Volumetric Modeling of Natural Objects with Compact and Consistent Representations

(邦訳:コンパクトかつ整合性のある表現形式による自然物のボリューメトリックなモデリング)

高山 健志

日本学術振興会海外特別研究員(派遣先:チューリッヒ工科大学)


[背景]三次元CGにおいて物体表面のみを考慮するモデリングが広く利用される
[問題]内部構造を持つ物体(果物・臓器など)のモデリングにおける本質的な難しさと計算・データ量の増加
[貢献]教育やエンタテインメント用途にも応用が可能な三次元モデリング手法

三次元CGにおいて物体を表現するには,基本的にはその物体の表面のみを考慮することが一般的である.具体的には,まず三角形メッシュなどにより物体表面の形状を定義し,さらにその表面上の細かい模様や凹凸などの情報をテクスチャ画像などにより定義する,というのが現在の一般的な三次元モデリングの枠組みである.しかしこの方法では,物体の内部構造に関する情報を無視しているため,たとえば果物の皮を剥く・レンガの壁を砕く・臓器の一部を切除するなどといった,物体の内部構造を露出するような操作を行うことはできない.現在そのようなインタラクションを擬似的に実現するためによく用いられているのは,特定の切り方に対応する見え方を事前に作りこんでおくという方法であるが,これは問題の本質的な解決にはなっていない.また一方で,MRIやCTあるいは自動スライス装置を使って,物体の内部構造を含む三次元的データ(ボリュームデータ)を計測し,それを分析・可視化するという技術も長年研究されてきた.しかしこれらは,実在する物体の内部構造データを計測するためのものであり,CG製作においてアーティストが思い通りに(実在するとは限らない)物体の内部構造データを作り出したい,というニーズには応えられない.
 
このような物体内部の情報を含む三次元的データのモデリング(ボリューメトリックなモデリング)には,2つの大きな難しさがある.1つはユーザにとって三次元的データを直接ペイントすることが本質的に難しいという問題であり,もう1つは処理すべき計算量と記憶すべきデータ量が急激に増加するという問題である.これらの問題に対処するために,本論文では使いやすいユーザインタフェース(UI)と効率的なアルゴリズム・データ構造を設計するための指針を提案している.本論文では,モデリング対象とする物体の内部構造の持つ性質に応じて,2つの手法を提案している.1つ目の手法は,細かいパターンが繰り返し現れるような内部構造をモデリング対象としている(図上段).基本的なアイディアは,内部構造の一部を表す三次元テクスチャを事前に作成しておき,それをスケッチベースUIによって物体内部にデザインした三次元ベクトル場に沿って並べることで,物体内部を三次元テクスチャで満たす,というものである.2つ目の手法は,1つ目の手法ではうまく表現できない,大局的な内部構造をモデリング対象としている(図下段).基本的なアイディアは,物体内部の色分布の境界を内部構造ととらえ,それを色付きの三次元サーフェスの集合として表現する,というものである.これらの色付き三次元サーフェスから色が物体内部の空間に拡散することによって,物体内部の色分布を定義できる.これらの手法は三次元CGにおけるボリューメトリックなモデリングの基礎となる技術であり,教育やエンタテインメントなどの用途への応用が期待できる.
 
 (2012年8月28日受付)
 
取得年月日:2012年3月
学位種別 :博士(情報理工学)
大  学 :東京大学

推薦文:(グラフィクスとCAD研究会)


本研究は,野菜や果物といった自然物の内部構造を表現する手法に関するものである.特に繰り返しのある微細な構造の表現や,滑らかな色変化の表現について新しい手法を提案している.研究成果についてはSIGGRAPH や SIGGRAPH ASIA などで登壇発表しており国際的に高く評価されているといえる.

著者からの一言


自由で刺激的な環境の中で,純粋に自分の好きなテーマを研究できたことを幸せに思う.特に在学中に複数回にわたり海外の大学の研究室に短期滞在できたことは,大きな財産となった.CGという分野は変化が速く先がなかなか読めないが,今後は自分の知らない新しい分野にも挑戦し,さらに視野を広げていきたいと思う.