デジタルプラクティス Vol.8 No.4 (Oct. 2017)

広告表示プリンタシステム「KadaPos/カダポス」の開発と香川大学における実運用による評価

高田 良介1  後藤田 中2  紀伊 雅敦3  國枝 孝之4  山田 哲4  佐野 弘実5  竹下 裕也6  八重樫 理人3

1香川大学大学院  2香川大学総合情報センター  3香川大学工学部  4(株)リコー  5(株)コヤマ・システム  6(株)テリムクリ 

地域情報を収集し,それらを必要とする人に適切に提供する仕組みが求められている.我々は,地域情報を提供する広告表示プリンタシステム「KadaPos/カダポス」を開発し,2016年1月から香川大学幸町キャンパスにて運用を行った.本稿では,広告表示プリンタシステム「KadaPos/カダポス」について述べる.また,香川大学における実運用を通じて得られたデータと,利用者を対象に行ったアンケートからカダポスの有効性を説明するとともに,実用性評価の観点から,実運用で得られた知見を述べる.

1.はじめに

日本学術会議地域研究委員会は,「「地域の知」の蓄積と活用に向けて」と題する提言の中で,地域の問題を解決するため,地域に生きる人々が育んできた情報,知識,知恵を含む「地域の知(本研究では地域情報と呼ぶ)」を収集し,それらを有効に活用することが必要不可欠であると述べている[1].すなわち有益な地域情報を収集し,収集された地域情報を,必要とする人に適切に提供する仕組みを構築することが求められている.香川大学は,香川県,四国学院大学,香川県立保健医療大学,香川高等専門学校と,「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)に関する協定書[2]」に合意した.上記の事業は,地域が求める人材を育成し,若年層の地元定着の推進を目的としている.この事業においても,地域に関する情報を収集するだけでなく,それらを必要とする学生に適切に提供することが求められる.

我々は,地域情報を提供する広告表示プリンタシステム「KadaPos/カダポス(以下,カダポスと呼ぶ)」を開発した.カダポスは,学生が教育研究活動に用いるプリント用紙の裏面に,学生の属性に応じた地域情報(地域の商店街の情報や,地域で開催されるイベント情報,地域のプロスポーツ団体などの情報)を印刷することで学生に地域情報を提供するシステムであり,学生は無料でカダポスを利用することができる.香川大学では,学生への主たる情報提供手段として,印刷物を用いた掲示板が多く設置されている.掲示板は,掲示スペースの許す範囲内であれば,多くの情報を掲載することができる.掲示板には,学生にとって有益な情報も掲載されているが,直接自身に関係ない情報(たとえば,学部1年生に就活企業説明会の情報など)も多く掲載されており,掲載された情報から自身に必要な情報を効率良く探し出すことは難しい.また自身に必要な情報が探し出せたとしても,その情報の保管のためには,別途メモ書きや携帯情報端末のカメラ機能を用いた撮影などが必要になる.したがって,学生にとって,印刷物を用いた掲示板は,学生が自身に必要な情報を適切に取得し,それら情報を保管するという点において不十分であり,地域情報を適切に提供し取得する仕組みとしては必ずしも有効であるとはいえない.また,学生に情報を提供する情報提供者は,情報の有効期限(たとえば,地域のイベントの開催に関する情報であれば,地域のイベント開催日が情報の有効期限)が切れた情報を掲示板から削除しなくてはならない.情報提供者は,提供する情報の種類が多くなった場合や,学内の複数個所にそれら情報を掲載した場合など,情報の有効期限を意識しながら,それら情報を適切に管理することが求められる.したがって,情報提供者にとっても,印刷物を用いた掲示板は,地域情報を適切に提供する手段として必ずしも有効であるとはいえない.上記で述べた印刷物を用いた掲示板の,情報の管理(有効期限)に関する問題を解決するために,デジタルサイネージが多くの大学で設置されている.デジタルサイネージには,情報の掲載期間を設けて情報を管理する機能を有するものも存在しており,情報提供手段としては一定の効果を上げている.しかしながら,デジタルサイネージの多くは情報が動的に切り替わるため,1つの情報の提供(表示)時間は短く,印刷物を用いた掲示板と同様に情報の取得に関する問題,情報の保管に関する問題については解決されていない.

