情報処理学会第84回全国大会 会期:2022年3月3日~3日 会場:愛媛大学 城北キャンパス

知能と計算とアーキテクチャの新しい関係を目指して

日時:3/4 12:40-15:10

会場:第1イベント会場

【セッション概要】現在のAI技術をより賢く進化させ,より低エネルギーで実現し,将来の超スマート社会を支える「知能コンピューティング」へと発展させていくためには,ソフトウェア技術だけではなく基盤となるハードウェアやそのアーキテクチャの大きな進化が欠かせない.本セッションでは,知能コンピューティングを加速する自己学習型・革新的アーキテクチャ基盤技術の創出に取り組む研究者が,最新の研究成果の紹介と共に,今後の展望を議論する.

12:40-12:45 司会

袖 美樹子(国際高等専門学校)

袖 美樹子

【略歴】日本電気(株)在籍中ACOS,地球環境シミュレータ等のスーパーコンピュータの開発に従事.ルネサスエレクトロニクス(株)移籍後,R-CARなどの自動車向けLSIの開発に従事.現在,バス停など身近なものをIoT化しエッジコンピューティングにより見守りなどの生活基盤として活用する研究に従事.工学博士(早稲田大学).情報処理学会,アジア交通学会,IEEE,電子情報通信学会等会員.

12:45-13:10 講演(1) 知能コンピューティングを加速するアーキテクチャ基盤技術

本村 真人(東京工業大学 AIコンピューティング研究ユニット 教授)

本村 真人

【講演概要】計算機に求められる中心的な処理は,人間がより知的な作業に集中できるように補完したり,人間のより良い判断を助けたりする「知能コンピューティング」へと急速に変貌しつつある.これに呼応する計算機のアーキテクチャ技術は,従来通りの正常進化で良いのか,それともその処理の特質をうまく生かして,より高度な,より効率が良い処理の実現に向けて変化すべきなのか.この問いは現代の計算機における中心的な課題であると同時に,この課題に対し,我々は情報処理能力の爆発的な発展を60年以上にわたって支えてきたムーアの法則の減退という苦しい状況の中で答えを出さねばならない.本講演では,以上のような問題意識を背景に,逆に「アーキテクチャの黄金時代」とも評されるほどの活況を呈する現在の知能コンピューティング向けハードウェア基盤技術研究のムーブメントを俯瞰し,今後の技術発展を展望する.

【略歴】87年京都大学修士(物理学),96年同博士(工学).87年よりNECにてリコンフィギュラブルハードウェア,オンチップマルチプロセッサ等の研究開発に従事.92年MIT客員研究員.11年より北海道大学教授.19年より東工大教授.人工知能処理アーキテクチャの研究などに従事.92年IEEE JSSC Best Paper Award,99年情処年間最優秀論文,11年信学会業績賞,18年ISSCC Silkroad Awardを各受賞.IEEE Fellow.

13:10-13:40 講演(2) 確率的コンピューティングの再発掘:AI推論・学習演算への適用とそのアーキテクチャ

浅井 哲也(北海道大学 大学院情報科学研究院 教授)

浅井 哲也

【講演概要】確率的コンピューティング(SC: Stochastic Computing)は演算の精度と引き換えに少数の論理ゲートで様々な演算を可能とする演算手法である. 本講演ではSCに基づいた「学習機能を持つエッジ向けAI集積回路の構成方法」を紹介する. 具体的には,(1)面積効率が高く順方向演算の途中でデコードを行う必要のない活性化関数を実現する論理回路,(2)SCでは難しいとされていた減算に相当する演算として,神経回路のシナプス伝達における「短絡抑制」にヒントを得た演算手法,(3)これまでSCでは活用されることのなかった不完全加算を逆に活用した総和演算回路(上記(1)の活性化関数の利用を前提),の三つの技術を説明し,それらを駆使して構成された多層パーセプトロンのディジタル回路・アーキテクチャ,およびその基本性能とポテンシャルを示す.

【略歴】1999年豊橋技術科学大学大学院工学研究科 博士課程終了. 同年北海道大学大学院工学研究科助手,2002年同研究科助教授,2004年同大学情報研究科助教授/准教授を経て,2016年より海道大学大学院情報科学研究科教授. 2004年〜2009年University of the West of England(英国)コンピュータ工学数理サイエンス学科客員教授. 2006年〜2015年JEITA STRJ,ITRS委員として,新探求デバイス・アーキテクチャのロードマップ作成に従事. 2017年よりIRDS,SDRJ SA委員. 主に低電力プロセッサ,脳型集積回路,新探求素子のための非ノイマンアーキテクチャ等の研究に従事,現在に至る. IEEE,電子情報通信学会,応用物理学会,日本神経回路学会,信号処理学会,人工知能学会,エレクトロニクス実装学会会員. 博士(工学).

