Distributed Coding Schemes for Continuous Data Collection in Wireless Sensor Networks

(邦訳:無線センサネットワークにおける連続データ収集のための分散コーディング手法に関する研究)
 
叶 秀彩
筑波大学システム情報系 研究員

[背景]高い信頼性を有する無線センサネットワーク
[問題]コーディング手法による分散ストレージ
[貢献]データの保存メモリ容量と送信コストを減らすことで実現

 無線センサネットワークは,無線通信デバイスを持つセンサノードを多数設置し,温度や湿度などの観測データを収集する.基地局は,センサノードからデータを収集し,そのデータをインターネット接続を介してユーザに送信する.無線センサネットワークは,環境観測,災害時の情報収集,防犯システムなど多くのアプリケーションで利用されており,広く研究が行われている.しかし,センサノードは計算能力やメモリ容量,バッテリーなどの資源制限がある.そのため,センサノードは保存できるデータの数は限られている.また,限られたエネルギーと厳しい環境であるため,大災害などの非常時には,センサノードに故障が起こりやすい。 故障したセンサノードは保存したデータを失う.信頼性を改善するために,データをほかのノードにも保存し,大災害などの非常時であってもデータ収集を行うことができる.
 
 本研究では,データの損失を防ぐために,コーディング手法を用いて,データを多数のセンサノードに分散保存し,高い信頼性を得ます.データの保存メモリ容量と送信コストを減らすことを目的として,一部分の最新なデータ収集のための分散コーディング手法とすべてのデータ収集のための分散コーディング手法を新たに提案した.

 一部分の最新なデータ収集のための分散コーディングの提案手法では,複数のデータを分散コーディングし,各センサノードで保存した.センサノードで古いデータが新しいデータに置き換えられ,データコレクタがいつデータの収集を行っても,最新データを収集することができた.データコレクタはランダムに若干のセンサノードからコーディングしたデータを収集し,そのデータをデコーディングした.提案手法では,センサノードにデータを保存するため必要なメモリ容量を減らし,データコレクタにデータ送信のコストを削減することができた.解析およびシミュレーションの結果を利用して提案手法と既存手法の比較を行い,データ収集の成功率と無線センサネットワークのエネルギー効率が大幅に改善されることを示した.

 一方,すべてのデータ収集のための分散コーディング手法は,前の一部分の最新なデータ収集シナリオと違うのは,データ収集の数が多いことや,変数になったことである.提案手法では,いくつのコーディングしたデータをセンサノードに保存し,もしデータコレクタに遅延が発生した場合には,新しいデータを続けて既存データにコーディングした.提案手法においては,データ保存に必要なメモリ容量を調整し,1つのデータ生成時間間隔以内のデータを全部収集することができた.性能評価により,提案手法においてのデータ収集の成功率,無線センサネットワークのエネルギー効率とデータ収集の適時性が大幅に改善されることを明らかにした.
 


 (2014年5月26日受付)
取得年月日:2014年3月
学位種別:博士(工学)
大学:筑波大学



推薦文
:(モバイルコンピューティングとユビキタス通信研究会)


本論文では,外部との通信が困難な地域に配置した無線センサネットワークで観測された連続データを,ヘリコプタなどの移動基地局によって収集するための分散コーディング手法を提案している.提案方式は,既存手法よりデータ収集成功率とエネルギー効率が大幅に改善されることを示している.データが収集されるまでの期間が不明確な状況でも,センサノードに連続データを蓄積する点で,非常に挑戦的な研究であると言える.


著者からの一言


博士論文を推薦していただき,身に余る光栄です.指導教員をはじめとする研究室の皆様のお陰で学位を取得することができました.博士課程の学生生活ではさまざまな貴重な経験をする機会に恵まれました.今後はより広く情報学分野の発展に寄与していくことができればと思います.