日本国内では急激な少子高齢化への対策のほか,2016年4月からの障害者差別解消法の施行に伴った合理的配慮の明示的な社会実装が求められている.特に,障害者支援という側面では,障害概念における個人モデルから社会モデルへの変遷に伴って,日本国内でもこの動きに対応した制度変更が実施されてきた[1].特に,国際連合の障害者権利条約における合理的配慮が日本国内で義務化された.このため,建築などのハードウェア的側面のみならず,サービスなどのソフトウェア的側面での改善も求められている.
以上の状況下において,身体に不自由のある者の移動障壁の軽減のために,交通計画の見直しのほか,市街地や建物内のバリアフリー化がさらに進められている.しかし一方で,このようなバリアフリー状況に関する情報は,局所的・断片的で時に入手しにくい.結果として,当事者はバリアフリー状況を知ることに困難を感じて外出を躊躇することがあり,社会参加や娯楽の制限が発生し得る.
また,アクセシビリティ状況を発信するボランティア団体も存在する.たとえば,多目的トイレの取り組み,認定NPO法人ことばの道案内による「ことナビ」,(株)ミライロが提供する「Bmaps」が好例である[2],[3],[4].しかし,継続的なアセスメントには労力を要するため情報更新が滞りがちになるという問題には,いずれの取り組みにおいても直面せざるを得ない.このような問題を軽減できれば,障害者の外出機会や娯楽の制限が緩和され,社会参加の促進やQoL(Quality of Life)の向上に繋がると考えられる.このため,当事者やボランティアがこのような情報を容易に共有可能な枠組みの構築と,当事者自身が気軽に発信できるシステムが求められる.すでにOpenStreetMapを利用した実験的検討はあるものの[5],継続的な運用を行う上ではさまざまなユーザグループでの評価を基にした検討が必要である.
そこで我々は,実地でのアクセシビリティ状況を共有するためのシステムReAcTS(Real-world Accessibility Trans-action System)の開発を行ってきた.これまで,大学構内におけるバリアフリー状況のアセスメント支援と,クラウドソーシングによる手書き情報の電子化,およびそれらのスキームの比較を行うなどした[6],[7].また,視覚障害者を想定した街中の音響支援機器の状況共有なども実施してきた[8].しかし,ボランティアグループやその目的ごとに収集すべき情報は異なるため,さまざまなグループでの評価を行い比較考察を行う必要がある.
このため本研究の目的を,モバイル機器によるアクセシビリティ状況共有アプリケーションの開発・改良と,ボランティア支援の効率化スキームの提案とする.本稿では,まずは我々の開発したプラットフォームの全体像やインタフェースについて述べる(第2章).次に,地域ボランティア(第3章)および生涯学習グループ(第4章)による情報共有の支援結果について述べる.結果より,本システムは,各グループによる実地アセスメントやその結果をまとめる際の効率化に貢献できることが分かった.なお,第3章および第4章の検討に際しては,東京大学ライフサイエンス研究倫理支援室より承認を得た.
図1に我々が開発した情報共有システムReAcTSの概要を示す.本システムは,iPhoneアプリケーションと情報共有Webサーバの2つから構成される.iPhoneアプリケーションは個々人での情報入力を主な機能とする一方で,Webサーバは各人から集められた情報の閲覧・編集機能を主に担当する.
iPhoneアプリケーションは1)地図ビュー(Map view),2)詳細入力ビュー(Input view),3)共有結果閲覧ビュー(Shared Info. view)の3つの画面から構成され(図2),Xcode 6.3.2以降(OS:Mac OS X 10.10.4以降)を開発環境としてObjective-Cで記述されている.本インタフェースの設計にあたっては,高齢者などが利用しやすいよう,ユーザ中心設計(UCD)の思想[9]のもとで,iOSヒューマンインタフェースガイドラインなどの指針[10],[11]に基づいた.
1)地図ビューは基本となる画面として構成され,情報入力された地点と,各地点における大まかな状況を確認できるように作られている.地点ごとの状況をユーザが簡易的に把握できるよう,これらの状況はマーカとして表示されている.ユーザは,この画面を通じて新規情報入力や入力済みの情報の編集を行う.
