情報処理学会 第81回全国大会 会期:2019年3月14日~16日 会場:福岡大学 七隈キャンパス 情報処理学会 第81回全国大会 会期:2019年3月14日~16日 会場:福岡大学 七隈キャンパス
生命科学関連領域におけるビッグデータとデータ分析の事例
日時:3月16日(土)9:30-12:00
会場:第4イベント会場(A棟 A203)
【セッション概要】本セッションでは生命科学関連領域に関するビッグデータとデータ分析について,情報処理学会「ビッグデータ研究グループ」や関連の研究者の行なっている事例について紹介します.数年前にはバズワードと思われた「ビッグデータ」は,「IoT」や「AI」などとともにその適用範囲がますます拡大し,データ分析やデータサイエンスに対する注目とニーズはますます広がっています.ウェブ解析やビジネス,製造業のみならず,少子高齢化における医療や,気候変動や人手不足にあえぐ農業,科学的な解析に基づいたスポーツの分析など生命科学に関連する領域においてもその利活用が進んでいます.これらの分野のデータはマルチモーダルで多次元であるものが多く,そのデータ分析においては,複雑なデータの組み合わせや特徴量の選択に注意を払うことも必要です.今回は,これら各事例を紹介し,その広がりと今後の展開について議論します.
司会:石井 一夫 (久留米大学 バイオ統計センター 准教授)
【略歴】1995年徳島大学大学院医学研究科博士課程修了後,1997年東京大学医科学研究所,1998年理化学研究所ゲノム科学総合研究センター,2001年フランス国立遺伝子多型解析センターCNG,2010年米国ノースウエスタン大学FeinBerg医学部,2011年東京農工大学などで,ゲノムデータ解析研究を行う.2017年6月より現職.医療ビッグデータ,医療ゲノムデータ,医療IoTデータなど,生命科学関連のビッグデータ分析の教育研究を実施している.
9:30-10:00 講演(1) リアルワールドデータによるビッグデータ分析とその事例
石井 一夫 (久留米大学 バイオ統計センター 准教授)
【講演概要】大学病院などの医療機関では,医療行為によって生じる電子レセプトやDPC(包括医療費支払い制度)データなどの診療電子ドキュメントや,医療ゲノム解析データ,画像診断などの医療IoTデータなど多種多様なデータが産生されている,これらのデータを有効活用し臨床現場に還元することにより,医療経営合理化,患者のQOL(Quolity of Life)の促進,地域医療や遠隔地医療の活性化,個別化医療などのプレシジョンメディシンの促進,ドラッグラグの解消などの創薬の促進など,様々な波及効果が期待される.講演者らは,これらの様々な種類の医療ビッグデータを受け入れ,ビッグデータ分析を実施している.特に,診療電子ドキュメントなどのリアルワールドデータを用いたビッグデータ分析を実施し,非常に詳細な薬剤の副作用や並存疾患の解析を行う方法を確立している.今回は,講演者らの解析事例について,特にそのシステムや方法論について紹介し,リアルワールドデータを用いたデータ分析の可能性について議論したい.
【略歴】1995年徳島大学大学院医学研究科博士課程修了後,1997年東京大学医科学研究所,1998年理化学研究所ゲノム科学総合研究センター,2001年フランス国立遺伝子多型解析センターCNG,2010年米国ノースウエスタン大学FeinBerg医学部,2011年東京農工大学などで,ゲノムデータ解析研究を行う.2017年6月より現職.医療ビッグデータ,医療ゲノムデータ,医療IoTデータなど,生命科学関連のビッグデータ分析の教育研究を実施している.
 
10:00-10:30 講演(2) 多種脳画像データセットを統合解析するための成分法
川口 淳 (佐賀大学 医学部 地域医療科学教育研究センター)
【講演概要】近年の医学ビッグデータ解析は,これまで個々に解析されていた複数のデータセットを統合的に解析することによって,疾患の特徴づけなどを多側面から同時に行っている.脳画像解析においても異なる測定法から得られた画像を用いて,脳の形態や機能などの多側面からの多様な脳病態が評価される.その一方,より大規模なビッグデータになるので,統計解析の実現可能性の担保,計算効率化や結果の解釈を容易にさせることを念頭に置いた解析項目(変数)の削減(次元縮約)が必要となる.本発表では主成分分析のような変数結合により新たな変数(成分)を得る成分法を用いた多種脳画像の統合解析法を紹介する.
【略歴】2004年 九州大学大学院数理学府博士課程修了.数理学博士.同年 久留米大学バイオ統計センター ポストドクトラルフェロー,2006年 Department of Biostatistics University of North Carolina at Chapel Hill 研究員,2008年 久留米大学バイオ統計センター 講師,2013年 京都大学医学部附属病院臨床研究総合センターデータサイエンス部准教授 を経て,現在,佐賀大学医学部教授.専門:生物統計学,脳画像解析.
 
