デジタルプラクティス Vol.8 No.3 (July 2017)

建設機械の遠隔監視とトータルソリューション提案の実現(ConSite) ─情報収集・インテリジェンスフィルタ機能・情報配信の全自動化─

濱町 好也1  柳本 裕章1  久保田 一輝1

1日立建機(株) 

日立建機では「身近で頼りになるパートナー」を実現するために,社会,顧客のニーズを的確に掴み,その期待にそうソリューション(Reliable solutions)を提供できるように取り組んでいる.そのためにはICTの活用が不可欠であり,建設機械の分野においてもさまざまな技術が取り入れられ,建設機械の遠隔での状態監視と,機械の状態や稼働情報を自動的に収集する仕組みが整っている.本稿では,機械の遠隔監視の重要性と,稼働情報によるトータルソリューション提案の実現について紹介する.

1.はじめに

建設機械の市場は新興国を除き成熟期にあり,製品機能のみでの差別化は難しくなりつつある.このような状況下においては販売後のアフターマーケットにおけるサービス対応が差別化のキーとなる.

アフターマーケットでのお客様の最大の関心事は機械の稼働率を上げ,修理費を低減することである.このため,建機メーカ各社はICT(Information and Communication Technology)を活用し,遠隔で機械を管理できる仕組みを導入している[1].

当社では,他社に先駆け2000年6月に油圧ショベルZAXISシリーズ1型に衛星通信端末をオプション搭載[2] し,稼働情報を遠隔にて収集できる「情報ショベル」として販売を開始した.その後,2006年4月にZAXISシリーズ3型販売時に通信端末を標準搭載[3] とした.

また,2005年10月よりそれぞれの機械の稼働情報のみではなく,関連する機械の情報,技術情報などを一括で管理できるGlobal e-Serviceと呼ぶシステムを全世界で運用開始した.本システムはお客様を含む機械に携わっているすべての人に対して必要な情報を提供でき,業務の効率化に貢献している.

2.建設機械の特徴と稼働環境

建設機械が使われる稼働環境は,都市部のビル建設現場から未開拓のジャングル,資源採掘現場など多岐にわたる.もちろん通信インフラが整備されていない現場もあるため,日立建機の機械では,機械ごとに衛星通信端末または携帯通信端末を搭載し☆1遠隔で稼働情報が取得できるようになっている.衛星,携帯端末はそれぞれ,通信のタイムリーさやエリアカバー範囲,通信情報量や通信料金などで一長一短 (表1)あり,日立建機ではユーザによりどちらを装着するのか選択できる設計となっている.

稼働情報とは,エンジンの稼働時間や機械の操作時間,機器の温度や負荷の値であり,タイムリーに通信する必要がある情報と,利便性のため,ある程度まとめてから定期的に送る情報がある.タイムリーに必要な情報の代表としては,機器やセンサの異常を検知した際に送信されるアラーム情報があり,このアラーム情報を受け取ってから,いかに早く顧客への確認,実機の点検,部品の手配,故障個所の修復を行えるかが非常に重要となる.万が一通信が上手くいかない場合に備えてリトライや定時刻送信などの機能も備えられており,情報の鮮度と精度(品質),量などがコントロールされている.

表1 衛星通信端末と携帯通信端末の比較

3.遠隔監視の必要性とビジネスメリット

建設機械は,お客様のニーズにより機械の仕様や使われ方,作業負荷などがさまざまで,平均的な使われ方というものが存在しない.常に高温,高負荷の苛酷な環境で使用される場合もあり,故障を予兆することが非常に困難な場合がある.稼働現場によっては24時間365日稼働しており,機械の故障=現場の停止ということで,お客様の生産効率の低下に直結する.特に建設機械の特徴である油圧ポンプなど,油圧機器の故障は長期間のマシンダウンにつながる傾向がみられる(油圧システムは人間で考えると,油圧機器が臓器や筋肉,配管類を血管,作動油は血液に例えることができ, 1機器の故障が機械全体に影響を与えかねない).そこで,より早い段階で機械の故障を掴むことが非常に重要であり,それにより,ダウンタイムおよび,修理費の低減,顧客満足度の向上に大きく寄与するものである. 建設機械のサポートの特徴としては,建設機械自体が大きく,運搬も容易でなく,また,ユーザ専用設計となっていることも多いため適切な代車が見つからない場合が多く,稼働現場での修理が一般的である.そのため,故障の早期発見により大幅に現場対応工数が異なってくるという現実がある.