情報入力・編集の際には,地図ビューから2)詳細入力ビューに画面が切り替わる.詳細入力ビューでは,ユーザはその場の状況の概要(マーカとして表示されるもの),写真,詳細テキストを入力できる.入力結果は,GPS座標に紐付けられた現在地に,その場の状況を示すマーカとして割り付けられる.このマーカ情報はスマートフォン内ではSQLiteデータベースとして管理され,JSONやXMLなどほかのフォーマットにも変換できる.
3)共有結果閲覧ビューは,情報共有Webシステム中に共有された情報を確認するための画面である.情報共有Webシステム(OS:Ubuntu Linux 14.04)は,PHP 5.5.9およびJavaScirptで記述されており,MySQLをデータベースとして持つ.本システム上に配置された情報閲覧ビューは,共有された情報をGoogle Maps上にマーカとして表示する機能を有している.
第2章で述べたシステムを用いて,地域ボランティアによるバリアフリー状況の収集・共有実験を実施した.具体的には,東京文京区のボランティアグループである本郷いきぬき工房と,NPO法人街ing本郷とが企画した東京都文京区本郷におけるバリアフリー状況アセスメント会で本アプリケーションを使用した.この地域は,歴史的な観光資源が多い一方で,狭く急な坂が多くアクセシビリティ状況の改善が進んでいない地域である.
本評価実験は2回に分けて行われた.初回(2015年7月)の評価結果を踏まえてシステムの改良を行い,2回目(2016年3月)で評価を改めて行った.
初回は8人のボランティア(男性5人,女性3人)のほか,電動車椅子の利用者2名が参加した.このうち5名が前述のボランティアグループに属し,アセスメント地域について詳しい者であった.2回目は39名のボランティアのほか,前述した電動車椅子の利用者2名が参加した.このうち12名が前述のボランティアグループに属す者であった.
評価にあたっては,まず,参加者にアプリケーションがインストールされたApple iPhone 5sを配布し,使用方法および実験上の注意事項を教示した.初回は全員に,2回目は12名に配布した.彼らには,バリアフリー/非バリアフリーである場所における写真を撮影するほか,具体的な状況をテキストで共有するよう依頼した.この教示のあとで,約3時間にわたって実地アセスメントが行われた(アセスメントの様子は図3を参照).初回は1コースのみ,2回目は3グループに分けて別々のコースを回った.実地アセスメントの終了後,ボランティアグループによる収集された情報の確認と整理が行われた.また,2回目の評価の際に,アンケートでアセスメント会に関する感想に加えて,アプリケーションを利用した者にはSystem Usability Scale(SUS)[12]による使用感について評価させた.
図4左図に,初回のアセスメント会の際に集められたバリアフリー情報の例を示す.太線で表示された線は,GPS情報を基に得られた通過ルートの軌跡を示している.
全部で70件の情報入力がなされ,主に観光資源に関するもののほか,急な/なだらかな坂や車椅子が通りやすいスロープの情報などが含まれていた.図中に3色で表示されたマーカは,車椅子利用者にとっての通過しやすさを示している.これらの判断基準は,傾斜計による計測結果のほか,車椅子利用者の主観を総合したものである.結果として,41件が通過しやすい,7件が要注意,17件が通過しにくい場所として報告された.通過しやすい場所としては,安全かつ見通しの良い道や観光資源が共有された.このアセスメント時点では,観光地のマーカが含まれなかったため,ボランティア側で観光地をこのカテゴリに含めたようであった.システム改良の上ではこの点の検討が必要であるが,2回目のアセスメントの時点でも変更はしなかった.これは,今回のボランティアが入力を煩雑にしないことを求めたためである.また,要注意・通過しにくい場所の中には,急な坂,狭い道,凸凹な道などが含まれていた.ほかの5件については,観光地における多目的トイレや,大学などのエレベータに関する情報が含まれていた.
