情報処理学会第84回全国大会 会期:2022年3月3日~3日 会場:愛媛大学 城北キャンパス

ヘルスケア情報の利活用に資する匿名加工技術の実現に向けて 〜 匿名加工コンテストPWS Cup 2021 〜

日時:3/4 9:30-11:30

会場:第1イベント会場

【セッション概要】国内外においてビッグデータ活用ニーズが急速に高まる中,データの効果的な活用とプライバシー保護を両立させる技術や規準の発展と確立が強く求められています.情報処理学会コンピュータセキュリティ研究会(CSEC研究会)はPWS組織委員会を立ち上げ,同学会セキュリティ心理学とトラスト研究会(SPT研究会)との共催でプライバシーワークショップ(PWS)を開催しております.本年度は,ヘルスケア情報の利活用に資する有効な匿名加工技術の確立を目指し,匿名化と再識別の両面を競うPWS Cup 2021を開催しました.本イベントでは,PWS Cup 2021の競技設計や競技結果をご紹介すると共に,ヘルスケアデータの利活用に関して,医療情報活用の有識者に講演と考察を頂きます.また,実用的な匿名加工技術の確立に向けた今後の展望や現状の課題について,パネル討論を開催します.

司会

髙橋 翼(LINE株式会社 Data Scienceセンター / AI開発室 シニアリサーチャー)

髙橋 翼

【略歴】2010年 筑波大学大学院システム情報工学研究科博士前期課程修了.同年日本電気株式会社入社.2014年 筑波大学大学院システム情報工学研究科博士後期課程修了.2015-2016年 Carnegie Mellon大学 Visiting Scientist.2018年12月より現職.2021年 日本データベース学会上林奨励賞を受賞.主にプライバシー保護型機械学習と信頼できるAIに関する研究開発に従事.博士(工学)

9:30-9:35 オープニング オープニング

寺田 雅之(株式会社NTTドコモ)

寺田 雅之

【略歴】1995 年神戸大学大学院工学研究科修士課程修了.同年日本電信電話(株)入社,2003 年(株)NTT ドコモへ転籍,博士(工学).情報セキュリティ技術,プライバシ保護技術,大規模データに基づく人口推計技術および社会予測技術の研究開発に従事.DICOMO2014最優秀論文賞,2015年度論文賞,2015年度山下記念研究賞,2019年度業績賞受賞.2021年度プライバシーワークショップ(PWS)実行委員長.

9:35-9:55 講演(1) PWS Cup 2021の競技設計と振り返り

菊池 浩明(明治大学 総合数理学部 専任教授)

菊池 浩明

【講演概要】健康診断やウェアラブルデバイスから取得したヘルスケアデータと生活習慣病の関係を明らかにして,疾病予測や生活改善,健康施策づくりなどに活用するために,各種分析の精度を劣化させない最適な匿名化をすることが求められている.そこで,米国疾病対策予防センター CDC が収集した米国国民健康栄養調査(National Health and Nutrition Examination Survey: NHANES)デー タを用いて,年齢,学歴,BMI,運動量などの説明変数に対する糖尿病の罹患リスクを正しく評価するための匿名化技術と再識別リスクを探求するコンテストPWS Cup 2021を企画した.2021年度の競技結果を報告する.

【略歴】1990年明治大学院博士前期課程修了.1994年同博士(工学).
(株)富士通研究所,東海大学情報通信学部を経て,
2013年より明治大学総合数理学部専任教授.
国立研究開発法人理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員.

9:55-10:10 講演(2) 匿名化/再識別アルゴリズム解説

山月 達太(大阪大学 工学部電子情報工学科宮地研究室 学生)

山月 達太

【講演概要】PWS cup 2021の匿名化フェーズではオッズ比が匿名加工で大きく変わりやすく,オッズ比についての有用性の基準の達成が難しい.一方攻撃フェーズにおいては,各チームの匿名化方法が公開されておらず他チームの匿名化方法から推測する必要がある.
そこで,我々のチームでは匿名化フェーズでは,有用性指標を損なわずに個人の推定がされづらくなる方法として,レコード入れ替えを中心に実施した.一方,攻撃フェーズでは,レコード入れ替えが有力な匿名化方法と推定し,レコード入れ替えに対して有効な攻撃を行った.
私たちが行ったPWS cup 2021の条件に合致する匿名化手法と攻撃手法を紹介する.