香川大学幸町キャンパス総合情報センターコンピュータ教室は,授業時間での利用以外でも,空き時間には学生の自習のために開放されている.図1は,香川大学幸町キャンパス総合情報センターコンピュータ教室(PC教室1,PC教室2)の利用件数を示している.

図1 香川大学総合情報センターコンピュータ教室の利用者数推移
2008年6月のピーク時には,1カ月あたり17,800件の利用があったが,2013年6月には,1カ月あたり9,372件とピーク時の約6割に減少しており,学生のコンピュータ教室の利用が年々減っていることが明らかになった.図2は,香川大学総合情報センターが調査した2016年3月の総合情報センターWebページへのアクセス端末種別調査の結果を示しており,アクセス端末の約3割がスマートフォンやタブレット端末など携帯情報端末からのアクセスであることが明らかになった.

図2 香川大学総合情報センターWebページへのアクセス端末種別調査
これらの結果から,香川大学の学生は,簡単な調べ物などやレポート作成においてはコンピュータ教室のコンピュータを利用せず,自身の所有するスマートフォンやタブレットなど携帯情報端末を利用している実態が明らかになった.香川大学ではICカード認証課金プリンタシステムを開発[3]し,2012年4月から香川大学内4キャンパスで学生に有料のプリントサービスを提供している.図3は,香川大学総合情報センターに設置されたプリンタの2010年から2014年までのプリント枚数の推移を示している.

図3 プリント枚数の推移

香川大学では,2012年4月からそれまで無料であったプリントサービスを有料に切り替えたため,2012年のプリント枚数は前年の約6割まで減少した.その後プリント枚数は増加に転じており,2014年はピーク時の約8割までプリント枚数が増加した.図4は,香川大学総合情報センター内に設置された有料コピーサービスの2012年から2014年までのコピー枚数の推移を示している.

図4 コピー枚数の推移

コピー枚数は,2012年は年間約300,000枚/年だったものが,2014年は年間約400,000枚/年と3割ほど増加している.これらから,学生は自身の携帯情報端末と紙を併用して自身の教育研究活動を行っている実態が明らかになり,プリンタやコピーによる印刷物は,学生が教育研究活動を推進するために必要不可欠なツールであることが示された.

カダポスによって印刷された印刷物は,学生の教育研究活動に利用されるため,学生が一定期間にわたって保管する可能性がある.カダポスは,大学における主たる情報発信手段である掲示板やデジタルサイネージなどとは異なる情報発信手段を学生に提供しており,運用を通じて得られた結果から掲示板やサイネージを補完し学生に有益な情報を提供する仕組みとして一定の有効性があることが確認された.

学生の属性に応じて裏面の地域情報を変更できるため,地域情報を適切に必要とする学生に提供することが可能である.さらに,裏面の広告をサーバ上で管理するため,情報の管理に関する問題を解決している.本稿では,広告表示プリンタシステム「KadaPos/カダポス」について述べるとともに,香川大学における実運用データおよびアンケートによる評価について述べる.

2.関連研究および関連サービス

本章では,関連研究および関連サービスについて述べる.2.1では,印刷物を用いた情報提供に関連する研究およびサービスについて述べる.2.2では,ディスプレイを用いた情報提供に関連する研究およびサービスについて述べる.2.3では,本研究の位置付けについて述べる.

2.1 印刷物を用いた情報提供

大日本印刷(株)は,ICタグや携帯電話をポスターにかざすと電子メールを自動着信する,電波ポスター「PiPorta」[4] を開発した.PiPortaは,イベント会場や商業施設などに設置されたポスターに,サービス利用者が所持しているFelica機能付き携帯電話やICタグをかざすことで,そのポスターに関連した電子メールが,サービス利用者の携帯電話に自動送信されるシステムである.PiPortaは,ICタグを用いることで,情報を提供する相手を特定できるため,利用者に応じて提供する情報を変更することが可能である.また,独自のアプリケーションを操作する必要なく,提供されたポスターの情報へアクセスすることができる.ヤフー(株),大日本印刷(株),日本航空(株)は,NFCスマートポスター「TOUCH(タッチ)JAL!」[5]を作成した.NFCスマートポスターは沖縄県に設置され,NFC機能を有したスマートフォンなどをポスターにかざすことで,沖縄県観光情報へとアクセスすることが可能である.

