情報処理学会ホームに戻る
最終更新日:2009年1月29日

高等学校学習指導要領案(2008年12月22日公示)意見公募(案件番号185000357) のうち
普通教科「情報」部分に対する意見

 

高等学校学習指導要領案(2008年12月22日公示)意見公募(案件番号185000357) のうち普通教科「情報」部分に対する意見PDF


2009.1.20 情報処理学会情報処理教育委員会

要旨

普通教科「情報」の科目構成および各科目の目標について、現行指導要領より適切なものとなっていることに賛成します。ただし科目の目標が有効に機能するためには、すべての高校において両科目が開講されることが必要ですので、この面での配慮を強く要望します。また、両科目とも、現行指導要領の科目と比較して、科学・技術面の内容が減少し、社会的な事項の内容が増大し過ぎているのではと思われます。社会的な事項の学習の重要性は認めますが、それが実効性を持つためには、科学・技術面の学習も不可欠ですので、科学・技術面の内容を増強し、両者のバランスを取って頂くよう要望します。そのほか、データベースに関わる内容、指導計画の作成に関わる記述、指導者の養成についても述べさせて頂きます。

 

本文

情報処理学会情報処理教育委員会では、当学会の分野に関わりの深い高等学校教科「情報」の動向について関心を持って来ました。この度公表された新指導要領案のうち、普通教科「情報」部分につきまして、下記の通り意見を提出させて頂きます。よろしくお取り計らい下さいますよう、お願い申し上げます。

  • 普通教科「情報」が現行指導要領の「情報C」を引き継ぐ「社会と情 報」、および「情報B」を引き継ぐ「情報の科学」の2科目構成となり、コンピュータの使い方的性格が強かった「情報A」に相当する科目がな くなる(当該内容を中学までに任せる)点に賛成します。理由は、高校では高校に相応しい水準で「情報」について学ぶべきだと考えるからです。
  • 「社会と情報」の目標として「情報社会に積極的に参画する態度を育てる」、「情報の科学」の目標として「情報社会の発展に主体的に寄与する能力と態度を育てる」となっている点に賛成いたします。とくに「情報の科学」の目標において「生徒の適性や嗜好に応じて将来的に情報技術の分野に進む選択肢」「情報の科学についてある程度深く学んだ上でさまざまな方面に進む選択肢」が明示されたことを歓迎します。なお、この選択肢が実際に機能するために、すべての高校において両科目が開講され、生徒自身による選択が行えるように条件をつけることを要望します。
  • その反面、新学習指導要領においては、現行指導要領と比較して、両 科目とも全般に科学・技術面の内容が減少し、社会的な事項の内容が増大し過ぎているのではという危惧があります。情報技術にまつわる社会的な問題が世間を騒がせることが多くなり、このことに対処する必要性があることは確かです。しかし、今後起きて来るさまざまな問題に対してきちんと判断できるようになるためには、情報に関する原理やしくみの理解こそ重要だと考えます。そのため、両科目について、 情報の科学・技術に関する内容を増強し、社会的な事項との適正なバ ランスが取られるよう、要望します
  • やや細かい点ですが、「情報の科学」に含まれる内容「問題解決にデー タベースを活用する」は、全ての高校で実施するには高度すぎ、このため却ってきちんとしたデータベースの学習が行われず、データベースと銘打って表計算ソフトによる実習程度の内容で済まされるおそれがあると考えます。データベースについては知識としてきちんと学び、 実際に活用するのはファイルなどに蓄積したデータで行う、という形で明確に区別することが適切であると考えます。
  • 指導計画の作成と内容の取り扱いにおいて、「(3) 各科目は、原則として同一年次で履修させること。」とありますが、「総合的な学習の時間」と連携して1・2年次で1単位ずつ開講することにより、高い教育効果を上げている学校も存在します。学習指導要領において、このよ うな各学校の特色を活かした教育課程編成を難しくするような制限は設けるべきでない、という意見があったことを追記します。

付記

  • 本指導要領案の内容が実効性を伴って教えられるためには、本教科を指導する教員の、科目内容および指導方法に対する理解が重要となります。とくに、長期的な視点に渡る指導者の養成体制が不可欠だと考 えます。この面においても、十分な配慮を要望します。

(本要望をまとめるに当たって検討した個別の改善案については、参考のため、以下に付録として添付します。)

付録: 個別に検討した改善案

「社会と情報」について

箇所:
「(1) ア 情報とメディアの特徴」(内容の取扱い)
原文:
(とくに記述なし)
提案:
「アについては、メディア上の表現により、情報の受け取られ方が大きく変わることを扱うこと。」
理由:
今後このことが社会と情報の最も基本的かつ重要な内容の1つとなって行くと考えるため。


箇所:
「(1) イ 情報のディジタル化」(内容の取扱い)
原文:
「イについては、標本化や量子化を取り上げ、コンピュータの内部では情報がディジタル化されていることについて扱うこと」
提案:
「イについては、標本化、量子化、圧縮、暗号化などを取り上げ、ディジタル化された情報が持つ利点と欠点について扱うこと」
理由:
原文の後半は記述本文の内容からほぼ含意されることと、ディジタル情報の特性やコピーや偽造などの問題に対する理解をこの段階から深めて欲しいと考えるためです。


