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最終更新日:2007年8月22日

第3回「J-SOX時代のデジタル・フォレンジック」

 

開催日時: 平成19年9月4日(火) 10:00-17:40
開催会場: 東京電機大学神田キャンパス7号館1F 丹羽ホール(東京都千代田区神田錦町2-2)

■セミナー概要
民事訴訟などの増大に伴い証拠性確保技術であるデジタル・フォレンジックが 注目を浴びている.特にJ-SOX法や新会社法などの出現により,訴訟に備える側のデジタル・フォレンジック技術が重要となってきている.デジタル・フォレンジックに関する現状と課題を日米の比較も行いながら,いろいろな分野の専門 家が解説する.

コーディネータ:佐々木 良一(東京電機大学 未来科学部情報メディア学科 教授)
略歴 1971年3月東京大学卒業.同年4月日立製作所入所.システム開発研究所にてシステム高信頼化技術,セキュリティ技術,ネットワーク管理システム等の研究開発に従事.2001年4月より東京電機大学教授,工学博士(東京大学).2002年情報処理学会論文賞などを受賞.著書に,「インターネットセキュリティ入門」岩波新書1999年など.情報処理学会フェロー.日本セキュリティ・マネージメント学会常任理事,情報ネットワーク法学会理事長,日本学術会議連携会員.

■プログラム

セッション1

10:00-11:00
「デジタル・フォレンジックの基礎と最近の動向」
 
  佐々木 良一(東京電機大学 未来科学部情報メディア学科 教授)

講演概要
インターネット社会の進展に伴い,不正アクセスなどの攻撃に対処し,デジタルデータの科学的証拠性を確保し,訴訟などに備えるための技術や社会的仕組みであるデジタル・フォレンジックが最近注目されている.そこで,最初に,このデジタル・フォレンジックとは何かについて概説する.その際,(1)デジタル・フォレンジック技術を利用する主体,(2)訴訟の対象となる行為,(3)訴訟の種類,(4)訴訟する側か訴訟に備える側か,(5)証拠性に関連する情報処理機器の種類などの角度から分析し,それらを4つのグループに分類する.あわせて,それぞれの分類において特に重要となる技術(ログデータ復元技術,侵入経路切り分け技術,原本性確保技術,不正監視技術,不正追跡技術,処理の正当性保証技術,E-Discovery技術など)を簡単に説明する.最後に,デジタル・フォレンジックをめぐる日米の最近の動向を解説する.

略歴はコーディネータ参照
セッション2

11:00-12:00

「デジタル・フォレンジックのためのコンピュータ技術入門
          −記録メディアとファイルシステム−」


  上原 哲太郎(京都大学学術情報メディアセンター 准教授)

講演概要
デジタルフォレンジックの実際の作業においては,電子的証拠の多くはファイルの形で収集される.このファイルが持つ情報を余すことなく生かす技術や,証拠隠滅のため消去されたファイルの痕跡を記録メディアの中から探し出す技術について理解しておくことは,電子的証拠の真正性を評価するために必要な知識である.また,情報漏えい等を防止する立場からは,必要に応じてファイルの痕跡を記録メディア内から完全に消去するアンチ・フォレンジック技術が必要となる.本講演では,記録メディアおよびファイルシステムについて基本的な技術を解説した上で,削除ファイルの復元およびファイルの完全消去にかかる技術を解説する.

略歴

京都大学学術情報メディアセンター准教授.1995年 京都大学大学院工学研究科博士後期課程単位認定退学.同大助手,和歌山大学システム工学部講師,京都大学大学院工学研究科助教授を経て,2006年より現職.NPO情報セキュリティ研究所 副代表理事,NPOデジタル・フォレンジック研究会理事,地方公共団体セキュリティ対策支援フォーラム幹事,和歌山県警察本部サイバー犯罪対策アドバイザー.
12:00-13:00
お昼休み
セッション3

13:00-14:00


「国際化とデジタル・フォレンジック(1)
     −日米の証拠の取り扱いの異同 刑事法の視点から−」


 石井 徹哉(千葉大学法経学部 教授)

講演概要
デジタルフォレンジックでは,証拠化のプロセスに情報技術を投入するため,情報技術に関する議論が中心となっている.しかも,わが国では,伝統的なフォレンジック(指紋照合や血液型・DNA鑑定など)と切り離されて議論されてきたため,証拠化の問題における法的な視点が欠落しているように思われる.そこで,日米における刑事訴訟法を比較しつつ,両国の法制度の異同がデジタル証拠のあり方にどのような違いを産み出しているのか検討しつつ,両国間の証拠の相互利用の可能性を検討する.とくに強調されるのは,伝統的なフォレンジック,法制度を理解しない情報技術の議論は,デジタルフォレンジックにとって有益ではないことである.

略歴
昭和60年3月早稲田大学法学部卒業,平成5年3月早稲田大学大学院法学研究科満期退学.日本学術振興会特別研究員,神奈川大学講師,法政大学講師,奈良産業大学法学部助教授をへて,現在,千葉大学法経学部教授.情報ネットワーク法学会副理事長,NPOデジタルフォレンジック研究会理事.主な論文は,「不正アクセス禁止法の意義と限界」千葉大学法学論集19巻3号1-43頁,「Winny事件の刑法上の論点」千葉大学法学論集19巻4号1-47頁,Criminal Regulation of Anti-forensic tools in Japan, in: M. Pollitt and S. Shenoi (Eds.),Advances in Digital Forensics II (Springer, Boston, 2006).など.
「国際化とデジタル・フォレンジック(2)
     −日米における証拠の相互利用の可能性−」


 舟橋 信((財)未来工学研究所 参与)

講演概要
日米におけるサイバー犯罪(コンピュータ関連犯罪)の歴史及び各時代における特徴的な事例と適用されたデジタル・フォレンジック技術について概観するとともに,技術的な側面から,法執行機関におけるデジタル・フォレンジックの位置付け,実施手順,論点,各種デジタル・フォレンジック・ツールとその評価状況を解説する.また,この分野の今後の課題等についても触れる.

