A Study on Construction Technology of Multi-homed Network with Minimal Administration

(邦訳:管理の容易なマルチホームネットワーク構築技術に関する研究)
 
Yong Jin

情報通信研究機構 研究員


[背景]マルチホームネットワークによる安定かつ高速なインターネットサービスの提供
[問題]マルチホームネットワークにおける動的経路選択
[貢献]管理の容易なマルチホームネットワークの構築

近年,インターネットの普及に伴い,インターネットで最も普及しているサービスであるWWW,電子メールなどは社会的な活動を支える通信手段としてもはや必要不可欠な存在となっている.特に,最近では緊急情報や安否情報のような重要な情報や,添付ファイルを含むような大きなメッセージが頻繁に交換され,また今日ではほぼ全ての情報はWWWを通して配布されており,インターネットユーザも日々増えている状態である.このような環境から,これらのインターネットサービスを安定かつ高速的に運用することが求められている.その1つの技術としてマルチホームネットワークが注目されている.マルチホームネットワークは組織ネットワークを複数のバックボーンネットワークに接続することにより通信の安定性や通信速度の向上などを目的とするネットワーク構成法である.

そこで,本研究ではマルチホームネットワークを活用することで,電子メール,WWW及び他の一般的なアプリケーションサービスを安定的かつ高速的提供することを目的としている.

現在,マルチホームネットワーク構築運用技術として最も広範囲で用いられているのはBGP(Border Gateway Protocol)による経路制御であるが,管理者の負担が高かったりバックボーンネットワークを適切に選択できなかったりする問題があった.そこで,本研究では通信を開始前に発生するDNS(Domain Name System)サーバへの問合せ過程を工夫することにより,通信相手の位置や現在の各バックボーンネットワークの負荷に基づいた適切なバックボーンネットワークの選択を可能とする.さらに,本研究ではDNSの問合せ・応答の処理に工夫することにより,利用者がサービスを利用する方向でのバックボーンネットワークの状態を測定することで,利用者に最も適切なバックボーンネットワークを利用させることができる.また,提案手法では特定バックボーンネットワークへのトラフィック集中を自動的に回避してトラフィックを複数のバックボーンネットワークに分散させる効果も図れる.
   
現在,ほぼ全てのインターネットサービスはDNSを利用している.本研究ではDNSの動作に注目しており,ユーザがサービスを利用する前にネットワーク状態を調査し安定かつ高速的なサービスを提供することを目的としているため,提案手法は電子メール,WWWおよび他の一般のアプリケーションサービスにも応用できる.そして,本研究での提案手法を利用することにより,組織ネットワークでの安定的なサービス,動的なトラフィック分散及びインターネット全体に対するトラフィックの削減も可能となる.さらに,本研究での提案手法を利用することにより,大規模組織だけではなく,小さな組織や個人の環境でもマルチホームネットワークの構築が可能になり,特に,深い専門知識を持つ管理者が無くても簡単にネットワークを管理することが可能となる.

 (2012年8月31日受付)
 
取得年月日:2012年3月
学位種別 :博士(工学)
大  学 :岡山大学

推薦文:(インターネットと運用技術研究会)


本博士論文は,インターネットマルチホーム構成に対して,いかに効果的に活用するかといった本研究会ならではのテーマについて述べている.また,ベースとなったジャーナル論文は,本研究会が提案した論文誌特集号で採録された非常に有用性の高い研究であり,本研究会の研究活動を宣伝できる非常に価値のある研究である.

著者からの一言


マルチホームネットワークはインターネットに対して深い影響を与えており,これは次世代ネットワークでも続くと考えられる.この領域での研究は理論研究だけではなく,成果を実環境で応用するのも大事である.