五十嵐 哲也 山梨県産業技術センター富士技術支援センター 繊維技術部 主任研究員 |
[背景]ジャカード織物における連続階調の表現方法
[問題]組織生成における織物制約と審美的再現性の両立
[貢献]織物組織構造に基づく組織的ディザ法の応用提案
19世紀初頭に発明されたジャカード織機は,経糸と緯糸の交差パターンを高い自由度で操作することで,複雑な意匠を織物上に表現することが可能である.その設計には比較的単純なパターンを領域内で繰り返す手法が用いられ,領域間のパターン対比による意匠の表現が主として用いられてきた.一方,領域内あるいは領域間に連続階調を含んだ意匠の表現は,多大な労力を要するため非常に困難であったが,コンピュータの普及以降,画像処理技術を活用して簡易に連続階調を表現する手法が提案され,写真などの連続階調を題材とした意匠が織物に用いられ始めた.しかし連続階調を有する外観と織物構造上の制約を同時に満たす織物組織の生成は困難であり,たとえば緩やかに階調が変化する領域では意図しない繰り返しパターン,アーティファクトの発生を防げないことや,元画像の微細構造が織物上に再現されないことなどの品質上の課題が残っていた.
本研究では,ジャカード織物による連続階調をより優れた品質で実現することを目的とし,自然画像の忠実な再現を阻むいくつかの課題を解決する観点から複数手法の提案を行った.本研究の提案手法は,いずれも通常の画像二値化処理で用いられる組織的ディザ法に基づき,織物組織の1つである繻子組織パターンに基づくディザマスクの設計と,それに含まれる閾値の配置および閾値処理法を制御することを基盤としている.本研究で用いたディザマスク“ステッピングディザマスク”は,入力画像を反映して階調が漸進的に変化するような出力結果が得られるよう,各行内の閾値が階段状に増減するよう配置したもので,各行の階段状構造は繻子組織に基づく空間配置を持つようシフトされた位相を持つ.具体的な提案手法は次の4つであり,それぞれの有効性が製織試験により示されている.
1)緩やかな階調変化への最適化(OSD法,RSSD法)
アーティファクトの原因となる閾値とその空間配置の偏りをコストとし閾値の配置を最適化する手法.
2)微細構造の再現(IFT法)
閾値処理の結果,入力画素値の大小関係が反映されず微細構造が消失することを防ぐため,任意の範囲で入力画素値の画素値順序を優先しながら2値化を行う手法.
3)繻子組織のバリエーションの活用
繻子組織の構造が出力結果にもたらす規則的な構造である繻子線の活用法と,変則繻子を用いた異なる質感表現の可能性とその具体的な手法.
4)輝度レンジの拡大
歴史的なスティーブングラフ技法に着目し,階調段階数をより細分化して拡張するディジタル化によって織物構造を保持しながら製織後の輝度レンジを拡大する手法.
本研究では,ジャカード織物による連続階調をより優れた品質で実現することを目的とし,自然画像の忠実な再現を阻むいくつかの課題を解決する観点から複数手法の提案を行った.本研究の提案手法は,いずれも通常の画像二値化処理で用いられる組織的ディザ法に基づき,織物組織の1つである繻子組織パターンに基づくディザマスクの設計と,それに含まれる閾値の配置および閾値処理法を制御することを基盤としている.本研究で用いたディザマスク“ステッピングディザマスク”は,入力画像を反映して階調が漸進的に変化するような出力結果が得られるよう,各行内の閾値が階段状に増減するよう配置したもので,各行の階段状構造は繻子組織に基づく空間配置を持つようシフトされた位相を持つ.具体的な提案手法は次の4つであり,それぞれの有効性が製織試験により示されている.
1)緩やかな階調変化への最適化(OSD法,RSSD法)
アーティファクトの原因となる閾値とその空間配置の偏りをコストとし閾値の配置を最適化する手法.
2)微細構造の再現(IFT法)
閾値処理の結果,入力画素値の大小関係が反映されず微細構造が消失することを防ぐため,任意の範囲で入力画素値の画素値順序を優先しながら2値化を行う手法.
3)繻子組織のバリエーションの活用
繻子組織の構造が出力結果にもたらす規則的な構造である繻子線の活用法と,変則繻子を用いた異なる質感表現の可能性とその具体的な手法.
4)輝度レンジの拡大
歴史的なスティーブングラフ技法に着目し,階調段階数をより細分化して拡張するディジタル化によって織物構造を保持しながら製織後の輝度レンジを拡大する手法.

(2018年5月31日受付)