デジタルプラクティス Vol.8 No.1 (Apr. 2017)

ダイバーシティ社会に向けた
ワークプレースを考える

コーディネータ  
土井美和子(情報通信研究機構)      

司会  
住田一男(人工知能学会)      

加藤由花氏(東京女子大学)      清水美奈子氏(インテック)      矢島 卓氏(エイチーム)      木塚あゆみ氏(公立はこだて未来大学)      富田達夫氏(情報処理推進機構)      


「男性の働き方を変えないと女性の働き方も変えられない」.日本の夫婦共働きの世帯が1,100世帯を超え,多くの若い世代が育児と仕事との両立という問題に直面し,悪戦苦闘・試行錯誤しています.ダイバーシティ社会の推進において,ワークプレースはどうあるべきか? ICTでどう支援できるか? 2016年9月に富山大学で開催されたFIT2016において,情報処理学会Info-WorkPlace委員会とデジタルプラクティス編集委員会との共同企画イベントとして実施したパネル討論の内容をまとめました.

富田達夫氏
富田達夫氏
(独)情報処理推進機構理事長.博士(情報学).1949年東京生まれ.1972年東京大学理学部物理学科卒業.1973年富士通(株)に入社し情報関連製品の開発業務を担当.2005年より同社執行役,執行役常務,代表取締役副社長等を歴任.2010年より(株)富士通研究所に移り社長,会長を歴任.2016年より現職である(独)情報処理推進機構理事長に就任.なお2015年に本会会長に就任し現在に至る.
清水美奈子氏
清水美奈子氏
北海道旭川市出身.1997年北海道大学工学部卒業.(株)インテックで,システム開発,ヘルプデスクサービス,ITコンサルティング業務などに従事.現在は,インテック販売管理システム「社長の右手」の開発・導入を担当.私生活では,小学1年生と1歳の娘の母.社内結婚の夫の協力のもと,育児休業や短時間勤務制度を利用して,仕事と育児の両立に奮闘中.
矢島卓氏
矢島卓氏
中京大学大学院情報科学研究科修士課程修了.東京の情報サービス企業にて6年間Webシステム開発を経験した後,2011年より現職である(株)エイチームに所属.「Webサービスやスマートフォン向けアプリの開発・運用」,「アジャイル開発プロセスの社内導入」,「自社基幹システムおよび社内ネットワークの管理・運用」などの業務に従事.第二子を授かったことをきっかけに,2014年に4カ月間の育児休業を取得.
木塚あゆみ氏
木塚あゆみ氏
公立はこだて未来大学システム情報科学部特任助教,および博士(後期)課程.メディアデザイン研究・教育に従事.2008年同大大学院システム情報科学研究科修了後,岡山県立大学デザイン学部助手,その後インタラクティブコンテンツの開発と教育に携わり,現職に至る.創造性には多様な価値観が大事だという観点から女性技術者支援も行う.本会Info-WorkPlace委員会委員長.修士(システム情報科学).
加藤由花氏
加藤由花氏
1989年東京大学理学部卒業.同年日本電信電話(株)入社.2002年電気通信大学大学院情報システム学研究科博士後期課程修了.博士(工学).同年電気通信大学助手,2006年産業技術大学院大学准教授,2009年同教授.2014年より現職.情報ネットワーク,ネットワークを利用したロボットサービス等の研究に従事.本会シニア会員.
土井美和子
土井美和子
住田一男
住田一男

土井:ただいまご紹介いただきました情報通信研究機構の土井と申します.このパネルのコーディネータを務めさせていただきますのでよろしくお願いいたします.4人のパネリストの中で,清水さまと矢島さまには先ほどお話☆1をいただいたので,木塚先生と富田さんにもぜひ一言ずつお願いします.では木塚先生からよろしいですか.

木塚:先ほどの講演で加藤先生が情報処理学会でのダイバーシティ推進の取り組みとしてInfo-WorkPlace委員会☆2の紹介をされましたが,その委員会の委員長を務めさせていただいています.公立はこだて未来大学の木塚といいます.よろしくお願いします.

今,公立はこだて未来大学でenPiTという高度ICT人材育成事業に携わっています.その中で私の専門であるデザインのスキルを学生に身に付けてもらう教育にかかわらせてもらっています.以前から市民や学生,子どもなどを対象に,最新の情報技術を体験してもらう活動を行ってきました.たとえば,函館と札幌でArduinoというマイコンを使って何か作ってみようというコミュニティを運営し,まったく体験したことがない人も玄人も混ざって活動しています.

enPiTの女性IT技術者支援活動として女性部会WiTという活動にも参加させてもらっているのですが,そのWiT主催で昨年(2015年),電子工作でクリスマス飾りを作るワークショップを行いました.暗いところに持っていくと光るおうちを作りました.親子連れを推奨したおかげで多様な人に来てもらえ,大人も子どもに触発されながら楽しく作ることができました.

