ビットコイン型仮想通貨は、ブロックチェインという「できごと」の非可逆的記録をつくりだす仕組みを使って、「ビット」による価値の譲渡をあたかも「アトム」の通貨による決済のように転々譲渡できるようにしました。しかもその価値の譲渡という「できごと」を時間の推移の中に位置づけられた信頼可能な記録として公開することを可能にしました。近年、FinTechと呼ばれる金融とITが融合した技術の進歩により、様々なプレーヤーによる決済サービスが提案されています。FinTechの可能性と課題を的確に評価するためには、技術的特性とビジネスへの応用に関する広汎な知識を得ることが求められます。今回は、ブロックチェインの基礎技術から最新の応用事例に至るまで、幅広い分野から講師を迎えます。Old MoneyからNew Moneyへの変革は、アンシャンレジームから分散合意型社会への変化を示唆します。CODEが社会システムを記述する時代が、まもなく到来しようとしています。
コーディネータ:岡田 仁志(大学共同利用法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所 情報社会相関研究系 准教授) 【略歴】1965年大阪府生まれ。1988年東京大学法学部第一類卒、89年同第二類卒。大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程中退。同個人金融サービス寄附講座助手を経て、2000年国立情報学研究所助教授。2007年より現職。総合研究大学院大学複合科学研究科情報学専攻准教授(併任)。総務省情報通信政策研究所特別上級研究員。電子情報通信学会技術と社会・倫理研究会副委員長。IEEE SSIT Japan Chapter Vice Chair。ISO TC68 SC7 Study Group on Digital Currenciesエキスパート。博士(国際公共政策)。 |
仮想通貨として普及しつつあるビットコインは、物理的な通貨との置換えが可能な初めての実用的な電子現金である。ビットコインはすでに多くのセキュリティシステムなどで用いられている要素技術やP2Pネットワークを効果的に組み合わせることにより、取引で不正が行われていないことを参加者全員で見届けることを可能にし、「採掘」による報酬というインセンティブを導入することでシステムを持続的にうまく機能させるという興味深い仕組みで仮想通貨を成立させている。本稿では、ビットコインで用いられている要素技術について紹介したうえで基本的な原理について解説し、なぜ仮想通貨として成立するかという観点から考察を行う。
講師:木下 宏揚(神奈川大学 工学部電気電子情報工学科 教授) 【略歴】1962年生まれ、1986年電気通信大学電気通信学部電波通信学科卒、1987年東京工業大学大学院理工学研究科博士前期課程修了、1990年東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程修了、工学博士、1990年東京工業大学助手、1994年玉川大学専任講師、1995年神奈川大学助教授、2002年より現職、情報セキュリティ、個人情報保護、デジタル著作権管理、デジタルアーカイブなどの研究に従事。 |
フィンテックの発展は、わたしたちの生活に大きな影響を与えつつある。既存の金融関連企業は今後ビジネスのやり方を変えてくることが予想される。また、新しい技術革新をうまく利用して金融サービスに新規参入する事業者が多く現れるだろう。仮想通貨はフィンテックの一つの代表例で、一般市民の生活の変革に大きな影響をもたらすだろう。情報技術論的視点から仮想通貨を捉えると、ビッグデータ関連の技術や、ブロックチェーン技術など、最近のデジタル技術の進化がフィンテックの基盤となっている。これらの技術は、フィンテック自体が進化するという側面に加え、フィンテックからの派生技術ももたらし、大きな社会変革へとつながる可能性がある。わたしたちはどのようにこの大きな変化に備えるのか、議論してみたい。
講師:上杉 志朗(松山短期大学 学長) 【略歴】松山短期大学学長。1965年京都府生まれ。1989年大阪大学経済学部卒業後、東京銀行入行。本店、外務省派遣、融資渉外業務を経て、ハーバード大学ケネディスクールに留学し1998年修了。帰国後東京三菱銀行融資企画部勤務を最後に退職。2001年大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了後、松山大学経営学部専任講師。以来、准教授、教授、豪州国立大学客員研究員等を経て、2015年4月より現職。専門は、経営情報論。博士(国際公共政策)。 |