アセスメント中の参加者は,自然と役割分担を行っていく傾向にあった.具体的には,先導を行う者,データの入力を行う者,傾斜度などの計測を行う者,車椅子利用者の主観を積極的に取ろうとする者である.特に,スマートフォンなどのICTに苦手意識を持つ者は,車椅子利用者の坂の昇降支援および主観聴取にシフトしていく傾向があった.また,この主観情報を,ICTに苦手意識を持たない者が次々と入力していた.本評価においては,情報入力を行う者,計測を行う者,それ以外の役割を見つける者の比率はおおむね1:1:3程度であった.このような実地計測を行う上では,参加者の自然発生的な役割分担について支援できる仕組みがあることで,さらなる情報収集の効率化が図れることが示唆された.
図4右図に示すような紙面版のバリアフリーマップを作成したボランティアによると,このマップを作成するにあたって,開発したシステムが有用であるとのことであった.具体的には,バリアフリー情報の閲覧のしやすさが特に好評価であった.彼らは,本システムを使う以前は,紙媒体の地図にアセスメント結果を手書きで書き込んでいたため,時に文字の判読や,書かれた文字がどの地点に対応するかを判別するのに苦労していた.また,紙媒体の地図の場合は縮尺の調整が即座にはできないほか,現在地が分からなくなるという難点があった.本システムでは,これらの点が解決されており,情報確認の容易化に繋がったといえる.しかし一方で,複数人の使用者が同地点に多くの情報を共有した場合,どの情報を取捨選択するかに難儀したとあった.このコメントを踏まえた,1地点に多くのデータが共有された場合の一覧性の向上方法については,今後の改良事項である.
また,図4のように整理されたバリアフリーマップとその際の整理方法を踏まえて,図5のようにパソコンやタブレット上で編集可能なマップを試作した.本マップは,図1のサーバ上のデータに基づいてWebブラウザ上で操作できる.本マップの開発にあたり,整理を行うボランティア間での議論を円滑に行えるよう設計した.具体的には,マーカに紐付けられた情報の表示/非表示の切替,マーカ情報の吹き出し位置の調整などを簡単に行えるようにした.本マップを実験参加者に試してもらったところ,紙面版のマップの作成が簡単にできそうだとの意見をいただいた.
図6に,2回目のアセスメントの際に集められたバリアフリー情報の例を示す.この結果は,3.2.3節で述べた編集用マップを使って整理したものである.この際は,全部で134件の情報入力がなされ,入力された情報の傾向は,初回アセスメントとほぼ同様であった.また,要注意・通過しにくい場所の中には,急な坂,狭い道,凸凹な道などが含まれていた.ほかの5件については,観光地における多目的トイレや,大学などのエレベータに関する情報が含まれていた.
参加者の行動についても,初回のアセスメントと同じ傾向であった.ただし本調査には,防災などに関する専門知識を持つものが数名含められていた.彼らは率先して確認すべき場所をチェックするとともに,専門知識を持たない者に説明をしていた.この結果,専門知識を持たない者も,次第に彼らの行動を真似て確認すべき点を理解していく傾向にあった.このような参加者同士の交流をより促進できれば,情報収集にあたってのボランティアの知識や行動を効率化できる可能性がある.
図2および図5に示す本システムのSUS得点およびSUSの各項目の評価結果を図7に示す.SUS得点は67.7点(標準誤差2.9)であった.Bangorらの作成したSUS得点の目安表[13]によると,本得点は受け入れやすさ(Acceptability)では,わずかながら受け入れやすい(Marginally high)ものであった.また,良し悪しの総合評価(Adjective ratings)では,問題ない(OK)ものであった.このため,まだまだ改良の必要があるといえる.なお,評価者の半数では70点以上(受け入れやすさで「十分に受け入れやすい」(Acceptable)とされる得点)を超えていた.
SUSの細かな項目を見ると,操作の容易さについては高く評価された一方で,操作の一貫性や専門家の不必要性において低く評価された.このため,本アプリケーションにおいては,特に説明書の充実のほか,チュートリアル機能を付けるなどの工夫が求められると考えられた.
地域ボランティアグループにおいては,元より障害者支援に対する理解のある者が多く集まっていた.一方で,彼ら以外からも情報収集ができることで,よりアクセシビリティ状況の収集の効率化が図れるはずである.
そこで,我々は生涯学習を行う高齢者グループに着目した.彼らに対するスマートフォン講習会と銘打ちつつ,その地域の小学生のための安全マップをスマートフォンを用いて作るイベントを開くこととした.本イベントは,千葉県柏市にて,市と社会福祉協議会が連携して行っている「豊四季台くるるセミナー」[14],[15]という企業退職者などの高齢者向けセミナーの運営者との協力の下での開催された.本講座は,2015年10~11月に行われた.