特にサービス拠点から稼働現場が距離的に離れている場合,この通信端末から送られてくる稼働情報が機械の状態を知るための唯一の有益な情報となっている.

また,通信コストの観点では,いかに通信量を抑えつつ,ユーザが必要な情報を提供できるかが大きな課題 となっており,その課題を解決したのが3.3節以降で説明するConSiteである.

3.1 稼働情報を管理する仕組み[Global e-Service]

Global e-Serviceは大きく3つの機能を有する.

(1)製品が生産されてからの機械系情報(稼働情報など)やビジネス系情報(サービス履歴など)を収集

(2)それら収集したビックデータ情報を一元管理

(3)それを製品に携わる各部門へさまざまなメニューとして情報提供

するものである(図1).

図1 Global e-Serviceの概要

本システムのメニューは管理者向けのメニューを含め約90種類あり,お客様向け,代理店向けなど,利用者に応じて公開制限がなされている.お客様向けにはニュースとオーナーズサイト,代理店向けにサービスメニュー,機械管理(機械台帳),部品(グローバルパーツ)などが準備されている.

現在Global e-Serviceでは全製品に関するドキュメント情報を管理し,登録会社数6万社,ユーザ数9万人に有益な情報を提供している.グローバルと名付けられた通り,34言語(図2)に対応し,世界185国/地域で利用されている(図3).

図2 Global e-Service対応言語(2017年1月現在)
図3 Global e-Service対応状況(2017年1月現在)

3.2 Global e-Serviceの課題

Global e-Serviceはさまざまなユーザをターゲットに開発されており,それぞれのメニューから機械の稼働情報を取得することができる.現場でその情報を活用するにあたっては,分析や取りまとめ,ITスキルなどが必要であり,情報加工の工程においても非常に時間がかかる状況であった.また,一部のサービス活動を除いては,建設機械のサービスは待ちサービスという傾向もあり,積極的に稼働情報を活用しているサービス員はごく一部に限られていた.そこで,これらの稼働情報を営業・サービス活動で効果的に活用できるアプリケーション開発が求められていた.

3.3 課題を解決するためのソリューションConSite(Consolidated Solution for Construction Sites)

前述の課題を解決すべく,日立建機では2013年から,「お客様の機械を見守るパートナ」としてConSiteという新しいサービスを提供している[4].開始当初は4~5年かけて緩やかに導入が増えると考えられていた.しかしながら,2016年度にはすでに全世界で5万台の契約数を記録した(図4).これは「ユーザが欲しい情報が揃っていること.ほかのシステムのようにわずらわしいログオンや,集計などが必要ないこと」「万が一の故障発生時にはメカニックをICTでできる限りサポートし,マシンダウンを最小限に抑えられること」など,徹底的にユーザ目線,現場目線にこだわった日立建機の考え方が,予想以上にユーザのニーズを捉えたものと考えられる.

図4 ConSiteの契約台数の推移

ConSiteの対応言語はお客様向けに32言語,代理店向けのサポート資料は16言語を準備し,どの地域でも高度な標準化が図られている.これは代理店のニーズに合わせて準備されているものであり,特に翻訳の品質については,建機特有の専門用語や言い回しやがきちんと伝わるようにノウハウの蓄積と統一,展開を図っている.

ConSiteでは大きく分けて5つのメニューが用意され,顧客の要望により選択できるようになっている(図5).