ブロックチェーンには、分散台帳としての側面がある。ブロックチェーンでは、全ての台帳記録の整合性をP2P型ネットワークの全ノードによって監査し確認する。これが仮想通貨システムでは貨幣的価値の二重使用を防ぐ仕組みの中核である。従来の台帳記録の監査は、上位の主体が下位の主体を監査するという階層的な構造を持つ。これは、企業だけでなく各国の国家、行政機関、銀行、国際金融機関に至るまで同様である。そして台帳記録に記録もれや間違いや不正がないことを確認するデータガバナンスは、組織の統治や管理や権力とも密接な関係がある。また同時に、このような階層的な支配構造による「トラスト」の維持のために莫大なコストが必要とされている。R3 CEVに代表される国際的な銀行間送金をブロックチェーンに置き換えようとする動きの主要な動機はここにある。本講演では、FinTechの中核とみなされている分散台帳としてのブロックチェーンを「帳簿記録のフラットなデータガバナンス」という視点から分析し、その可能性と技術的課題について述べる。
講師:山崎 重一郎(近畿大学 産業理工学部 情報学科 教授) 【略歴】1957年福岡市生まれ。東京理科大学理工学部数学科卒業、九州大学システム情報科学府システム情報科学院博士課程修了。博士(情報科学)Ph.D.九州大学。職歴は、富士通株式会社、株式会社富士通研究所、財団法人九州システム情報技術研究所(富士通研究所より出向)を経て、2003年より現職。 |
ブロックチェーンはもともと仮想通貨としてのビットコインの取引を記録するプラットフォームだが、このブロックチェーンにビットコインの取引記録以外の役割・機能を付加する様々なプロトコルが提案されている。中でもシンプルで利用事例が多いのがOpen Assets Protocolで、ブロックチェーン上で発行主体が存在するアセットの発行・転送を行うことができるようになる。本セッションでは、Open Assets ProtocolのRuby版の実装であるopenassets-rubyや分析プラットフォームなどの開発事例について紹介する。
講師:安土 茂亨(株式会社ハウインターナショナル ソフトウェア開発部 取締役 ソフトウェア開発部 部長) 【略歴】2003年九州工業大学情報工学部制御システム工学科卒業。同年株式会社ハウインターナショナル入社。クラウドに特化したシステム・インテグレーションを中心とした事業展開を行い、2015年からビットコインを中心とした暗号通貨について研究開発を開始し、Open Assets ProtocolのRuby版の実装であるopenassets-rubyを公開。 |
暗号通貨のために開発されたBlockchainだが、その応用はSmart ContractやID管理、分散自律組織など広がりをみせつつある。Blockchainが脚光を浴びた時代背景や、技術的な取り組みの経緯などを振り返るとともに、オリジナルのBitcoinがBlockchainの欠点を運用によってどのようにカバーしたか、その制約条件は他の情報システムを構築する上でも許容できるのか、性能や信頼性、運用コスト等の面で他の技術と比べた優位性が実際にあるのか、他の分散データベース技術と何が違うのかについて検討する。Blockchainが他の技術と比べてユニークな点として、システム間接続に於ける境界とアクセス制御に対する考え方の転換、オーナーシップとガバナンスの分離に着目し、そのアーキテクチャーが情報システムの相互接続性やデータ流通にもたらす影響や、これから新たに期待される応用分野や、Blockchainが広く利用されるために乗り越えるべき課題と、そのために必要な要素技術について概観する。
講師:楠 正憲(ヤフー株式会社 コーポレート統括本部 政策企画本部 CISO Board) 【略歴】インターネット総合研究所、マイクロソフトを経て2012年ヤフー入社。現在はCISO Boardとして全社の情報セキュリティー戦略を立案、ISO/IEC JTC1 SC27WG5委員としてプライバシー・アイデンティティー管理分野の国際標準化活動に従事。一般社団法人OpenID Foundation Japan代表理事としてID連携技術の普及啓発。内閣官房で番号制度推進管理補佐官、政府CIO補佐官として番号制度を支える情報システムを構築。産業構造審議会 商務流通情報分科会 分散戦略WG委員なども務める。 |