鈴木ら[6]は,「ポスター上の座標位置に対応したデジタル情報を表示可能なハイパーパネルシステム」を開発した.鈴木らのシステムは,ポスターの表面にタブレット端末を配置し,タブレット端末の紙媒体上における位置に対応したデジタル情報を取得するシステムである.鈴木らが開発したシステムは,従来の紙媒体によるポスターを利用しながら,インタラクティブに情報取得を行うことができる.鈴木らが開発したシステムでは,過去に作成したポスターであっても,デジタル情報を付加することで,最新の情報を提供も可能である.上田ら[7]は,「パンフレットを利用したインタラクティブ案内システム」を開発した.上田らが開発したシステムは,施設案内などのパンフレットを入手後,そのパンフレットを広げて指を指すだけで,広げたページに対応する情報やナビゲーションなどが床面に投影される.上田らが開発したシステムも,従来の紙媒体を活用しながら,施設案内などの情報を取得することができる.いずれのシステムも,カダポスと同じく印刷物を用いて情報提供を行っているが,情報を取得したユーザに別の情報を提示する仕組みの提供を主たる目的としている点でカダポスとは異なる.

(株)オーシャナイズは,無料コピーサービスのタダコピ[8]を提供している.タダコピは,コピー用紙の裏面に企業広告をあらかじめ印刷したコピー用紙を利用し,その広告収入で大学生に無料でコピーサービスを提供するサービスである.2006年にサービスを開始し,現在,約170の大学で設置されており,実際に運用されている.2009年には,男女,学年など,学生の属性に応じて広告を変更する機能を開発し,それぞれに異なる情報提供を可能にするシステムとなったが,あらかじめ印刷したコピー用紙をコピー機にセットしておく必要があり,提供する広告の種類は限定される.(株)週刊ジョブは,無料コピーサービスのKapel[9]を提供している.Kapelは,タダコピと非常に類似したサービスであり,愛媛県内企業のクーポンやお店,求人情報を裏面に印刷することで,無料でコピーサービスを提供している.本研究で開発するカダポスは,印刷物を用いて情報提供を行っている点や,学生向けの印刷サービスを提供している点でこれら取り組みと類似しているが,あらかじめ情報を印刷せず,提供する情報を学生の属性に応じて動的に変更する仕組みを有している点,提供される情報の更新が容易である点で,これら取り組みとは異なる.

2.2 ディスプレイを用いた情報提供

森ら[10]は,「往来者の注意を喚起するヴァーチャルヒューマン広告提示システム」を開発した.森らが開発したシステムは,店舗など公共空間において利用者の認識を行い,一定距離内の利用者に対してヴァーチャルヒューマンが,利用者との距離に応じて接客行動を取り,注意喚起や商品情報の説明を行うシステムである.鈴木ら[11]は,「デジタルサイネージ向けの地域コンテンツの自動配信手法」を提案した.鈴木らが提案した手法は,既存の地域コンテンツをデジタルサイネージに自動的に再利用する仕組みである.木原ら[12]は,「人の位置移動による状況即応型デジタルサイネージ」を開発した.木原らのシステムは,ショッピングモールなど公共空間に設置されたデジタルサイネージ(ディスプレイ)と,カメラセンサを用いて,カメラセンサから得られたディスプレイの前を移動する人の位置に基づいて,その状況に意味付けをし,その状況に応じたコンテンツを即応的にディスプレイに提示するものである.井上ら[13]は,「グループに適応する公共空間向け広告システムGAS」を開発した.井上らが開発したシステムは,複数人の間の対人距離からその人間関係を判別し,判別した人間関係に基づいて適当な広告を提示するシステムである.

