A Study on Encoding and Transmission Designs for Multi-view Video Streaming

(邦訳:マルチビュービデオストリーミングの符号化および伝送方式に関する研究)
 
藤橋 卓也
大阪大学 大学院情報科学研究科/日本学術振興会特別研究員(PD)

[背景]高効率・高品質を保証するマルチビュービデオ配信の重要性
[問題]通信トラヒック増大およびデータ損失時の品質劣化
[貢献]映像・伝送路特性を勘案した伝送手法の提案


 本研究では,マルチビュービデオの効率的なネットワーク伝送に関して取り組んでいる.ネットワークを通じて複数のカメラ映像を配信するマルチビュービデオシステムは,あたかも別の場にいる錯覚をもたらす超臨場感システムを実現する基礎技術の1つとして期待されている.マルチビュービデオシステムの発展は1)オリンピックなどにおける没入型エンターテイメント,2)テレプレゼンスを活用した弱者支援,3)定点カメラ・クルマやロボットに搭載されたカメラ映像を用いた産業活性化に貢献することができる.

 既存のマルチビュービデオシステムに関する技術研究は,有線回線で接続された単一ユーザへの配信を前提として設計されている.しかしながら,マルチビュービデオを多くの応用で利活用するためには,A)多数ユーザへの同時配信によって生じる多大な通信トラヒックに対処する伝送手法,B)モバイル視聴機器への高品質映像伝送手法の開発がそれぞれ必要となる.本研究では,ユーザ環境の多様化に対処し,多数の利用者への配信を可能とするマルチビュービデオシステムの基礎を確立するために,以下の2研究に取り組んだ(図).

A)多数ユーザへの対処
 マルチビュービデオシステムでは,カメラ台数の増加だけでなく,同時視聴ユーザ数の増加に伴って通信トラフィックが急激に増加する.本研究では,ユーザ数増加によるトラヒック増加を抑制するために,各ユーザからの周期的なフィードバック情報を利用する伝送手法を開発した.具体的には,各ユーザから通知されるフィードバック情報を元にして,全カメラ映像を複数ユーザが必要とする共通フレームと各ユーザが独自に必要とする非共通フレームに分割するとともに,これらのフレームをユニキャストとマルチキャストを組み合わせて複数ユーザに伝送する.Mitsubishi Electric Research Laboratoriesが提供するテストビデオシーケンス,ITU-TおよびISO/IECが提供するマルチビュービデオエンコーダを用いた性能評価から,10ユーザが同時視聴するとき,約79.0%の通信トラヒックを削減することを明らかにした.

B)モバイル視聴端末への対処
 近年の無線通信では,異なる通信品質を有する複数の無線資源(サブキャリア)を同時に用いてデータを送信する直交周波数分割多重方式(OFDM)が広く用いられている.OFDMを用いてマルチビュービデオを伝送する場合,通信品質が悪いサブキャリアで生じるデータ損失によって各カメラ映像の品質が著しく劣化する.本研究では,各カメラ映像の損失時に生じる映像品質への影響と各サブキャリアの通信品質を勘案して,各カメラ映像を適応的にサブキャリアに割り当てて送信する伝送手法を設計した.ソフトウェア無線機USRPを用いてトレースした実際のサブキャリア品質に基づく性能評価から,提案手法によって映像品質(PSNR)を約6.9dB高く維持できることを明らかにしている.
 


 
 (2016年6月1日受付)
取得年月日:2016年3月
学位種別:博士(情報科学)
大学:大阪大学



推薦文
:(モバイルコンピューティングとパーベイシブシステム研究会)


本論文では,複数カメラによる多視点動画ストリーミングにおいて,視点を自由に切り替えながら視聴する複数のユーザ要求に応じた動画フレーム選択と配信方式を提案している.冗長トラフィックの削減のみならず,無線通信品質からユーザ満足度まで,アプリケーションを意識した実用性の高い研究がされており,高く評価できる.


著者からの一言


本研究に進めるにあたり,大阪大学の渡辺尚教授をはじめとして,研究室内外の方々から多くの支援をいただき,博士号を取得することができました.この場をお借りして,深く御礼申し上げます.今後は,博士課程で培った能力を活かして,豊かな社会の実現に寄与する研究ならびに後進の育成に取り組む所存です.