REAL TIME SCHEDULING AND ANALYSIS FOR CAN MESSAGES WITH OFFSETS

(邦訳:オフセット付きCANメッセージのリアルタイムスケジューリングと解析手法)

陳 暘
名古屋大学大学院 情報科学研究科附属組込みシステム研究センター 研究員


[背景]車載ネットワークの複雑化,通信メッセージ数の増加
[問題]車載ネットワークController Area Network(CAN)のリアルタイム性保証
[貢献]CANのスケジューリング手法と最大遅れ時間解析手法の提案

現在の自動車には,「ECU(Electronic Control Unit)」と呼ぶ自動車制御用コンピュータが多数搭載されており,1つあるいは複数のECUが協調してさまざまな機能を実現する.ECU同士が共通の機能を実現するにはデータの通信が必要であり,この通信は車載ネットワークを介して実現している.CANは高速度(最大1Mbps)およびリアルタイム的な通信を保証できるように設計されたプロトコルであり,近年車載ネットワークで業界標準として使用されているが,車載システムの複雑化,通信負荷の増大に伴い,CANはリアルタイム要求を満たす上で高い負荷で通信することが難しくなっている.ここで,CANのリアルタイム要求とは,各メッセージは送信要求から送信完了までの必要な最大時間(最大遅れ時間と呼ぶ)が自分のデッドラインを満たすことである.

CANよりも高い通信能力を持つ次世代車載LANプロトコル(FlexRay,CAN FDなど)を提案されているが,CANアプリケーションの再構成が必要となりコストや品質面でのリスクがあるため,新しいプロトコルへと移行することは難しいとされている.その一方,効率的なスケジューリング手法および最大遅れ時間解析を提案することで,CANは同じ通信負荷の場合でもメッセージの最大遅れ時間を削減でき,システムのリアルタイム性を向上するように,高い通信負荷でもリアルタイム要求を満たす可能になるため,現在CANの実用に関する重要な手段となっている.
                  
本研究では,CANのリアルタイム性を向上することを着目して,オフセットを用いたCANメッセージのスケジューリング手法および最大遅れ時間解析を提案した.具体的には,まずオフセット決定手法を提案した.その手法ではCANメッセージの初期送信要求時刻にオフセットを付与するように,同時に送信するメッセージ群の衝突を緩和し,最大遅れ時間を削減できる.次に,オフセットを決定したシステムのリアルタイム性を保証するために,オフセット付きでCANメッセージの最大遅れ時間解析手法を提案した.さらに,この成果に基づいて,CANの通信コントローラの送信メールボックスには良く使われている優先度とFIFO(First-In-First-Out)の2種類のキューがオフセットを付きでのリアルタイム性を比較した.その結果,2種類のキューの長所と短所を示した上で,優先度とFIFO キューを組み合わせて送信するスケジューリング手法を提案した.提案手法がデッドラインに対する最大遅れ時間の比率が最も大きいメッセージの最大遅れ時間が低減でき,高いリアルタイム性を実現できることを示した.

本研究では車載ネットワークの複雑化,CANのリアルタイム要求を満たす上で高い負荷で通信することが難しくなる課題に着目し,効果的なスケジューリング手法,および最大遅れ時間解析手法を提案した.本研究の成果はCANメッセージのスケジューリング手法と解析の学術的研究分野の発展に貢献するとともに,実際の車載ネットワークにおけるCANのリアルタイム性の向上に寄与するものである.
 

 
 (2012年8月31日受付)
 
取得年月日:2012年3月
学位種別 :博士(情報科学)
大  学 :名古屋大学

推薦文:(組込みシステム研究会)


本論文では,最大遅れ時間の解析が重要な役割を果たすController Area Network(CAN)のためのリアルタイムスケジューリング手法と解析手法を提案する.特に,オフセット決定手法,オフセット付FIFOキューを使用するシステムのメッセージ最大遅れ時間解析手法,優先度/FIFOキュー使用システムのスケジューラビリティ比較を行い,有効性を確認した.

著者からの一言


本研究を通じて,新しい理論が発見でき,学術的な研究成果に貢献できた上,企業との共同研究を通じて,研究成果の実用性を考える良い機会になりました.今後も,難しい問題に挑戦し,リアルタイムスケジューリング理論と組込みシステムの分野の発展に貢献できるよう,研究開発活動を継続してまいりたいと思います.