日本電気(株)は,2016年4月,観光情報を効果的に発信することを目的に,高松市内の5カ所にデジタルサイネージを設置した[14].このデジタルサイネージは,高松市が運営する観光Webサイト「高松旅ネット」と連携しており,タッチパネルを操作することで誰でも直感的に情報を検索することが可能である.富士通(株)は,2011年9月,宇都宮大学にインタラクティブデジタルサイネージ「UBWALL」を設置した[15].宇都宮大学に設置されたUBWALLでは,大学の授業情報のみならず,就職情報,イベント,ニュースなど多くの情報を提供している.提供しているコンテンツ(情報)は,データセンタで管理を行っており,独自のサービスを用いることで容易に情報の更新等を行うことができる.(株)日立製作所は,2009年6月より,イオングループ30店舗へ「MediaSpace」を導入し,サービスを開始した[16].MediaSpaceでは,商品情報のみならず,地域や店舗に応じた地域情報も配信している.

ディスプレイを用いて情報提供を行う研究やサービスは数多くある.本研究で開発したカダポスは,提供する情報を動的に切り替えることが可能である点でこれらシステムと類似しているが,学生が普段利用する印刷用紙の裏面に,学生の属性に応じた地域情報を印刷することで学生に情報を提供するシステムであり,これら研究やサービスとは異なる.

2.3 本研究の位置付け

2.1で述べた紙を用いた情報提供に関連する研究およびサービスは,比較的簡単に情報提供を行うことができるが,利用者が情報を取得するために主体的に何らかの行動が必要である,取得した情報の管理が難しい点,属性に応じた情報提供を行うには,紙媒体にQRコードやNFCタグなど何らかの仕掛けを持たせる必要がある点,などの問題点が挙げられる.2.2で述べたディスプレイを用いた情報提供に関連する研究およびサービスは,情報提供者にとって情報の管理が容易であり,属性に応じた情報提供が可能なものもあるが,いずれも利用者が情報を取得するために何らかの行動が必要である点,取得した情報の管理が難しい点などの問題がある.本研究で開発したカダポスは,学生が教育研究活動に用いるプリント用紙の裏面に,利用者の属性に応じた地域情報を印刷するシステムであり,上記の問題を解決することができる.また,無料のプリントサービスを提供することで,学生の教育研究活動を支援することが可能となる.

3.広告表示プリンタシステム「KadaPos/カダポス」

本章では,カダポスの概要と提供される地域情報について述べる.3.1では,カダポスの概要について,3.2では,提供される地域情報について述べる.

3.1 カダポスの概要

図5は,広告表示プリンタシステム「カダポス(2017年2月現在)」の概要を示している.カダポスは,プリンタ(カダポス端末),クラウド(Amazon Web Services)上に構築したカダポスサーバ,広告管理サーバとリコークラウドから構成される.カダポスを利用する際は,カダポスサイトにアクセスし,ログインを行う.カダポスはログインにGoogle認証を用いる(図5(1),(2),(3),(4),(5)).香川大学では,Google Apps for Educationを導入しており,学生全員がGoogleアカウントを所持している.ログイン後,ユーザは印刷ファイル(広告なし)をインターネット経由でカダポスサーバにアップロードする(図5(6)).カダポスサーバ,広告管理サーバは,クラウド上に構築されており,学内有線LAN,学内無線LAN に接続された端末(PC教室のコンピュータや個人所有のPC,スマートフォン)だけでなく,学外からもインターネット経由で,どこからでも印刷ファイル(広告なし)をアップロードできる.カダポスサーバは,アップロードされた印刷ファイル(広告なし)とユーザ情報を広告管理サーバに送信する(図5(7)).香川大学生が所持しているGoogleアカウントのIDには,学籍番号が使用されている.学籍番号には,学生には入学年度および所属学部を示す一意のアルファベットが入っており,ユーザ属性として,学生の入学年度および所属学部を利用する.広告管理サーバは,ユーザ属性に基づいて,偶数ページ面に広告を含んだ印刷ファイル(広告あり)を生成する(図5(8)).広告管理サーバは,生成された印刷ファイル(広告あり)をカダポスサーバへ送信する.(図5(9))カダポスサーバは,印刷ファイル(広告あり)をリコークラウドへ送信する(図5(10)).ユーザは,学生証を用いて印刷ファイル一覧を取得し,該当する印刷ファイルを選択することで印刷ファイル(広告あり)を印刷する(図5(11)).ページ数4枚の印刷ファイルをアップロードした場合,4種類の広告が選択され,偶数ページにそれら広告が印刷される.

