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最終更新日:2007年11月14日

 ソフトウェアジャパン2008 ITフォーラムセッション

 
福祉情報システム フォーラム
「リアルタイム情報保障の現場」

セッション概要
会議・講演などのリアルタイム情報保障をとりあげる.法廷の速記官は,コンピュータ内蔵の速記用タイプライタにより,証言等を記録する.記録した速記符号に基づき日本語の文章を出力するソフトウェア「はやとくん」は,裁判記録の迅速な反訳に貢献してきた.その「はやとくん」がリアルタイム情報保障の担い手としても注目されている.本セッションでは,「はやとくん」の開発者である遠藤氏から「速記技術『はやとくん』の文字出力」,同じく「IPtalk」の開発者である栗田氏から「パソコン要約筆記の特徴と入力方法の改良」という演題で,それらの特徴や開発の背景,最近の動向についてお話を伺う.また,「ソフトウェアの連携による手頃な字幕提示方式」として,プレゼンソフトとの連携により行ってきた手頃な字幕提示を,情報保障ソフト間で行う際の課題等についても整理する.また,本セッションの講演は,ワードワープの春名氏らの手により「はやとくん」によって字幕化していただく.

司会 秡川 友宏 (静岡大学 情報学部 助手)
【略歴】筑波大学自然学類卒業.学部在学中に福祉機器に関心をもち,情報学部生に紛れてハードウェアやアルゴリズムを学ぶ.大学院より情報分野に転身.2000年同大大学院工学研究科修了.同年静岡大学情報学部に助手として着任し,情報家電の研究に着手.現在の興味は、手頃な情報保障のためのモデル作りとアクセシビリティー向上のための機器連携フレームワーク.情処学会福祉情報システムフォーラム世話人,映メ学会コンシューマエレクトロニクス研究会幹事.IEEE CE Japan Chapter若手論文賞 ('00,'00,'01,'01,'03),IEEE Intl. Conf. on Consumer Elec. Outstanding Paper Award ('05 Poster).

プログラム [会場: 6F 602A]
講演(1)

13:15-13:30
「電子速記『はやとくん』を伝えたい」

 春名 邦子 ((株)ワードワープ 取締役)

講演概要
電子速記「はやとくん」は,元裁判所速記官遠藤基資さんによって開発され,「電子速記研究会」がその情報交換・普及にあたっている.主には裁判所速記官によって,証言の記録づくりと,ときどきはボランティアでの講演字幕に使われている.速記タイプは,キーの数は21個.指をホームポジションで押すと20個のキーが同時に打鍵され,このキーの組み合わせ方で無数の符号をつくることができる.1回の打鍵で数音節又は単語単位,又は定型的な文章単位の入力が可能.符号の数は,175個の音節,略語では当初600ぐらいだったものが今では約2000ぐらい.登録略語は5000を超えるというユーザーもいる.速記者が覚えやすく,読み紛れがなく,無理のないようにという配慮がされている.「ぴゃ」「ぴょう」「びゃ」「ちゅ」などの拗音も活用する.速記者の養成は,毎日練習しても最低2年の月日と,意欲と忍耐が必要である.古代ローマ時代,速記は権力支配の道具であった.いまや人と人とのコミュニケーションの手段である.この技術を広く,また次の時代へと伝えていきたい.

略歴
1965年裁判所速記官養成所卒業,大阪地方裁判所民事部速記官として法廷速記に従事.2001年3月大阪高等裁判所を定年退官.2002年株式会社ワードワープ設立に参加.同年10月から速記者養成に取り組む.
講演(2)

13:30-14:00
「速記技術『はやとくん』の文字出力」

 遠藤 基資 (電子速記研究会 会長)

講演概要
「はやとくん」は,裁判所の速記官により50年にわたって続けられてきたタイプ速記技術に,漢字仮名交じり文の出力機能を付加したものである.速記タイプは,左手用キーと右手用キーが各8個,他に5個,合計21個のキーで構成されるデジタル処理に適した同時打鍵タイプライターである.漢字仮名交じり文の出力には,既成の仮名漢字変換システムを用いるが,その辞書の単語登録をすべて「はやとくん」用に書き換えたことにより,平仮名べた入力による文法解析の誤りを極力減らすことに成功した.これが聴覚障害者のための情報保障で活き,即時文字出力を可能にしている.情報保障の方法としては,速記者1人の自動反訳から,2人速記の2人反訳まで用意する.