また,PTAの方から依頼があって,子ども向けにプログラミングを教えるワークショップを担当し,Processingを使ったお絵かきプログラミングをやってもらいました.

先ほど加藤先生からもご紹介があったのですが,この間は中高生向けにグリーティングカードを作るワークショップを行いました.エンジニア的な楽しさと,ちょっとした大変さを味わってもらいました.モノづくりでは参加者の多様性が大事になりますので,このような活動を普段行っています.

土井:では,富田さんお願いします.今回のパネリストの中では雇われる側ではなく雇う側(笑)を経験しておられるということで,そういう立場からご意見をいただけたら.

富田:今はIPA(情報処理推進機構)ですが,去年まで富士通に40年以上勤めていましたので,富士通の話が主になってしまいますが,富士通という会社は,女性にやさしくない会社では決してなかったと思います(笑).ただ,やはりどこかで無理があるということはずっと感じていました.一生懸命ダイバーシティを進めていましたし,何パーセント以上管理職にしなさい ― たとえば,各部署で5人管理職にしてよいが,女性を入れたら6人にしてもよいというようなルールを作っていましたが,現実には6人目を出してこない部署が圧倒的に多い.そういうジレンマの中で進めてきたというのが現実です.

どうしてダイバーシティが進まないのかということを考えるにあたり,すごくうまく進んでいる会社を見てみますと,トップが本当に熱心で,しかもそのトップが3年,4年でやめないということです.大企業は大体交替してしまいますが,トップを継続できるような中堅企業で,そういうことに熱心なトップの会社は今非常にダイバーシティが進んでいるということを感じます.

もう1つは,大企業などでは特に顕著なのですけれども,制度が固められていて,働き方改革なんていってもなかなかできない.どうしてできないかというと,制度そのものが男性用にできているだけではないのですね.専業主婦を持った男性用にできている制度なのです.今日,矢島さんの話を聞いて目から鱗でした.男性用にできていると皆思っているけれども違う.専業主婦を持った男性用にできている.

実は今,専業主婦が700万世帯,共稼ぎ世帯が1,100万世帯だそうです.もう400万世帯も多いのです.これに加え独身世帯がすごく多くて,圧倒的に女性の働き手は増えているにもかかわらず,専業主婦を持った男性用に作られた制度をなかなか変えられない.

それからダイバーシティが進む会社では組織がフラットになってきていると思います.でも歴史がある会社ほどフラットではなくて,課長がいて,部長がいて,というところは変えられません.なぜかというと既得権があって,制度を変えようとしないのです.今持っている既得権,これが一番僕は大きいと思っていて,フラットな組織では既得権が少ないから変えられる.だからフラットな会社は割合にダイバーシティが進みやすい.これも大企業がやりにくいことの理由の1つと思うわけです.

日本を動かしているのが今,大企業だからいけないので(笑),ぜひ情報処理学会を中心にイノベーションをどんどん起こして,中堅とか,今日の招待講演の伊藤さん☆3のクリプトン・フューチャー・メディアみたいな会社がどんどん出てくることで自然に変わってくるのを待つしかしないのかなという思いがあります.

一方で,先ほどの矢島さんのような方が出てくるわけなので,やはり0.45%☆4かもしれませんけれども,今日この話をここで聞かれた方は残念ながら少ないのだけれども,デジタルプラクティスで出版しますし,どんどん宣伝してもらいますと,こういう話に感動する人たちはたくさんいると思います.男性の中でも実は本当にそう思っているけれどもできない人がいるのです.会社の中で,「お前,そんなのを男がとるの?」と言われたら絶対にとれなくなってしまう.だから矢島さんの会社がすごいのは,矢島さんがすごいだけではなくて,たぶん一緒に働いている方たちにも恵まれていたのではないかと思います.そういう皆の合意を,社会の合意として作っていかないといけません.安倍総理が「働き方改革,ダイバーシティ」と言うだけでは,なかなか進まないのではと思いますね.

情報処理学会があえて女性という言葉を入れないInfo-WorkPlaceを発足したことはすごく良いことだと思います.まさに男性の働き方を変えないと女性の働き方も変わらない.パートナーというからには相方がいるわけで,女性だけの働き方を解決しても仕方がない.女性が働きやすくするために男性はどういう働き方をしなければいけないかという役割分担も会社の中で考えていく.そういったことが働き方改革では必要なので,このInfo-WorkPlace委員会は,ぜひ息長く(笑),くじけずに,反対者はいるでしょうけれども(笑),頑張っていっていただきたいと私は思っています.

土井:ありがとうございます.

