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最終更新日:2003.11.28

平成13年度坂井記念特別賞の表彰

 

 本会では,平成4年度から元会長坂井利之先生(京大名誉教授)から寄贈された資金により坂井記念特別賞を設けております。

 本賞は,情報処理に関する基礎・理論,ハードウェア,ソフトウェア,アプリケーションなどの各分野の研究・開発に携わっている研究・開発者で,学術・技術の進歩に顕著な貢献が認められ,今後の進歩,発展が期待される39歳までの研究・開発者を対象としています。

 本年度の受賞者は「坂井記念特別賞候補者推薦書」により推薦された候補者12名から,表彰規程および坂井記念特別賞候補者選定手続に基づき,林副会長を委員長とする選定委員会において厳正な審査を行い,第473回理事会(平成14年3月)の承認を得て,下記の4君に決定されました。

 なお,本会表彰規程により,5月20日に開催された第44回通常総会において,受賞者に表彰状および賞金が授与されました。

 



小林 直樹

小林 直樹 君(正会員)

「並行プログラムの検証・解析のための型システムに関する研究」

 1968年生.1991年東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修士課程修了,同年博士課程進学.東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻助手を経て,1996年より同大学大学院理学系研究科情報科学専攻講師.2001年より東京工業大学大学院情報理工学研究科助教授.現在に至る.プログラミング言語の基礎理論,特に型システム,並行計算モデルなどの研究に従事.博士(理学).2001年IFIP TC2 Manfred Paul Award 受賞.

[推薦理由]
 小林直樹君は,並行プログラムの検証・解析のための型システムの発展に貢献した.メッセージパッシングに基づく一般的な並行計算モデルを対象とし,通信チャネルの使用法を表す型を導入することにより,デッドロックやライブロックの有無を解析することのできる,強力かつ実用的な型システムを構築した.さらに,この技術をJavaバイトコードによるロックの使用法の検証,逐次言語における計算資源の使用法の解析などにも応用できることを示した.これらの研究は世界的に高く評価され,海外の研究者による他の型システムの研究に大きな影響を与えた.今後のますますの活躍を期待する.

 

宮地 充子

宮地 充子 君(正会員)

「公開鍵暗号の効率性と安全性に関する研究」

 1990年松下電器産業(株)入社.1998年12月より,北陸先端科学技術大学大学院情報科学研究科・助教授として,情報セキュリティの研究・開発に従事.博士(理学).1993年SCIS93若手論文賞,1997年科学技術庁注目発明賞各受賞.2000年4月 より国際標準化機構の情報セキュリティ分野(ISO/IEC/ JTC 1/SC27)において,プロジェクトエディターを務める.2000年4月よ2001年3月まで大阪府立大学非常勤講師,2001年4月より筑波大学非常勤講師を務める.

[推薦理由]
 宮地充子君は,IT社会の進展に必須の研究分野である情報セキュリティ分野において,暗号理論からその応用まで幅広く研究を行い,特に,楕円曲線暗号とよばれる新世代の暗号分野において,先駆者として活躍してきた.楕円曲線暗号の効率に関する研究結果の一つは,汎用的な楕円べき演算に関する最高速のアルゴリズムであるとともに,ISO/IEC JTC1/SC27/WG2 により進められている楕円曲線暗号の標準化15946に掲載されている.さらに2000年4月より,ISO/IEC/ JTC1/SC27において,プロジェクトエディターを務めるなど国際貢献を行い,日本の国際的地位向上に務めてきた.またコンピュータセキュリティ研究運営委員会・運営委員やコンピュータセキュリティ技術に関する論文誌特集号の編集委員を平成12年度より務めるなど,情報処理学会におけるセキュリティ研究発展に積極的に貢献した.これらの活動は坂井記念特別賞に十分値する.

 

中村  宏

中村  宏 君(正会員)

「高性能プロセッサアーキテクチャに関する研究」

 昭和60年東京大学工学部電子工学科卒業.平成2年同大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了.工学博士.同年筑波大学電子・情報工学系助手.同講師,同助教授を経て,平成8年より東京大学先端科学技術研究センター助教授.高性能マイクロプロセッサのアーキテクチャ,ハイパフォーマンスコンピューティング,ディジタルシステムの上位レベル設計支援の研究に従事.本会平成5年度論文賞,平成6年度山下記念研究賞各受賞.電子情報通信学会,IEEE,ACM各会員。

[推薦理由]
 中村宏君は,計算機アーキテクチャの研究に従事しており,特に大規模科学技術計算の処理において問題となるメモリアーキテクチャの研究で高い評価を受けている.超並列計算機CP-PACSの開発では擬似ベクトル処理と呼ばれる新しいアーキテクチャを提案し,CP-PACSが完成当時に世界最高性能を達成したことでその有効性を実証した.その後も,再構成可能なソフトウェア可制御メモリとキャッシュメモリをプロセッサチップ上に搭載するSCIMAアーキテクチャなど,独創的な研究を行っており,今後の一層の活躍が期待される.

 

中村 裕一

中村 裕一 君(正会員)

「人物の行動を伝えるための知的な映像撮影と編集に関する研究」

 1963年生.1985年京都大学工学部卒,1990年京都大学大学院博士後期課程研究指導認定退学,1990年京都大学工学部助手,1993年筑波大学電子・情報工学系講師を経て,1999年より筑波大学機能工学系助教授.その間,1996年米国カーネギーメロン大学客員研究員,1998年〜2001年科学技術振興事業団さきがけ21「情報と知」領域研究員,2000年から国立情報学研究所情報メディア研究系客員助教授.博士(工学).画像処理,画像認識,映像メディアの解析・生成の研究に携わってきた.

[業績推薦理由]
 中村裕一君は,画像認識技術に軸足を置き,映像情報メディアの解析・生成の研究を先駆的かつ継続的に進めてきた.ニュース映像の自動解析において複数のモダリティを関係付ける手法とその意義を明らかにするとともに,人間の行動をマルチモーダルに記録・蓄積するシステムを構築し,その知見に基づいて,人物のプレゼンテーション行動を自動撮影して注目すべき要素を自動選択して伝えるオンライン処理が可能であることを実証した.映像コンテンツの自動取得や遠隔コミュニケーション手段などへの発展が見込まれ,今後の一層の活躍が期待される.