本イベントには,22名の65歳以上の高齢者のほか,5名の65歳未満のボランティア(地元小学校のPTAなど)が参加した.2名を除いて,全員がスマートフォンの初心者であると回答した.後述するアンケートに回答した15名のうち,10名がスマートフォンに興味があった,5名が安全マップの作成に興味があった,5名が新しい技術・知見の獲得のために参加したと回答した.
本イベントは4回にわたる講義・演習形式で開催された.初回ではスマートフォンの練習セッションを開催した.このとき,まずは全参加者にApple iPhone 5sを配布し,スマートフォンで利用するジェスチャ操作について学習させた.さらにマップ,カメラアプリの使用を行い,テキスト入力の練習をさせた.第2回では,我々の開発したアプリケーションの使い方を学習してもらい,会場周辺の実地アセスメントをこのアプリケーションを用いて行った(アセスメントの様子は図8参照).この際のアプリケーションのインタフェースを図9に示す.操作の簡易化を図るため,入力するアイコン種類を4種類(◯:良好,!:要注意,×:危険,?:備考)に減らすなど,図2のものからさまざまなチューニングを行っている.第3回・第4回ではさらにアセスメント範囲を広げて,状況の簡易評価(アイコン選択)・テキスト入力のほか,写真撮影を行わせた.各アセスメントでかかった時間は約2~3時間である.実地アセスメントの終了後,PTAの参加者が中心になって,収集された情報の整理と確認がなされた.
また,これらのアセスメントの終了後に,参加者には講習会としての感想・意見をアンケート方式で記述させた.
図10に収集された情報を示す.3回にわたるアセスメントの際に,それぞれ20件,36件,74件の情報が共有され,合計で130件のアクセシビリティ状況についての情報が集められた.また,21件が通過しやすい/安全(◯),64件が要注意(!),27件が通過しにくい/危険(×),18件が備考(?)として報告された.これらの情報には,道の状況や遊び場としての安全性などが入力されていた.具体的に要注意・危険な場所として報告されていたのは,狭く見通しの悪い道,歩道にガードレールのない場所,交通量の多い道,路面状態が悪い道,過去に交通事故が報告された場所などであった.
なお,各地点におけるアイコン選択の判断は,各者の主観に基づくものであった.ただし,危険な地点では多くの情報入力がなされたため,投稿数の違いで危険性の度合いが一見して分かる形となった.また,図11に示すような収集された情報から代表的な結果を抽出してマップとして整理する上では,これらのアイコンは参考程度にしか使われなかった.
アセスメント中の参加者の行動を見ると,第3章で述べた地域ボランティアと同様に,彼ら自身が自然と役割分担を行う傾向にあった.先導を行う者,データの入力を行う者などである.
ただし,今回の試行では参加者がばらばらに動いてしまうことが多いことや,参加者によってはほぼ散歩するのみの状態になってしまった者もいた.特に,本試行においてはPTAの参加者が積極的である一方で,スマートフォンを習うこと以上を求めていなかった参加者は消極的になってしまった.このため,参加者の参加目的や意識に応じて,彼らに情報入力を促したり,アセスメントへの積極的な参加を促したり,彼らにより楽しんでもらうためなどの方法が必要であるといえる.
アンケートの集計結果を図12に示す.多くの参加者がスマートフォンによる情報共有を楽しめた,マップ作成は楽しく,スマートフォン学習に効果があるなどの項目に対して肯定的に回答していた.また,安全マップ作成の意義や,子供にとって危ない場所があることに対する気付きを得られたと回答したものも多かった.したがって,本システムを通じたアクセシビリティ状況の共有活動は,高齢者にとってのスマートフォン学習や安全マップ作成の啓発などに役に立つことが示唆される.
一方で,アプリケーションデザインについて意見したいと答えたものは少なかった.彼らは,学習することに対しては意欲的である一方で,アプリケーションの開発・評価には積極的にはかかわろうとはしないといえる.
