碁で名人級のパフォーマンスを示すなど、世間に強い印象を与えている人工知能は、いま、実世界に埋め込まれ、実世界でのタスクを人間と協働して解決すべき段階に入っている。人工知能を自らの分野やビジネスの課題解決に使いたいと考えている潜在的なユーザコミュニティは、急激に拡大している。その一方で、実世界に埋め込まれる人工知能においては、データの集積や課題を取り巻く状況の多様性など、これまでの人工知能のための人工知能研究では取り上げられてこなかった課題も多い。個別課題の多様性と手法の一般性のかい離が強く意識されてきている。このセミナーは、実世界での課題解決とそれに取り組む人工知能技術の新しい潮流に焦点を当てる。
コーディネータ:辻井 潤一(国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター センター長) 【略歴】自然言語処理の研究者。日英機械翻訳における先駆的な業績と、生命科学の知識を取り入れた深いデータマイニングの手法は、国際的に高く評価されている。2010年、自然言語処理とデータマイニングにおける国際的な学術成果により「紫綬褒章」を受章。 |
ChainerはPythonから利用できる深層学習用のフレームワークである。特に順伝播処理を行うときに逆伝播の情報を動的に構築する、define-by-runという仕組みを採用している。また、CuPyと呼ばれるNumPy互換のCUDAによる行列演算ライブラリを作成し、バックエンドに利用している。本講演では深層学習フレームワークの仕組みの解説から始まり、これらのChainerやCuPyの仕組みやその効果、その背後にある設計思想についてを中心に特徴の解説を行う。
講師:海野 裕也(株式会社Preferred Networks 知的情報処理事業部 事業部長) 【略歴】2008年東京大学大学院修士課程修了。同年日本アイ・ビー・エム(株)入社。東京基礎研究所配属。2011年(株)Preferred Infrastructure入社。2016年(株)Preferred Networks入社。一貫して、自然言語処理、テキストマイニング、機械学習の研究開発に従事。オープンソースの分散機械学習エンジンJubatusや、深層学習フレームワークChainerのコミッター。2014年からNLP若手の会の共同委員長。 |
近年、画像や音声等のビッグデータに対して自律的な学習を行うディープラーニングの技術が、従来のパターン認識能力、さらには人間の認識能力を超えるなど、新しい人工知能技術の一つとして注目を集めている。またディープラーニング研究の流れの中で、リカレントニューラルネットワークを利用した言語処理などの研究も盛んとなっている。本講演では、我々がこれまで行ってきた、ディープラーニング技術によるマルチモーダル音声認識、自律ロボットへの応用の試みを説明する。具体的には、ディープラーニングによる視聴覚統合音声認識、音源分離などの応用技術、さらに人間型ロボットによる柔軟物体ハンドリングの動作生成、動作からの映像連想、予測などを実現した例を紹介する。さらに、リカレントニューラルネットワークを利用したロボットの言語と運動の統合学習モデルの概要を紹介する。最後にこれらの技術の発展、展開について議論する。
講師:尾形 哲也(早稲田大学 理工学術院基幹理工学部表現工学科 教授) 【略歴】1995年早稲田大学大学院理工学研究科修了。1997年日本学術振興会特別研究員、1999年早稲田大学理工学部助手、2001年理化学研究所脳科学総合研究センター研究員、2003年京都大学大学院情報学研究科講師、2005年同助教授(准教授)を経て、2012年より早稲田大学理工学術院教授。博士(工学)。2009年~2015年科学技術振興機構さきがけ領域研究員、2015年より産業総合技術研究所人工知能研究センター招聘研究員を兼任。 |
大量の電子的データがネットワーク上に蓄積され、利用可能になっていることを背景として、深層学習(Deep Learning)等に象徴される学習能力を持つ人工知能技術が注目されています。そうした人工知能技術によって、人間の処理能力を超えた量のデータを解釈して知識に変え、実社会に働きかけ、いろいろな分野で生産性やQoLを向上させることが期待されています。本セッションでは、そうした人工知能技術の中核にある統計的機械学習技術について、研究の発展と最近の動向についてご紹介するとともに、今後の方向性について考察したいと思います。
講師:麻生 英樹(国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター 副研究センター長) 【略歴】1981年東京大学工学部計数工学科卒業。1983年同大学院工学系研究科情報工学専攻修士課程修了。同年通商産業省工業技術院電子技術総合研究所入所。1993年から1994年ドイツ国立情報処理研究センター客員研究員。現在、国立研究開発法人産業技術総合研究所人工知能研究センター副研究センター長。経験から学習する能力を持つ知的情報処理システムの研究に従事。 |
プログラムを書くことができると、コンピュータを好きなように動作させ、サービスやゲームを作ったり、データを処理したり、研究を行ったりすることが可能になる。しかし、プログラミングは難しい。プログラミング言語(CやPythonなど)に熟知していなければ、プログラムを見ても記述されている動作が分からず、更に自分の希望する動作をプログラムとして表現できない。例えば、「もしxが偶数であれば」という簡単な条件文を表現しようと思った時に、「if x % 2 == 0」という、一般人には必ずしも直感的でない書き方をする必要がある。この問題を解決するために、我々は英語や日本語のような自然言語と、プログラミング言語の間の「翻訳」に着目している。この技術により、プログラムからその動作を説明する自然言語文を生成したり、自然言語で書かれた動作を自動的にプログラミング言語に変換したりすることができるようになる。本講演ではこのような自然言語とプログラムの間の自動翻訳を行う手法について紹介する。
講師:Graham Neubig(奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 助教) 【略歴】2005年米国イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校工学部コンピュータ・サイエンス専攻卒業。2010年京都大学大学院情報学研究科修士課程修了。2012年同大学院博士後期課程修了。同年奈良先端科学技術大学院大学助教。機械翻訳、自然言語処理に関する研究に従事。 |
次世代人工知能技術の研究開発が産総研において行われている。その中では、人と相互理解できるAI、社会に埋め込まれるAI、というコンセプトのもと、AI for Science, AI for Manufacturing, AI for Human lifeの応用をイメージしている。本講演では、次世代人工知能技術の中の確率モデリングによって、AI for Human lifeの研究がどのように進められているか、要素技術だけでなく研究を進める方法論として社会の中でAIのリビングラボを構築する活動についても紹介する。
講師:本村 陽一(国立研究開発法人産業技術総合研究所 人工知能研究センター 首席研究員) 【略歴】1993年通産省工技院電子技術総合研究所入所、情報科学部情報数理研究室研究員。1999年アムステルダム大学招聘研究員。2000年産総研情報処理研究部門主任研究員。2003年デジタルヒューマン研究センター主任研究員。2008年産総研サービス工学研究センター大規模データモデリング研究チーム長。2011年同副研究センター長、2015年産総研情報技術部門副部門長、2015年5月より産総研人工知能研究センター。副研究センター長を経て、2016年4月より人工知能研究センター首席研究員、確率モデリング研究チーム長、統計数理研究所客員教授、東京工業大学大学院特定教授兼任。サービス学会理事、行動計量学会理事、人工知能学会理事、人工知能学会評議員なども歴任。 |