パネリストの皆さまの意見表明をしていただきました.本日はこのパネルではグローバル化,多様化の中で,多様な属性を持たれた人たちが活躍する場,ワークプレースについて考えましょうということで,それぞれ皆さまがどういうところで仕事をされているか,それを変える働きもされているということのお話を伺ったわけです.

今,富田さんも指摘されましたし,先ほど矢島さんも清水さんも指摘されたように,やはりその働き方が大事になります.清水さんは自分自身の働き方が変わって生産性が向上しましたというお話,同僚の方で段取りが良くなったというお話をされていましたし,矢島さんは男性の変化,自分自身が変化するというのもあるけれども,女性だけではなくその旦那さんである男性の働き方も変わらないといけないんだというお話がありました.

どこだったでしょうか.確か女性が育休をとるときに,その女性だけではなくて,男性も一緒にそのワーク・ライフ・バランスの講習をする企業があります.それがまさにその働き方を変えるというお話になると思います.たぶん,矢島さんも今はもうかつての長時間勤務体系に戻られているのではないかと推定するのですけれども,いかがですか(笑).

矢島:そうですね,毎日「すみません」と言いながら帰っています(苦笑).ただ,本当に育休をとる前よりは長く働かなくなりました.少なくとも僕の中では「子どもを風呂に入れる」という1つの基準を設けているので,そこまでには帰るよ,ということを会社の中で公言しています.

仕事というのは,やることがいくらでも山積みになっていきますし,加えて昔ながらの日本的な習慣といいますか,「まわりの皆が帰らないことで帰れなくなってしまっている」という意識もあるので,そこは何とかしていきたいと考えています.

土井:清水さん,いかがですか.

清水:「時間」というキーワードが出てきましたが,私もこの仕事をしていると,時間を使わないとできあがらないものがあって,時間を制限されると自分の仕事が直接制限されている気がしています.夜,働けないということは,導入作業の一番コアな場面に「すいません,行けません」と言わなければいけないし,保守もやっているので,夕方にお客さんから「なんだか調子が悪いんだけど」と言われても「ごめん,私,帰る」と同僚に言わなくてはいけません.結局,お客さんの一番力になってあげたいところができない.

時間を使わないとできないというこの仕事のやり方がなんとかならない限り,本当の意味で両立はできない.両立というか,自分のやりたいようには仕事ができないなと思ってはいます.

土井:今の保守の話というのは,海外だと「今日は土曜日,日曜日」だし,「もう夕方,もう終わったから,明日ね」とあっさり言いますよね(笑).日本だけなのではないかという気もするのですけれども,その辺りどうですか(笑).

富田:2つあって,1つは今までのIT導入や,システム構築を,お客さんが休みに作業を要求したり,土日の間に更改してくださいという要件があったりすることです.海外では,土日にシステム更改するということは自分たちも出てこないといけないし,そもそも土日に働くという発想がないのです.もちろん働く人は海外でもすごく働くのだけれども,それは自分のキャリアパスのために頑張るのであって,会社のために自分が身を粉にして働くという発想がない.だから,考え方の違いが現実には大きいのですが,日本もだいぶ変わってきたかなと思います.

もう1つは,今,クラウドになってきて,保守も特定のエンジニア個人ではなく専門の部隊があり,組織が受けるのだから個人に時間の制限があっても,組織として要員をキープできればいいというようにだいぶ変わってきています.これからのIT業界は昔の3K,6Kに比べると,少しずつ良くなってくる要素はあるのかなとは思っていますけれども,まだまだお客さんの中には何かあったときには夜中でも,というのは現実に存在しているし,会社としてはそれに応えなければいけない.そのときに,個人の都合を配慮した担当のアサインができる組織に変わっているかがポイントなのかなと思います.

土井:どうですか,木塚先生,何か付け加えることがありますでしょうか.

木塚:私は子育てとかの経験もないし,会社での勤務もしていないので,うーん(笑),コメントがしにくい.

土井:今のお話で思うのは,確かに日本の企業だときちんとお客さんに応えないといけないから無理するといったところが,ある固定的な人にアサインされてしまうところがあるのですけれども,海外では考え方がそういう意味では違います.グローバルになろうとすると,そういう人たちと一緒に働くのだから,やはり日本自身も変わっていかないといけません.今のように効率の悪い働き方をしていたら,きっと駄目ですよね.

その辺りはどうですか.フロアの方から,何かないですか.

中野(フロアから):友人が,ノキアでちょっと働いたことがあるのですけれども,つい日本の習慣で,5時終業で皆帰ってしまっても仕事をしていたらば,1カ月後に呼び出されてしまったそうです.「お前は成果をほかの人と同じ程度しか出さないのになぜ居座っているんだ」,「お前の仕事の効率は非常に悪い」と厳しく指摘されて,日本と考え方がまったく違う.成果を出すのなら同じ時間の中で成果を出したときにはじめて評価されるのだという考え方の割り切り方については,やはり文化の違いがあるなとしみじみ感じたそうです.