13:40-14:10 講演(3) 画像解像度を考慮したHW向け機械学習システム・アーキテクチャ

池辺 将之(北海道大学 量子集積エレクトロニクス研究センター 教授)

池辺 将之

【講演概要】イメージセンサの性能向上が進み,その出力表現も研究がされてきた.その中で,画素毎に輝度を適切に割り当てる技術(Tone Mapping)やノイズ除去は重要であり,通常の画像補正のみならず,監視,車載,医療など幅広い応用が可能である.近年,深層畳み込みニューラルネットワーク(DCNN:Deep Cellular Neural Network)を活用したTone Mapping技術とノイズ除去技術も多く提案されている.そこでは画像解像度の扱いが処理の効率化に強く関わっている.本講演はTone Mapping技術とノイズ除去技術と処理解像度の関係と知的処理の今後の展開についても述べる.

【略歴】2000年,北海道大学大学院電子情報工学専攻博士課程修了.
2000年,大日本印刷株式会社半導体製品研究所.
2004年,北海道大学大学院 情報科学研究科 准教授.
2018年,北海道大学量子集積エレクトロニクス研究センター 教授
2021年,北海道大学病院 次世代遠隔医療システム開発センター 副センター長兼任
イメージセンサ・高速画像処理(AIアルゴリズム・ソフト/ハードウェア)の研究とともに,センシング情報とその表現についての研究開発に従事.博士(工学).

14:10-14:40 講演(4) 機械学習に適したハードウェア,ハードウェアに適した機械学習アルゴリズム

高前田 伸也(東京大学 大学院情報理工学系研究科 准教授)

高前田 伸也

【講演概要】機械学習,特にディープラーニングの普及により,コンピュータアーキテクチャ界隈においても機械学習の研究が盛んに行われるようになってきた.優れたディープラーニングのモデルの学習には高い計算能力が求められるため,ディープラーニングに適したコンピュータシステムの開発が重要である.また,データ生成源の近くで反射神経的に処理を行うエッジコンピューティングおよびエッジAIでは,少ないエネルギーで動作するAIハードウェアが求められている.本講演では,機械学習に適したコンピュータアーキテクチャ,特にハードウェアと,ハードウェアの効率を意識した機械学習アルゴリズムの協調による,優れたAIシステムの実現方法に関する研究成果を紹介する.

【略歴】2014年東京工業大学大学院情報理工学研究科博士課程修了.博士(工学).2011年から2014年まで日本学術振興会特別研究員.2014年から2016年まで奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科助教.2016年から2019年まで北海道大学大学院情報科学研究科准教授.2019年から東京大学大学院情報理工学系研究科准教授.2018年10月からJSTさきがけ研究者.コンピュータアーキテクチャ,ハードウェア高位設計技術,機械学習高速処理に関する研究に従事.

14:40-15:10 講演(5) データ再利用性を考慮した高効率CNN推論アーキテクチャ

劉 載勲(東京工業大学 AIコンピューティング研究ユニット 准教授)

劉 載勲

【講演概要】知能コンピューティングにおいて深層ニューラルネットワークは既存機械学習アルゴリズムを凌駕する知的処理性能を示し,一部のタスクにおいては既に人間以上のレベルに達しているとも言われている.しかし,従来のコンピュータアーキテクチャにおいて演算処理を制御するSWとそれを実行するHW基盤で比較的明確な区切りが存在するのとは対照的に,ニューラルネットワークでは構造そのものがSWとHW両方の役割を担うため,新たな発想に基づく処理基盤の設計が求められている.本講演では,ニューラルネットワークにおけるデータ再利用性とランダム性に注目したCNNの最新アルゴリズムとアーキテクチャを通して,知能コンピューティング処理基盤における要求と,今後のニューラルネットワークアーキテクチャにおける技術展開を展望する.

【略歴】京大電気電子工学科2005年卒業,同大学情報学研究科2007年修了,阪大情報科学研究科2013年博士.2013年より阪大情報科学研究科助教を経て,2019年10月より東工大科学技術創成研究院准教授.