上阪 彩香 同志社大学 研究開発推進機構 特別任用助教 |
[背景]短期間に大量に出版された井原西鶴の浮世草子における著者および成立年に関する疑問
[問題]西鶴の死後,門下の北条団水により編集,出版された遺稿集5作品の著者に関する疑惑
[貢献]西鶴遺稿集の著者は西鶴である可能性が高いことを文章の数量的観点から明らかにした
江戸時代前期の俳諧師・浮世草子作者である井原西鶴(1642〜1694)は近世文学を語るうえで欠かすことのできない作家であるが,一部の西鶴浮世草子に偽作・補作があるのではないかという疑惑や作品の成立年に不明確さが残る等,いまだ論争が繰り広げられている.それらのなかで解明すべき重要な課題として,西鶴没後に門下の北条団水(1663〜1711)によって編集,出版された遺稿集5作品『西鶴置土産』,『西鶴織留』,『西鶴俗つれづれ』,『万の文反古』,『西鶴名残の友』の著者に関する疑問がある.
本研究では,西鶴浮世草子24作品(545,677語),団水浮世草子3作品(53,838語),西鶴の役者評判記,浄瑠璃(2作品),地誌の4作品(41,865語)の計641,380語を用い,客観的に計量可能な項目(品詞の構成比,単語の出現率,品詞別単語の出現率,bigramの出現率)に関する情報を,主成分分析やクラスター分析を中心とした統計手法で分析することによって,西鶴,団水の文章を比較分析し,遺稿集5作品の著者問題について文章の数量分析の観点から解明を試みた.
分析にあたってまず,西鶴浮世草子に加え,西鶴の役者評判記,浄瑠璃,地誌の利用を検討したが,これらの作品は浮世草子とは異なった文章の特徴を持つということが明らかとなったため,遺稿集の著者の分析には,浮世草子のみを用いることとした.
次に,文章の比較分析を巻単位,章単位で行った場合の信頼性を検討し,章単位での分析は各章の文章量が少なく,作者の特徴の把握を難しくしていることが明確となったため,巻単位で検討することとした.
これらの成果をふまえたうえで,西鶴浮世草子と団水浮世草子の文章の特徴を主成分分析およびクラスター分析等を用いて検討した結果,遺稿集5作品の中で,分析で書簡体形式の影響を受けていることが明らかとなった『万の文反古』はさらなる検討が必要であるが,残りの4作品は西鶴によって執筆された可能性が高いことを明らかにするなど,西鶴,団水の作品研究に数量的な観点から新たな知見を得た.
本研究では,西鶴浮世草子24作品(545,677語),団水浮世草子3作品(53,838語),西鶴の役者評判記,浄瑠璃(2作品),地誌の4作品(41,865語)の計641,380語を用い,客観的に計量可能な項目(品詞の構成比,単語の出現率,品詞別単語の出現率,bigramの出現率)に関する情報を,主成分分析やクラスター分析を中心とした統計手法で分析することによって,西鶴,団水の文章を比較分析し,遺稿集5作品の著者問題について文章の数量分析の観点から解明を試みた.
分析にあたってまず,西鶴浮世草子に加え,西鶴の役者評判記,浄瑠璃,地誌の利用を検討したが,これらの作品は浮世草子とは異なった文章の特徴を持つということが明らかとなったため,遺稿集の著者の分析には,浮世草子のみを用いることとした.
次に,文章の比較分析を巻単位,章単位で行った場合の信頼性を検討し,章単位での分析は各章の文章量が少なく,作者の特徴の把握を難しくしていることが明確となったため,巻単位で検討することとした.
これらの成果をふまえたうえで,西鶴浮世草子と団水浮世草子の文章の特徴を主成分分析およびクラスター分析等を用いて検討した結果,遺稿集5作品の中で,分析で書簡体形式の影響を受けていることが明らかとなった『万の文反古』はさらなる検討が必要であるが,残りの4作品は西鶴によって執筆された可能性が高いことを明らかにするなど,西鶴,団水の作品研究に数量的な観点から新たな知見を得た.

(2016年6月9日受付)