図5 ConSiteメニュー
  • 標準保証:日立建機の基本的な保証(各モデルごとに保証範囲と稼働年数,稼働時間の制限がある)
  • 延長保証:万一,故障した場合に高額の修理費が発生する部位を保証するサービス
  • メンテナンスサービス:日立建機のメカニックによるプロのメンテナンスサービス
  • データレポートサービス:定期レポート,アラームレポートサービス
  • チューニングサービス :お客様の要望に合わせて車体にチューニングを施すサービス
  • 次にデータレポートについて詳しく説明する.

    3.4 ConSiteデータレポートサービス

    ConSiteのデータレポートは次の2つからなる.

  • 定期レポート
  • 緊急レポート
  • 毎月の機械のカルテともいえる定期レポートと,アラーム情報と初期対応方法をタイムリにお届けする緊急レポートで,お客様の機械の安定稼働に貢献する(図6).

    図6 メール配信イメージ
    稼働情報の収集から分析,レポート作成に至るまですべて自動化されており,レポート配信の遅延が皆無である.メールアドレスは事前に登録されており,お客様と代理店の手を煩わせることもなく,双方のコミュニケーションの活性化に繋がっている.これが可能となるのは,Global e-service基盤上に機械系情報,ビジネス系情報が共有されており,機械,代理店,ユーザの紐付け情報が常に正しく管理できているからである.各代理店ではレポート内容を把握し,さまざまな提案活動および,営業のコミュニケーションツールとして活用している.これは,当初から現場のニーズを収集・把握し,現場が必要な稼働情報の見える化ができたことによるものである.

    3.4.1 定期レポート

    ConSiteのメニューの1つである定期レポートは,前述のように機械の稼働情報をサマリして,毎月1回全自動で お客様と代理店にメール配信する仕組みである.カレンダー形式にまとめた稼働時間,燃料消費量,ECO運転レポートなど,稼働情報を分かりやすくまとめてお届けする(図7図8).

    図7 定期レポート
    図8 定期レポート詳細
    個々の機械の稼動データだけでなく,モデルごとの平均の稼働データも集計して,当該機械と平均的な機械の使われ方を判定して,当該機械の操作の効率性を自動的に判定し,レポートに含めている.これにより,稼働時の温度や圧力などの技術情報を稼働地域の平均値と比較したり,機械の効率的な使われ方の把握と,オペレーション効率の改善に繋げられる.実際,稼働状況が数値により見える化できたことで,オペレータの操作改善や現場の効率化に影響を与えた事例もある.特に,衛星通信で稼働情報を扱う上で注意しなければいけないのが情報の欠落やノイズであるが,その問題をカバーするために,ある一定の運用ルールを作り,そのルールに従って分析を行うようにしている.

    運用ルールの例としては,以下のようなものがある.

  • 不備なデータと判断できるデータや異常値と判定できるデータは,集計値データからは削除する.
  • データ遅延により通常より遅れて届くデータに関しては,お客様へは状況を通知する.
  • データ遅延が起こり得ることを考慮し,集計対象時間に少し幅を持たせている.
  • 3.4.2 緊急レポート

    各種センサで感知した異常を緊急レポートとしてお客様へタイムリーにメール送信する.

    現場で油圧ショベルの突発的な故障が起きると,ダンプトラックや現場作業員も含め現場全体の工期に影響を与えるため,故障が起きないように稼働時間に応じたメンテナンス(Time Based maintenance:TMB)が一般的に推奨されている.また,突発的な故障が起きると,緊急修理や代車の手配,現場段取り変更などの対応や予定外の出費がかさむことになる.突発的な故障をできる限り起こさないためには,日々のメンテナンスや目視点検は非常に重要であるが,外観から見えない部品の故障や不具合の傾向をICT技術を活用することで良し悪しを判断できれば,よりお客様にとって有益な情報としてメンテナンスに役立つことが考えられる.日立建機では,不具合を判定する技術者のノウハウや知識を独自の判断ロジックプログラム「インテリジェンスフィルタ(図9) 」に組み込むことで代理店のサービス技術力の向上を図っている.

    図9 インテリジェンスフィルタ

    インテリジェンスフィルタはアラームごとに報告する条件のガイドラインを設け,実際に現場で稼働している機械1台1台の実機検証を経て決定されている.