香川大学には,2台のカダポス端末(香川大学幸町キャンパス総合情報センターオープンスペース2,香川大学幸町キャンパス図書館3階)が設置された.いずれのカダポス端末もPC教室の近くに設置されている.カダポスは現在も機能の拡張をすすめており,PDF以外の印刷ファイルへの対応,印刷面の色の制御(モノクロやカラー),属性による広告表示のアルゴリズムの改良などの機能を開発中である.

図5 広告表示プリンタシステム「KadaPos/カダポス」の概要

3.2 提供される地域情報

本節では,カダポスによって提供される地域情報について述べる.カダポスでは,地域情報として,地域の商店街に関する情報(香川県高松南部三町商店街に関する情報),地域プロスポーツに関する情報(四国アイランドリーグplus 香川オリーブガイナーズ)を提供した.地域の商店街に関する情報(高松南部三町商店街に関する情報)としては,高松南部三町商店街の魅力発信を目的に,穴吹デザインカレッジの学生が作成した瓦版商店街ポスターを地域情報として提供した.図6は,穴吹デザインカレッジに学生が作成した商店街ポスター(としの花屋)を示している.15店舗29種類の商店街ポスターが提供された.ほかにも,商店街のイベント情報なども提供された.図7は,プロ野球独立リーグ・四国アイランドリーグplusの香川オリーブガイナーズに関する情報で,2016年7月には印刷されたファイル(広告)と学生証を持参することで,香川大学生は観戦無料のキャンペーンも実施された.2017年2月時点で,約50種類程度の地域情報が登録されている.実運用では,商店街の日々のニュースを扱った商店街新聞が必ず広告として選択され,1枚目の裏面に付与されるアルゴリズムを採用した.また実運用では,広く商店街の店舗を学生に知ってもらうことを目的としているため,網羅性を高めるようなアルゴリズム(ランダム)を採用した.

図6 提供される地域情報(商店街ポスター)
図7 提供される地域情報(地域プロスポーツ)

4.カダポスの実運用データおよびアンケートによる評価

カダポスは,2016年1月18日から7月28日まで香川大学において2台のカダポス端末が設置され,実際に運用された.4.1では,カダポスの実運用データについて述べる.4.2では,カダポスの利用者アンケートについて述べる.4.3では,実運用データおよびアンケートによる評価について述べる.

4.1 カダポスの実運用データ

図8は,カダポスの月別印刷枚数,図9は,月別ユーザ数およびユーザ数推移を示している.運用を開始した1月は認知度の低さ,約半月の運用期間から,印刷枚数,ユーザ数,いずれも少ない結果となった.2月は学期末試験期間であったため,印刷枚数が1カ月で1,000枚を超える結果となった.3月は,学生が長期休暇期間であったため,印刷枚数,ユーザ数,いずれも少ない結果となった.1〜3月にコンピュータ教室を利用する学生の多くは,卒業論文や修士論文に取り組む学生であり,「無料で印刷できるのは良いサービスだ.自分が1年生なら利用してみたいが,もうすぐ卒業で,利用する機会がない」などの声が寄せられた.4月には新入生全員(約1,300人)に,カダポスのサービスを知らせるチラシを配布した.

図8 印刷枚数(月別)
図9 利用ユーザ数(月別)

表1は,カダポスのユーザの学年別,学部別の内訳を示している.法学部および教育学部の新入生を対象とする講義を担当する複数の教員にカダポスに関する告知を依頼した.これらの取り組みの結果,4月は大幅にユーザ数が増加した.5月以降は,ユーザ数を増やす取り組みを一切実施していないが,告知をしていない2〜4年生のユーザも増加した.また,講義では告知をしていない経済学部やその他(社会人大学院である地域マネジメント研究科など)の学生にも利用されており,実際に大学でカダポス端末を目にする機会や口コミなどを通じて,利用が広がっている実態が明らかになった.表2は,カダポスの印刷回数別ユーザ数を示している.カダポスを1回でも利用したことのあるユーザは255人,2回以上利用したことのあるユーザは127人で,全体の約50%を占めている.また,利用回数上位10%のユーザによる印刷回数を調査したところ,印刷回数は1,069回であり,総数(1,675回)の約64%が利用回数上位10%のユーザによって印刷されていることが明らかになった.このことから,カダポスは積極的に利用するユーザ(本研究ではコアユーザと定義する)になると,継続して利用することが明らかになった.多くの地域情報を提供するためには,コアユーザを増やしていく取り組みが必要である.