また,本講座の再度の参加についても,ほかの項目よりも意見が割れた.本項目に対して「どちらでもない」「そう思わない」と回答したものの多くは,スマートフォンの使い方の講座のみに興味を持つ者であった.このため,今回のような企画で地域情報を集める場合は,多様な意見や目的を持ち得る高齢者に対する理由付けを工夫する必要があることが示唆された.
自由記述内容を見ると,全般的にスマートフォンの使い方をより理解できたと答えた者が多くいたほか,操作が楽しかったと回答した者もいた.さらに特に高齢者からは,マップ作りを通じて地域における課題に対してより意識的になったなどの意見があった.また,以前PTAなどで安全マップの作成に携わった者は,以前の紙媒体を利用した調査よりも効率良く防災状況の確認作業を進められたと報告した.さらに,ほかの地点などでも同じ取り組みをやってみたいという回答以外に,他種類のハザードマップの作成や,子供と一緒にやってみたいなどの報告があった.
一方で,まだ一般公開されていないアプリケーションを講習会で使うことに対して否定的な意見もあった.また,iPhoneではなくAndroidを使っている者においては,操作方法の違いから混乱したという意見もあった.この点は今後の検討課題としたい.
図11の整理された安全マップについては,後日この地域の小学校に寄付された.この学校の教諭からは,以前作成された安全マップよりも詳細な内容が書かれており,分かりやすいなどの感想をもらうことができた.また,総合学習などの授業に本システムを用いた安全マップ作成を行うことで,児童の地域に対する理解の促進などが図れる可能性があるという意見をいただけた.
第3章および第4章で行った検討の結果をまとめる.双方のグループにおけるアセスメント結果およびアンケート結果から,本システムは情報収集の支援に効果的だと示唆された.特に,操作の容易さのほか,既存の紙面でのとりまとめ方法よりも効率良く情報収集・整理ができる点が本システムの利点であるといえる.ただし,図7の結果より,操作の一貫性や専門家のサポートについては要改善であると分かった.特に,こういった情報収集活動に一時的に参加する者もいるため,今後はインタフェースの改善のみならず,説明書やチュートリアル機能など初めて利用するユーザのための工夫なども求められる.
アセスメント時の行動から,ボランティア経験や専門知識のある者とない者とでは,支援内容が異なる可能性も示唆された(第3章).ボランティア経験のある者たちでは,役割分担が自然と発生することから,この役割分担を支援できる仕組みがあることで,さらなる情報収集の効率化が図れることが示唆された.また,山田らは学生と非営利組織の職員が相互に協調したところ,効果的に意識を高め合うとともに学びあえたことを報告している[16].このように,専門家と非専門家の協調を高める機能実装も望まれる.
一方で,高齢者グループのように参加目的がボランティアではない者たちが多く参加する場合(第4章)は,積極的な参加を促すための仕組みが必要であることが分かった.たとえば,今回の検討ではスマートフォン教室と地域安全状況の確認の2つの目的を設定したため,参加者によってはスマートフォンの学習のみにしか興味を持たない者がいた.よって,目的を安全状況の確認などに絞って単一化するなどして参加者を集める方策が必要である.または,実地での調査の際に,その場でスマートフォンの学習をできるような講習を組むなど,複数の目的に沿った形での課題設定といった工夫も求められる.
本稿では,まず実地アセスメントなどを行うボランティアの支援の必要性について述べた後,我々が開発しているバリアフリー情報共有システムを紹介した.次に,地域ボランティアや高齢者グループによる実地アセスメント結果について述べた.この結果,本システムはバリアフリー状況のアセスメントや結果を共有・整理する際の効率化に貢献できることが分かった.また,システムの検討結果から,ボランティアの経験や知識,参加意識の高さに応じた支援が必要である旨を考察した.
今後は,今回取り上げたグループにおける地域情報のメンテナンスを行う.さらに,ほかのさまざまなグループにおいて本システムを通じたマップ作成を行い,その際のユーザからのフィードバックを基に,さらなるシステム改善を実施する予定である.その上で,一種のCitizen science(市民による科学)やソーシャルイノベーションなどの一助にできるようにしたいと考えている.その成果の1つとして,
「バリアフリー情報のポータルシステム」と呼べるものも創出したいと考えている.