    4.ConSiteの成果(トータルソリューション提案の実現)

    このようにConSiteは建設機械の遠隔監視を行い,稼働情報を活用して,運行の効率化やサービス,メンテナンス計画に寄与する仕組みとして多くのお客様に受け入れられている.情報が人を動かし,お客様の問題を迅速に解決することで顧客満足度の向上につながる.建設機械を安定稼働するためには適切なメンテナンスが重要で,これは代理店のメンテナンス部品やサービス売上にも大きく貢献するものである.イミテーション部品やほかの修理業者との差別化を図るためにも,トータルソリューションの提案が必要不可欠であり,お客様の問題解決のために,どのような提案ができるのかが非常に重要なキーとなる.無駄な作業の可能性のある旋回操作時間やアイドリング時間が見える化されたことで,お客様へ削減の提案を行い,オペレーションコストが大幅に低減できている.お客様のコスト低減効果により,事業規模の拡大につながり,結果として機械の追加発注へつながった事例も数多くある.

    5.おわりに

    建設機械の稼動情報をトータルソリューションサービスに活用したConSiteを,お客様,代理店にお届けし好評をいただいているポイントとしては,
    (1)ユーザ目線でのきめ細やかな対応(言語対応,必要な情報のみ提供)を行ったこと
    (2)稼働情報とビジネス情報を関連付けて管理し,また,ユーザへさまざまな提案ができたこと
    (3)建設機械の特徴に対応したサービスメニューの整備を行ったこと
    が非常に重要であったと考える.

    世界各地で稼働する建設機械に求められている性能や用途はさまざまであるが,現場の困りごとやお客様の関心事には共通点も多いと考えている.日立建機ではConSiteを通じてお客様と代理店とのコミュニケーションの質の向上と量の拡大を図れると確信している.今後も日立グループのAIや稼働情報分析技術を活用し,さらに故障検知範囲の拡大や,お客様にとっての有益な情報の提案に結び付けられるよう,日々改善に努めたい.  

    謝辞 作成にご協力いただいた皆様に深謝いたします.

    参考文献
    • 1) 荒川秀治:KOMTRAX STEP 2の開発と展開,コマツ技報, Vol.48, No.150 (2002).
    • 2) 日立建機(株)ニュースリリース:未来力ショベル「ZAXISシリーズ」新発売(2000年5月29日付)
    • 3) 日立建機(株)ニュースリリース:中型油圧ショベル ZAXIS-3シリーズを発売(2006年2月23日付)
    • 4) 濱町好也,関 浩司,猪瀬聡志,関 邦生: ICTを活用した次世代サービスソリューション ConSite,日立評論,Vol.97, No.05, pp.287-290 (2015).
    脚注
    • ☆1  国/地域ごとにより通信機器の搭載には認可が必要.

     

    濱町 好也(非会員)y.hamamachi.an@hitachi-kenki.com

    1981年日立建機(株)入社.1991~1997年オーストラリア駐在.2004~2010年インドネシア駐在.2013年~現業務従事.ライフサイクルサポート本部 カスタマーサポート事業部ConSite部所属.現在,ConSiteの促進,および全体の管理業務に従事.

    柳本 裕章(非会員)h.yanagimoto.kv@hitachi-kenki.com

    1985年日立建機(株)入社. 2008年まで超音波映像装置,原子間力顕微鏡など非建機製品の設計に携わる.2008年以降,建機の電子機器,制御ソフト製作部門,2014年から情報戦略部を経て, 2017年4月より生産技術部門に従事.

    久保田 一輝(非会員)k.kubota.wh@hitachi-kenki.com

    1998年日立建機(株)入社.サービス部,テクサポ部を経て2013年ConSite活用推進部にてConSiteを立ち上げ.2017年4月よりサービスソリューション本部ConSite開発部にて企画,および全体の管理業務に従事.

    採録決定:2017年6月9日
    編集担当:吉野松樹((株)日立製作所)