日本は、東京オリンピックのあとに2025年問題、つまり戦後のベビーブーマーが全員75歳を超える事象を迎える。統計によると、人は75歳を超えると一人当たりの医療費は65-69歳に比べて2倍以上となる。そのため、国や自治体においては、住まい・ヘルスケア・介護・予防・生活支援といった「ライフケア」が一体的に提供される地域包括ケアが本気で取り組まれている。この危機に対して、伝統的な情報システムの方法論はもちろんのこと、IoT(Internet of Things)・ビッグデータ分析・人工知能・自然言語理解といった近年の「スマートな」情報技術が寄与できる余地は非常に大きいが、伝統的な方法論とスマートな情報技術の両方を備えて、かつ現実のフィールドで生の知見を得ている事例は、まだまだ少ない。本セミナーでは、このようなフロンティアにエネルギーを持って切り込んでいるパイオニアを講師とする。
コーディネータ:井上 創造(九州工業大学 大学院工学研究院 基礎科学研究系 准教授) 【略歴】1997年九州大学工学部情報工学科卒。2002年九州大学大学院システム情報科学研究科博士後期課程修了・博士(工学)。2002年より同システム情報科学研究院・システムLSI研究センター助手。2006年より同附属図書館研究開発室助教授(准教授)。2009年より九州工業大学大学院工学研究院基礎科学研究系准教授。現在に至る。この間、2014年ドイツカールスルーエ工科大学訪問研究員。Web/ユビキタス情報システム、スマートフォンを用いた人間行動認識、センサ情報システムの医療応用、個人情報保護に興味を持つ。IEEE、ACM、日本データベース学会、情報処理学会、電子情報通信学会、日本知能情報ファジィ学会、日本医療情報学会会員。 |
ビッグデータ、人工知能、ディープラーニング、さまざまな情報技術の波が医療を革新しつつある。さらに、新しい技術によって、どのようなことが可能になりつつあるのか、言語処理技術を中心に、薬剤副作用、インフルエンザなどの感染症、認知症といった医療応用事例を紹介する。
講師:荒牧 英治(奈良先端科学技術大学院大学 研究推進機構 特任准教授) 【略歴】2000年京都大学総合人間学部卒業。2002年京都大学大学院情報学研究科修士課程修了。2005年東京大学大学院情報理工系研究科博士課程修了。博士(情報理工学)。2005年東京大学医学部附属病院特任助教、2008年東京大学知の構造化センター特任講師、2011年京都大学デザイン学ユニット特定准教授を経て、奈良先端科学技術大学院大学特任准教授。医療情報学、自然言語処理の研究に従事。 |
本講演では、高速レセプト・ビッグデータ解析基盤を利用した、医療・介護の需要や費用を国・地域・医療機関レベルで把握する研究の中から、以下について紹介する。
・医学会と連携したNDBレセプトデータから患者数・合併症数および地域差分析
・NDBレセプト情報と特定健診データを活用した新しい1次・2次・3次予防群の確立
・レセプト情報と介護レセプトを活用した在宅医療の実態、医療・介護の連携
講師:満武 巨裕(一般財団法人 医療経済研究・社会保険福祉協会 医療経済研究機構 研究部 副部長/主席研究員) 【略歴】2004年京都大学大学院 人間・環境学研究科 博士後期課程 単位取得退学。2006年一般財団法人 医療経済研究機構 主席研究員/副部長(現在に至る)。2015年から厚生労働科学研究における戦略研究(健康医療研究分野における大規模データの分析及び基盤整備に関する研究)の研究代表者として、「レセプト情報・特定健診等情報データベースを利用した医療需要の把握・整理・予測分析および超高速レセプトビックデータ解析基盤の整備」に従事している。 |
超高齢社会である我が国では、病院や施設における労働力不足を補うだけでなく、予防医療や介護予防のためにも、医療・介護従事者、また患者や被介護者に渡って、個人やシステム全体に適した様々な支援方法が必要である。本講演では、特に知能ロボットを用いた、スマートなヘルスケアとライフケア社会の実現に向け、講演者の双腕ロボットなどを用いた先進的な支援ロボティクス研究や、国内外の取り組みの現状と展望について講演を行う。
講師:柴田 智広(九州工業大学大学院生命体工学研究科 人間知能システム工学専攻 教授) 【略歴】1991年東京大学工学部修了。1996年東京大学大学院工学系研究科修了、博士(工学)取得。日本学術振興会研究員、科学技術振興事業団研究員、奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科助教授および准教授を経て、2014年1月1日より現職(九州工業大学大学院生命体工学研究科)。ロボティクス、神経科学、信号処理、機械学習やそれらの融合領域研究に従事。日本ロボット学会、インドロボット学会、IEEE、電子情報通信学会、日本神経回路学会、などの会員。日本ロボット学会理事、日本神経回路学会特任理事。九州工業大学スマートライフケア社会創造ユニット代表、九州工業大学社会ロボット具現化センター運営委員。 |