謝辞 本研究は,科学技術研究費補助金若手研究(B)(課題番号:15K16394,平成27年〜29年度),第45回(平成26年度)三菱財団社会福祉事業・研究助成,(独)科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業【戦略的イノベーション創出推進プログラム】(S-イノベ),および文京ソーシャルイノベーションプラットフォーム(平成27年度)の支援下で行われた.東京都文京区での評価実験の実施にあたっては,本郷いきぬき工房,NPO法人街ing本郷,文京区区民部区民課協働推進担当の皆様のほか,村山美和様にご協力いただいた.また,千葉県柏市での実験の実施にあたっては,柏市社会福祉協議会,くるるセミナー運営・参加の皆様のほか,柏市立第六小学校PTAの方々にご協力いただいた.ここに感謝申し上げる.
2005年東北大学工学部機械知能工学科卒業.2011年東京大学 大学院情報理工学系研究科博士課程修了.同年,産業技術総合研究所特別研究員.2012年より東京大学大学院情報理工学系研究科特任助教,2014年より同大学高齢社会総合研究機構特任助教,現在に至る.障害者・高齢者支援システムの研究に従事.IEEE,ACM,日本バーチャルリアリティ学会各会員.博士(情報理工学).
藪 謙一郎(非会員)yabu@human.iog.u-tokyo.ac.jp2006年東京都立大学大学院工学研究科修士課程修了.2010年首都大学東京大学院システムデザイン研究科博士後期課程修了.同年より東京大学先端科学技術研究センター特任研究員.2014年東京大学高齢社会総合研究機構特任研究員,現在に至る.音声分野を中心に高齢者・障害者の支援機器の研究に従事.ヒューマンインタフェース学会,日本音響学会,電子情報通信学会ほか各会員.博士(工学).
荻野 亮吾(非会員)ryogoogi@iog.u-tokyo.ac.jp2005年東京大学教育学部卒業.2014年東京大学大学院教育学研究科博士課程修了.2011年より東京大学大学院教育学研究科 特任助教,2014年より同大学高齢社会総合研究機構特任助教,現在に至る.生涯学習,成人教育,市民活動の研究に従事.博士(教育学).
堤 可奈子(非会員)2007年東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻修士課程修了.2012年東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻博士課程単位取得退学.同年より東京大学高齢社会総合研究機構学術支援職員・特任研究員を経て,2014年より同機構特任助教(〜2016年).コミュニティづくりに関する研究に従事.博士(工学).
檜山 敦(非会員)hiyama@star.rcast.u-tokyo.ac.jp2001年東京大学工学部機械情報工学科卒業.2003年同大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻修士課程修了.2006年同大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了.同年東京大学先端科学技術研究センターおよび同大学 IRT研究機構特任助教.2011年同大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻特任助教.2013年同専攻特任講師を経て,2016年同大学先端科学技術研究センター講師,現在に至る.複合現実感,ヒューマンインタフェース,ジェロンテクノロジーに関する研究に従事.博士(工学).
廣瀬 通孝(非会員)hirose@cyber.t.u-tokyo.ac.jp1977年東京大学工学部産業機械工学科卒業.1982年同大学大学院博士課程修了.同年同大学工学部産業機械工学科専任講師,1983年同大学助教授.1999年同大学大学院工学系研究科機械情報工学専攻教授.同年同大学先端科学技術研究センター教授.2006年同大学大学院情報理工学系研究科知能機械情報学専攻教授,現在に至る.主にシステム工学,ヒューマンインタフェース,バーチャルリアリティの研究に従事.工学博士.
伊福部 達(非会員)ifukube@human.iog.u-tokyo.ac.jp1971年北海道大学大学院工学研究科修士課程(電子工学)修了.同大学応用電気研究所助手,助教授,米国スタンフォード大学客員助教授を経て,1989年北海道大学電子科学研究所教授.2002年東京大学先端科学技術研究センター教授.2009年より東京大学先端科学技術研究センター特任教授.専門は生体工学,福祉工学,音響工学.電子情報通信学会フェロー.北海道大学名誉教授.東京大学名誉教授.情報バリアフリー支援のための福祉工学の開拓と産業応用の研究に従事.工学博士.