略歴
1958年3月,裁判所速記官研修所速記部を卒業,速記官となる.趣味でソフト開発を開始.ワープロ専用機(オアシス,シャ−プ,NEC)のコンバートソフトを開発,パソコン雑誌に発表.パソコンにおける日本語の高速入力を研究,キー配列変更ソフトを発表.1996年,「はやとくん」の開発を開始.1998年3月,裁判所を定年退職.「はやとくん」の開発に専念,現在に至る.
講演(3)

14:00-14:30
「パソコン要約筆記の特徴と入力方法の改良」

 栗田 茂明(パソコン要約筆記サークル「ラルゴ」 会長)

講演概要
聴覚障害者に対する情報保障の一つである「パソコン要約筆記」は,近年,情報保障としての市民権を得,全国各地で行われるようになりましたが,入力者の不足がさらなる普及を妨げていると考えます.この対策の一つとして「ラルゴ」は,2005年から,インターネットを利用した「在宅入力情報保障」を取り上げ,「一般のボランティアサークルでもできる方法」の検討・実証実験を行っています.昨年のソフトウェアジャパンで計画を説明した実証実験の結果と今後の予定についてお話したいと思います.また,2007年に開発されて,現在全国で試行錯誤が行われている「平行表示」方式と呼ばれる新しい「2人入力」の方法についても説明したいと思います.

略歴
1998年の第34回全国身体障害者スポーツ大会「かながわ・ゆめ大会」のパソコン要約筆記ボランティアを中心にパソコン要約筆記サークル「ラルゴ」を設立し,会長となる.1999年「ラルゴ」の練習用ソフトとしてIPtalkを作成.2000年全難聴主催の第2回全国パソコン要約筆記指導者養成講座で説明したことがきっかけとなり全国でIPtalkが使われるようになる.その後,全国から寄せられる機能追加の要望でバージョンアップを続けている.
2002年財団法人日本ITU協会から日本ITU協会賞ユニバーサルアクセシビリティー賞を受賞.
2005年財団法人青鳥会からヘレン・ケラー賞(障害者教育研究・実践補助賞)を受賞.
講演(4)

14:30-14:45
「ソフトウェアの連携による手頃な字幕提示方式」

 秡川 友宏 (静岡大学 情報学部 助手)

講演概要
少数の素人でも,リアルタイム処理の割合さえ減らすことができれば,講演会や学会における字幕提示を実現することができる.静岡大学の坂根氏らと設計したDisPPTは,PowerPointとの連携によりスライドショーに同期してノート部分の文章を抜き出し,必要に応じて即興発言を追加入力することで手頃に字幕提示を実現するソフトウェアである.落としどころを選べば素人のタイプ能力でもリアルタイムに処理できることを実証した反面,講演者に発言内容の前ロールを転嫁している側面もあった.
広く継続的に情報保障を行うためには,少数の素人で,講演者が特段の準備をしなくても字幕提示ができる手法を開発しなければならない.現在同氏らと設計しているCapptionerでは,表示中のスライドに現れる断片的な文字列を自在に選択し,つなぎを加えながら二八蕎麦よろしく文章を打っていくことで,入力者のリアルタイム処理を2割程度に抑えることを画策している.Capptionerの現状と,PowerPoint,IPtalkなどとの連携構想について,のし板も隠れる大風呂敷を広げる.

略歴
筑波大学自然学類卒業.学部在学中に福祉機器に関心をもち,情報学部生に紛れてハードウェアやアルゴリズムを学ぶ.大学院より情報分野に転身.2000年同大大学院工学研究科修了.同年静岡大学情報学部に助手として着任し,情報家電の研究に着手.現在の興味は、手頃な情報保障のためのモデル作りとアクセシビリティー向上のための機器連携フレームワーク.情処学会福祉情報システムフォーラム世話人,映メ学会コンシューマエレクトロニクス研究会幹事.IEEE CE Japan Chapter若手論文賞 ('00,'00,'01,'01,'03),IEEE Intl. Conf. on Consumer Elec. Outstanding Paper Award ('05 Poster).
パネル討論

14:45-15:15
自由討論「情報保障の現場とツール開発の現場」

討論概要
会場からの質問やご意見をもとに,討論をすすめる.
司会: 秡川 友宏 (静岡大学 情報学部 助手)
写真・略歴は上記司会・講演(4)参照
パネリスト:遠藤 基資 (電子速記研究会 会長)
写真・略歴は上記講演(2)参照
パネリスト: 栗田 茂明(パソコン要約筆記サークル「ラルゴ」 会長)
写真・略歴は上記講演(3)参照