A Study on Interaction between Human and Digital Content

(邦訳:人とコンテンツとのインタラクションに関する研究)
 
平井 辰典
駒澤大学 グローバル・メディア・スタディーズ学部 助教

[背景]情報技術の発展に伴う人とコンテンツとの関係の変化
[問題]人とコンテンツとの新たなかかわり方の検討
[貢献]研究分野を跨いだコンテンツ情報処理の一般化


 情報技術の発展に伴い,人とコンテンツとの関係は日々変わってきている.コンテンツを入手するために必ずしも店舗に足を運ぶ必要はなくなり,今までプロのクリエータにしかできなかったような表現がアマチュアユーザにも可能になり,新たなツールや機材の誕生により新たな表現が生まれたりしている.情報技術は人々によるコンテンツの創作,鑑賞をより便利に,より手軽に,より自由にするなど,人とコンテンツとの関係を向上させてきた.本博士論文では,そのような人とコンテンツとのインタラクション技術に関する研究成果をまとめている.

 コンテンツには,音楽や動画,画像,文章などさまざまな種類があり,対象ごとに新たな技術や手法が各分野で独立して発展してきた.画像に関する技術は画像に関する学会で,インタラクション技術についてはインタラクションのコミュニティでといった具合に,「コンテンツ」は学際的な研究対象であった.コンテンツにはメディアの種類という壁があるが,人とコンテンツとのかかわり方というレイヤにおいては,創作や鑑賞といった共通の概念が存在する.それを情報技術によっていかに支援するかについて,「コンテンツ」という文脈ではこれまであまり明確に言及されてこなかった.

 本研究では,諸分野に散らばっていた関連技術を,コンテンツという断面で切り取って分野横断的に眺め,人とコンテンツとの関係を向上させるための方法を,具体的な研究事例を挙げながら検討している.また,ヒューマン・コンテンツ・インタラクションという研究領域を提案し,コンテンツの「創作」,「鑑賞」,「インタラクション」という3つの観点で人とコンテンツとの関係を向上させ得る情報技術について議論した.本博士論文では,主に音楽コンテンツと動画コンテンツを対象とした8つの研究事例についてまとめており,それらがどのように人とコンテンツとの関係を向上させるかを述べるとともに,ヒューマン・コンテンツ・インタラクションという研究領域においてどのような立ち位置にあるかを明確化させることで,コンテンツに関する研究の方向性や課題について明言している.

 コンテンツとは曖昧な概念で,芸術や娯楽,情報,データなど,多様な性質を含有しており,一概に扱うことが難しい対象である.そういった状況を踏まえ,たとえばコンテンツの要約技術がどのような性質を持ち,効率的な情報享受と芸術性の欠損といった異なる側面に対してどのように作用するかなどをまとめている.

 コンテンツに関する技術は日々進歩しており,そのスタイルの変化とともに,人とコンテンツとのかかわり方は変わっていく.ツールが変わるから人の表現や鑑賞のスタイルが変わるのか,人の表現や鑑賞に対する欲求が変わるからツールが変わるのかには明確な答えがないが,人とコンテンツとの関係を俯瞰することで新たな表現や新たなツールの誕生に繋がる.本研究では,新たなインタラクションの可能性についても議論することで,ヒューマン・コンテンツ・インタラクション研究の将来の可能性を示唆している.
 


 
 (2016年6月10日受付)
取得年月日:2015年12月
学位種別:博士(工学)
大学:早稲田大学



推薦文
:(コンピュータグラフィックスとビジュアル情報学研究会)


本博士論文は,動画や音楽などのコンテンツを対象として,人がどのようにコンテンツとインタラクションを取れるかについてまとめている.コンテンツという観点で分野を横断した研究成果の数々は,1つの研究領域に縛られず,既存の研究領域を拡張させる可能性を示した点で推薦に値するものである.  


著者からの一言


本博士論文は分野を跨いだ複数の研究成果をまとめたものである.このような多岐に渡る研究を行えたのは研究指導,共同研究をしてくださった先生方,研究者の方々のおかげである.著者は現在,自身の研究室を立ち上げたところであり,本博士論文にまとめた種々の研究は,新しい研究室の研究プロジェクトの礎となっており,今後も発展していく.