清水さんにお伺いしたいのですけれども,女性で休職をとられた方が復帰するときに,時間が経つとITというのはどうしても知識が1年ですごく変わる業界なので,情報がなく不安感があったりするかなと思いますけれども,会社は,お休みしている人にもこんな状況ですよというようなご支援はあるのでしょうか.

清水:必要があれば最新技術の勉強をさせてくれる機会はありますし,自社でやっていることについて復職する前に話を聞くこともできます.

ただ,それで不安が全部ぬぐえるかというと,そうではないと思います.ただ,私に限っていうと,今いる部署では,どちらかというと技術ではなくて経験がものをいうような,パッケージの導入のところなので,あまり不安に思ったことはないです.

中野(フロアから):どうもありがとうございます.

実は以前,ITではないのですけれども,資生堂の方とお話をする機会がありました.資生堂というのはすごく女性の社員の方が多くて,皆さん子育てで仕事を中断されたときに,定期的に会社がコンタクトをとって,現在,会社がどういう状況にあるかとか,あなたが前に所属していたところはこんな状況ですという情報を流すと,つながりが薄れなくて,復職率が上がるというお話を聞いていて,ITで本当はもっと支援ができるのではないかと思ったのです.矢島さんも4カ月間どうされていたのかお伺いしたいのですけれども,会社の状況はこんなのだよというようなメールが多少なりともあるとだいぶ離れた感がなくて,戻りやすいのではないでしょうか.今,休職をとろうとしている,あるいは休職中の方に,そういう話があると,復帰率が上がったり,少しいい感じになったりするのではないでしょうか(笑).

富田:自宅でメールを見られる環境がもし許されれば,メーリングリストから外されず,グループ会議の議事録がまわってくるだけでも,今,こんなことをやっているんだと分かって,たぶん少し不安が和らぎますよね.

そうすると,こんなことを皆始めているのだったら,自分もちょっと勉強しようかとやる気になるかもしれません.子育て中は勉強どころではなく,疲れるだけなのかもしれないけれども(笑),安心感があるように思います.

中野(フロアから):コンフィデンシャルなことが多く,会社がすごく厳しかったりするからそう簡単にはいかないと思うのですけれども,何かそういう試みがありますか?

富田:あまり聞いたことはないけれども,育休だけではなくて,そういうフォローの制度もあるといいですよね.

矢島:僕はコンフィデンシャルな社内の情報は基本的に得られなかったのですけれども,非常にSNSに助けられました.Facebook等で会社の知り合いとつながっているので,会社がどういった広報,プレスリリースを出しているかということを投稿から得られます.少なくとも現在は以前より会社の同僚の方とつながりやすい状況になっているのかなと感じています.

土井:今のところに付け加えると,私が前職の東芝にいたときに,研究所,ITだけではなく,いろいろな部署があるのですけれども,清水さんのように育休をとられた方に,先ほど中野先生が言われたような質問を何回かに分けて聞いたことがあるのです.最初は専門の勉強ができていないから不安があるのではないかと思っていたのですが,それはもうインターネットがあるし心配はいらないと言われて,それよりはメールや会社の中の週報が見たいということでした.希望する人は,セキュリティの問題があるので,会社のパソコンを借りて,それでログインすると,その週報を見られるし,半期に一度ぐらいにある集まりにも,もし出てこれるのだったら出てきていいよ,みたいなのをやったのです.

それをやった趣旨は,もちろん育休をとられた方のためでもありますが,自分にとってみれば介護休業ということもあります.育休は,子どもが大きくなるというハッピーな期間なのですけれども,介護休業で自分がずっとうちにいたら,きっとやっていられないだろうなと思いました.女性だけではなく,もちろん男性も育休をとれますし,男性も絶対にかかわる話なので,介護休業も同じようにやりましょうというと,人事部はそこに関してはオーケーだったのです.セキュリティにかかわるのでうるさく言われるかなと思ったのですけれども,オーケーになったので,ほかの事業所でも同じように取り入れられています.

やはり自分が会社から離れて一人ぼっちになってしまうというのがすごく寂しいと思います.インタビューしたときは10年前ぐらいで,Facebookもまだあまり使われていませんでした.自分はネットワークにつながっているんだという実感は必要かもしれないですね.

加藤:よろしいですか.

土井:はい.

加藤:まさしく私たちは情報処理学会や企業といった枠を超えて,そういうネットワークを作っていきたいという活動をやっているわけです.先ほどのネットワークという話は,おそらく企業の中のことだったと思うのですけれども,もし外部とか,会社以外で,ネットワークみたいなものがあると意味があるでしょうかということを,清水さんと矢島さんにお伺いしたいです.

