情報処理学会 第80回全国大会 会期:2018年3月13日~15日 会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス 情報処理学会 第80回全国大会 会期:2018年3月13日~15日 会場:早稲田大学 西早稲田キャンパス
計算社会科学の可能性
日時:3月14日(水)9:30-12:00
会場:第5イベント会場(56号館 102)
【セッション概要】社会活動そのものをシミュレーションの対称とする計算社会科学は,ビッグデータやオープンデータの利用拡大や計算機の能力向上の流れを受け,実用的なフェーズへ突入しつつある.複雑化する社会システムや持続可能な社会構築のためには,社会のデザインに工学的手法を持ち込むことが必須であり,計算社会科学はその一端を担うものである.本企画では,この分野の代表的な研究者の講演を中心に,何が可能になりつつあり,どういう応用が期待できるか,どのような課題があるかについて,議論を進めていく.
司会:野田 五十樹 (産業技術総合研究所 人工知能研究センター 総括研究主幹)
【略歴】1992年,京都大学大学院工学研究科修了,通商産業省工業技術院 電子技術総合研究所に入所,神経回路網・マルチエージェントシステムの研究に従事.RoboCupの創立メンバーとして,シミュレーションリーグの立ち上げを行う.改組を経て,現在,国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究センター総括研究主幹.NEC-産総研人工知能連携研究室 副室長を兼務.博士(工学).マルチエージェント社会シミュレーション,機械学習,減災情報システムの研究に従事.1999年,Stanford大学客員研究員.2003年,内閣府総合科学技術会議事務局参事官補佐を兼務.北陸先端科学技術大学院大学,筑波大学,東京工業大学で連携大学院教授に従事.RoboCup Federation Previous President.人工知能学会副会長,ロボカップ日本委員会・防災推進機構 理事.情報処理学会,電子情報通信学会会員.(株)未来シェア取締役.
9:30-9:55 講演(1) マクロ経済シミュレーション
藤原 義久 (兵庫県立大学 大学院シミュレーション学研究科 教授)
【講演概要】マクロな経済現象を生み出すミクロかつ大規模なデータが蓄積されて利用可能になっている.中でもくり返し見られる「少数の巨人と多数の小人」「小さな揺らぎが大規模な変動をもたらす」といった異質性(heterogeneity)と相互作用(network)についての実証的なデータが新しい知見をもたらしつつある.ポスト京萌芽的課題『多層マルチ時空間スケール社会・経済シミュレーション技術の研究・開発』サブ課題『マクロ経済シミュレーション』の中で京コンピュータなどのHPCを利用したものとして,経済ストレス伝播のシミュレーション,生産ネットワークの階層的コミュニティ構造,震災のサプライチェーンへの影響などの研究成果について紹介する.
【略歴】1992年東京工業大学大学院理工学研究科博士後期課程修了,理学博士.学位取得後,日本学術振興会特別研究員,科学技術庁特別研究員,University of California Santa Barbara短期滞在,京都大学非常勤講師などを経て,2000年情報通信研究機構主任研究員.2002年(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)主任研究員.2011年兵庫県立大学大学院シミュレーション学研究科教授.
 
9:55-10:20 講演(2) 企業ネットワークシミュレーション
高安 美佐子 (東京工業大学 科学技術創成研究院 教授)
【講演概要】日本国内には100万を超える数の企業があり,それらはお互いに複雑に連携し,競合しながら経済活動を行っている.本講演では,まず,帝国データバンク社がひとつひとつの企業を調査して調べ上げた網羅的な企業間の取引関係のネットワークデータを解析して得られた経験則を確認し,次に,それに基づいて構築した100万社の取引関係ネットワーク上のお金の流れをシミュレートする手法を解説する.この方法は,政府が地域経済の活性化のためのプラットフォームとして提供しているRESASにおいてお金の流れを算出する基盤となっている.施策の妥当性をシミュレーションによってチェックするという新しい科学的な政策立案が現実となってきた.
【略歴】名古屋大学理学部物理学科卒,神戸大学大学院自然科学研究科修了,博士(理学).慶應義塾大学理工学部助手,公立はこだて未来大学助教授を経て,東京工業大学科学技術創成研究院,ビッグデータ数理科学研究ユニットリーダー,教授.日本学術会議連携会員(物理学・情報学),文部科学省・情報科学技術委員.
 
