の発見に活用されることが期待される.


研究生活


本研究は学際的研究であり,他の研究分野の研究者と共同研究として実施した.そのような経験は,私自身にとって初めてであったため,研究推進に際して,いくつかの困難を経験した.たとえば,研究分野によって研究の目的が異なっており,また,専門用語も異なることから,研究のディスカッションをする上で,意思の疎通ができていないこともあった.さらに,本研究で対象としている画像認識を始めとするコンピュータサイエンスの研究を推進するには,多くのデータが必要となるが,生命科学等の他分野において,同じ形式のデータを大量に収集することは,困難であることが多く,限られたデータで研究を行うことで苦労を伴った.しかしながら,さまざまな研究分野間に存在する隙間を埋めるような学際的な研究を行うことは,大きな意義があると考える.特に,最近の機械学習手法の大幅な進展により,将来的にコンピュータサイエンスと他の研究分野(たとえば,医学,言語科学,社会科等)との学際的研究が普及していくものと期待される.