あとSNSに近いのかもしれないですけれども,たとえば,学会がそういう場を提供して,女性支援やダイバーシティのためのネットワークがあると,現実問題としてちゃんと役に立ちそうなのかということを伺いたいなと思います.

清水:先ほどもちょっとお話をしたのですけれども,私だけの意見では足りないのかなと思ったのでこの講演のために同僚や東京にいたころの同じような状況の人と話をしました.そういう人たちと話をすると自分とまったく違う意見もあって,すごく面白いなと思いました.

今もインテックにいる人や,やめた人もいて,同じところにいたという輪があるので話が盛り上がるというところもあるのですけれども,同じ業界で働いている人の話を聞くというのもモチベーションを保つにはいいことだし,もしそういう機会があれば,聞きたいなと思うのではないかと思います,

矢島:個人的な見解になりますが,「社内の状況が知りたい」という需要に対して,社外で公開されている情報というのは,技術系メディア等に掲載されている情報と同じような見え方になってしまうのかな,という印象を持ちます.たとえば,僕も育休に入る前に育児系の記事をある程度は見ていましたが,実際の育休中にそういった情報を見たかというと,ほぼ見ておらず,妻に相談することがほとんどでした.組織や家庭それぞれに独自のルールや文化があり,その中に最適化された情報が一番必要になるのだと感じます.そのため,所属会社の枠を超えた外の情報になってくると,需要は非常に低くなると考えます.

なので,世の技術系メディアに掲載されるような業界情報と何が違ってくるのかな?という点で疑問を感じてしまいます.

富田:違う会社の情報を流すことで,こんな制度をやっているところがあったということを広めていく,いいとろの真似をする.それが本当の子育てのところで役に立つかと言われてしまうと,かなり具体的な話になるので,会社が違うと状況が違ってしまうと思うのだけれども,たとえば,今日のお2人の話だけでも,情報処理学会のほかの会社の人たちに知らせることはすごく役に立つ気がするので,そんな役割を情報処理学会は進めるのがいいと感じました.

木塚:ほかの会社の情報を聞くタイミングというのはいつがいいでしょうか.子育てに入ってしまうと忙しくて難しいかもしれませんが,それ以前に聞く機会があればよかったなということはないのですか.

矢島:それはたとえばどういった内容のものでしょうか?

木塚:他人の働き方の事例をテーマにしたようなダイバーシティ関係のイベントをやっても,なかなか聞きにくる人が集まらないのですが.そういうものがあればよかったなと思うことはありませんか.

土井:1つは保育園の入園申請.保育園というのは入るタイミングなどいろいろありますが,普段,会社にいて地元のことがあまりよく分からない.社内ではなく,社外という意味だと,その住んでいる場所のコミュニティに関するそういう情報が知りたいというのはあるような気がします.東芝も同じように3年間育休をとれるのですけれども,それを短くすることもできます.1年目で戻れるか,2年目で戻れるか.それは保育園に入れるかという(笑)のが決め手になっていて,入れたら戻る.なので,保育園の話は,関心のある話題だと思います.

矢島:同じように育児休業をとった他社の方の事例を聞くような機会があって,それが育休取得前から得られると嬉しいですね.さらに,そういった事例が「自分から意識的に探しに行く」レベルの情報ではなく,「日々の情報収集の中で入ってくる」レベルで得られると,僕のように触発されて行動を起こすような人が出てくるかもしれないと思っています.僕が育児休業をとろうと思ったきっかけの1つに,他社の尊敬するエンジニアの育休事例を見た,ということがあります.その方が育休中に書いていた育児ブログの中で,「育児というのはこんなに楽しいものなんだ,育休をとってよかった」という内容を書いていて,それを見て僕は勇気づけられました.

ほかの人の事例が僕の育休取得の大きなきっかけになったので,たとえば今回の講演でお話ししたような「男性の育休取得事例」を僕が育休前に情報として得ることができていれば,もっと気軽に育休をとることができたのかな,と思う部分はあります.

さらに,そういった事例を自分が所属する会社の中の方に向けて具体的にお伝えするだけでも,社内の方の受け止め方は大きく変わってくるのではないかと感じました.

土井:ということです.参考になりましたでしょうか.あと今のお話にも絡みますが,働き方がものすごく時間に縛られているけれども,矢島さんであればお風呂に入れるために帰るということによって,すごく効率良くなっていると思うのです.自分でも振り返ってみて,育児の前と後ではやはり働き方の効率が違います.すごく集中してやって,やることを覚えたなと思う.というか,もうそれでやらないと生きていけないので,そのノウハウみたいなものを発信するというのもあってもいいのではないでしょうか.

先ほどの中野先生が紹介された,同じ時間でたくさん成果を上げたほうがいいという文化にしていくためにも,そういうのがあってもいいのではないかなという気がするのですけれども,あまりそぐわないですか(笑).