表1 学部別ユーザ数
表2 印刷回数別ユーザ数

4.2 カダポスの利用者アンケート

カダポスの利用者255名にアンケートを実施し,38名から回答が得られた.下記は,アンケート内容の一部である.

◦授業資料・ゼミ資料など,印刷する際に料金を負担に感じますか?(はい,いいえ2択)

◦「KadaPos/カダポス」のように裏面に広告が印刷されていても,無料であれば印刷したいと思いますか?(はい,いいえ2択)

◦裏面の広告に興味を持ちましたか?(とても興味を持った,興味を持った,興味を持たなかった,広告を見なかった4択)

◦「KadaPos/カダポス」について,ご意見があれば自由にお願いいたします(任意記述).

図10図11は,印刷料金に関する設問に対する回答結果を示している.図10によると,84.2%(38名のうち32名)の利用者が,講義資料やゼミ資料を印刷する際の印刷料金(香川大学の場合,モノクロA4 1枚5円,カラーA4 1枚25円)を負担に感じていると回答している.図11によると,94.7%(38名のうち36名)の利用者が,裏面に広告が印刷されていても無料であれば印刷をしたいと回答している.図12は,広告に関する設問に対する回答結果を示している.図12によると,約80%(38名のうち30名)の利用者が,カダポスによって印刷された裏面の広告に対して,「とても興味を持った」または「興味を持った」と回答している.下記は,カダポスについて任意記述の回答から得られたコメントの一部抜粋である.無料であることに対して好意的なコメントが多く寄せられた.香川大学は4キャンパスに分かれており,今回カダポスを設置したのが1つのキャンパス(幸町キャンパス)のみであったため,今後すべてのキャンパスにカダポス端末を設置する検討を進めている.

◦別キャンパスでも利用できるようにしてほしい.

◦無料なのは嬉しいが,やはり裏の広告があると不便なことがあるので,できれば広告なしで無料で使えるプリンタがあればとても助かる.

◦提出資料の印刷をするときは,裏に広告が出ないようにできるなど,広告の有無が選択できたらうれしいです.広告の内容も,自分で選びたいです.

図10 (回答8)印刷料金に関する回答1
図11 (回答9)印刷料金に関する回答2
図12 (回答10)広告に関する回答1

4.3 実運用データおよびアンケートによる評価

本研究で開発したカダポスは,学生に地域情報が付与された印刷物を提供している点,学生に無料の印刷サービスを提供している点で大きな特徴がある.4.1で述べた実運用データから,カダポスによって毎月約1,500枚印刷され,ユーザ数も増加していることが示された.4.2で述べたアンケートの回答結果から,ユーザは印刷料金を負担に感じており,カダポスのように無料で印刷できることを望んでいることが示された.これらのデータやアンケートから,カダポスは,学生に無料の印刷サービスを提供している点が評価されている実態が明らかになった.カダポスによって毎月約1,500枚の印刷が行われ,毎月約1,500件の地域情報が提供されている.このことは,1,500件の地域情報を学生に提供する機会を,これまでの掲示板やデジタルサイネージとは別の手段で創出していることを意味しており,地域情報を提供する点において,これまでの掲示板やデジタルサイネージとは別の新たな仕組みを提供していることを意味している.また,アンケートの回答結果から,多くの利用者がカダポスによって印刷された裏面の広告に興味を持ったことが明らかになっており,カダポスにおける学生に地域情報が付与された印刷物を提供する機能についても有効である可能性が示された.

5.まとめ

本稿では,広告表示プリンタシステム「KadaPos/カダポス」について述べるとともに,香川大学における実運用データおよびアンケートから,カダポスの有効性について述べた.カダポスは,学生が教育研究活動に用いるプリント用紙の裏面に,学生の属性に応じた地域情報(地域の商店街の情報や,地域で開催されるイベント情報,地域のプロスポーツ団体などの情報)を印刷することで提供するシステムであり,学生は無料でカダポスを利用することができる.カダポスは,大学における主たる情報発信手段である掲示板やデジタルサイネージなどとは異なる情報発信手段を学生に提供しており,運用を通じて得られた結果から掲示板やサイネージを補完し学生に有益な情報を提供する仕組みとして一定の有効性があることが確認された.現在は,学生の属性を入学年度および所属する学部の2つのみで運用しているが,属性については増やすことも可能であり,性別や年齢などを追加することで,よりユーザに応じた情報提供を可能にする仕組みも検討している.