10:30-11:00 講演(3) 多相的な生命科学情報を用いた遺伝子発現量解析
森本 心平 (長崎大学生命医科学域 助教)
【講演概要】1つの遺伝子について, mRNA の転写とアミノ酸配列への翻訳は別々の生命現象により制御されており,それらの制御の特徴は,両者の発現量変化の経時的な関係性として現れると考えられる.また,その関係性は,両者間の時間差を含むことが考えられる.従って,遺伝子発現量の変化を伴う生命現象の解明には,両者の時点を超えた関係性を,遺伝子ごとに捉えることが重要である.さらに,そこから得られた情報を,代謝パスウェイ,タンパク局在などの情報と統合することで,細胞の生命現象についての,時空間的な新たな側面が示唆されると考えられる.本発表では,演者が提案した遺伝子ごとに mRNA とタンパク質の経時変化の関係性を定量化する方法を紹介する.本手法を用いた事例として,出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)の高浸透圧ストレスに対する遺伝子発現変化のゲノムワイドデータ解析を紹介する.
【略歴】2008年,福岡大学 薬学部卒業(医薬品物理化学教室).その後1年間,久留米大学 分子生命科学研究所にて,遺伝学を基礎とした分子生物学研究にふれる.2010-2012年,福岡市薬剤師会薬局.2013年,修士(久留米大学バイオ統計センター).2013-2018年,(株)IBERICAにて臨床試験の統計解析に従事.2018年2月より現職.2019年,博士(久留米大学バイオ統計センター)見込.
 
11:00-11:30 講演(4) 農業における多次元データの利活用 -クルミ栽培支援を題材として,その期待と実情-
杉原 敏昭 (東京農工大学 大学院農学研究院澁澤研究室)
【講演概要】近年,農学分野においては,精密農業(Precision Agriculture)に代表されるデータに基づく農作物の栽培支援技術の研究開発と農業現場への応用がなされるようになってきた.ここでは,各種のセンサ計測技術とICTを利用したデータの処理および利用技術が,その基盤となっている.また,取り扱われるデータは,種々の農作物生体データ,農作物の生長や生殖に影響を与える環境データ,農作業を行うヒトの行動やスキルに関わる情報,長期間に渡る育種のゲノム関連情報など,非常に多種多様で広範な範囲におよぶものを対象としている.このような多種多様でありタイムスケールも一様ではないような多次元のデータ,あるいは,ヒトのスキルのような質的データをも含めた情報,データを効率的に利活用するには,どのような視点,課題設定が必要であるかを,現在,実施しているクルミ栽培支援技術の開発事例を題材に具体的に論じ,農学における多次元データ利活用の現状と,農学からのセンシング,知識処理とUI/UX,データ工学などの工学分野に対する期待と希望を述べる.
【略歴】1986年筑波大学大学院修士課程理工学研究科修了,Schlumberger,RICOH,ATRにて油田検層,知的システム,ヒューマンインタフェース,VRなどの研究開発に従事,2002年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程期間短縮修了,博士(工学).2012年桐蔭横浜大学医用工学部研究員,2014年東京農工大学大学院農学研究院産学官連携研究員,植物生理評価他の研究に従事,現在に至る.計測自動制御学会,電子情報通信学会,農業情報学会各会員.
 
11:30-12:00 講演(5) ビッグデータで勝機を見いだす!スポーツデータ分析
谷岡 広樹 (徳島大学 情報センター/大学院理工学研究部 助教)
【講演概要】MLBを舞台にしたマネーボール,欧州を主戦場としたサッカービジネス,W杯やオリンピックといったスポーツ現場では,巨大な産業と経済構造が構成されている.こうしたスポーツの現場では,勝敗自体がチームの収益に影響を与えることとなるため,優れた選手の獲得や育成が不可欠である.かつては人間の経験やカンに基づいたトレーニングや戦術が採用されたが,IT/IoT技術の発達に伴い,実際の競技データを安価に収集することが可能になりつつある.本講演では,このようにして集められたバイタルデータやスポーツデータが,AIや統計を用いてどのように現場で利用されているのか,今後どのように活用されるかについて,具体的な事例を交えて紹介する.
【略歴】1997年千葉大学工学部電気電子工学科卒業.2008年信州大学大学院総合工学系研究科博士後期課程修了.1997年より国内IT企業でソフトウェアエンジニア,研究開発マネージャーを経て,2016年より現職.情報検索,機械学習,自然言語処理等が専門.対話システム,スポーツデータ,医療情報等,情報検索や機械学習を応用した研究開発に従事.情報処理学会,人工知能学会,言語処理学会,日本医療情報学会,教育システム情報学会,IEEE,ACM各会員.