矢島:シンプルな話なのですけれども,「成果が測れない」という現場が非常に多くあるかな,と感じています.

土井:成果が測れない.

矢島:結果として「時間で評価する」という部分はまだまだあると思うのです.それを変えられるかというと,たとえば,「開発の人が直接,売り上げや利益に対してどれほど貢献しているか」といったような評価制度自体の見直しの話までいってしまうので,おそらく皆さんすごく距離を遠く感じてしまうのかな,と感じています.

土井:IT業界はお客さんから仕事をもらってくるために見積るではないですか.その見積りが生産性なので,だからそういう意味で成果が見積られているのだと思うのです.それでその成果の見積りに失敗すると,損をするわけですけれども,逆にほかのものよりは成果が測りやすいので,やりやすいのではないかなと思って発言させていただいたのですが,そうではないのですか(笑).

富田:会社の仕事というのはそれだけではなくて,いろんな雑用があったり,いろんなことがあってそのためにかなりの時間使っています.プログラム開発に入り込んだら,それだけやっているときというのは生産性を測れるのだけれども,いつもそうではないから,忙しくないときはいろんな雑用をやったりしていて,それでも同じ給料をもらっているので難しいのだと思うのです.

ただ,そんなことだけを言っていては駄目で,これからどんどん女性も人材の流動性も作っていかなければいけないし,先ほど言ったようにグローバルで戦っていかなければいけないときに,外国人だけ,いい給料を払っているような会社ばかりになっている状態というのをどこかで打破しなければいけないとすると,評価できるようにしていかなければいけないのだと思います.間違ってはいけない評価などはないので,間違ってもいいのだけれども,間違ってもこういう評価をするぞと宣言して,少しずつ評価の精度を上げていく努力をし,また各自がその評価に堪えるように,頑張っていくように変えていかなければいけないとは思っているのです.

ぜひそのように皆で盛り上げていかないといけない.どこかの会社がやり,その会社がダントツの業績をあげ,アマゾンや,グーグルになってくれればいいのだけれども,日本ではなかなかそうはならない(笑).その会社がそういうことをやって本当に業績が良くなったのかということがなかなか分からないので,なんとなく時間で測ってしまうことが多いのですが,そこは変えていくことが大事だということを情報処理学会などがどんどん言っていってもいいのではないかということは感じます

我々の業界も昔の時間売りの商売からだいぶ変わって,サービスを提供する業界になってきました.会社もプログラムを作ってなんぼはあるけれども,それを提供するサービスの価値でお金をもらうということに変わりつつあるので,少し状態は良くなってきていると思います.そういう流れを作り,考え方を伝えることが働き方改革にもつながるし,業界の価値向上につながっていく話だと思います.

あと,今までの話が子育てばかりだったのだけれども,よく考えると,独身者の人口も多いのです.男性も女性も(笑).独身者もやはりダイバーシティの一員です.先ほど,子育ては関係ないと言われてしまったのですがいかがですか.

木塚:関係なくはないです(笑).

富田:独身者というのは,実は男性も独身者が増えたということなのです.先ほど言った専業主婦を前提とした男性の文化に独身者も合わないのです.料理は自分で作っても外食でもいいけれども,洗濯は自分でしないといけません.全部クリーニングに出せるほどお給料をもらっていないわけですよね.

そういうのを考えていくと,男性がある程度,そういう家事をする状態になってきているので,家事は奥さんがする会社制度の中では成り立っていかないということも考えないといけないと思います.独身者にとってということは,独身女性=独身男性にとってなので,そこも1つあるような気がしています.ダイバーシティというと,女性となるのだけれども,実際は,独身もいれば,専業主婦型,共稼ぎ型もいるし,実は母子家庭もあれば,父子家庭もあるという本当の意味でのダイバーシティの中での働き方もしっかり考えていかないと,会社から見ると,会社として強くなっていかないし,働く人から見ると,行きたい会社にならないのではないかなと思います.

ここにはあまり独身者はいないのかもしれないけれども(笑),独身という立場の発言もあってもいいかと(笑),もっと声を大きくしてもいいのにと(笑).

木塚:私は独身なのですけれども(笑).

富田:すみません(笑).

木塚:どうなのですかね.

富田:会社に勤めていないとおっしゃっていましたがどうですか.

木塚:独身者がダイバーシティの文脈でピックアップされてこなかったというのは,今気づきました.

土井:ダイバーシティというのは本当に多様なので,何を含めて,どこまで範囲を広げて考えていくかというのはすごくあるとは思います.

富田:今日は子育て中心でいいと思います.

