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最終更新日:2005年7月27日

学生会員諸君!IPSJ Digital Courierに挑戦しよう

 

益田 隆司(電気通信大学/学生会員育成委員会委員長)

 情報処理学会が担う分野は,学問的にも産業的にもきわめて重要です.長期の視点から,この分野を担う研究者,技術者の育成を図るには,若い人を学会に勧誘し,育成する姿勢が必要です.このことを達成することを目指して,今年度,学生会員育成委員会が新設されました.優秀な学生を数多く勧誘し,育成する道筋をつくることが委員会の任務です.学生会員には,研究会登録費を1研究会に限っては無料とすることを決定したのも,この方針に沿ったものです.単に学会誌を購読するだけの学生会員ではなく,自分の専門に最も近い研究会に能動的に参加していただき,自ら発表の機会を持っていただくと同時に,同じ分野で活動する研究者との交流を深めていただきたいと希望しています.研究会によっては,学生会員の数が100名を超える研究会,あるいは,学生会員向けの催しを実施する研究会も出てくるかと思います.まだこの特典の手続きをしていない学生会員の方がかなりの数います.ぜひ早い時期にご自分が専門とする研究会への登録を済ませてください.

 学生会員育成のためのもう1つの措置がとられることになりました.論文を英文で書くことをエンカレッジする策です.大学院後期課程になりますと,学位を取得するためにも,論文を投稿する機会が増えます.情報の分野では,情報処理学会が英文論文誌を持っていなかったこともあって,この分野の学生諸君は,国際会議には英文で投稿しても,ジャーナル論文は和文で書くことが多かったと思います.どんな学術論文にしても,論文というからには,国際的な視点からの何らかの新規性が要求されるはずです.和文論文は他国の研究者の目に触れる場を最初から提供していないことになります.

 物理,数学,生物といった理系の分野では,論文といえば英文で書くことが当然であって,和文論文は基本的には存在していないといってもいい過ぎではありません.こういった分野で最近深刻な問題となっているのは,日本人が書いた論文の多くが,日本の学術論文誌に投稿されずに,最初から海外の論文誌に投稿されてしまっているということです.昨年,日本工学会が主催して,「グローバルな情報発信機能の強化に向けて─日本発科学論文誌の強化─」の特別シンポジウムが開催されました.理工系分野で日本人が書いた英文論文の80パーセントが海外の論文誌に掲載されていることは,国として由々しき問題であるという議論がなされていました.日本からの情報発信力をどう高めるかは,国としての大きな課題になっています.

 残念ながら情報処理の分野は,まだこのレベルにまでも達していません.和文論文が圧倒的に多いからです.情報処理学会論文誌では,論文は和文でも英文でもいいことになっていますが,現実には,論文誌の中に占める論文の90パーセント以上は和文です.また,現在の和文英文混合の論文誌では,英文で書くことの価値がどれだけあるか疑問であることも確かです.こういった状況を改善して,独立した英文論文誌を持つことの可能性がここ何年ものあいだ,学会の大きな課題として検討が続けられてきました.その結果やっと今年になって英文オンラインジャーナルIPSJ Digital Courierが創刊されるに至りました.IPSJ Digital Courierを国際的にも認知される論文誌に育てることは,単に情報処理学会のためだけではなく,日本のこの分野の将来にとっても重要です.多くの論文がIPSJ Digital Courierに投稿されるようになることを願っています.中でも若い大学院学生諸君には,この機会に英文で論文を書く習慣を付けて欲しいと期待しています.

 英文論文投稿のエンカレッジ策の内容を申し上げます.今回,外部の組織ではありますが,船井情報科学振興財団から協力のお申し出をいただきました.IPSJ Digital Courierに採録になった論文の第一著者が学生会員の場合には,その第一著者を学生会員育成委員会が財団に推薦いたしますと,「IPSJ Digital Courier船井若手奨励賞」によって表彰していただけることになりました.副賞として,別刷り購入代金相当額(定額)がつきます.今年度は,20万円が予定されています.表彰は年度末に行われることになると思います.また,同じ年度に同一著者の複数の論文が採録になった場合の扱い等の詳細については,今後,学生会員育成委員会で検討いたします.この若手奨励賞の措置は,IPSJ Digital Courierを立ち上げるためのものでもあり,今年を含めて3年間に限って実施される予定です.ぜひIPSJ Digital Courierへの投稿を積極的にお考えいただきたくお願い申し上げる次第です.

情報処理,Vol.46, No.8 (Aug. 2005)より