カダポスは香川大学を中心に開発をすすめたが,設置を希望する声が複数の大学から寄せられた.カダポスは,認証にGoogle認証を用いており,設置にあたってはGoogle Appsなど何らかの認証の仕組みを導入していることが条件となっている.大学関係者以外のゲストユーザの利用や,認証の仕組みを持っていない大学などでの設置等を見据え,ワンタイムパスワードの導入なども検討している.

カダポスは,AWS(Amazon Web Services)上に構築したカダポスサーバ,広告管理サーバとリコークラウド,カダポス端末から構成される.新たにカダポスサービスを学内の別のキャンパスなどで展開する場合,別途サーバなどの変更を必要とせず,カダポス端末のみを増やすだけでカダポスサービスを別のキャンパスでも提供することが可能である.クラウド技術を用いて開発したことで,カダポスはシステムの水平展開などシステムの変更にも柔軟に対応することができる.

また,大量のチラシを印刷する事例も運用では発生した.これらチラシも配布されることで地域情報が発信されることから,現在カダポスでは特段印刷枚数制限を設けていないが,不正印刷防止機能や印刷枚数制限については検討している.現在カダポスを利用するには専用のカダポス端末を用意する必要があるが,今後,有料の場合は裏面の広告なし,無料の場合はカダポスのように広告が付与されるような,有料のプリンタとカダポスが同時に稼働できる端末についても検討している.

実運用では,広く商店街の店舗を学生に知ってもらうことを目的としていた.今後,印刷された広告が学生にとって本当に有益であったかどうか,たとえば学生が商店街に行くきっかけとなったかどうかなど,提供された広告の有効性についても確認する予定である.

香川大学は,香川県,四国学院大学,香川県立保険医療大学,香川高等専門学校と「地(知)の拠点による地方創生推進事業(COC+)に関する協定書」を締結している.COC+事業は,若者の地元就職および地元定着を促進させ、活力ある地域社会の形成と持続的発展に寄与することを目的としている.学生の地域の企業への理解の増進と,働くイメージの浮揚のため,広告として地域企業の情報も付与される予定である.

謝辞 本研究を進めるにあたり,機材提供および技術支援をいただいた(株)リコーの皆様に感謝する.また,システム開発において,ご支援をいただいた(株)コヤマ・システム,(株)テリムクリの皆様に感謝する.カダポスを運用するにあたり,多大なご支援をいただいた香川大学総合情報センターの皆様に感謝する.香大生の夢チャレンジプロジェクト事業(香大生と地域の交流を促すアドプリプロジェクト)のプロジェクトメンバに感謝する.本研究は,平成26年度香大生の夢チャレンジプロジェクト事業,平成27年度香川県商店街活性化コンペ事業経費,(株)リコー共同研究資金,香川大学地(知)の拠点大学による地域創生推進事業(COC+)の支援を受けた.