土井:そういう意味ではAIに仕事を奪われるとか,今日の招待講演であった初音ミクの話ではないですけれども,初音ミクがロボットになったら,ちゃんとあの細さで歩けるロボットができるかというとちょっと疑問です(笑).もしそういうのができたら,秋葉原のメイドのお仕事もなくなるでしょうし(笑),どこまでダイバーシティ,ダイバー層を考えるかということです.

当面はこの範囲を考えればいいのではないかなどございませんか.私はあともう1つあります.先ほど,ちらっと言ったのですけれども,介護ということです.私の知っている男性は,専業主婦の奥さまがずっとその男性のお母さんの介護をしていらしたのですが,奥さまが亡くなられて,自分がやらなければいけなくなった.だけれども,実の親子なのに会話ができない.ケアの方が来てくれたら,自分はもう退職しているのだけれども,邪魔だから会社に行っているように,どこか喫茶店で時間を潰していました.とても寂しいなと思ったのです.

そういう意味では,喫茶店で時間を潰しているよりはやはり働いてお金を稼いだほうがいいかもしれない.たとえば,90歳まで生きるとか,88歳というと,私でもまだ30年近くありますが(笑),平均寿命はそれくらいですよね.会社人生が35年とすると,それに近いぐらいまだ生きるのかと思うと,とても長いなという気がします.そういう意味ではどこまでダイバー層を考えたら良いでしょうか.

情報処理学会の女性会員数を増やしたいというのもあります.あともう1つは,シニアが定年になると,どこかの学会をやめるのですけれど,1つぐらいは残してくれるかもしれない.そのときに情報処理学会を残してくれるというふうになるためには一体何が必要かというのもありますし(笑),シニアのワークプレースを考える時期でもあるとは思うのです.

加藤:そうですね.今の情報処理学会の取り組みだと,若い人に,いかにこの業界に魅力があるかということを伝えたいというのもあって,そういうネットワークを作っていきたいのですけれども,シニアのことは実はあまり考えがなくて(笑),というよりも考えていないところがあります.ただ,若い人にはこの業界がそんな悲惨な業界ではないということを伝えていきたいです(笑).皆さんは,ご自分の娘さんに伝えていきたいというのがあったと思うのですけれども,この業界に魅力があって,入っていきたいと思ってもらえるような,そういう働き方をしている私たちだということは伝えていきたいという気持ちがすごくあります.

シニアはちょっと(笑),あまり考えていなかった.

土井:すいません,余計なことを言いまして(笑).

加藤:いえいえ(笑).

土井:あと残り10分ぐらいなので,この業界に入ってくる若い人に,魅力ですとかアピールしたいことを語っていただければと思います.

木塚先生からいかがですか.

木塚この業界というか,情報処理学会に入ってくる人に向けてですが,これまではなんらかの研究発表をするから学会に入らなければいけないというかかわり方しかしていないと思います.でも日常的に自分がやりたいことと学会の活動が関連してくると,勉強会など学びの場として学会を活用する,プライベートでも積極的に参加できるようなかかわり方ができるのではないかと思います.若いエンジニアは特に,そういう公私混同な働き方になってきているのではないかなとも思っています.日常の生活から情報処理に触れて,勉強しながらそれを仕事に活かすといったお付き合いの仕方をしていくとすごく楽しくなるのではないかと思います.

土井:たとえば,子どもを集めて木塚先生たちがやっていらっしゃる電子工作体験のようなものを会社でやろうと思ってもなかなか企画できないけれども,木塚先生のところに,こういうのをやりたいんだと言って持ちかければできるみたいな,そういうことでしょうか(笑).

木塚塚:はい,そういうことも(笑).

電子工作が楽しいとか,情報とか,いろいろプログラムを書くのも楽しいということについては,こういう仕事をしている人は皆何かしら思っていると思うので,そういう楽しい気持ちを活かしていくといいのではないかと思います.

土井:自分の感じているものづくりの楽しさというのを発信する場として利用してほしいということですね.

少しは予算がついているのですか(笑)

木塚:ちょっと(笑).

土井:では,順番になってしまうのですけれども,富田さんいかがですか.

富田:いつかは分からないのですが,情報処理学会としては,情報分野の仕事をする人たちにとって働きたい環境というのは何かということを考えていかなくてはいけないと思います.自宅で働けるような制度をやり始めた会社もありますが,そういう会社は先ほど言ったように成果が見えないので,ログインした時間だとかを,かなり監視しています.いろんな制度を試行錯誤し,いろんな方法が試みられていると思うので,情報処理学会の理事は大手企業の方が多いのですが(笑),中堅企業が結構良いことを試みているところが多いようなので,そういう情報を学会員の中で集めていくような活動をすべきだと思います.会社のマル秘を出すわけにはいかないけれども,会社の自慢話は嫌がらないところは多いはずなので,ぜひ自慢話をしてもらって,そういうことを参考にしていく.こんなことをやっている会社があるのだというようなことを発信してもらえると,ワークプレースの中で皆に伝わっていって学会員のためになる.最後はやはり学会に魅力がないと人は集まらないので,情報処理学会を魅力ある学会にしていきたいと思いますし,そんなことが話題として出てきたら少しは魅力ある学会につながるのではないかと感じました.