箇所:
「(1) ウ 情報の表現と伝達」(内容の取扱い)
原文:
「ウについては、実習を中心に扱い、生徒同士で相互評価させる活動を取り入れること。」
提案:
「ウについては、情報の適切な配置の必要性について取り上げるとともに、生徒同士で相互評価させる活動を取り入れること。」
理由:
本文にある「情報を分かりやすく表現し効率的に伝達する」ためには、制作を行うだけでは不十分であり、情報デザインや情報アーキテクチャと呼ばれる分野の基礎的な知識の学習が必要と考えるため。


箇所:
「(2) ア コミュニケーション手段の発達」(内容の取扱い)
原文:
(とくに記述なし)
提案:
「アについては、情報通信ネットワークの起源と発達の歴史について扱うこと。」
理由:
ネットワークの原理と技術的背景について理解を深めさせる上で学ぶことが望ましいと考えるため。


箇所:
「(2) イ 情報通信ネットワークの仕組み」(本文)
原文:
「情報通信ネットワークの仕組みと情報セキュリティを確保するための方法を理解させる。」
提案:
「情報通信ネットワークの構造と仕組みを理解させる。」
理由:
情報セキュリティについては「(3) イ 情報セキュリティの確保」があるため、複数箇所で内容が重複しているように見える。それよりも、情報セキュリティは(3)に譲って、ここではネットワークの構造や仕組みに集中するのがよいと考えるため。


箇所:
「(2) イ 情報通信ネットワークの仕組み」(内容の取扱い)
原文:
「イについては、電子メールやウェブサイトなどを取り上げ、これらの情報の信頼性、利便性についても扱うこと。」
提案:
「イについては、エラー検出など通信プロトコルが持つ機能について扱うとともに、電子メールやウェブサイトなどの情報の信頼性、利便性についても扱うこと。」
理由:
プロトコルの機能について理解していなければ、「情報セキュリティの確保」について学んでも表面的な行為の学習にとどまるおそれが大きいため。


箇所:
「(2) ウ 情報通信ネットワークの活用とコミュニケーション」(内容の取扱い)
原文:
「ウについては、知的財産や個人情報の保護などについて扱い、情報の収集や発信などの取扱いに当たっては個人の適切な判断が重要であることについても扱うこと。」
提案:
「ウについては、コミュニケーションを支援する技術や手法について実習を含めて扱い、情報の収集や発信などの取扱いに当たっては個人の適切な判断が重要であることについても扱うこと。」
理由:
本文にある「効果的なコミュニケーションの方法を習得させる」上では、そのために利用できる技術や手法について併せて学ぶことも不可欠だと考えるため。


箇所:
「(3) ア 情報化が社会に及ぼす影響と課題」(内容の取扱い)
原文:
「アについては、望ましい情報社会の在り方と情報技術の適切な活用について生徒が主体的に考え、討議し、発表し合うなどの活動を取り入れること。」
提案:
「アについては、社会に影響をもたらす情報技術について扱うとともに、望ましい情報社会の在り方と情報技術の適切な活用について生徒が主体的に考え、討議し、発表し合うなどの活動を取り 入れること。」
理由:
理由は、どのような情報技術がどのように社会に影響を与え得るかの具体をきちんと学んだ上で討議に進まなければ、 表面的な議論にとどまってしまう怖れが大きいため。


箇所:
「(3) イ 情報セキュリティの確保」(内容の取扱い)
原文:
「イについては、情報セキュリティを確保するためには技術的対策と組織的対応を適切に組み合わせることの重要性についても扱うこと。」
提案:
「イについては、主要なセキュリティ技術の特徴や限界について取り上げ、情報セキュリティを確保するためには技術的対策と組織的対応を適切に組み合わせることの重要性についても扱うこと。」
理由:
技術と組織の対応の適切なバランスを判断するためには、技術の限界についての学習が必須だと考えるため。


箇所:
「(3) ウ 情報社会における法と個人の責任」(内容の取扱い)
原文:
「ウについては、知的財産や個人情報の保護などについて扱い、情報の収集や発信などの取り扱いに当たっては個人の適切な判断が重要であることについても扱うこと。」
提案:
「ウについては、知的財産や個人情報の保護とそのために用いられる技術などについて扱い、情報の収集や発信などの取り扱いに当たっては個人の適切な判断が重要であることについても扱うこと。」
理由:
単に規則や法律として定められていることがらだけでなく、それを守らせるために用いられる技術やその限界についてもあわせて学ぶべきだと考えるため。


箇所:
「(4) ア 社会における情報システム」(内容の取扱い)
原文:
(とくに記述なし)
提案:
「アについては、情報システムに用いられている技術やその特徴と限界についても扱うこと。」
理由:
情報システム全体としての特徴だけでなく、そこで使われている要素技術まで含めて学習することが、多くの場面において適切な判断を行う力を養う上で必須だと考えるため。


