海底画像を利用した水産資源量の自動推定

 
榎本 洸一郎
新潟大学自然科学研究科 助教

[背景]水産業や資源量推定のための海中における画像の実利用
[問題]海中・海底環境下における画像処理を利用した計測技術の未確立
[貢献]新たな水産資源量推定手法と画像利用した計測技術の提案と応用

 デジタルカメラやDVカメラなどの普及により,さまざまな分野でデジタル画像の応用が試みられている.水産業においては,水産資源の生態や水産資源量調査などの観測手法としての期待がされている.静止画像は対象資源を採集することなくデータ取得が可能であり,動画像は連続的なデータであるため,従来までの調査手法と比較して広域化・高精度化が期待できる.一方で,水産業で対象となる環境は陸上ではなく海中であるため,画像データの取得や画像処理による計測には多くの問題があり,計測技術の確立が求められている.本研究では,海底画像を利用した水産資源量調査のための自動計測システムの開発を通して,水産資源量の高精度推定および海中における観測技術の確立を目指すものである.

 海底画像で直接観測が可能なものは,海底の基質,ケガニやヒラメなどの海底に生息している甲殻類や魚類の一部,ホタテガイやヒトデなどの表在性,サンゴやコンブなどの付着性底生生物である.本研究では,表在性底生生物であるホタテガイに注目し,北海道のホタテガイ地撒き養殖で行われている水産資源量調査のための海底画像を用いた自動計測システムを提案する.

 対象となるホタテガイは,礫場環境では石や砂などの上に存在しているが,砂場環境では殻の上に砂を被せ,身を隠しているため,海底環境によって海底画像における視覚的特徴が大きく異なる.このため本提案システムでは,海底画像から底質を判別し,礫場環境と砂場環境に適したホタテガイ検出手法により計測する.本手法は,ホタテガイの生物学的特徴に基づき,ホタテガイに特化した特徴量を用いることで検出するものである.

 提案した礫場環境と砂場環境のためのホタテガイ検出手法を,実際の資源量調査で用いられている海底画像に対して適応し,評価実験を行った.この結果,一定の条件下において礫場環境では検出率95%,砂場環境では91.4%と資源量調査への応用へ十分な精度を示した.これらの結果に基づき,他の底生生物の計測技術への応用についての知見を示した.

 水産資源量調査では,海底画像と比較して広域の画像データが取得可能である海底動画への応用も求められている.このため本研究では,海底動画を用いたホタテガイ資源量調査のための自動計測システムも提案する.また海底動画から本提案システムにより推定される資源量の精度評価を行い,従来手法と比較して高精度な調査が可能であることを示した.

 提案システムには,海底動画は海底画像と比較するとデータ量が多いため,自動計測とデータ指定,計測結果の解析などを,専門家や水産業従事者などのユーザーが操作するためのアプリケーションも含まれる.このため海底動画を用いた自動計測のアプリケーションを開発し,計測結果と海底動画とともに記録されているGPSログの位置情報を統合したホタテガイ資源量マップや海底のパノラマ画像など紹介し,さらなる海底動画の応用を検討した.

 これらの成果により,海底画像を用いた水産資源量の高精度推定および海中における観測技術の実現に向けた知見を示した.
 


ホタテガイのための自動計測システム
 

 (2014年5月21日受付)
取得年月日:2014年3月
学位種別:博士(システム情報科学)
大学:公立はこだて未来大学



推薦文
:(ユビキタスコンピューティングシステム研究会)


当該研究は,水産業支援を目的とし,漁場の海底動画像に基づいて,水産資源量を自動推定する手法の提案を行っているものである.海底という特殊環境での計測・認識問題を取り扱ったもので,独自性が高く,また,水産現場と密接に連携しつつ行われた研究であり,有用性も高い.


著者からの一言


指導教員や研究室の方々をはじめ,共同研究者や関係機関の方々の協力やアドバイスなくして,本研究を遂行することはできませんでした.今後も日々精進し,皆様が観られなかったものを可能とするモノを提供し続けたいと思います.