土井:はい.ありがとうございました.

清水さん,お願いします.

清水:こういう学会的なところで話をするとちょっとピンとこないかもしれないのですけれども,私がこの仕事をしていて楽しいと思っていることは,技術というのが根底にある業種だとは思うので,私の感覚としてはそれを人間が提供するところがすごく面白いなと思っています.私は販売管理のシステムをやっているので,お客さんが自分たちの売る手法みたいなものをべらべら私たちにしゃべってくれるのです.それを私がシステムに落とすのです.お客さんの肝になるところに入り込んで,それを実現してあげるというところにすごく魅力を感じているので,それをどういうふうに発信していくのかは難しいですけれども,そういう醍醐味みたいなものをアピールできていければいいのかなと思っています.

そういうものはコミュニケーションで繋いでいるところなので,女性はそれが得意だったりもするので,女性に向いている仕事だなと思います.

土井:要求定義の一番難しいところを一番楽しいと(笑),思わず,えっ,本当と絶句してしまうような(笑).

清水:いや,うまくいかないこともありますが(笑),面白いなとは思っています.

加藤:女子学生にはすごく伝わる気がします.

土井:うん.そうそう.

清水:うちの会社は結構,文系からも入っています.

土井:だからそういう発信が必要だということですね.

では,矢島さん,お願いします.

矢島:私の会社の事業は,主にBtoCのインターネット系サービスになります.一般のお客さまにどれだけ自社サービスで楽しんでもらえるか,喜んでもらえるか,幸せになってもらえるかというのをインターネットの仕組み,技術を使って実現しているのですけれども,その実現方法に限界がないところに面白さを感じますね.何かを考えてカタチにしようと思ったら,コンピュータの仕組みを使って,今ですとモノもインターネットに関連付けられますし,何でもやれるというところが非常に魅力的です.自分が小さいときにプラモデルを作って楽しかったような体験,モノを組み合わせてかたちにしていって,最終的に素晴らしいものを作り上げるというところが非常にリンクしているので,子どもたちには「そういうモノづくりの面白さの延長線上に,僕らのやっているような仕事の楽しさがある」ということを伝えたいな,と思っています.なので,自分の子どもが通う小学校においてもいろいろと楽しみにしているところがあって,希望を持っています.

さらには今回のテーマである「ワークプレースのあり方」や「ダイバーシティ推進」を考えますと,やはり企業というのは基本的に売り上げをあげて利益を出して成長していくというところにミッションがあるので,「ダイバーシティ推進が,売り上げや利益の向上に繋がったような実績」を持つ企業の事例をもっと具体的に詳しく掘り下げて,その情報をプッシュ型で伝えられるような仕組みがあるとおそらく業界に響いてくるようなケースもかなり出てくるのではないのかなと感じています.

土井:今のお話は,先ほど招待講演で初音ミクについて伊藤さんが話されていたことにすごく繋がるような気がします.初音ミクという非常に貴重なボーカロイドを儲けのために囲い込むだけではなくて,一般の人たちに開放して,なお,それがきちんと流通できる仕組みを作って,ユーザを巻き込んで皆で楽しんで作っていきましょうとやっていますよね.ああいうことができるというのはやはりITというのはすごいなと感じます.最後のほうの質疑応答で高専の男の子が神だとかなんとか(笑).そういう発言にもちゃんと答えていただいていて,あのデザインがグローバルに全部通用していく.そういう意味では,まさにその矢島さんの言われている話もそうだと思うのです.

清水さんが言われた要求定義というと難しくなるのですけれども,皆の,楽しみたいとか,なんとかしたいとか思っていることを上手にプログラムや,これからはArduinoなどの上に乗っかってくるかもしれないですけれども,そこをやっているのだよ,お客さんにいじめられるだけの6Kの職場ではないのだよ,というところが発信できるといいですね.

今日は大変勉強になりました.ありがとうございます.(拍手)

編集担当:住田一男((一社)人工知能学会)

左から:木塚あゆみ氏,富田達夫氏,清水美奈子氏,矢島卓氏,土井美和子

脚注
  • ☆1 清水美奈子氏,矢島卓氏の講演概要は本パネル討論「COLUMN」をご覧ください.
  • ☆2 本特集号の招待論文「情報処理学会におけるダイバーシティ推進」をご覧ください.
  • ☆3 伊藤博之氏の講演概要:http://www.ipsj.or.jp/event/fit/fit2016/syoutai.html
  • ☆4 1カ月以上の育休を取った男性の比率