略歴 警察庁情報管理課長,技術審議官を経て(財)未来工学研究所において情報セキュリティ等の研究に従事.平成8年度電子情報通信学会業績賞及び森田賞を受賞.最近の主な研究は,「国家安全保障の見地からのIT政策」日本戦略研究フォーラム(平成13年度),「サイバー戦に関する政策提言」日本戦略研究フォーラム(平成14年度),「主要各国における危機管理体制に関する調査研究」(財)未来工学研究所(平成15年度),「バイオ・ケミカル危機管理に関する研究」(財)未来工学研究所(平成16年度―17年度),「地域における健康危機発生時の関連機関の連携及び人員・物資の搬送等に関する研究」厚生労働省地域健康危機管理研究事業(平成17年度―19年度)など.

セッション4

14
:00-15:30

「内部統制とデジタル・フォレンジック」

  丸山 満彦 (監査法人トーマツ エンタープライズ リスク サービス 公認会計士)
 

講演概要
財務報告に係るに内部統制の評価及び監査の制度の導入が決まり,上場企業は適正な決算書等を作成するための内部統制を評価しなければならないこととなった.不正な会計処理が行われることにより誤った決算書等が公表されることになれば,法的な責任を問われる可能性が高い.また,不正な会計処理を行うことにより会社のお金を横領する可能性もある.現在,このような会計システムはITに依存しているため,このような不正の発見にはデジタル・フォレンジックの技術が活躍する余地がある.また,会計以外においても,コンプライアンスの観点からデジタルデータを利用した不正の発見等の重要性が高まっている.今回は,リスクマネジメントの要となる内部統制の動向とデジタル・フォレンジックについて概要を説明する.

略歴 監査法人トーマツ エンタープライズ リスクサービス, パートナー, 公認会計士. 1992年監査法人トーマツ入社.1998年から2000年までデロイトトゥシュに勤務.製造業グループ他米国企業のシステム監査を実施.帰国後,リスクマネジメント,コンプライアンス,社会的責任,情報セキュリティ,個人保護情報関連の監査及びコンサルティングを実施.経済産業省情報セキュリティ監査研究会,情報セキュリティ総合戦略策定委員会,個人情報保護法ガイドライン策定委員会,国土交通省自律移動支援プロジェクト推進委員会セキュリティーポリシー検討専門委員会,日本情報処理開発協会ISMS技術専門部会等の委員を歴任.内閣官房情報セキュリティセンター兼務.

セッション5

15
:30-16:00

「デジタル・フォレンジックの今後の動向」

  高橋 郁夫 (IT法律事務所 弁護士)

講演概要
デジタル・フォレンジックは,デジタル情報を証拠としての側面から分析するものであり,きわめて,検討範囲が広い概念である.今後は,ネットワークやソフトウエアの動作などについての着目がなされ,研究の対象が広がることが予想される.また,実際の情報漏えい事件などにおいて適切な証拠の確保や実態の調査などに利用されるのが一般となりつつある.デジタル・フォレンジックの今後の方向を研究対象の広がりや実際の活用などの観点からふれていくこととする.

略歴
弁護士/宇都宮大学大学院工学部講師.情報セキュリティ/電子商取引の法律問題を専門として研究する.論文として,「『通信の秘密』の数奇な運命(憲法)」(2006)情報ネットワーク・ローレビュー(第5巻)(吉田一雄助教授と共著).(財)社会安全研究財団 「アメリカにおけるハイテク犯罪捜査手続き手法に関する調査研究」研究会委員長(平成16年)などに関与.
セッション6

16:10-17:40

パネル討論 「J-SOX時代のデジタル・フォレンジック」
 

討論概要
J-SOX法や新会社法の誕生に見られるように,企業の内部統制や,説明責任の重要性が増大してきている.そのため,訴訟された場合にそなえ自らが正しく行動していたことを証明できるデジタル・フォレンジックの仕組みが必要になる.このパネルでは,従来のデジタル・フォレンジックとJ−SOX時代のデジタル・フォレンジックは何が違うのかを明確にした上で,すぐに,必要になる技術や企業としての対応方法を議論する.そして,フロアからの質問や意見を受けた上で,もっと先に向けて必要な証拠性保全技術やE-Discoveryなどの技術課題や,ビジネスのあり方,米国との証拠の相互利用のあり方,立法化などについて,情報処理技術者や,法律家,公認会計士などがそれぞれの立場から討議を行う.
 
司   会:佐々木 良一(東京電機大学 未来科学部情報メディア学科 教授) *写真,略歴はコーディネータ参照
パネリスト:上原 哲太郎(京都大学学術情報メディアセンター 准教授) *写真,略歴はセッション2参照
パネリスト:石井 徹哉(千葉大学法経学部 教授) *写真,略歴はセッション3参照
パネリスト:舟橋 信((財)未来工学研究所 参与) *写真,略歴はセッション3参照
パネリスト:丸山 満彦 (監査法人トーマツ エンタープライズ リスク サービス 公認会計士) *写真,略歴はセッション4参照
パネリスト:高橋 郁夫 (IT法律事務所 弁護士) *写真,略歴はセッション5参照