Vol.59 No.12(2018年12月号)



Vol.59 No.12(2018年12月号)

髙橋健大
髙橋健大
[学生会員]
大学院生

 

 私はいま修士2年で,修論に向けた最終調整に入ろうとしています.ここで改めて,論文を書くためのポイントとなる「新規性」と「有用性」について,特に情報学の観点から,説明する記事があればと感じています.たとえば,既存研究と比べてどれくらい「新規」なものなら論文として発表できるのか,(もっと具体的には前処理を工夫したレベルでは論文になるのかならないのかとか)といった点で悩んでおります.また,普段先生方は課題解決手法をどのように思いつくのかも気になります.ご検討いただければ幸いです.

 研究は,新しい知識を創造して世に送り出す行為です.成果は世に送り出すことが必要ですから,これを論文という形で公表します.研究について,やや概念的ですが,的確な表現だなと思う文章を引用したいと思います.「伝える価値があることを,正しく伝わるように書く.—それが論文の本質だ.これまでの人類の発見に,自分の発見を新たに重ねる.—それが研究の本質だ.」(結城浩『数学ガール/乱択アルゴリズム』235ページより).情報学に限らず,これまでの人類の発見に新たに重ねる「伝える価値のある(有用な)」自分の発見,これが論文における新規性です.新規性を主張するには,人類がこれまでに何をどこまで分かっていて,何がまだ分かっていないのかを詳細に明らかにする作業が必要です.この作業によって「自分の発見」を明確に主張できたとき,それは論文として発表する価値のある立派な研究といえるでしょう.さて,このとき,伝える価値(有用性)はだれが判断してくれるのでしょうか? これを行ってくれるのが,同じ分野の研究者が集まって形成する研究コミュニティです.学会はその代表だと思いますが,大学の研究室やゼミなども立派な研究コミュニティです.研究コミュニティに対して,ときには批判されながらも,自らの研究成果の意義や新規性を主張していく,このような他者との相互作用を通して(ときには雑談からも!),私たちの研究は深化していきます.新たな発見(問題解決手法)も,多くの場合このような他者との相互作用の中から生まれるように思います.

加藤由花
加藤由花
[正会員]
東京女子大学