A Study on Fine-Grained User Behavior Analysis in Web Search

(邦訳:Web検索における細粒度ユーザ行動の分析に関する研究)
 
梅本 和俊
東京大学 特任助教/情報通信研究機構 研究員

[背景]Web検索エンジンを通じて行われる複雑なタスク
[問題]複雑なタスクにおける検索意図の多様性と検索成果の複雑性
[貢献]複雑なタスクの問題をユーザ行動分析と検索インタフェースの両面から解決

 情報検索において適切な情報の提示は永遠の課題の一つである.多様かつ膨大な情報がWeb上に溢れている現代では,Web検索エンジンは,単なる情報収集のためのツールとしてだけでなく,結婚の準備や引っ越しの手続きといったユーザの意思決定にかかわるタスクなど,多様な検索意図の下で利用されている.検索ログの分析に関する研究によると,Web検索エンジンを通じてユーザが行う検索タスクの約20%は複数回の検索クエリ投入を伴う複雑なタスクであるといわれている.

 複雑な検索タスクには,1回の検索クエリ投入で達成可能な単純な検索タスクと比較して,以下の問題点が存在する.
  1. 同じクエリが投入されたとしても,検索者や検索コンテキストに応じて適合情報が異なる
  2. ユーザがタスク中に検索する内容は時間とともに変化する
  3. 単一の適合文書の閲覧が必ずしも検索タスクの成功を意味しないため,検索をいつ終了すべきかを適切に判断することはユーザにとって容易ではない
 最初の2つの問題は,ユーザの検索意図の多様性に関するものである.残りの1つは,検索成果の複雑性に関する問題である.

 既存研究では,多くのユーザに典型的な意図の発見を目的として,クエリや文書といったデータを対象として検索行動の分析が行われてきた.しかし,個々のクエリの意図推定に基づく検索結果の精度改善という既存のアプローチは,複数回のクエリ投入が行われる複雑な検索タスクに対しては決して十分なものとはいえない.

 こうした背景を踏まえ,本研究では複雑なタスク全体にわたるユーザの検索行動の理解と支援を目的とする.具体的には,ユーザの細粒度検索行動の分析を軸として,複雑なタスクにおける検索意図推定および検索成果評価に関する技術を開発した.個々の研究課題を以下で述べる.
  • [検索意図] 検索トピックの曖昧性を解消する具体語の推定
Webページ閲覧時のユーザの視線の動きから,クエリの背後に隠れた検索意図に関連する語集合をオンライン推定する手法を提案した.ユーザ実験を実施することで,提案手法によって推定された語集合が個々のユーザの意図に即するものであることを示した.
  • [検索意図] 検索対象のトピックの変化の予測
タスク中に変化するユーザの検索対象を事前に推定する課題に取り組んだ.具体的には,現在の検索に関する行動情報を入力として,次の検索に用いられるクエリの修正タイプを予測する手法を提案した.実験データの詳細な分析を通じて,個々のクエリ修正に先立つ特徴的なユーザ行動を明らかにした.
  • [検索成果] 検索情報の不一致が検索行動に与える影響の分析
検索結果に一貫性のない答えが含まれる事実発見型タスクを対象として,情報検索に関するユーザの専門知識(検索専門性)が検索行動に与える影響を調査した.その結果,検索専門性の有無によって,タスクに対する満足度の評価基準が異なることを発見した.分析結果に基づき,検索専門性の低いユーザを支援するための枠組みを議論した.
  • [検索成果] 網羅性指向検索における未閲覧情報量の可視化
情報の網羅的な収集が望まれるタスクにおける未探索の観点の発見や検索終了の判断を支援するために,検索結果に含まれる未閲覧情報量を提示するクエリ推薦インタフェースを提案した.本課題では,未閲覧情報量を検索トピックに関する重要な情報が検索結果の中に残っている度合いと定義し,検索結果中の未閲覧文書集合から得られる追加利得としてその値を推定する手法を提案した.ユーザ実験によって,提案インタフェースの利用者は,未閲覧情報量の推定精度が高いトピックにおいて,情報の網羅的な収集を効率的に達成可能なことが確認された.

 以上のように,本研究は,近年の検索ログにおいて少なからぬ割合を占める複雑な検索タスクを対象にユーザの細粒度検索行動の分析を行い,同タスクにおけるユーザ理解および支援の枠組みを探究したものである.これにより,従来のクエリや検索結果単位でのユーザ支援の枠組みを超え,検索戦略の変更や検索終了の判断といったタスク全体にかかわるユーザの検索行動そのものの支援に関する研究の発展が期待される.
 


 
 (2016年6月13日受付)
取得年月日:2016年3月
学位種別:博士(情報学)
大学:京都大学



推薦文
:(データベースシステム研究会)


本論文は,ユーザの細粒度検索行動を分析し,検索意図の推定・検索結果の評価を行う技術を提案している.検索クエリが本質的に有する検索意図の多様性の問題を,ユーザ行動分析と検索インタフェースの両面から解決した本研究は,情報検索の最難関国際会議(SIGIR2016)採録をはじめ国際的に高く評価されている.


著者からの一言


指導教官をはじめとする研究室メンバや友人,家族など多くの人のサポートのおかげで,自分のやりたい研究にひたむきに取り組むことができ,本当に感謝しています.大変なこともありましたが,それ以上に充実して楽しい学生生活でした.情報検索および関連分野に少しでも多くの貢献ができるよう,今後も研究に精進していきたいと思います.