10:20-10:45 講演(3) 高頻度・大規模な金融市場シミュレーション
和泉 潔 (東京大学 大学院工学系研究科 教授)
【講演概要】本研究ではポートフォリオ最適化を行うエージェントを用いて,自己資本比率規制に基づく市場リスク管理が単一及び複数資産を扱う連続ダブルオークション市場に与える影響を分析した.得られた結果は以下の通りである.自己資本比率規制に基づく市場リスク管理を行う市場参加者数の増加は複数財の市場を不安定化させる.分散投資の増加は自己資本比率規制に基づく市場リスク管理が持つ市場への不安定化効果を緩和する.さらに,銀行間ネットワークと連成させた金融システム全体の安定性に関するシミュレーションについても紹介する.
【略歴】1970年生.1993年東京大学教養学部基礎科学科第二卒業.1998年同大学院総合文化研究科広域学専攻博士課程修了.博士(学術).同年より2010年まで,電子技術総合研究所(現産業技術総合研究所)勤務.2010年より東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻准教授.2015年より同教授.マルチエージェントシミュレーション,特に社会シミュレーションに興味がある.
 
10:45-11:10 講演(4) 人流シミュレーションの応用手法と可能性
野田 五十樹 (産業技術総合研究所 人工知能研究センター 総括研究主幹)
【講演概要】人流シミュレーションを実際の実問題に適応していく場合の課題と,人工知能やHPCによるそれらへの取り組みについて紹介する.災害時の避難や大規模イベント動線管理,街作りなどに対し,人流シミュレーションは様々な支援を行える可能性がある.また,ビッグデータやIoTにより人々の振る舞いを明らかにできるデータソースも揃いつつある.一方で,人という,まだ未知の部分の多い要素を多数取り込む人流のシミュレーションは実問題への適応で気をつける必要がある.これに対し,網羅的シミュレーションなどを活用した事例を紹介し,HPCや各種知的探索手法の適用可能性を探る.
【略歴】1992年,京都大学大学院工学研究科修了,通商産業省工業技術院 電子技術総合研究所に入所,神経回路網・マルチエージェントシステムの研究に従事.RoboCupの創立メンバーとして,シミュレーションリーグの立ち上げを行う.改組を経て,現在,国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究センター総括研究主幹.NEC-産総研人工知能連携研究室 副室長を兼務.博士(工学).マルチエージェント社会シミュレーション,機械学習,減災情報システムの研究に従事.1999年,Stanford大学客員研究員.2003年,内閣府総合科学技術会議事務局参事官補佐を兼務.北陸先端科学技術大学院大学,筑波大学,東京工業大学で連携大学院教授に従事.RoboCup Federation Previous President.人工知能学会副会長,ロボカップ日本委員会・防災推進機構 理事.情報処理学会,電子情報通信学会会員.(株)未来シェア取締役.
 
11:10-11:35 講演(5) 自動車交通シミュレーションとその応用
伊藤 伸泰 (東京大学大学院工学系研究科)
【講演概要】グローバルな現代社会において交通は根幹であり,効率的かつ安全で円滑な移動・輸送は不可欠である.種々の交通インフラの中で特に課題が多いのが,自動車交通である.道路ネットワークの整備や交通規則などを考える際,考慮すべき評価軸が多数あり,それらの最適値は互いに相いれないことが多い.さらに現在,これまでの内燃機関に加えて電動の自動車も増加しつつあり,また運転補助システムもカーナビから自動運転まで多様化しつつある.このため,自動車交通についての課題は複雑な様相を呈している.こうした現状の改善にシミュレーションを活用する可能性を議論したい.
【略歴】1991年3月東京大学大学院理学系研究科物理学専攻博士課程修了,理学博士.同4月日本原子力研究所東海研究所情報システムセンター研究員.ケルン大学理論物理学研究所・ユーリヒ研究センター計算センター客員研究員も歴任後,東京大学工学部に着任.現在,大学院工学系研究科・准教授.2012年10月より理化学研究所計算科学研究機構離散事象シミュレーション研究チーム・チームリーダーを兼務.
 
11:35-12:00 講演(6) 近似ベイズ計算に基づく大規模シミュレーションモデルの推定と評価
上東 貴志 (神戸大学 経済経営研究所 所長・教授)
【講演概要】マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)は,シミュレーション可能なモデルを評価する代表的な手法の1つであるが,パラメータとデータの同時分布(尤度関数)が計算できない場合には使うことができない.一方,近似ベイズ計算は,同時分布が分からなくてもシミュレーションさえできれば理論上は応用可能であるが,膨大な計算を必要とする.本講演では,MCMCと近似ベイズ計算の関係を簡潔に説明し,近似ベイズ計算に関する今後の課題と期待される成果を述べる.
【略歴】1994年 Ph.D. in Economics, University of Wisconsin at Madison.1994年〜2003年 State University of New York at Stony Brook, Assistant Professor(〜2000),Associate Professor(2000〜2003).2000年〜現在 神戸大学経済経営研究所,准教授(〜2003),教授(2003〜),経済経営研究所長(2014〜).