ITを活用したサービスを提供しようと思っても、「プライバシーが」という一言で断念してしまった経験はありませんか?本セミナーでは、プライバシーの概念に正面から向き合い、具体的に何が問題とされているのか、どのような手段を採用すればユーザにプライバシーフレンドリーなサービスが提供できるのかについて議論を深めます。
プログラム
【略歴】電子投票、電子入札、電子抽選、匿名認証など、セキュリティとプライバシを両立させ、公平性を保証する暗号プロトコルの開発研究に従事。Asiacrypt 2012,2013, RSA conference 暗号トラック2016, Financial Cryptography and Data Security 2018 などのプログラム委員長・共同委員長を務める。ISO/IEC JTC 1/SC 27/WG 5 アイデンティティ管理とプライバシー技術国内小委員会委員。ISO/TC307 ブロックチェーンと分散台帳 国際エキスパート。日本学術会議連携会員。第26代日本応用数理学会会長。H29年度電子情報通信学会副会長。
ディープラーニング(深層学習)が自動的な特徴量の抽出と最適化を目指すことで、人工知能技術が必要とするデータは、多量かつ継続的な取得と具体性の向上が求められるようになった。こうしたデータを獲得するには、個人識別性が高く、また事業者による囲い込みを前提とした巨大なデータエコシステムが期待されるが、同時にそれはプライバシー影響の拡大を惹起させることから、何らかの対応を求める声が、消費者・市民はもちろん、事業者からも(競争政策の観点を含め)挙がっている。このような問題意識から、欧州では一般データ保護規則の一環として「データポータビリティの権利」や「自動処理による決定の対象とならない権利」が掲げられ、それに基づく技術実装の試みが進み始めている。また日本でもPDSや情報銀行といった概念や機能の普及・高度化が期待されている。本講演ではそうした取組の紹介も踏まえつつ、現状と当面の動向について論じる。
【略歴】慶應義塾大学大学院修了。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティングに従事。2008年に(株)企を設立、経営戦略・事業設計等のコンサルティングを実施。2016年より慶應義塾大学特任准教授、総務省情報通信政策研究所コンサルティングフェロー。人工知能やIoT等の研究開発や政策立案を推進。経済開発協力機構(OECD)日本政府代表団員を始め政府委員等歴任。近著「AIがつなげる社会(共著)」等。
個人データの保護がプライバシーの尊重に重要であるのは言うまでもないが、プライバシーの尊重の観点から考えると不十分である。それは、保護対象の個人データでなくても、その取扱によってプライバシー・インパクトがあるケースが十分に考えられるからだ。プライバシーを真に尊重しようとするならば、対象情報が個人データであるか否のみによって取扱を判断するのではなく、個人にとってその取扱がどのような影響をもたらしうるのかを考える必要がある。本講演では今年出版されたJIS X 9250 プライバシー・フレームワーク(ISO/IEC 29100)やISO/IEC 29134 Guidelines for privacy impact assessmentを例に、どのような情報を対象にしてリスク管理を行っていくべきかなどを論じる。
【略歴】1989年、野村総合研究所入社。現在、同社上席研究員。デジタル・アイデンティティ、Web APIアクセス管理、プライバシー技術分野の国際標準化に20年来取り組んでおり、JWT,OpenID Connectなど取りまとめた規格は、全世界で20億人以上に日々使われている。SC 27/WG 5 小委員会(アイデンティティ管理とプライバシー技術)主査。米国OpenID Foundation理事長。
IT基本法成立当時に生まれた子どもたちは、今や高校生から大学生、スマートフォンやソーシャルメディアの主な利用者である。幼い頃からインターネットが当たり前に存在する環境で育った世代は、オフライン・オンラインでの自分のアイデンティティを様々な形で表している。たとえば、家族からは見えない場所で友達とLINEでやりとりをする一方で、TwitterやInstagramでは活発な情報発信が見られたりもする。彼ら・彼女らにとって、インターネットは匿名の空間であると同時に、リアルの延長でもあり、また親や教師に見せないアイデンティティを見せる場所でもあるようだ。一方で、オンラインでのコミュニケーションをきっかけとして、犯罪や人間関係のトラブルに巻き込まれるリスクは無視できない。
本講演では、若い世代の情報行動について、特にプライバシーに関して関連研究や中高生・大学生への調査事例を紹介しながら考察する。
【略歴】慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程、後期博士課程を経て博士(政策・メディア)を取得。中央大学ビジネススクール助教、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任講師、米国ケネソー州立大学客員講師等を経て現職。個人の名乗りとアイデンティティ、また若年層の情報リテラシー教育の研究に従事。情報処理学会EIP研究会運営委員。その他経営情報学会、情報社会学会、AIS等の正会員。
「パーソナルデータは新しい石油であり、デジタル世界における新たな通貨である」。そういった考えからパーソナルデータを金脈のように考えてしまった結果、プライバシーを侵害してしまう事例が後を絶たない。デジタルマーケティング領域では、特定の個人を識別しないとしつつも、デバイスや企業などに分断されていた個人に紐づくデータの連携や統合が進み、位置情報・テレビ視聴履歴といったプライバシー情報の活用が重要になっている。企業にとってプライバシーは“保護”するものではなく“尊重”するものであり、生活者に寄り添いプライバシー情報をうまく活用することが信頼関係構築に繋がる。データ主体である個人の権限を強化しメリットを最大化するための仕組みであるCustomerTechやCSP(Consumer Side Platform)といったパーソナルデータの流通・利活用を活発化させる世界での先進的な事例も紹介する。
【略歴】2008年、株式会社インテージ入社。クライアントのデータ利活用基盤構築やマーケティングリサーチに従事した後、現在はデジタルマーケティング領域の新規事業開発と共に、個人主導データ流通の啓蒙活動に取り組む。2013年よりオープンデータを推進するOpen Knowledge Japan運営メンバー。ビジネス領域でのオープンデータやパーソナルデータなど多様なデータの公開・流通による利活用を推進することによって、より良い社会の実現を目指す。
現在、多くの人々が、プライバシーの保護は大切だと考えている一方で、プライバシーとは何か、また、なぜプライバシーを保護することが重要なのかについて理解しておらず、さらに自分自身と他者のプライバシーを守るための積極的な努力をしていない、という「プライバシーパラドクス」という現象が、わが国において、また諸外国でも発生している。高度に発達した情報通信技術が社会・経済のすみずみにまで浸透する現代社会において、プライバシーパラドクスの存在は、社会におけるプライバシーの価値を実質的に低下させ、人々の自由と自律を脅かす要因となっている。
本講演では、プライバシー概念ならびにプライバシー保護とはどのようなものなのかについて改めて論じ、プライバシーパラドクスの解消に向けて、われわれが認識し、考えなければならない課題を提示する。
【略歴】1987年3月に筑波大学大学院社会科学研究科経済学専攻博士課程を退学後、北海道女子短期大学専任講師、駿河台大学助教授を経て、1995年4月に明治大学助教授、1997年4月より同教授。2006年4月に明治大学ビジネス情報倫理研究所を設立し、所長として情報倫理研究に携わるとともに、英国デュモンフォート大学CCSR(Centre for Computing and Social Responsibility)リサーチアソシエイト、電脳倫理学会(香港)顧問、日本情報経営学会会長を務めている。2018年1月に共編著Japanese Ethics and TechnologyがSpringerより刊行予定。
(略歴は講演者の欄を参照)
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