箇所:
「(4) イ 情報システムと人間」(内容の取扱い)
原文:
「イについては、生徒に情報システムの改善策などを提案させるなど、様々な意見を提案し集約する活動を取り入れること。」
提案:
「イについては、人間の情報処理能力の特性について取り扱い、生徒に情報システムの改善策などを提案させるなど、様々な意見を提案し集約する活動を取り入れること。」
理由:
内容本文にある「人間にとって利用しやすい情報システムの在り方」を理解するには、人間自体が持つ特性についての理解が必須だと考えるため。

箇所:



「(4) ウ 情報社会における問題の解決」(内容の取扱い)
原文:
(とくに記述なし)
提案:
「ウについては、問題解決の基本的なプロセスや主要な手法について扱い、解決の過程を記録し振り返るなどの活動を取り入れること。」
理由:
問題解決を行うときに、そこで用いられる方法や記録、評価(検証) などの活動が重要であることを学ぶ必要があると考えるため。

 

「情報の科学」について

 箇所:
「(1) ア コンピュータと情報の処理」(本文)
原文:
「コンピュータにおいて、情報が処理される仕組みや表現される方法を理解させる。」
提案:
「コンピュータにおいて、情報が処理される仕組みを理解させる。」
理由:
当該箇所では原文ではコンピュータの仕組みと情報の表現の双方が含まれているが、どちらも重要な事項であり、十分な時間を掛けて学ぶべきと考える。このため、情報の表現については (3)に移し、(1)アはコンピュータの仕組みに注力するのがよいと考えるため。


箇所:
「(1) ア コンピュータと情報の処理」(内容の取扱い)
原文:
「アについては、標本化や量子化について扱うこと。」
提案:
「アについては、ソースプログラムがコンピュータによって実行される原理について取り扱うこと。」
理由:
上記の提案に対応。また、(2)において「処理手順の自動化」について学ぶ準備として、プログラムがどのようにしてコンピュータ内で動作するかの原理を学んでおくべきだと考えるため。


箇所:
「(3) 情報の管理と問題解決」(題名)
原文:
「(3) 情報の管理と問題解決」
提案:
「(3) 情報の表現と蓄積・管理・活用」
理由:
原文では「(2) 問題解決とコンピュータの活用」 「(3) 情報の管理と問題解決」の2節に渡って「問題解決」を取り上げている。確かに「問題解決」は重要だが、高校の段階であまり高度な問題 解決までを含めることは無理があり、個別の内容で出て来ることは妨げないとしても、節全体として割り当てる分量として1節ぶんが適当であると考える。また、ここまでで述べてきたように、情報技術の原理面の学習を充実させ、時間を掛けて欲しいと考えるため。


箇所:
「(3) ウ 問題解決の評価と改善」(題名)
原文:
「(3) ウ 問題解決の評価と改善」
提案:
「(3) ア 情報の表現と特性」(原文のア、イをイ、ウに繰り下げ)
理由:
(1)アの変更提案とあわせて、この項で情報の表現について十分扱うべきだと考えるため。
箇所:
「(3) ア 情報の表現と特性」(現:ウ 問題解決の評価と改善、内容の取り扱い)
原文:
(とくに記述なし)
提案:
「イ(注:繰り下げ前はア)については、標本化、量子化、圧縮、暗号化などを取り上げ、ディジタル化された情報が持つ特性について扱うこと」
理由:
情報のディジタル表現およびその特性について原理面からきちんと理解させる必要があると考えるため。


箇所:
「(3) イ 情報の蓄積・管理とデータベース」(本文)
原文:
「情報を蓄積・管理するためのデータベースの概念を理解させ、問題解決にデータベースを活用できるようにする。」
提案:
「情報を蓄積・検索するための仕組みについて学び,それを問題解決に活用できるようにする。」
理由:
実際に問題解決に本もののデータベースを取り扱うことはかなり専門性の高い内容となり、すべての高校で実施というのは難しいと考えるため。一方で、「表計算ソフトで扱っているデータもデー タベースである」という考え方がありますが、そのような捉え方では情 報システムで使われているデータベース(DBMS)の機能を正しく理解させられない。このため、本項の内容は「データベース(DBMS)の概念を学ぶ」 「自分で(DBMSではなくファイル等に)データを蓄積し活用できるようにする」という2つのことがらに分けるのがよいと考えるため。


箇所:
「(3) イ 情報の蓄積・管理とデータベース」(内容の取扱い)
原文:
「イについては、簡単なデータベースを作成する活動を取り入れ、情報が喪失した場合のリスクについて扱うこと。」
提案:
「イについては、身近なデータを適切な手段で蓄積・ 検索する活動を取り入れるとともに、情報が喪失した場合のリスクについても考えさせる。」
理由:
上記の項とあわせて、情報の蓄積・検索についてはDBMSを前提としないのがよいと考えるため。