本稿では，マルチエージェントシミュレーション（MAS）を用いた群衆制御施策の評価のための，制御内容に対する違反行動を考慮した行動選択モデルについて提案し，シミュレーションによってその効果を確認する。近年，運用施策の効果を検証するためにMASが用いられている。一方で，現実の群衆は必ずしも運用施策の制御に従わない。MASを用いたリスク分析を行う上では，群衆が状況次第で制御に従わない可能性を検討し，潜在的リスクを発掘することが望ましい。提案モデルを用いたシミュレーションを実施した結果，違反行動が選ばれ得る際に生じるリスクの存在が示唆され，運用施策の評価をする上で，違反行動を考慮する必要性が明らかになった。