MAC Layer Design and Analysis for Cooperative Communications in Wireless Networks

(邦訳:無線ネットワークにおける協調通信のためのMACレイヤの設計と分析)
 
王 瀟岩
国立情報学研究所

[背景]低い送信電力でも高速,高品質通信を実現する協調通信技術
[問題]協調通信のためのMACレイヤに関する問題
[貢献]良い性能を持つメディアアクセス制御方式を提案

 通信技術は人の生活を変える力を十分持っていると思われる.高度情報化社会への発展に伴い,無線通信ネットワークの高速化,省エネルギー化,大容量化,高品質化が求められる.それらを実現するため,近傍の複数の端末同士が互いに協力することで,空間ダイバーシティを得られる協調通信が注目されている.協調通信は,低い送信電力でも高速,高品質通信を実現する技術である.協調通信は次世代の無線情報通信ネットワークの構築に不可欠となる基本技術としてセルラーネットワーク(たとえばLTE-advanced),アドホックネットワーク(たとえばセンサネットワーク),電力ネットワーク(たとえばスマートグリッド),コグニティブ無線ネットワーク(たとえばホワイトスペース無線システム)など広い範囲で活用できる重要技術と考えられる.協調通信の利得を得るため,メディアアクセスコントロール(MAC)レイヤのスケジューリングとアクセス制御が考慮されなければならない.本研究は無線ネットワークにおける協調通信のためのMACレイヤに関する問題を遂究したものである.我々はネットワークのスループット,遅延とエネルギー効率の向上を目標として,協調メディアアクセス制御(CMAC)に関する内容を研究した.本研究では,協調通信における,より良い性能を持つメディアアクセス制御方式を追究し,具体的に以下に示す3つのテーマについて研究を行った.

 1つ目は,リアクティブCMACのための通信速度の分析である.従来研究にはリアクティブCMACに対して理論的な分析がないため,我々は,一定の通信成功率と送信電力を仮定し,リアクティブCMACにより平均通信速度の増加幅を分析した.さらに,リアクティブCMACに対して,信号コンバイナおよびエネルギー制限の影響を追究した.本研究の成果として,リアクティブCMACは,平均通信速度を大幅に改善できることを明らかにした.

 2つ目は,モバイルアドホックネットワーク(MANETs)における,ネットワークライフタイムを延ばすためのCMACプロトコルの提案である.MANETsの利用により,無線端末はアクセスポイントの通信エリア外においてもInternetに接続可能であり,ネットワークインフラがなくても,無線端末間の通信も可能である.ただし,無線端末は一般的にバッテリーで給電しているため,長時間に渡ってMANETsで動作する際,端末寿命の延長が大きな課題になっていた.協調通信の利用により,低送信電力でも直接通信と同じ通信成功率が得られるため,我々はネットワークライフタイムを延ばすCMACプロトコルを提案した.提案により,消耗電力のバランスを取ることができる分散リレー選択問題が解決できた.提案手法を従来手法と比較し,ネットワークライフタイムが二倍以上改善することができた.
 
 3つ目は,無線ネットワークにおけるネットワークコーディングを意識したCMACである.無線通信ネットワークにおける端末はセルフィッシュなので,一般的に自分のデータを優先送信すると考えられる.ただし,協調通信を利用する場合,リレー端末は自分より他の端末のデータを優先的に処理するようになる.つまり,自分のデータの処理を後に回すデメリットがある.この問題を解決するため,我々はリレー端末が他のトラフィックフローをサポートする同時に,自分自身のデータも送信できるように,協調通信をネットワークコーディング技術と融合した.提案手法は,従来手法と比較して,スループット,パケット送信遅延と到達率を大幅に改善することができた.

 将来は,通信技術の研究を続け,より便利で充実した人々の明日の暮らしを実現したいと願っている.
 


 (2014年5月7日受付)
取得年月日:2013年7月
学位種別:博士(工学)
大学:筑波大学



推薦文
:(モバイルコンピューティングとユビキタス通信研究会)


本論文では,まず協調通信のためのMACプロトコルの通信効率を分析している.そして,リレー経路を適切に選択し,ネットワークライフタイムを延ばすための協調MACプロトコルと,ネットワークコーディングを考慮した協調MACプロトコルを提案し,実験により,それぞれの有効性を確認している.MACプロトコルを改良し,協調通信を実現している点で,とても有意義な研究であると言える.


著者からの一言


推薦していただき,どうもありがとうございました.ご指導いただいた李頡教授に感謝いたします.今後も無線通信,無線ネットワークに関しての研究を続けて,世界中でもトップクラスの研究成果を発表したいと思います.