参考文献
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  • 2) 文部科学省:地(知)の拠点大学による地方創生推進事業〜地(知)の拠点COC プラス〜,http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/coc/__icsFiles/afieldfile/2015/04/17/1356659_02_2_1.pdf(2016年12月12日参照)
  • 3) 八重樫理人,林 敏浩,今井慈郎,堀 幸雄,古川善吾,服部真子,香坂光彦,本田道夫:香川大学のプリンタシステムに対する諸問題を解決するICカード認証課金プリンタシステムの開発とその導入効果,電子情報通信学会論文誌,Vol.96-D, No.10, 2452-2463,(2013).
  • 4) 大日本印刷(株):ICタグやケータイをポスターにかざすと電子メールを自動着信,http://www.dnp.co.jp/news/1189395_2482.html(2017年1月19日参照)
  • 5) ヤフー(株),大日本印刷(株),日本航空(株):NFCスマートポスター,http://press.jal.co.jp/ja/release/201207/001493.html(2017年1月19日参照)
  • 6) 鈴木 浩,服部 哲,佐藤 尚,速水治夫:ポスター上の座標位置に対応したデジタル情報を表示可能なハイパーパネルシステムの提案,情報処理学会論文誌,Vol.55, No.1, pp.151-162 (2014).
  • 7) 上田哲也,笠原邦彦,小田将史,原 豪紀,もたい五郎,斎藤 武,中川剛志:パンフレットを利用したインタラクティブ案内システム,日本バーチャルリアリティ学会論文誌,Vol.16, No.1, pp.13-22 (2011).
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  • 11) 鈴木 薫,坂田浩二,井上博之:デジタルサイネージ向けの地域コンテツの自動配信手法の提案,インターネットコンファレンス論文集,pp.57-64 (2010).
  • 12) 木原民雄,横山正典,渡辺浩志:人の位置移動による状況即応型デジタルサイネージの構成法,情報処理学会論文誌,Vol.53, No.2, pp.868-878 (2012).
  • 13) 井上智雄,瓶子和幸:グループに適応する公共空間向け広告システムGAS,情報処理学会論文誌,Vol.49, No.6, pp.1962-1971 (2008).
  • 14) 日本電気(株):NEC,高松市に観光情報発信用デジタルサイネージを提供,http://jpn.nec.com/press/201603/20160325_01.html(2016年1月20日参照)
  • 15) 富士通(株):UBWALL/デジタルサイネージサービス導入事例,http://fenics.fujitsu.com/networkservice/digital/casestudies/utsunomiya-univ/(2016年1月20日参照)
  • 16) (株)日立製作所:デジタルサイネージプラットフォーム「MediaSpace」の導入事例,http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2010/06/0607b.html(2016年1月20日参照)
高田 良介(非会員)

2017年香川大学大学院工学研究科博士前期課程修了.2017年富士通(株)入社.

後藤田 中(非会員)gotoda@eng.kagawa-u.ac.jp

香川大学総合情報センター助教.博士(工学).日本学術振興会特別研究員DC2およびPD,国立スポーツ科学センター研究員を経て現職.主にセンサと映像技術を活用したスポーツ支援システムに関する研究に従事.

紀伊 雅敦(非会員)kii@eng.kagawa-u.ac.jp

香川大学工学部安全システム建設工学科准教授.博士(工学).運輸政策研究機構研究員,日本自動車研究研究員,地球環境産業技術研究機構研究員を経て2009年より現職.都市・交通計画に関する研究に従事.

國枝 孝之(正会員)takayuki.kunieda@nts.ricoh.co.jp

1990年(株)リコー入社、マルチメディア情報処理・メタ情報の活用の研究ならびに応用システムの開発に従事.2010年から新しいビジネス創出活動として同社TAMAGO-TFリーダー,ISO/IEC JTC1/SC29/WG11 MPEG-7 SG委員.現在,香川大学大学院工学研究科博士前期課程にも在学中.

山田 哲(非会員)satoru.yamada@nts.ricoh.co.jp

1994年にCanon Finetech入社.2004年に(株)リコー入社.2008年に明治大学大学院(経営管理 MBA)修了.産業,コンシューマ,オフィス分野のプリンタシステムのアプリケーションとシステム開発業務に従事.

佐野 弘実(非会員)sano@kym-sys.co.jp

(株)コヤマ・システム常務取締役.2004年に(株)コヤマ・システムに入社し,2016年より現職.製造業を中心に画像処理,RFID,センサーデータ分析に関するシステム設計・開発業務に従事.

竹下 裕也(非会員)takeshita@terimukuri.com

2016年に(株)テリムクリに入社.Webページ制作,Webページ運用支援・改善など,Webに関するシステム設計・開発業務に従事.

八重樫 理人(正会員)rihito@eng.kagawa-u.ac.jp

香川大学工学部電子・情報工学科准教授.博士(工学).芝浦工業大学JADプログラム講師,香川大学総合情報センター助教,香川大学工学部信頼性情報システム工学科講師を経て2013年より現職.ソフトウェア開発支援システム,教育支援システム,観光支援システムに関する研究に従事.

投稿受付:2017年2月6日
採録決定:2017年7月27日
編集担当:串田高幸(日本アイ・ビー・エム(株))