【略歴】2018年 大阪大学工学部電子情報工学科入学
2020年 宮地研究室に配属

10:10-10:20 講演(3) 匿名化アルゴリズム解説

玉井 睦(セコム株式会社 IS研究所 研究員)

玉井 睦

【講演概要】PWSCup2021では,糖尿病に罹患するリスクを予想する研究のために,健康診断結果や医師の診断結果を含むヘルスケアデータを匿名化して提供するというストーリーのもとルールが設定された.匿名化部門では,匿名化したデータから糖尿病罹患リスクを算出できる有用性を残しながら,特定の受診者が匿名化データに含まれていることを推定できない,さらにはその受診者を再識別できないように加工することが求められた.ヘルスケアデータには過度に肥満度が高い等,特異なデータを記録している受診者のデータも混ざっており,このような特異なデータの削除も論点となった.我々のチームは匿名化部門で優勝することができた.PWSCup2021の匿名化部門優勝チームを代表して,コンテストで用いた手法をご紹介する.

【略歴】2008年セコム入社.IS研究所でパーソナルデータ利活用とプライバシー保護の研究を行う.2017年セコムトラストシステムズに出向し,基幹システムのデータベース設計に従事.2019年IS研究所に戻り現在に至る.PWSCupには2015年の第1回から参加し,出向中の2018年を除き毎年参加している.PWS実行委員(2019~),JEITA スマートホームIoTデータプライバシー検討タスクフォース幹事メンバー(2021~).

10:20-10:30 講演(4) 再識別アルゴリズム解説

濱田 浩気(日本電信電話株式会社 NTT社会情報研究所)

濱田 浩気

【講演概要】PWS Cup 2021 の攻撃フェーズでは匿名化されたデータの再識別リスクの評価のため,各チームは他のチームが匿名化したデータに対して,どのレコードが加工に使われたのか,使われたのなら加工後のデータのどのレコードに該当するのか,の推測を行う.本発表では,我々が PWS Cup 2021 の攻撃フェーズで使用し,再識別部門で優勝した再識別アルゴリズムを紹介する.

【略歴】2009年京都大学大学院情報学研究科修士課程修了.同年,日本電信電話株式会社入社.以来,NTTセキュアプラットフォーム研究所にてプライバシ保護技術,暗号応用技術の研究に従事.2011年電子情報通信学会暗号と情報セキュリティシンポジウム論文賞,2013年度情報処理学会山下記念研究賞,情報処理学会コンピュータセキュリティシンポジウム2014優秀論文賞等,各受賞.

10:30-10:50 講演(5) 医療情報活用にむけたデータ合成と匿名化への考察

木村 映善(愛媛大学 医学部医療情報学講座 教授)

木村 映善

【講演概要】健康増進に寄与するために医療分野のリアルワールドデータの分析に期待がかかっている.医療情報は機微な情報を多分に含むため,特定の個人を識別する可能性を排除してデータを安全に提供しつつもデータの品質を維持するという匿名化手法の模索は重要なテーマである.しかし,このトレードオフの検討にかかる労力が迅速な臨床研究のボトルネックになっている.一方,結果論として同等の解析結果が得られればよいとして,機械学習的手法等を用いて合成データを生成する手法についても注目が集まりつつある.医療分野における匿名化,合成データの動向を紹介し,今後の匿名加工に関わる研究の方向性を議論したい.

【略歴】1999年 北海道大学医学部卒 2003年 愛媛大学医学部大学院修了,愛媛大学医学部医療情報部助手 2006年 愛媛大学大学院医学系研究科医療情報学講座 准教授 2018年 国立保健医療科学院 保健医療情報管理分野 統括研究官 2020年 愛媛大学大学院医学系研究科医療情報学講座 教授 現職 内閣府健康・医療戦略推進事務局 政策参与 兼務

10:50-11:10 講演(6) 医療情報における匿名加工技術の商業的ニーズと課題

足立 昌聰(株式会社JMDC 執行役員・最高データ保護責任者)

足立 昌聰

【講演概要】株式会社JMDCでは,医療費・調剤レセプトや健診情報などの医療情報を匿名加工又は統計化し,学術研究のみならず,創薬などの商業的な利活用を通じた持続可能なヘルスケアシステムの実現を目指しています.昨今は,パーソナライズされた医療の提供の必要性が叫ばれる一方で,データ保護に関する規制の厳格化・複雑化も進んでいる中で,医療情報の利活用を推進する上では,匿名性を確保しつつ,いかに合目的に情報量を損ねないでいられるかが重要となっており,匿名加工技術はその中でも重要な地位を占めています.本セッションでは,プロセスベース・ルールベースのアプローチと対比しながら,目下の医療情報の匿名加工情報の商業的ニーズにおける課題について議論したいと思います.

【略歴】東京大学工学部システム創成学科卒業,同大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了(専門職博士(法務)).司法修習終了後,外国法共同事業ジョーンズ・デイ法律事務所,特許庁,LINE株式会社を経て現職.インハウスハブ東京法律事務所代表パートナー.
弁護士,弁理士,情報処理安全確保支援士.MCPC IoTプロフェッショナル.

11:10-11:30 パネル討論