超少子高齢社会を迎え、医療・介護体制は大きく変換しつつある。地域包括ケアという名の下に、高齢者はできるだけ在宅で健康に暮らすことが重要となった。また、労働生産年齢者は予防に重点をいた健康的な生活を送ることも求められる。つまり、労働集約型であった医療施設からバラバラで目が行き届かない在宅や職場にヘルスケア、医療、介護の場が移るわけであり、従来のように人海戦術でサービスの質を保つことは不可能となる。医師、看護師、ケアマネジャーやヘルパーの五感の代わりの役割を務めるセンサネットワークが強みを持つこととなろう。その結果として、リアルタイムの患者状態の把握から、提供される医療・介護サービスの質や経済性の検証まで、様々な目的でセンサデータが膨大な診療情報とともに使われるであろう。本講演では我々の自験例を基に、センサネットワークにより構築されるBig Data解析がもたらす可能性にも言及したい。
講師:中島 直樹(九州大学病院 メディカル・インフォメーションセンター センター長/教授) 【略歴】1987年九州大学医学部卒業、第3内科入局、1996年米国カリフォルニア大学サンディエゴ校ポスドク、2000年九州大学第三内科助手、2002年医療情報部へ移籍、講師、准教授を経て、2014年メディカル・インフォメーションセンター(旧医療情報部)教授、病院長補佐、九州大学副CIO、日本医療情報学会、日本糖尿病学会、日本クリニカルパス学会などの評議員、医学博士、内科認定医、糖尿病専門医 |
人の能力を補完・拡張し、人が有する残存機能を最大活用することを支援することで、人をエンパワーの新しい技術の概要について紹介する。ここでは、装着・着用型のウェアラブル技術によるデバイスやロボット、及び筋活動や生理状態を計測する生体計測技術基盤について紹介する。これまで、身体性のような物理的特性、脳神経系から身体系に至る生理的特性、感性といった人間の情緒的側面や社会的特性を考慮したデバイスやロボットの研究開発を行うとともに、これらのヘルスケア・ライフケア応用を進めて来た。本講演では、附属病院や関連医療機関と連携した上下肢の運動器支援、摂食・嚥下活動支援、また特別支援学校や発達心理学と連携した発達支援研究などの例を挙げる。これにより、人が有する本質的な能力を引き出し、人の身体とこころを支える人間機械系の研究の展望について述べる。
講師:鈴木 健嗣(国立大学法人 筑波大学 システム情報系 教授) 【略歴】筑波大学システム情報系教授。サイバニクス研究センター、附属病院未来医工融合研究センター等所属。1997年早大理工物理卒。博士(工学)。早稲田大学助手、筑波大学講師、准教授を経て現在に至る。1997年伊ジェノヴァ大学、2009年仏College de France訪問研究員。2011-2015年JSTさきがけ研究者、2014年よりJST CREST研究代表者。人工知能、サイバニクス、拡張生体技術、人支援ロボティクス、社会的インタラクション/発達支援研究を通じ、人の知能に応じた機械の知能と機能の融合などに興味を持つ。 |
社会の高齢化に伴い日本政府は医療制度改革を行うことを求められている。医療提供体制を再構成するために、厚生労働省はDPCとNDBという2つの医療関連ビッグデータを整備した。前者は1900の病院から年間1100万件の退院患者データを、そして後者は国内のほぼすべての医療機関から年間17億件のレセプトデータを収集している。これらのビッグデータを用いることで、我々は医療システムの現状と将来の傷病構造について評価することが可能になった。日本の医療システムは民間が主体の提供体制と公的保険という組み合わせで行われていることから、適切な情報があることが健全な病院マネジメントにとって重要な課題となる。本セミナーではこの2つの医療ビッグデータの地域医療及び病院マネジメントへの活用事例について紹介する。
講師:松田 晋哉(産業医科大学 公衆衛生学教室 教授) 【略歴】1960年岩手県生まれ、1985年産業医科大学医学部卒業、1992年フランス国立公衆衛生学校卒業、1993年京都大学博士号(医学)取得、1993年産業医科大学医学部公衆衛生学講師、1997年産業医科大学医学部公衆衛生学助教授、1999年産業医科大学医学部公衆衛生学教授。専門領域:公衆衛生学(保健医療システム、医療経済、国際保健、産業保健)。主要著書:『基礎から読み解くDPC第3版』(2011、医学書院)、『医療の何が問題なのか-超高齢社会日本の医療モデル』(2013、勁草書房)、『地域医療構想をどう策定するか』(2015、医学書院)。 |